第5回懇談会の概要

blue_maru.gif (326 バイト)日時、場所等

平成11年12月15日(水)13:00〜15:10
霞ヶ関ビル35F 霞ヶ関東京會舘シルバースタールーム

blue_maru.gif (326 バイト)出席者(順不同)

伊藤委員長、蓑原委員(WG主査)、井尻委員、井上委員、小野委員、
小林委員、高橋委員、馬場委員、藤井委員、森野委員、小澤委員、
角地委員、川本委員     (委員名簿はこちら

ゲストスピーカー  井上従子 神奈川県商工労働部京浜臨海部対策課副主幹


blue_maru.gif (326 バイト)資料

資料5−1 産業構造の転換に対応した都市政策のあり方に関する主な論点
        (第4回懇談会での議論より)
資料5−2 京浜臨海部再編整備に向けた取り組みについて
資料5−3 工場等の遊休地化の状況(東京圏の事例を中心に)


blue_maru.gif (326 バイト)懇談の要旨

 まず最初に、第3回懇談会で出された土地の売却希望価格に関する質問に対して小野委員から回答があった後、事務局から第4回懇談会での論点の確認をした上で、ゲストスピカーの井上氏からの京浜臨海部再編整備に向けた取り組み状況に関する報告と、事務局からの東京圏の事例を中心にした工場集積の形成経緯や遊休地化の状況に関する分析結果の説明があり、それらを受けてフリーディスカッションが行われました。その概要は次の通りです。(文責は事務局)

小野委員の回答の要旨>

 新日本製鉄堺製鉄所の土地の値段についてであるが、固定資産税評価としては、1539億円である。相続税評価額に関しては、1693億円である。鑑定価格は不明であるが、この土地に造成等で要した費用と10年間に支払った固定資産税とをあわせると、コストは数百億円ということになる。

 この土地を譲渡する際の価格について、いくつかの観点を述べていくと、第1に株主の立場から言えば鑑定価格でということになる。安い値段で譲渡すると贈与税の問題が生じ、また株主代表訴訟の問題ともなる。ただ、相続税評価額1693億円を年間の固定資産税の税額21.5億で割ると79年ということになるので、79年間は土地の流動化ができないことが証明できれば、譲渡価格を安くするということも可能になる。

 次に寄附という観点からみれば、堺市にしてみれば、利用計画のない土地を取得すれば固定資産税21.5億円の税収減に対する予算措置が必要となり、議会の承認を受けることが必要だが、市にはそのインセンティブがない。また、大阪府の立場からすれば、同地が公有水面埋立法による埋立地であることから、所有権の移転には府知事の認可が必要で、本来の工業地の利用にならないことから元の水面に復帰せよとの命令を受ける可能性がある。

 さらに、所有権の放棄という点に関しては、他人の権利を害さず、かつ、公序良俗に反しない範囲で行う必要がある。過去の判例によれば、現状復帰に多額の負担がかかり、その負担を回避する目的で所有権放棄を行うとみられた場合には、公序良俗に反するとのことである。

 最後に固定資産税の物納は、当面利用目的のない土地を開発熟度が上がるまで温存するため、既存の権利・義務の体系を壊さない範囲でできる方法である。

 なお、いくらなら売るかという点については、土地そのもので収益を上げることは考えていないので、コストに見合う範囲でご利用なされるのであれば、個人的には良いのではないかと思っている。

  

<前回懇談会での論点の確認>

 (事務局より資料5−1に即して説明)

  

<井上氏の報告の要旨>

 当課は、神奈川県、横浜市、川崎市から構成される京浜臨海部再編整備協議会の事務局を務めており、同協議会の取り組みを中心に説明させていただく。

 京浜臨海部は多摩川から横浜ポートサイド地区までの東海道線から海側の地区であり、面積は約6,100haである。京浜工業地帯の中心的地域であり、「横浜・川崎臨海部工場立地図」で色を塗っている地域が埋め立て地であるが、首都高速横羽線から海側は、鉄鋼、石油などの基礎産業、自動車、重電機などの加工組立産業といった重厚長大型の産業が集積し、工場立地法の届出対象となるような大工場が100程度立地している。横羽線とJR線の間には、これを支える中小、いわゆる町工場が多数立地している。

 85年のプラザ合意以降、産業構造の転換に伴い活力が低下し、特に海側では遊休地が発生し始めた。平成8年に遊休地がどれくらいあるのか調査したところ、既に遊休化した土地と2010年までに遊休化することが見込まれる土地で270haぐらいであろうという見通しを持っていた。今年度改めて調査したところでは、それが320haとなっている。細かく見ると平成8年度では8社で270ha、最近の調査で21社で320ha。1社当たり数haから数十haでバラバラと蚕食的に蝕まれて活力がなくなっている。こうした製造業の活力の低下は、別添の資料5-2のとおり、従業員数、事業所数、設備投資額の変化にも現れている。

 こうした状況を打開すべく、平成8年、京浜臨海部再編整備協議会が設置された。この背景には、従来から神奈川県、横浜市、川崎市で3首長懇談会というものを開催してきており、前年に、こうした体制を組もうという合意がされている。この協議会は、各自治体の企画、経済、都市、港湾の部局を構成員としている。同協議会は、平成8年11月に京浜臨海部の再編整備の基本方針を策定している。3団体は従来から工場等制限法の緩和を要望してきたが、埋立地が制限区域から除外をされたところである。

 京浜臨海部の再編整備に関する基本方針は、「安全で快適な環境のもと、21世紀の国際社会に貢献する産業創造地域」としており、京浜臨海部を将来的にも産業地域として再編整備していきたいと考えている。ただ、産業といっても工業だけでなく、3次産業を含めた幅広い産業を考えたい。住宅も産業活動と調和した範囲で部分的には考えられるが、専ら住宅の地域とする考えはない。

 京浜臨海部のエリアについて、横羽線から海側へ向かって埋め立てられた時期に応じて第1層、第2層、第3層と分けている。このうち主に第1層から第2層までで遊休地が出ている。特に第1層は、戦前からの工業地で、遠からず数十ha単位で遊休地が出てくるだろうと言われている。エリア図のABCと囲われた地域は特に遊休地の発生が見込まれる地域で、そうした地域で拠点的な再整備を進めることとしている。

 基本方針の中でも、土地利用に関する基本方針として、第1層は複合的な土地利用転換を図り、発生した用途転換用地を中心に一定規模のまとまりを持たせ、既存の産業の活動との調和を図りつつ、暫定的な土地利用も考慮した土地利用転換を進める。第2、3層は、当面は現在の港湾機能を活用した製造業、物流業を引き続き行うこととしている。

 具体的な土地利用の例として、第1に横浜市鶴見区末広町地区の公共主導型の整備である産学共同研究センター、研究ゾーンがある。これは、NKKの土地を横浜市が取得し、国の補助を受けて施設を整備している。また、南には、理化学研究所ゲノム科学総合研究センター。これはもともと東京ガスの工場跡地だったのを、神奈川県企業庁が土地交換によって取得し、理化学研究所を誘致した。平成12〜13年度にかけてオープンの予定。施設整備の効果を地域全体に波及させていくためのソフト面が今後の課題。

 第2に、横浜の新子安駅の近辺にTVPがある。これは、米国の自動車部品メーカーが日本に進出するために連携してパートナーシップを組んだ。このケースは公民連携ともいうべきで、横浜市もTVPを誘致し、民間の飼料会社が自社ビルを建てる際にセミオーダーで建物を整備し、テナントとしてTVPに入ってもらい、契約期間は10年。横浜市は誘致のほか、周辺環境整備と外資系企業への家賃補助を行う。

 第3に川崎市水江地区に、ゼロ・エミッション工業団地というものを整備している。環境事業団の用地の整備と分譲事業を活用し、立地する企業が互いに廃棄物を活用してできるだけ廃棄物を少なくなるような形で整備している。中核の製紙会社は静岡県から進出しているが、神奈川県は進出に当たって必要となる調査の補助を平成10年から実施しており、この制度を利用して進出が決まっている。

 第4に川崎市の南渡田地区の国際郵便局整備がある。この国際郵便局は、工場跡地に整備され、東日本の船便による国際郵便の拠点であり、700人以上の新規の雇用を創出している。

 今後の課題として、工場等制限法の見直しを契機に全国の企業、京浜臨海部に立地する企業にアンケート調査をした結果、京浜臨海部に立地していない企業は、京浜臨海部に対して「首都圏市場を抱えている」「港湾が近接」「情報を得やすい」という評価をする一方で、「地価が高い」「工業地域としてのイメージが定着」「環境の悪さ」を問題点として掲げている。また、京浜臨海部内の企業に対するアンケートでは、工場等制限法の見直しについては半分以上から満足しているとの回答を得ている。

 外部の企業の評価はある程度予想通りであったが、「地価の高い」との評価については、サービス系企業にとっては一般市街地ほどは高くないとの指摘もあった。ただしニーズが顕在化するほどではない。一方、製造業でもイメージの問題に3割以上が回答しており、地域イメージは重要な問題と受け止めている。そこで第一弾の取り組みとして、別添のような「京浜臨海部探訪マップ」を作成して、市民開放型施設、工場見学可の施設などを紹介している。

 10月28日に三首長懇談会を開催して、東海道貨物支線の旅客線化、工業再配置法の移転促進地域の解除(規制地域ではないが企業マインドの問題もあり、住工混在地域からの移転の受け皿、ものづくりの起業の場を整備する)を要望している。横浜生麦のファクトリーパークは、制限法の見直しにより一気に内陸部からの移転希望の企業が増え、事業計画を作れるようになった。京浜の技術集積は高く、ものづくりベンチャーの育成という点で、地価が相対的に安い、首都圏市場を抱え、情報も得やすい地の利を活かす方向を検討していただきたい。地価が低下傾向にあり、企業の土地保有の意識が変わっていく中で、貸工場、インキュベーター施設を政策的に整備する必要がある。

 また、既存ストックや工場跡地を有効に活用したまちづくり方策の確立・充実を要望している。既存の工場は取り払うだけでも巨額の費用がかかることから、改修による有効利用は必要。現状でも工場の倉庫転用の例はあるが、もっと地域の活性化に結びつく利用促進の方向を要望する。こういうことをいうと企業の側で具体のニーズがあるのかという指摘を受けるが、企業側は現行の制度を大前提としてしまう。新制度ができれば新たなニーズも生まれてくることが期待できる。

 さらに今後の課題を補足すると、これまで様々な取組がなされているが、大きなロットの整備の場合、ある程度の基盤整備は必要となるがその際の裏負担が厳しい現状がある。その中で京浜臨海部のエポックメーキングとなるような防災拠点を整備したり、ブロックグラント(統合補助金)のようなものを制度的に作っていただくことをお願いしたい。

 神奈川県で総合計画の見直しを行っているが、有効求人倍率が全国ワースト5に入っていて、非常に雇用が厳しい。県議会でも、『イギリスで「雇用が最大の福祉」と言われるが当県では他人事ではない』といわれる。MM21など業務核都市整備も進んできてはいるが、京浜臨海部の再生も欠かせない。神奈川県では厳しい財政状況の中で京浜臨海部には力を入れているので、国のご支援・ご指導をお願いしたい。

  

<工場跡地等についての分析結果の報告>

 (事務局より資料5−3に即して説明)

  

<以下、フリーディスカッション>

 京浜臨海部には北と南があって、南に金沢工業団地があるが、この工業団地の中には北の京浜臨海部から移転した企業もあったと思う。そうだとすれば北の京浜臨海部は自然に遊休化したのではなく、ある程度新しい団地を作って移転してもらったのではないか。京浜臨海部全体の有機的なからみがどういうふうにあったのか、意図的に出したのかどうかを知りたい。
  また、金沢工業団地にもハイテクセンター、バイオパーク等の新しいものが立地し、従来からのモノづくり企業とワンセット揃っているが、北も南も両方とも意図的に総花的に色々な要素を盛り込んだのか。

 金沢工業団地は、元々は市内の住工混在の解消のための移転の受け皿として造成。団地内が多様化しているのもそこに由来しているのではないか。
  北部からの移転に関しては、MM21や首都高速の整備のため移転したケースはあるが、政策的に北部から移転させたということは多分ない。南部臨海は昭和40年代以降の新しい埋立地であり、アンケートで聞いてもあまり遊休化したケースを聞かない。
  一方、川崎・鶴見の臨海部は、歴史も古く、理化学研究所もこの地域に公共的な核になる施設がなく地盤沈下に歯止めを掛けるために誘致をした経緯がある。

 京浜臨海部の再編整備にかかった費用を知りたい。具体的には、土地購入、道路・交通整備、箱物にどれくらいかかったか。

 平成8年以降の取り組みの費用ということになるが、まず、土地に関しては、川崎末広町の産学連携施設の場合、施設面積は3haでNKKから横浜市の購入が内定している。なお、この付近の取り引き価格はおおよそ坪50万円前後と聞いている。
  理化学研究所は、もとは神奈川県企業庁用地で、神奈川県と横浜市が持ち合い、理化学研究所に無償で提供することになる。
  水江のゼロエミッション工業団地は、環境事業団が8haの土地を一度取得して整備したあとで分譲するが、価格は同じくらいと聞いている。
  上物に関しては、産学連携のための共同研究センターは、通産省と県からの補助を受け横浜市が建設するが、10〜15億円ぐらいの建物ということになる。
 いずれにしても現在は走り出したばかりであり、これから再編整備を進める上でハードの整備がかなり必要になってくると考えているが、額はわからない。

 資料5-2で示された全体の構想に具体のプロジェクトが沿っているか。つまり基本方針に4つの課題が挙げられているが、具体のプロジェクトはそういう方針を生かす土地利用になっているのか。
 また、320haの遊休地について、具体のプロジェクトである程度は埋まって行くとしても、空いているところは次々に何か埋まって行けば良いと考えている訳でないと考える。全体の生かし方を考えると相当のインフラ整備が必要と考えるが、その辺の整理を教えていただきたい。

 構想と具体のプロジェクトは、資料5-2の京浜臨海部エリア図にあるとおり、末広地区やTVPなど一応対応したものになっている。
  平成8年調査で把握した遊休地270haのうち50ha程度は、既に利用が決まっている。しかし新たに100ha遊休地が発生して、転用が追い付いていないという状況にある。ハードの整備が必要ではないかというご指摘はそのとおりと考えている。

 坪50万円というのは大変微妙な価格。従来からの産業が立地するには坪50万円は高いが、流通業や新しく立地する企業にとってはまあなんとか耐えられる価格。しかし土地区画整理事業などインフラ整備をして土地を提供しようとすると、坪50万円では割に合わないという微妙な価格で、どちらにも動きがとれない。このままでは流通系その他は入ってくるが、新たな産業への転換はなかなか進まないという地域になる可能性がある。
  一方、地域イメージというのは曲者で、一つには外から見て臨海部は大都市都心部に近接しているから、それを生かして新しい地域を作っていこうというイメージと、もう一つには従来からの工場従業者などにとっての改善すべき地域イメージというのがあって、それぞれ随分差がある。このどこをターゲットにして地域イメージを良くするかがはっきりしていない。
  私は今川崎商工会議所のメンバーと議論しているが、例えば、貨物線の旅客化の議論も、そこに立地する工場にとっては、ああいう横の筋に入る大幹線よりも、縦軸に繋がる交通動線ができて、工場機能を支えてくれることを期待している。それを考えていく必要がある。
  また、暫定利用というのは、インフラが現状のままであるから暫定利用であるという話と、インフラもある程度作りながら暫定利用していくという話とでは違う。現在のインフラがこういう状況だからこの程度の暫定利用しかしないという議論をするのか、それとも、現在の工場を避けながら基盤整備も暫定的に行うのか。こうしたことも不可能ではなく、京浜臨海部で検討したことがある。そうしたことを県あるいは国が出てきて暫定的基盤整備にお金が使えるのか、現在の枠組みでは難しいが、京浜臨海部では議論する必要がある。

 私も京浜臨海部にも長く関わり、テクノウェイブ、キリンビアビレッジ、川崎マリエンとか、東燃の工場など見せてもらった。結論的にはその頃から論点、政策の方向性も変わっていない。
  大変結構なのは、昭和電工とか、日本の石油精製会社とか、いくつかの会社が売電事業をやっている。川崎火力もリフレッシュしている。全然違う用途に転換するよりは、神奈川県内のエネルギー需給に応える拠点として活用することが重要。
  2点目は、横浜、川崎だけでなく、羽田にも200haの跡地があり、一体的に考える必要があるということ。三県市だけでなく、臨海支線に関しては、東京といかに連携して行くかが重要。
  最後に、地元住民が縦軸を望むならば、暫定利用よりも、さしあたり浮島から大師までの川崎縦貫道路の整備が重要。湾岸道路も途中で止まっており、並木までを産業道路や有料道路の割引料金で運用しているが、そんなことはやめて、川崎縦貫道路の用地取得を集中的に進めるべき。

 京浜臨海部への取組みは大変うまくやっていて敬意を表したいが、まずマスタープランがあって計画を立てて誘致をするという順番になると、実際にものが建ったり、インフラ整備したり、予算を取ったりするまでの時間は相当かかる。これをできるだけ短くすることがポイントになる。
  また、現実に遊休地が大規模に発生したときには、国の視点で防災拠点を整備するなど大きな意味で長期的スパンの暫定利用を活用すべき。

 我々は開発の成否を開発事業そのものについて見がちであるが、MM21の開発に伴って横浜野毛や伊勢佐木が地盤沈下していることなど、開発に伴い大事なところが陥没することをどのように考えるか、大局観を伺いたい。開発に伴いどういうところが影響を受けるか検証すべきではないか。

 横浜市もそういう問題意識は持っていて、MM21の開発に伴って関内地区、特に伊勢佐木の辺りをどうするかについて、その活動や文化をどうするかなど、違った観点から地域の再生に向けた検討を今やっているところ。
  京浜臨海部を開発するときにも、そういう議論は考えられる。例えば、大規模なショッピングセンターを整備する場合、川崎の中小の商店街はダウンする。横浜、川崎は横の交通網はあっても、縦にはないので、臨海部にショッピングセンターができると、横に流れて行って、横浜の商店街が影響を受けるかも知れない、そうした議論は重要。

 開発論の長期的な戦略として、例えばMM21のランドマークタワーがどのような影響を及ぼすかは、おおよその想像はつく。伊勢佐木など結果論を議論するのではなく、想像のつく問題をどのように議論するかが問題。どこかを作ればどこかは沈没する。そうでなくても日本中がオーバーストア(店舗の供給過剰)の状況で、こんなに商業施設を作って街作りをしたがるのは日本ぐらいだろう。
  そういう問題を、東京でも横浜でも、こういうものを作るからここは沈没させると言うくらいの議論ができるのなら開発論にも情熱的になれるのだが・・。どうもここがおかしくなりそうだというくらいで開発の議論ができるのか。そういう点では私は悲観論者である。

 そうした問題は私の持論であり、また都市公団の低未利用地活用事業の中でも取り入れられている。例えば、MM21の開発地域の固定資産税が年間40億ぐらい入っているが、一方で公共が投じた金が200億円ぐらいか。とすると7〜8年で元がとれることになる。米国のようにあらかじめ何年で元が取れるという計算ができれば、固定資産税の税収を既成市街地に充て、魅力的な空間にして行くというリンケージスタイル(連携方式)という仕組みが、もし本当にやるなら必要である。

 工業用地は計画規制をやっているがゆえに地価が低く押さえられている面がある。そこで工業以外でもいいですよといったとたんに、地価形成が撹乱されるおそれが出てくる。そうすると工業から工業へという議論がなくなっていく。すると市街地の中の工場はともかく、計画的に公共団体が公共投資で整備した工業地についても、市場原理に任せて収益還元型で高い地価がつくところで自由に入ってきてもらってよいと判断するか、あるいは、先ほど問題提起があったように、もっと長期的に計画的な思考で判断するか。その場合、都市計画は長期的観点からいやがおうでも地価形成に関与するが、一方で早くやるときは企業側はそんなことを言っても持たない。その問題を別の問題としてきちっと掌握して議論しないと、都市計画の問題と産業政策の問題とが混乱するのではないか。この問題は、地価形成と市場原理と都市計画との基本的問題に関わるから、伊藤委員長にお考えを伺いたい。
  第2点は、計画的にはできないが、少なくとも個別的に必要な場合。例えば、品川埠頭のマンション問題がもめていたが、明かにマンションが入ってくるのが品川埠頭の人間にとって困るというような問題が発生した場合に、暫定利用で土地利用をつないでいく仕組みがない。
  また、暫定利用も区別して論ずる必要があり、例えばお台場のビーナス・フォートも10年間の暫定利用であるが、500億投資して10年後には50億の償却損が残ると言われている。こういう暫定利用とは別に、工場用地を暫定利用して将来の利用に備えるとか、工業地形成を維持するような暫定利用もあり、その辺を区別して議論する必要がある。

 3つの問題を提起された。第1に、地価をどう評価するか、市場原理をどこまで重視するか、あるいは公共性・長期性をどう考えるか、これは資料5-3の類型に関わる問題である。市場原理といっても、現在の所有権者にどこまでプロパティ・ライト(財産権)を認めるかということに関わる。企業は土地を持っていながら手放すことができない。良いかどうかは別として、どの程度制約されていくかは重要なポイントである。
  第2に、埠頭とマンションとの関係は、経済学的に言えば、エクスターナリティ(経済の外部性)と呼んでいる問題である。空間的に色々な人が色々な関係で利用することから、プロパティ・ライト(財産権)とは別に議論してもらう必要がある。
  第3に、暫定利用に関しては、色々な手法があるということで、色々なオプションを出して行くということかも知れない。
  その前の「開発論の長期的な戦略」の話は、もう少し厄介な問題で、そもそも産業構造の転換をどのように考えるか。転換というのを産業の活性化につながるという視点に立つか、それともオーバーストア(店舗の供給過剰)、オーバーハウジング(住宅の供給過剰)という中で、既存のものを維持して行くのかどうか。この懇談会はそういう視点を議論していく場なので、ここは議論していただければ良い。

 先ほど言った坪50万円について誤解を招かないように補足すると、既成市街地側で今年3月に都市公団が収益還元で土地を評価し取得したが、坪50万円には届いていない。当然、より条件が厳しくなる臨海部で収益還元法による評価をすれば、50万円にならないと考える。

 神奈川県は物流問題も大事であるが、物流効率化のための拠点がない。東京は既に4箇所、今度5箇所目が計画中である。都市の構造、交通全体を変えるものを考える必要がある。また、3首長が揃っているのだから、もう少し防災問題に積極的に取り組んでいただきたい。財政問題があるのは分かっているが、土地が空いてきたのだからチャンスではないか。空いた土地を埋めるため、交通拠点や防災の話をしたが、ウォーターフロントが現在は住民に開かれていないことも考えるべきだし、また、既成市街地の都市計画を考えて行くべきであるが、代替施設としてエリアを限って居住施設を入れてはどうか。そうでなければ貨物線を旅客化しても意味がないではないか。

 遊休地を転換して別の用途に転換するときにはお金が必要であり、その資金をどのように生み出すのかが課題。例えばNKKが横浜市に土地を買ってもらって、そのお金で構造転換を進めて行くような仕組みが必要なのだと思う。
  一方、土地を使う側は、土地を長く使うので、取得費用を誰がどのように負担するかが問題である。私は、公団が国の立場で土地を取得する仕組みをお考えいただいたら、前に進んで行く可能性が高いと思う。銀行に公的資金が何兆円も入っていく仕組みとさして変わらない。どこかで土地を持ってもらえる仕組みがあると、少し時系列をゆっくり進ませて行くことができるのではないか。そんなことを議論いただけるとありがたい。

 神奈川県の取組みは大変立派であるが、例えば、理化学研究所を誘致するのは良いとして、そこに住む人が街として索漠たる所でどういう生活を営むのか。
  TVPも素晴らしいプロジェクトであるが、計画的にやったというより、たまたまデベロッパーと会社が援助を受けながら実施したという側面が強い。土地利用転換はそうした形でしか起こり得ない。そうでありながら矛盾を起こさないためにはどうしたら良いか。特に小規模に転換するとき非常に問題がある。小規模な転換の時には、どんどん転換できるというような開放ムードにはあまりしないほうが良い。
  一方、大きく動かすときには、例えば、私は常磐新線にも関係しているが、17万の人間を沿線に住まわせないと成立しないという事業である反面、首都圏の住宅事情はフラクチュエーション(変動)を起こす状態になっており、そんなに土地を必要としていない。すると大規模開発を行う場合でも、身近なところで具体的にプロジェクトが見えてこないと手がつかめず、それを公で行うことは困難ではないか。
  従って、現在の遊休地をどんどん転換させるのではなく、住民が水面に近づけるようにするとか、緑を増やすとかしながら、企業の土地保有コストだけを落としていくことで、将来の工場への転換とか大転換に備えるといった政策でないとうまく行かないのではないか。

 今の議論は、全体の需要と供給をうまく考えて行かないといかない、ステップ、プロセスを厳密に考えることが必要という論点に関わる問題だと思う。

(事務局)次回は2月上旬頃で、あと年度内に2回程度開催したい。次回は、これまでの議論を取りまとめ、報告の素案あるいは骨子案を御議論頂きたい。
  臨海部の工場跡地の転換は都市構造全体に大きなインパクトを与えること、実際の転換はパラパラ櫛の歯が抜けるように起こっていく、これをどのようにコントロールして行くか、といった議論としては、かなり煮詰まってきたように感じるので、そうした論点と考え方を一度整理して、次回深めた御議論をお願いして、次々回には報告をまとめていただきたいと考えている。

  


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