2.線引き制度及び開発許可制度の地域の実情に応じた柔軟性の確保
(1)都道府県の判断による線引き制度の適用
現行都市計画法は、スプロールの防止はすべての都市計画区域に共通する課題であると位置付け、都市計画区域は必ず線引きをすることを前提としつつ、附則で、当分の間、特にスプロールの激しい三大都市圏等の都市計画区域のみに、その適用対象を限定するという形をとっている。また、附則で定める適用対象区域も政令及びそれを受けた建設大臣告示で定めることとなっている。
しかしながら、今日においては、スプロールが全国一律の課題という状況ではなくなっており、線引きという手段により都市計画区域の無秩序な市街化を防止する必要があるか否かは、都市計画区域を指定する主体であり、都市計画の方針を定める主体でもある都道府県が、地域の実情を踏まえて判断することが適切な状況となっている。
ただし、今後とも、相当の市街化圧力が続くことが予想され、計画的な市街化を図る必要性が高いことが明らかである大都市地域については、線引きを行わなければならないことを法令上も明確にしておくことが適切である。
なお、市街化の圧力が弱く、都道府県が線引きの必要がないと判断した都市計画区域については、非線引き都市計画区域として、別途、当該区域の特性に応じた土地利用規制のあり方を整理する必要がある。
<具体的な制度構成のあり方>
○ 線引きは、市街化の圧力が強い都市計画区域において、無秩序な市街化を防止し、計画的な市街化を図る上で、依然有効な手法であり、制度自体は存置する必要がある。しかし、線引きをするか否かは、予め法令レベルで定めるのではなく、都道府県が、当該都市計画区域の市街化の状況や見通し等を踏まえて判断できることとすることが適切である。また、後述する市町村から都道府県への都市計画の案の申し出等の手続により、市町村の意向が反映されることが望ましい。なお、どのような場合に線引きする必要があるかの基準については、あらかじめ明確にしておくことが必要である。
ただし、次に掲げる区域を含む都市計画区域は、実態上、市街地が連たんし、また、今後とも、相当の市街化圧力が続くことが予想されるため、一体として計画的な市街化を図る必要性が高いことから、線引きの必要性を個々の判断に委ねるのではなく、引き続き線引きを義務付けることとするべきである。
・首都圏整備法に規定する既成市街地又は近郊整備地帯
・近畿圏整備法に規定する既成都市区域又は近郊整備区域
・中部圏開発整備法に規定する都市整備区域
・政令指定都市の区域
(2)市街化調整区域内における開発許可の立地基準の合理化
市街化調整区域については、「市街化を抑制すべき区域」との性格を担保するため、開発許可制度において、許容される開発行為及び建築行為の類型が一律に厳しく限定されている。しかし、市街化調整区域内の土地利用の状況等によっては、現行の規制が、結果として当該地域を活性化する上での阻害要因になっている場合がある。特に、周辺で既に建築物(線引き前から存する建築物や開発許可を得て建てられた農家用住宅など)の立地が相当進んでいる区域においては、住宅などの一般的な建築物を建築するための開発を許容しても、都市計画区域の計画的な市街化に支障がなく、むしろ、許容しないことが、周辺の土地利用との比較において不合理というべき状態になっている場合もある。このため、市街化調整区域がなし崩し的に開発可能地として拡がることのないよう留意しつつ、市街化調整区域内の規制の緩和を図る必要がある(当該区域において都市計画の意思が明確である場合は、市街化調整区域の地区計画が定められ、それに適合する開発行為が許可されることとなるが、そこまで都市計画の意思が明確でない場合であっても、土地利用の現況に着目して許可してよい場合があると考えられる。)。また、同様に、周辺で既に建築物の立地が相当進んでいる区域について、線引き時点で既に宅地であった土地であれば、何ら用途の限定なく建築が可能となっており(既存宅地の特例)、この取扱いの差が不公平感を招来している面もある。さらに、周辺の土地利用の状況と不調和な建築物の建築が建築物の連たんに応じて順次拡大している、線引き以来の時間の経過により既存宅地の確認が困難となっている、といった問題も顕在化していることから、この既存宅地の特例について、あわせて規制の合理化を図る必要がある。
また、「開発区域の周辺における市街化を促進するおそれがないと認められ、かつ、市街化区域内において行うことが困難又は著しく不適当と認められるもの」について個別に開発審査会の議を経た場合は、市街化調整区域内でも開発が認められているが(第34条第10号ロ)、これまでの開発許可実務の積み重ねにより、あらかじめ一定の区域及び開発行為の類型を定めておくことにより、開発審査会の議を経て一件ごとに判断することなく、定型的に許可を出しうると判断できる場合(大規模な既存集落内において自ら居住するために建てる住宅などが考えられる。)には、これを認めても支障がないものと考えられる。
<具体的な制度構成のあり方>
○ 市街化調整区域において許可しうる開発行為として、新たに以下のような開発行為を追加することとすべきである。
イ)市街化区域に隣接又は近接しており、相当数の建築物が連たんしている地域として開発許可権者があらかじめ定める区域内において、開発許可権者が支障があると認める用途として指定するものに該当しない建築物を建築するための開発行為
ロ)第34条第10号ロに相当する開発行為のうち、個別に開発審査会の議を経ずに定型的に許可して差し支えないものとして、あらかじめ開発許可権者が区域、目的又は予定される建築物等の用途を定めたもの
上述の区域や用途、開発行為の種別については、開発許可権者が、市街化調整区域内の土地利用の状況等を十分に勘案し、都市計画区域の計画的な市街化に支障が生じることのないよう、条例等の慎重な手続を経て定める必要がある。この場合、区域は図面等により明確に定められる必要がある。
また、現行制度上、既存宅地特例により、イ)に該当する区域内で、線引き時点で既に宅地であった土地については、用途の限定なく建築可能となっているが、開発許可の取扱いと同様に考え、あらかじめ区域及び支障があると認める用途を定めた上、建築許可の対象とすべきである。
(3)開発許可の技術基準への地域性の反映
開発許可制度において、宅地としての最低水準を確保するため、市街化区域、市街化調整区域、線引きをしない都市計画区域を問わず、全国一律に適用されている、いわゆる技術基準についても、その地方の気候、風土や、土地利用の状況によって、環境の保全や防災の観点から基準を上乗せしたり、あるいは公共施設に関する基準について、環境の保全等の点から支障がないと判断される場合に緩和したりする必要性が高まっている。ただし、技術基準がナショナルミニマムを規定する性格を持つこと及び宅地開発等指導要綱に基づく行政指導の実態にかんがみれば、地域の実情によって基準を変更することができるとしても、その内容については、地方公共団体の意向を踏まえつつ法令上一定の限定をすることが不可欠である。
また、良好な市街地環境の形成を図る上では、いわゆるミニ開発を防止することが重要であり、開発許可制度の中で、最低敷地規模に関する規制を導入することが効果的である。既に独自の要綱等により、これを導入している市町村も800以上にのぼる。ただし、全国一律に最低敷地規模規制を行うことは、市街地の状況が地域によって様々であることにかんがみれば過度な権利制限となるおそれもあり、地域の実情を反映した形で、これを付加することができることとすることが適当である。
<具体的な制度構成のあり方>
○ 開発許可の技術基準について、地方公共団体が、条例によって強化し、また緩和することを許容する必要がある。また、地方公共団体が、条例によって最低敷地規模に係る基準を追加することも許容する必要がある。なお、これらの条例で定め得る内容については、あらかじめ法令上明確にしておく必要がある。
○「V.具体的に講ずべき施策」のフロントページに戻る 2.線引き制度及び開発許可制度の地域の実情に応じた柔軟性の確保 |