U.現行都市計画制度の課題
安定・成熟した都市型社会にふさわしい都市計画制度たり得ているかという観点から現行都市計画制度を見直した場合、次のような課題が浮かび上がる。
(1)目指すべき都市像の明確化
安定・成熟した都市型社会の時代に即応した都市計画制度としては、都市の発展の動向や人口、産業の現状、将来見通しなどを踏まえ、都市計画区域ごとに、現況の問題点や今後の変革の方向を明らかにしながら、あらかじめ目指すべき都市像を地域社会の合意として明確化する。それを具体の都市計画で実現していくという分かりやすい都市計画制度とすべきである。これにより、住民自らが都市の将来像について考えやすくなり、都市づくりに対する合意の形成が促進されると考えられる。
現行都市計画制度においては、線引き都市計画区域に限っての整備、開発及び保全の方針、市町村単位の市町村マスタープランがあるが、すべての都市計画区域について、目指すべき都市像を明確に規定するものではない。
(2)都市計画の根幹をなす線引き制度及びそれを支える開発許可制度の都市型社会に対応した見直し
都市計画区域を市街化区域と市街化調整区域に区分する線引き制度及びそれを支える開発許可制度は、前述のように、昭和30年代後半から40年代にかけての急激な都市への人口集中とそれに伴う市街地の無秩序な外延化が全国共通の課題となったことを受け、それに緊急に対処するため、全国一律の制度として導入されたものである。これらの制度自体は依然その意義を失うものではないが、安定・成熟した都市型社会に対応し、地域の実情に応じて必要かつ合理的な規制が柔軟に行われるよう、制度構成を見直す必要がある。
(3)既成市街地の土地の有効高度利用
安定・成熟した都市型社会においては、一定の公共施設整備がなされ、都市機能が集積する既成市街地について、土地の有効高度利用を図るとともに、ゆとりある空間を生み出していくことが重要である。基本的には、都市施設の整備、市街地開発事業の実施等を進めていくことが重要であるが、さらに、既成市街地における都市施設の立体的な整備や、土地利用規制における容積率の柔軟な適用、地区計画の策定促進等を進めていく必要がある。
(4)自然的環境や景観の保全・創出など質の高い都市環境の確保
安定・成熟した都市型社会においては、既成市街地の再整備と並んで、市街地や郊外部に残された緑地等の貴重な自然的環境や田園景観、美しい街並みなどの保全・創出を図り、質の高い都市環境を確保することが重要な課題である。特に、従来、未線引きの都市計画区域のうち用途地域を指定していない区域においては、開発規制、建築規制が相対的に緩く、都市環境の保持の観点から支障が生じている場合があり、線引き制度の見直しにあわせ、保全すべき自然的環境や景観を確実に守り得るよう、当該区域の土地利用規制のあり方について総合的に見直す必要がある。
(5)都市計画区域外における開発行為及び建築行為の増加への対応
近年、モータリゼーションや高度情報化の進展、国民一人一人の意識の多様化や活動範囲の拡大等により、都市計画区域外の区域において大規模な開発行為や建築行為が増加している。特に、既存集落周辺や、幹線道路の沿道、高速道路のインターチェンジ周辺等では、大規模な開発や建築が集積し、周辺での交通渋滞の発生、用途の無秩序な混在等の問題も発生している。これらの問題に対処するために、地方公共団体が独自に条例や要綱を定めている場合も多い
。
現行都市計画制度においては、都市計画区域外の区域は、基本的に制度の対象外とされているが、今日の状況にかんがみれば、都市計画区域外における大規模な開発行為や建築行為の集積を、いわば都市の萌芽(都市そのものであるとまではいえないが、集積がさらに進み、都市機能が高まれば、都市と位置付け得る状態)ととらえ、その段階から必要な土地利用規制を行うことにより、はじめて都市の健全な発展と秩序ある整備を図ることが可能になる。
(6)都市計画決定における透明性及び地域の実情に応じた柔軟性の確保
都市計画は、国民の財産権に直接影響を与えるものであるとともに、専門的、技術的判断を要するものであることから、その決定過程においては、住民の意思を反映させるとともに、第三者機関である都市計画審議会における審議を経ることとしている。
しかし、近年、行政全般において、意思決定をする際には、住民へのアカウンタビリティ(説明責任)を向上させることや、その過程を透明にしていくことが求められており、都市計画決定の手続についても、一層、透明性を確保していく必要がある。また、先般のいわゆる地方分権一括法において、都市計画の決定等の事務は自治事務と整理されたところであり、都市計画決定手続についても、国民の権利保護の観点から必要な手続の水準を確保しつつ、より地域の実情に応じた柔軟なものとすることが求められている。
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