第3回懇談会の概要

blue_maru.gif (326 バイト)日時、場所等

平成11年7月28日(水)12:15〜15:00
霞ヶ関ビル35F 霞ヶ関東京會舘シルバースタールーム

blue_maru.gif (326 バイト)出席者(順不同)

伊藤委員長、蓑原委員(WG主査)、井尻委員、井上委員、小野委員、
小林委員、高橋委員、馬場委員、藤井委員、松葉委員、森野委員、
田島委員、角地委員、川本委員                 (委員名簿はこちら

<ゲスト・スピーカー>
樋口明彦 九州大学大学院助教授
阿部和彦 (財)日本開発構想研究所研究1・2部長


blue_maru.gif (326 バイト)資料

資料3−1 東京湾沿岸域における土地利用の再編(阿部氏のレジメ)
資料3−2 産業構造の転換と都市政策(小野委員のレジメ)


blue_maru.gif (326 バイト)懇談の要旨

 産業構造転換の事例や構造転換に伴う土地利用の実態に関して、ゲストスピーカーの樋口氏及び阿部氏及び小野委員からそれぞれのプレゼンテーションがあり、それらを受けでフリーディスカッションが行われました。その概要は次の通りです。(文責は事務局)

<樋口氏のプレゼンテーションの要旨>

〜米国におけるニューメディア産業スタートアップ企業群の立地特性について〜

 私は、96年から98年まで、米国のいわゆるニューメディア産業、特に「スタートアップ」と呼ばれる小規模なものの立地特性について研究した。研究の動機は、インターネットの発達に伴い、物理的な集中の呪縛から開放されて、仕組みとしての都市が不要になるのではないかという議論があるが、それは本当だろうかという疑問である。そこで、インターネットを先進的に活用している業種を調べれば、これからの都市の構造変化といったところを探れるのではないか。そういう考えから、ニューメディア産業のスタートアップに的を絞ったわけである。なお、ここでいうニューメディアとは、WEB(ウェブ=いわゆるホームページ)のデザインからソフトウェアの開発までありとあらゆるコンピューター関連のジャンルを包括したものと言える。

 さて、ニューメディア産業については、95年頃からボストン・グローブ紙などのマスコミで取り上げられていたが、その実態は不明だった。また、ニューヨーク、ボストン、フィラデルフィアで、そのクリーンなイメージからニューメディア産業を誘致しようとする動きが出てきて、これとともに、連邦政府、ボストン市、NPOなどが多くの調査を行っているが、立地の特性に触れたものはなかった。

 そこで、ニューヨークとボストンでそれぞれイモヅル式に20社を選びヒアリングを行うとともに、WEBを使って全米のニューメディア関係の企業や団体にアンケートを呼びかけ、ダイレクトEメールで5000件を発送し、約220通の回答を得た。質問項目は、@どんな都市に立地するかという都市の特性、A近隣にどんなコミュニティを選ぶかというエリアの特性、Bどんなビルに入居するかという建物の特性をポイントとした。

 まず、マクロの状況からみると、立地状況は、ボストン、ニューヨーク、サンフランシスコ、ロサンジェルスといったいわゆるニューメディア・キャピタルに集中しているが、その他の地域にも広範に分布している。縦軸に立地する都市の人口をとって分布を見ても、人口規模に関わらず満遍なく分布していることがわかる。ただし、サンプルが限られているという限界はある。

 また、会社がいつ設立されたについては、各年ごとの創設された会社の数を見ると、1994年のJAVA(ジャバ=ホームページ用のプログラムの一種)の開発以降、創設された会社数が爆発的に増えている。

 事業の分野は、いわゆるWEBサイトのデザインが最も多いが、その外にも、CD−ROMのソフトウェアの開発から一般的なソフトウェア、ハードウェア、コンサルティングと広範に渡って事業展開をしている。また、多くの企業が単一ではなくて、複数の事業を実施している。

 規模は、1人から10人以下に集中している。年齢構成から言えば、40・50代もいるが、メインは20代、30代となっている。オフィスの規模は、50u以下がもっとも多く、ほとんどが200u以下である。

 職場の形態のデザインでは、スタジオのようなオープンスペースを広くとる形態がもっとも多く、普通のオフィスがこれに次ぎ、両方の要素を持ったものが続いている。会社の組織については、縦割り型の組織よりも、フラットな(水平型の)チーム・ストラクチャーのものが多い。

 入居しているビルディングのタイプは、オフィス用の建物も多いが、住居用も同じくらい多い。「リブ・ワーク(Live/work)」と呼んでいるが、職住一体型、あるいは働いて時々は泊まるといった形態のものが普通のオフィスよりも多くなっている。

 次にミクロに見ると、最初の例はボストンの8名程度のインター・ディメンションという会社であるが、社長が4年前にMIT(マサチューセッツ工科大学)の学生だった頃に、学生寮のルームメイトと創業している。その後、会社が少し大きくなると自分の住んでいたアパートをまるまる一軒借りして、1Fをオフィス、2・3Fを住居にした。その後順調にビジネスを伸ばして、現在はボストンの銀行を改造したビルで、ボストン市がニューメディア産業を振興するために整備した「ニューメディア・インキュベータ・スペース(ニューメディアの孵化スペース)」と呼ばれるビルの入居者第1号として入っている。オフィス内は銀行の残した机の上にラップトップ・パソコンが置かれ、金庫は自転車置場になっている。従業者はMIT卒業後もMITの近くに住んで、電車や自転車で通勤している。 インター・ディメンションの創業者
インター・ディメンションの創業者

 第2の例もボストンの倉庫街の倉庫を転用したところにオフィスがある。インタラクティブ・ファクトリーという会社は、多少オフィス内は先の会社より整然としていて、ワークステーションが並び、ミーティングルームがあるという形になっている。天井にはLANの回線がはっている状況。自分で配線をやっている。黒板が置かれていて、チームとしてアイデアを出すとき、黄色い付箋を貼るようになっている。
インタラクティブ・ファクトリーの内部
インタラクティブ・ファクトリーの内部
倉庫を改造したオフィスビルのアトリウム
倉庫を改造したオフィスビルのアトリウム

 第3の例はもっと規模の大きなもので、アート・テクノロジー・グループという二人のMITの学生(1人はインド人、1人は中国人)が作った会社であるが、元は小さなオヒィスだったが、今はダウンタウンの中で高いオフィスの1フロアを借りきっている。インターネットで使うカスタムメイドのソフトウェアを企業に提供している。
 第4の例は、パラブルという会社であるが、ボストン郊外の昔の水車を利用した工場の廃屋を改造して作っているが、建築家にデザインを任せてお金をかけて改造している。大手ソフトメーカーのロータスを飛び出した40代の人が創業した企業である。内部はかなりきちんとしたオフィスのイメージである。
 第5の例は、ニューヨークの55ブロード・ストリートという名前のビルで、60年代に金融街に作られたモダンなビルである。米国経済の調子が悪かった頃、ビル・オーナーが、ニューメディア用にリノベーション(改修)し、ニューヨーク市もこれに乗って、インフォメーション・テクノロジー・ディストリクト(情報技術地区)として地域指定し、インターネット・タウンを作ろうとした場所で、NPOも多く活動している。建物自体は何の変哲もないが、高規格のハイバンド・ハイスピード(大容量・高速)のインターネット配線をしている。ここはインターネット関連ビジネスのコア(核)なんだという言い方をしているが、ゲリラ的にニューメディア・ビジネスを行っている側からは、冷ややかな目で見られている。というのも、Tシャツで仕事ができる街のバイタリティがここにはないからだ。政策的なビルであるが、今後はうまくいかないのではないか、という言われ方をされている。
 第6の例はニューヨークのラーニング・テクノロジー・インタラクティブという教育ソフトをつくっている会社であるが、オフィス内は、コンピュータだけでなく、イラスト、スケッチ、デザインが散乱しており、手作業的な側面が大きい。この会社も、最初は知り合いが持っていたビルの一角をただで貸してもらっていたが、いまは、ニューメディア企業があこがれるソーホー地区に進出してきた。
ソーホー地区
ソーホー地区
ラーニング・テクノロジー・インタラクティブ
ラーニング・テクノロジー・インタラクティブ

 最後の例は、35歳位の女性が1人でやっている例であり、インターネットのWEBサイトのデザインをやっている。アパートの2Fの自宅の一角に自分の仕事場があり、クライアントとはモデム
(電話回線)を通じて連絡している。何故ここで仕事をしているのかと聞くと、以前からここに住んでグラフィック・デザインの仕事をしていたが、自分は1人暮らしで、ニューヨークのライフスタイルが好きであるし、ビジネスを大きくするつもりはないとのことであった。彼女こそ、マクロのところで話した「リブ・ワーク」の典型である。

 以上を踏まえると、米国のニューメディア産業については、以下の図の中で説明ができる。縦軸はリブ・ワーク(Live/Work)と通常のオフィス(Work-Only)、横軸は地元出身者(Local)と外部から都市(街)の魅力に引かれ流入してきた者(Strategist)に分類した。

スタートアップのタイポロジー

 Type1はずっと前からこの街で働いてきて、この街でのクオリティ・オブ・ライフ(生活の質=暮らしやすさなど)が気に入っている。このパターンの人はほとんどが住まいをオフィスにしている。

 Type2は、Type1が事業をして成功しているがその場所から出たくないタイプ。それから、最初から仲間が集まって事業を始めて、最初からオフィスで仕事を構えているという形態である。

Type3は、ある程度の経済基盤や規模ができている企業が、戦略的にニューヨークなどの魅力に引かれて、乗り込むタイプである。

 こうした企業がどのように育って行くかと言うと、まずStage1でType1のようなリブ・ワークの地元型から始まって、うまくいけばStage2に移行し、Type2のような地元で仕事はするけれど、スタッフを雇って少し大掛かりにやる。もっと大きくなると、ボストンのアート・テクノロジー社のように、いわゆる企業としてやり始める。企業となった段階で、さらに機会を求めて他の都市に出て行くタイプもあれば、逆に他の都市から入ってくるものもある。これがスタートアップのイメージである。さらに付け加えると先の35歳の女性の例のようにずっとStage1に止まるものがかなりいる。

フローチャート

 ニューメディア産業のスタートアップの立地特性を整理すると、以下のようになる。
 第1に、どんな都市(街)が良いかという点では、

  • 自分が気に入って暮らしている街
  • 街に才能のある人材の集積があること
  • クライアントやビジネス・パートナーといった事業を支える人達がいること
  • コストが掛かりすぎないこと

といった点がポイントとなる。反面、大手のハイテク産業が立地しているかどうかは、あまり重要ではない。ハードの生産や普及型ソフト開発とは縁が薄いようである。

 第2に、どんなエリアが良いかという点では

  • 手頃の賃料で広いスペースが確保でき、通勤の便が良いこと
  • 自分が勉強した大学が近くにあること
  • 24時間型のサービス、例えば24時間空いているレストランや宅配サービス、安全なタクシーなどがあること
  • クリエイティブ(創造的)な雰囲気。例えばニューヨークのソーホー地区やサンフランシスコのサウス・ストリートの南側のように、若い人を惹きつけるワクワクするような魅力があること

という点がポイント。

 第3に、どんなビルが良いのかのいう点では、

  • スペースのフレキシビリティ(柔軟性)があること。つまり、大きな仕事が入るとフリーランスを雇うが、暇なときは小人数になるので、最初から大きなスペースではコスト負担が大きく、人数の変化に柔軟に対応できることが必要。
  • クリエイティブな仕事空間。プライバシーが保持される一方で、一定のチーム単位のディスカッションが可能なパブリックな空間もあることが必要。
  • 高速、大容量でのインターネットの接続。ただし、大容量にこだわりすぎてコストがかさみ賃料が高くなると、スタートアップには手が出ないおそれあり、安価であることも必要。
  • 自己のアイデンティティが体現された空間。古ぼけたビルではクリエイティブな環境を作ることが難しい。

がポイント。

 最後に、ニューメディアを支援する上でどのような政策が必要かについては、以下の点が重要。

  • 「火のないところに煙は出ない」というように、何らかのニューメディアに関連した仕事、例えばグラフィック(画像制作等)などにこだわった人の集積が必要で、従来型の箱モノや工業団地では作り出せない。
  • 地域の成長には、タイポロジー(産業の特徴)や成長のプロセスを理解していないと駄目で、成長の過程に合わせて適切な支援を提供することが必要。スタートアップの1、2年目ばかりに対応していては駄目。
  • 柔軟な土地利用政策も重要。ボストン、ニューヨーク、サンフランシスコなどでは、企業の発生をコントロールしたケースはない。ニューヨークでは政策的にコントロールしたというニュースも流れているようであるが、現実には80年代の不景気の時に中古ビルにテナントが入らない時期があり、テナントが欲しい中古ビルオーナーと新産業を欲する地元産業界、オフィスを欲するニューメディア業界の利害が一致したに過ぎない。マイケル・コートラー氏がニューヨークタイムズ誌で、ニューヨークの土地利用がニューヨークの産業に合わないと産業の側が土地利用を勝手に変えてしまうと言っていた。ニューヨーク市は土地利用規制違反を摘発する力がなく、ソーホー地区でもアーティスト側がどんどんギャラリーを開設して、それに当局が追随している。ニューメディアも同じである。産業が自然発生する環境をどう作って行くかが重要。土地利用に関しては、いくらニューメディア企業が入居しても、景気が良くなっていけば、より家賃の支払能力の高い金融機関が入居し、ニューメディアが追い出されるいわゆるジェントリフィケーション(Gentrification=一般的には、都市内の衰退地区の再開発等に伴って中高所得者が移り住むことにより、従前から住んでいた低所得者が結果的に追い出され、行き場を失うという都市問題を指す)が起こることも懸念される。
  • インキュベーション施設(起業支援施設)の整備で、ともすればニューメディアのために立派なビルを作ってしまいがちになるが、そうするとコストがかさみ、スタート・アップには手が出ないビルになってしまう。実際の担い手は、事例にもあるように、「こんなところがオフィスか?」というような環境のところで働いていることに留意すべき。
  • 最後にクリエイティブな雰囲気をもった街ということだが、これは作ろうと思ってもできない。雰囲気を持っているところは優位性をもっているが、持っていないところがどうするのがということは、私もアイデアはない。

(質問)研究の動機である「インターネット発達に伴って都市は不要になるか」という問題に対する答えは出たか。

(回答)データを背景に応えることはできないが、フェイス・トゥ・フェイス(対面)でやったほうが良いアイデアがでるかというと、よくわからない。ニューヨークでも週末に集まって飲み会をやっているが、そこで良いアイデアが出たという話を聞かない。しかし、そうした者が都市の魅力に引かれて、こうしたインターネット産業を生み出しているのであり、都市が不要と言うことはないと思う。

阿部氏のプレゼンテーションの要旨>

〜東京湾沿岸域に関する土地利用の再編〜

 東京湾沿岸域の明治以降の埋立地は約2.5万haであり、その大部分は昭和35年から昭和59年までに埋め立てられ、臨海部に立地しなければならない産業が立地した。現在その土地利用再編が主として問題となっている埋立地は、明治から戦前に埋めたてられた約3800haの土地である(京浜臨海部+東京都心部)。

 2.5万haの利用の内訳であるが、工業用地が9,374ha(38%)、道路・鉄道用地4,126ha、住宅用地約1,300ha、商業用地約1,100haとなっており、特に問題となるのは工業用地と埋立地の中で未利用となっている土地2,200haである。

 工業用地のうち、鉄鋼が3,400ha、石油が1,700ha、化学が1,600haで3業種で6,700haで全体の70%を占める。その他、機械(輸送用、一般、電気)が1,300haで、食料品、窯業・土石、非鉄金属がそれぞれ200ha規模。このほかにも、電気・ガス工場用地が900haある。 土地利用の再編が想定される地区は、東京湾沿岸域で1,500haであり、その中でも、東京都の臨海部が沖合展開地や豊洲、新木場などで600haある。この他、京浜臨海部で300haが話題となっており、既成市街地の臨海部であわせて900haの土地がある。

 どういう企業が再編を考えているかというと、鉄鋼が高炉3社と電炉で500〜600haと3分の1を占めている。このほか木材については、輸入の形態として木を置いておくという木材団地のスタイルがなくなってしまったので、そういった土地は、横浜本牧のベイサイドマリーナや有明などのように、再編あるいは再編が予定されている。電気・ガス工場の旧来の古い用地や自動車の製品搬出入用地などついても、工場の再編を考える中で空いてくると考えられる。造船も、横浜のMM21や川崎では土地を売ったが、そのほかにも事業の休止や敷地統合化などの動きがある。工場以外では空港移転跡地、鉄道ヤード跡地がある。これから石油製品や化学で、企業再編に伴う土地利用の再編が大きな動きになる。

 量的なイメージで言うと、東京圏の1都3県では135.06万ha、そのうち東京湾沿岸域は2.5万ha、その中で土地利用転換が想定されるのは1,500ha、未利用地は先に2,200haと述べたが、ダブりを外せば1,600ha。既成市街地では、土地利用転換見込地が900ha、未利用地が1,200haとなる。

面積計

東京湾沿岸域

面積計

土地利用の変化が予想される土地 用途未定の未利用地・未竣工地
東京圏(1都3県) 135.06万ha 2.45万ha 1,500ha 1,600ha
近郊整備地帯 67.34万ha 2.45万ha 1,500ha 1,600ha
既成市街地 9.59万ha 1.18万ha 900ha 1,200ha
東京区部 6.26万ha 0.57万ha 600ha 1,000ha

注)近郊整備地帯、既成市街地の面積は、政策区域指定時。 

 他の土地利用との関係で見ると、東京圏の工業地域が12,500ha、工業専用地域が19,500haで合計約32,000ha。また、工場等制限制度の抜本見直しで4,000haが制限区域から除外されている。

 そのほか、東京圏の農地は30万haあって、そのうち市街化区域農地が15,700haを占めている。なお、平成8年の東京圏の農地転用面積は3,100haである。

 こうしてみると、東京圏全体では、沿岸域の土地は量的には必ずしも多くないということが分かる。

 土地利用の再編が想定される沿岸域の土地は次のような特徴を持っており、その特性に応じた利用の仕方が重要である。

  • 水際線を有する土地が多くある。
  • それぞれの土地は、ロット(敷地規模)が大きく、5haから300haまである。
  • 企業や公共が有する土地が多く、権利関係が複雑でない。
  • 都心の業務地や密集市街地に隣接した土地が多い。
  • 都市基盤が大規模工場ように作られており、土地利用の再編には新たな基盤を整備する必要がある。
  • 土地利用の転換ニーズが、まとまった形にならず、どちらかといえば個々の企業の必要に応じて生じている。
  • 周辺に操業している工場や危険物を扱う施設が残されている場合が多い。
  • 工場用地として使われてきており、土壌の汚染等に留意する必要がある。

<小野委員のプレゼンテーションの要旨>

〜産業構造の転換と都市政策〜

 新日本製鉄堺製作所の跡地については、過去に所長をしており、この事例について様々な角度からご考察をお願いしたい。

 まず、基本は、土地の本来持っているポテンシャルを、時代に応じて如何に有効なものに活用して行くかの視点に立ちたい。
 歴史認識については、50年代に加工貿易立国として、原料輸入、製品輸出を大量に処理するため沿岸工業地域を展開してきたが、90年代は所得水準も上がり、少子高齢化の進展から、競争力にもかげりが見られる。都市機能も職場重視から生活重視型に向かっている。 都市政策に関しては工場を追い出してきた経緯もあり、バランスのとれた機能をもった都市政策が求められる。

 「魅力ある都市とは」という点では、美しさ、コストの安さ、安全、情報などの評価があるが、そこそこの評価をバランス良く得られる都市政策の議論が必要。

 お金の出どころに関しては、都市政策を進めるための資金について議論して欲しい。

 具体の提案として、地図にあるとおり、堺臨海新都心という開発構想があり、2000年には都市計画決定となっているが、港湾計画は策定済みであるものの、都市計画は決定待ち。
 この堺の遊休地をモデルに、一つは何故時間がかかっているのか、どう解決して行くのがよいのか議論していただけると有り難い。

sakai.jpg (37519 バイト)

 固定資産税は物納できないか。大和川をまたぐ道路整備に固定資産税を活用できないか。
埋め立て竣工以来、固定資産税はこれまで237億円払っている。97年からは市長の判断で多少補正を受けている。おそらくどの遊休地もこういう問題がある。固定資産税は、行政サービスから受ける保護と便益の対価である。このままでは10年で200〜300億円も掛かるが、公園とすれば公有地でタダとなる。土地の持つポテンシャルを生かす方向で考えていただけると良い。

 今後、10年、20年を考えて行くと、もう少し技術開発というテーマを世界に発進できるとよいと思っている。10項目ほど並べてみたが、医療産業都市に関連して神戸では一生懸命医療産業を育てており良いモデルになると思う。

<以下、フリーディスカッション>

 東京には出版、放送、映画と言った知的社会インフラがあって、ソフトの企業は東京に集中している。米国でも、ボストン、ニューヨーク、サンフランシスコといった知的社会インフラがあるところに集中することになるのか。それとも、知的社会インフラが空間的にもっとバラけて存在しているのか。その点から日本とアメリカの違いを教えていただきたい。

 何をもって知的社会インフラとするのか大変難しい質問であるが、私の研究対象は大変若い人が多く、学生のときから事業を始める人が多くて、大学の存在が大きい。
  しかし、実際問題としては、大学では勉強する機会はあったが、その後は人材を紹介してもらうとか、同級生のネットワークがあるという点はあるが、教育機関以上の役割を担うことは少ない。ボストンにはMIT、ニューヨークにはいくつかの大学にメディア科、サンフランシスコには大学はないがビジュアル系(映像技術系)の集積があり、徒弟制度的なものはある。中小都市では、そういうものがあって産業のコアとなっている話は認められなかった。

 ニューヨーク、ボストン、サンフランシスコ以外にはそういうものはなかったということか。

 大学がコアになって産業が集積するものはなかった。大学は他には見られなかった。しかし、一方で分布をみると思いがけないところにあったということはある。ただし、ストックとしては育っていなかったということではないか。

 産業の立地が他の産業、例えばファッション産業とか音楽・美術のアーティストのような周辺分野と相互に刺激し合うということはないか。ソーホー地区など初期には随分アーティストが入り込んでいたと思うが。

 直接的なメリットからいうと、ソーホー地区などまさにそうで、ギャラリーやメディア(放送、出版等)の企業などがあって、自分に協力してくれるアーティストやエンジニアを集めやすいという環境がある。そしてダウンタウンや50番街にはクライアント、お金を出すのはミッドタウンという具合に、様々な関係者が街中にたくさんいて、文化的・歴史的ネットワークを形成していた。
  間接的なメリットとしては、そうした雰囲気にあこがれて「予備軍」が入ってきたという面がある。若い人がニューヨークにあこがれて来てしまう。そしてとても低い時給に甘んじて働くという労働集約的、スウェット・ショップ(搾取工場)的な雰囲気がある。サンフランシスコにも、弱いけれどそういう雰囲気はあるし、ボストンにはないが、代わりにハイテクの伝統がある。ただし、この産業はハイテクべったりでなく、ハイテクの影響を受けながらアートにまた近づいていくという面がある。

 テクノロジーの先端でありながら、実はアートに限りなく近い面があるのではないか。小野委員が言う「美しい都市」についても、都市から受ける刺激というようにイメージを膨らませてみたいところがあるが・・。

 文化という目で見ると、一方でスウェット・ショップ的な実態も一方にあって見失ってしまうところもある。両方押さえる必要がある。

 米国は現在経済好調、日本は不振であり、なかなか米国を追い駆けるのは大変。ヨーロッパの事情はどうか。

 ヨーロッパはよく知らないが、いくつかの事例をお話しすると、英国で最大手のWEB系でオンライン・マジックという広告会社の子会社があるが、これがニューヨークでダントツのシェアを持っている。それは米国の市場に惹かれ、自由にやりたいという欲求と優れた人材が確保できることによる。
  もう一つの話は、先ほどのラーニング・テクノロジー社が国際化を進めており、1つの拠点はアジアで、もう一つは、東ヨーロッパに置こうとしている。理由を聞いたところ、東欧は開発拠点として人件費が安く、質の良いエンジニアが得られるが、これに対し、西欧は出にくい。若手のベンチャーに資金を融通する仕組みがない、野心のある人は米国に行ってしまうということがあるようであった。

 この産業は、コンテンツとして、エンターテインメント、ゲームソフトといった新しい産業としてやっているところと、在来型の金融機関におけるコンピューター化とか新技術の導入の過程に対応している部分とが考えられてるが、どちらが多いのか。

 両方ある。前者については、結局インターネットになったというだけのことで、画像や音声などをどのようなかたちで流すかというところに「スキマ」があり、そこにスタートアップの連中が食いついている。もう一方では、広告業界が新しいホームページをつくるとか、CD−ROMを使うとか、既存産業が新しい媒体を使っているところにもスタートアップが食いついている。従って新しいことをやっているようで、実は今までの発展形に過ぎないのかも知れない。従来なら横並び組織でやっていたことが、たまたま若い人がゲーム感覚でやって成功しているだけで、もう少し経てば、大企業の力に押されて行くことがあるかもしれない。

 インターネットもハリウッドも軍事技術の転用がもとになっているが、ニューメディア産業にもそうした流れがあるか。
  また、大学の存在について言及されているが、今後コンピュータの面白いコンテンツを考え出して行くのは、大学出ではないのではないか。日本の場合、週刊誌に出てくるような女性技術者は大学を出ていない。大学は社会に出るまでの猶予期間として機能しているのではないか。
  そのほか、日本でスタートアップが出てくるとしたら、東京以外では福岡が一番当てはまると考えるが、福岡がそのような状況に置かれているか。

 軍事技術の流れは、私が知る限りでは無い。ボストンでは、スターウォーズ計画で予算が付いたが、それが無くなって落ち込んだ。その後ニューメディア産業が全く別の流れとして発展したと理解している。ニューヨークについてはよくわからない。
  大学については、日本と米国では大学の役割が違う。米国は大学院で専門教育を受けるために戻っており、そこで専門的な教育を受けて個人の資産としている。ニューヨークの大学でもニューメディアの学科ができている。日本では大学が猶予期間として機能している。
  福岡でも業界団体を作ったり、それを市がサポートしたりして細々やっているが、充分成果が上がっていない。その背景は人のストックが充分ないこと、保守的な風土がこうした産業をネガティブに見ていると聞いている。

 最初の樋口先生の話と後の阿部先生・小野委員の話とがうまくつながらない。
  最初の話は規制緩和、税制、産業、人材がからみ、どうも箱モノの話にならない。この他にも環境産業や高齢者向けの産業といった都市型産業にも関係する。これらを都市の中にどうやって取り込みやすくするかの問題となる。どういう産業が得意かということになれば、都市によって得意分野も異なるので、もし議論するならいくつかのタイプに分けて整理して議論しなければならない。
  一方、阿部さんの話も非常に大きな問題であり、都市の構造が変わろうとしているのだから、出てくる土地をどのように活用するのかについて、具体のプロジェクトを見つけて行く、具体の計画を作って行くという方向になると思うが、この2つのアプローチは分けて考える必要がある。

 産業構造の転換によって産業がマクロ的にどういう方向に行くのかを押さえなければならないと思うが、それが空間的にどういう意味を持つか、土地利用がどのように変わるのかということも重要だと思う。
  前回、遊休地を拙速に利用するのではなく、何もしないことも一つの選択であるという意見があったが、これについてどう思うか。
  50年先を考えたとき、では5年後には何をすべきか、あるいは何もしなくていいのか。スピードの概念が大きな意味を持つと思う。そうした中では暫定利用というのもありうるのではないかと思う。高度経済成長期には、一刻も早くそこに作るのは社会的要請があったが、現在ではその意味は変化しているのではないか。

 臨海部は広いので全部一緒には議論できない。場所によっては使うことができる土地もあるが、1500haとか1600haといった土地の中には、新たに基盤整備を必要とするものもある。そうした土地の中には整備するには無理があるものもあり、「本格的な暫定利用」を考えて行かなければならないかもしれない。その場合、誰がどういう負担で暫定的な利用に耐えていくかの方向性が出れば、そこを使わないことへのそれなりのコンセンサスが出来るのではないか。

 「放っておいても」という議論は条件付で賛成である。土地は何のためにあるのか、誰がいつ使うのか、どういうポテンシャルがあるのかという議論を長い目でして行かなければならない。
 ただし、何もしないというならば国有地にして欲しいということである。民間企業に負担をさせるということは如何なものか。わが社は2兆を売り上げて500億円の経常利益をあげているが、そこから200億円の税金を取られたのでは、何のために事業をやっているのかわからない。税金を払うために仕事をしているのか。土地をお買い上げ頂けなけないならば、税を免除して頂きたい。相続税は物納可能であるのに、固定資産税は駄目なのか。国有地であれば、どうぞ使い方はゆっくり考えていただきたい。暫定利用というのは、そのときの住民の快適をどこまで考えて行くかということで、公園や緑地としての利用ということも考えられるだろう。
  ただ、土地を利用した産業活動で金を稼ぐことも必要で、そうでなければ誰が石油を買ってくれるのか。次の世代の人々が負担するのか。日本の競争力が年々低下しているが、観光立国で食って行けるのか。何で飯を食うのか、そのための産業構造の転換が問題となっている。10年間放っておいて持つのか。500兆円のGDPを毎年1、2%増やして行くには、国土をフルに発揮させなければならないのではないか。そういう見方からすれば急いで取り組む必要がある。

 日本の都市計画は非常にスタティック(静的)で、時間の管理という概念がない。最終型だけ押し付けるので、宅地並課税でも何でも、どうしても難しい問題が残ってしまう。 工場跡地については、都市計画的に言えば工業から工業への転換が一番望ましいが、新しい産業が今の工業地域に立地できるのかというと大変難しい。新しいシーズとして環境型とかリサイクル型とかも考えられるが、それらが立地してくれるかというとおそらく読みきれないものが多いであろう。
  それでどの程度の腰だめの展望を描けるのかということになるが、次の問題は遊休地とは何であるかということ。阿部さんが整理してくれたが、実は市街化区域農地という巨大な遊休地が16,000haもある。一方で工業用地で千数百haで大騒ぎをしている。市街化区域内農地は宅地並課税で選択を迫っている。農地として塩漬けしたものは全部国有地化するのか。こういう話になる。しかしそうはならないで、市場主義の中で処理しながら、誰がどういう形で遊休地の土地利用転換にプッシュをかけ、公共側がどういうバックアップをしてゆくかである。
 農地の場合は農業政策で支えている。では、工場の遊休地は積極的に土地利用転用すると言うのか、言わないのか。全体としてプロセス管理の問題に関わってくると思うし、さきほど出た「スピードの感覚」を入れた都市計画の問題と思う。

 一言感想を述べさせて頂くと、経済学者は、土地を経済資源、経済要素として見ているが、経済活動は土地だけでなく、人と金をどの土地に注ぎ込むかが重要である。今は、土地は貴重でとにかく有効利用しなければならないという状況にはないので、問われているのはむしろ貴重な人や資金をどこに投入するのかという問題である。待つということは何もしないということではなく、次の機会を待って、その間に人と資金は都市型の産業に注ぎ込むことではないか。

 以前、暫定利用について研究をしたが、臨海部といっても都心的なところもあれば、工業しかありえないところもある。暫定利用一つをとっても、公園的利用もあれば、輸送用の利用もある。中には上物を壊すと大変費用がかかるので、今ある建物をうまく利用して、固定資産税分くらいの収益を生み出すということもある。どういう暫定利用をするかの可能性は広く、土地に合わせた暫定利用が必要。
  ただ、我が国の場合それを規制する法律がある。例えば、既にある工場の建屋を利用してその中を利用しようとすると消防法の規制がかかり、適合させようとするとコストがかかって採算に合わないといったことがある。そのような場合、臨海部については一般市街地とは違う基準で立地を認めることも考えるべきではないか。
  また、輸送系の土地利用には現実に高いニーズがあるが、大都市周辺の土地利用として適切かどうかは議論が必要。

 英国のドックランド開発などでは、経済を10%膨張させるつもりで都市再開発をやってみても、10%に見合う成長はなく、テナントが入らないことが多い。再開発をやるときそれに見合う産業を引っ張ってこなければならないが、現在経済は米国に偏しており、バーチャルマネーのところばかり景気が良い。
  そこで今の話が重要であるが、暫定利用の中でもいわゆる上屋ありという状況である。上屋がついていると土地価格も結構安いが、先ほどの樋口氏の話を聞いていても、意外とスタート・アップの企業にとっては活用可能ではないかと思う。
  先ほどから、再開発をして企業に入って欲しいという話とスタート・アップに適した器を作って欲しいという話が並んでいたが、これを両方くっつけるのは、確かに不可能に近い。そこで暫定利用の語義をどこまで広げるか、上物の社会的利用価値というものを見て行かないといけない。

 土地は誰が持てば良いかという意見が出たが、遊休地を持つ企業は、簿価で売れれば良いのか、時価でなければ売らないのか。無償でもいいのか。
  私は、堺を含めこういう場所は国有地として抱えるのが妥当と考える。というのは東京の臨海副都心も、都有地として抱えていたことが結果として良かったと評価している。先ほどの日本の都市計画は時間の概念がないという意見に矛盾するかもしれないが、日本の都市計画は時期があいまいだから良い。臨海副都心も、当初の計画通りには行かなかったが、今ではSAPという外資系の統合管理ソフトの会社や、AXAというフランスの損害保険会社が進出して来ている。
  製鉄会社は熱管理で優れた技術を持っているのだから、当面の措置として、臨海部の土地利用で卸発電の形で使えないか。

 神戸でスタートしている。

 産業構造の転換という言葉のイメージが狭くなっていないか。ミドルテクやローテクの産業にも、それぞれなりの構造転換があるはず。ハイテクだけでは樋口氏が話した50uもあれば足りるイメージになってしまい、土地利用の話につながらない。
  私は、大阪府の夢島をどう開発するかについて意見を聞かれたとき、大阪の町工場の伝統を考えてミドルテクはどう生き残るかという議論をして、最終的に7万人くらいの都市にすることが可能というので、その中でクラフトマン(職人)的なものづくりのマエストロ(名人)たちが自分の技術を発揮しながら生きていくという開発を提案した。
  また、樋口氏の報告では、建物の美しさの問題を提起されていたが、単に機能だけを追及するのではなく、美しさの要素があれば、その建物はあらゆることに転用が可能になるのではないか。ヨーロッパではそうやって来ていて、300年、500年使われている。そういう建物のメタモルフォーゼ(転生)、建物の長生きできる条件を議論する必要がある。ベネチアへ行ったとき、定住人口を確保する議論で、コンピューターやデザインといった感性と知能を集めるといった夢のある議論をしていた。未利用地を利用するときにも、どういう美しくて汎用性のある建物が可能かという議論が必要。人間が美しいところに住みたがっている。その美しいものは何だという広い視野での街づくりの原点に返った議論が必要。

 産業構造の転換には、衰退業種から成長業種に入れ替わるイメージもないことはないが、既存の業種の中で淘汰が行われ、勝ち残った企業によって競争力が強化されるという側面もある。この強化をもたらすものは、一つは国際会計基準の導入であり、もう一つは、市場の規律である。これを受けて経営形態を企業が変えて行くという過程、言い換えればスリム化の過程で、土地を手放すということも出てくるのであろう。
  今日のテーマをまとめて行くには、いくつかのパターンを想定して、こういうパターンにはこういう都市政策で対応するというふうにまとめてみてはどうか。

 今の提案は重要で、是非次回以降はそうした対応をして欲しい。今日のプレゼンテーションを行った3名の方、質問に対して答えがあればどうぞ。

 鉄鋼の街ピッツバークでは、都市の衰退に対応した都心部の再開発で産業の呼び込みをやっているが、周辺部の工場跡地はそのまま放っている。やはり産業構造の転換の中で従来の土地利用の構造も変わることがあったという点で、日本にも参考になると思う。

 ボストンでは、古いビルをリサイクルして行くという考え方をロバスト・ビル(Robust Building)、「世の中の変化に対応できるタフなビル」という言い方をしている。また、公共で持っている土地を安く売り、その分弱い立場の相手に安い家賃で提供してもらうということをやっている。

 土地の売却希望価格について短時間では答えられないので、次回お答えしたい

(事務局)
 次回は、新産業が既成市街地にどのように展開して行くかという議論と、既存の産業がスリム化して行き、その過程で遊休資産が出てくるのを都市側でどのように受け止めるかという議論とを分けた上で、必要に応じて文献資料やデータを補って、これまでの議論の論点を整理したい。開催は9月とし、日程はあらためて調整したい。


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