「次世代の都市生活を語る懇談会」

 提言

 平成12年12月 25日

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目次

 

○はじめに

○次世代の都市生活のあるべき姿とそれを実現するための提案

   1. 互いに支え合うまちの暮らし

   2. 老いも若きもやすらぐ空間

   3. 子どもたちを育む環境づくり

   4. コミュニティとプロセスが生み出すゆとり

   5. 自然の香りの回復

   6. 就労と家庭・コミュニティとの調和

   7. まちのルールづくり              

   8. 都市を語り合う人々           

   9. 快適な都市生活のための人づくり    

○「次世代の都市生活」を創る           

 

  懇談会名簿 

     開催経緯

 

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○はじめに

 

 21世紀を迎える日本には、その新世代にふさわしいまちとそこでの暮らしが求められている。

 これまでの日本のまちづくりは、急速な経済成長の下で、道路、公園、下水道等の都市基盤の整備水準を向上させるため、器としての施設整備に全力を傾注し、大きな成果を上げてきた。

 しかし、これからのまちづくりにおいては、都市や経済社会が急激に変貌し、価値観も多様化していく中で、都市に住む人々が本当の意味での快適さ、生きがいを感じられる豊かな都市空間を築いていくことが求められている。

 そうしたまちづくりのためには、都市に生きる人の目線で都市を見つめ直し、将来の都市、特に私たちの子どもたちが主役となる次世代の都市において、どのような生活をしていくかをまず考えることが必要ではないだろうか。

 次世代の都市生活を語る懇談会は、このような趣旨を踏まえ、これまで生活の視点からまちづくりに関わってこられた委員を中心に、都市に生きる人の目線で次世代の都市を見通しながら、それにふさわしい都市の姿と役割について明らかにし、都市政策への反映を図ることを目的として発足した。

 本懇談会の進め方として、今後の都市生活を考える際、重要と考えられるいくつかの項目(少子化、住まい、高齢社会、景観、環境、人づくり、コミュニティ)について、平成11年(1999年)7月2日の初会議以来、毎回2名程度の委員がそれぞれの専門分野について報告した後、自由に意見交換するという形で開催してきた。

 その結果、次世代の都市生活に寄せる各委員の意見を以下の9つのテーマに絞り込んだ。

 もとより、次世代の都市生活については、今後ともたゆまぬ議論によりその検討が進められることが必要であるが、本懇談会で取りまとめられた意見がそのさきがけとなることを期待するものである。

 そこで、本懇談会での議論の成果を取りまとめ、ここに建設省都市局長に提出する。

 

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○次世代の都市生活のあるべき姿とそれを実現するための提案

 

1.互いに支え合うまちの暮らし

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◎ 次世代の都市においては、ノーマライゼーションの考え方が実現されている必要があり、高齢者も障害者もまちなかでふつうに生活することができるよう、ユニバーサルデザインに配慮した施設が整備されるとともに、保育園、ケア付き住宅、郵便局、商店などが街の中の一番便利なところに立地することが必要。

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 日本においては、介護の必要な高齢者や障害を持っている人などハンディを負い施設で暮らす人の数が年々増加している。

 しかし、社会保障の先進国と言われる北欧では、そうした人の数が逆に年々減少している。

 このような状況が生じているのは日本では都市から離れた病院や施設に高齢者や障害者を隔離する傾向が続いているのに対し、北欧では地域の中で高齢者や障害者がふつうの暮らしができるよう社会が支援しているからである。

 例えば、デンマークにおいては、ユニバーサルデザインに配慮した施設が都市に整備されるとともに、良好な国民生活の基盤を作っているのが都市計画・都市政策であるとの観点から、一番便利なところに保育園、ケア付き住宅、郵便局、商店などが立地している。

 また、立派な施設ばかりを作るのではなく、暮らす場所は本人が決め、本人が住み慣れた既存の家をバリアフリーに改修するといった取り組みへの政策転換が行われた。

 こうした取り組みの結果、高齢者や障害者、車椅子に乗ったり、乳母車を押す人を含む誰もがふつうの生活を送ることができるようになった。

 デンマークには日本でいういわゆる「寝たきり老人」は存在しない。たとえ半身不随で自らベッドから起き上がることができずおむつをしていたとしても、自宅に住みエレガントな服を着て介護をしてもらいながらデイサービスセンターに通うなど、残された能力をできるだけ使いながらふつうの生活を送っている。

 また、施設においてもグループホームの活用などにより少人数でゆったりとした日常的な暮らしが確保されている。

 次世代の都市生活は、年齢や心身の状態にかかわらず、人は誰でも「ふつうの生活」を送る「権利」があり、社会にはそれを支える「責任」がある、というノーマライゼーションの考え方が実現されたものであることが必要であり、まちづくりもノーマライゼーションの考え方を基本に置いて進められなければならない。

 

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ノーマライゼーションとは?

 デンマークのバンク・ミケルセンが精神薄弱者の処遇に関して唱え、北欧から世界へ広まった障害者福祉の最も重要な理念。

 障害者を特別視するのではなく、一般社会の中でふつうの生活が送れるような条件を整えるべきであり、共に生きる社会こそノーマルであるという考え。

 この理念は、「障害者の権利宣言」の底流をなし、「国際障害者年行動計画」と「障害者に関する世界行動計画」(1982)にも反映されている。 <元に戻る>

 

バリアフリーからユニバーサルデザインへ

 バリアフリーとは、社会生活における様々な障害(バリア)を取り除いた(フリー)、高齢者や障害者にも使いやすいような環境づくりの意味である。

 このバリアフリーの概念を受け継ぐ形でユニバーサルデザインという概念が生まれている。

 これは、バリアフリーのように、いわば社会に障害があるものを正常に戻すデザインではなく、障害がはじめからない、誰にとってもよいデザインへと発想を転換している。

 つまり、高齢者や障害者に限らず、子供や妊婦といった人々も含めた誰にでも使いやすく、楽しみやすいものに設計していくという意味で用いられている。<元に戻る>

 

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2. 老いも若きもやすらぐ空間

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◎ 少子高齢化は、特に大都市部を中心に、急激な人口減少と高齢化、社会のモビリティの高まりなどの大きな変化をもたらす。これに対応し、既成市街地の再構築、メンテナンスが充実した耐久性の高い住宅、良質な借家の供給等を図ることが必要。

◎ 高齢者がこれまでのふつうの生活をできるだけ自立して送っていけるよう、リバースモーゲージの確立、適切な司法サービスの提供等により、社会が支えていくことが必要。 

 ◎ いろいろな世代の人々が集まり、遊び、交流できる場の整備、運営、管理を通じたコミュニティの充実を図ることが必要。

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 日本では少子化が急速に進んでおり、合計特殊出生率は、既に人口を維持するために必要な水準である2.08を大幅に割り込み、平成11年(1999年)時点で1.34となっている。

 なかでも、大都市圏の少子化は顕著で、東京では1.03にまでなっている。

 この水準で推移すれば、2世代で人口が半減するなど人口減少が急速に進むほか現在は地方において顕著な高齢化が今後は大都市を中心として進行することとなる。

 また、これらの人口動向に加えて、IT革命等の技術革新がもたらす労働市場、産業構造等の変化により、転職の増加など社会のモビリティが増加することも予想される。

 このような動きに対応するためには、既成市街地の再構築やメンテナンスを的確に行うとともに、メンテナンスが充実した耐久性の高い住宅、多様なニーズに応じた良質な借家をリーズナブルな価格で供給していくといったことが重要であり、バランスのとれた借家政策など様々な支援策を講ずるべきである。

 一方で、高齢者の親族や高齢者自身の意識の変化などにより、親族による扶養が当たり前という考え方がすたれつつある。

 このため、高齢者自身の自助努力により、あるいは公的な福祉の支援を受けながら自立して生活していけるように、新たに設けられた成年後見制度の活用を図るとともに、リバースモーゲージの確立、グループリビングへの支援等、様々な支援制度の整備が望まれる。有料老人ホームの契約問題、訪問販売等による高齢者の消費者被害など高齢者の陥りやすい深刻な問題についても、契約内容の適正化、適時適切な司法サービスの提供を工夫すべきである。

 また、都市の在り方としても、高齢者や障害者などが安全に暮らすことができるよう、バスの活用、交通機関およびその周辺のバリアフリー化などを図るとともに、高層ビル街での風害防止にも配慮することが必要である。

 高齢者や障害者もIT技術を活用することで活動の場が広がり、都市生活を楽しむことができ、若者にとってもより都市生活における選択の幅が広がることになる。

 さらに、都市の中でいろいろな人が自然に集まり、遊び、交流することができるよう、歩いて行ける範囲に公園などの「場」が必要であり、そのような「場」を周囲の住民とともにつくり、運営し、管理していくことがコミュニティの充実にも役立つものである。

 

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リバースモーゲージとは?

 「リバースモーゲージ」とは、持ち家(一戸建て・マンション)を担保に自治体・民間金融機関から年金型の生活資金融資を受ける制度の総称。4人に1人が65歳以上の高齢者となる超高齢社会が目前に迫り、公的年金給付の抑制や医療・介護費用の自己負担が増える中で、持ち家はあっても生活資金に余裕を欠く高齢者層が一層増えると予想されている。

 リバースモーゲージはこうした高齢者層に向けた新方式の融資で、平成10年(1998年)現在、首都圏・近畿圏の16自治体が公的制度として導入しており、今後一層の普及が期待されている。 <元に戻る>

 

合計特殊出生率とは?

 15〜49歳までの女子の年齢別出生率を合計したもので、1人の女性が仮にその年次の年齢別出生率で一生の間に子どもを産むと仮定した場合の平均子ども数。 <元に戻る>

 

成年後見制度とは?

 痴呆症の人、知的障害のある人、精神障害のある人など判断能力の不十分な人々は、財産管理や身上監護(介護、施設への入退所などの生活について配慮すること)についての契約や遺産分割などの法律行為を自分で行うことが困難であったり、悪徳商法などの被害にあうおそれがある。このような判断能力の不十分な人々を保護し支援する制度。

 平成12年(2000年)に《自己決定の尊重》の理念と《本人の保護》の調和を目的として、より柔軟かつ弾力的で利用しやすい制度として改正された。 <元に戻る>

 

グループ・リビングとは?

 「元気な高齢者が、少人数の気の合う仲間と老後を一緒に暮らす、ついのすみか」というイメージで、様々な呼称で使われている。痴呆高齢者や障害者にとって、少人数で自宅に近い環境で暮らすことが介護によいとされたことから、欧米で広く定着している概念。<元に戻る>

 

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3. 子どもたちを育む環境づくり

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◎ 次世代の都市生活を担う子どもたちを産み育てるにふさわしい環境づくりを進めるため、子どもの成長に応じた住宅政策、円滑な住み替えに対する支援、借家の持ち家との格差是正や質の向上を図るとともに、子どもたちが自由に遊べる地域環境を整備することが必要。

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 少子化の主要な原因は晩婚化と非婚化であるが、結婚した夫婦が希望する子どもの数を実現しない傾向にあることも指摘できる。

 その理由としては、経済的な問題と並び、狭くて家賃が高いという「住環境」の問題が挙げられる。

 子どもを持つか否かの選択は個人に委ねられるもので、国や自治体が過度に介入すべきでないが、仮に、子どもを産み育てたいと考えている人がそれに躊躇する原因が個人生活の基盤である住宅にあるのであれば、その原因を取り除いていくことも必要である。

 狭くて家賃が高い住宅に住んでいる結果、多くの家庭で子どもが母親もしくは両親と同室で就寝している状況が見られ、子どもや夫婦のプライバシーが保てないという問題も生じてきている。

 また、床が薄いため騒音で母親がノイローゼ状態になる、父親が寝ている土曜日の午前中は隣接した公園で遊ぶのを自治会で禁止しているので子どもを外に出せない、子どもがいるため民間賃貸住宅に入居できない場合があるなど様々な問題が起こっている。

 子育て層を対象にしたこれまでの住宅施策としては、地方自治体による住宅供給や家賃補助、民間住宅を活用した特定優良賃貸住宅供給促進事業などがあるが、対象となる層が限定されているばかりでなく、住宅単体が対象となっているので、住宅の周辺環境を含め、子育て世代にふさわしい住宅の質を問う段階には至っていない。

 次世代の都市生活を担うのは、子どもたちである。

 子どもを産み育てたい人がそれにふさわしい住宅に住み、子育てができるように、制度やまちづくりの一層の充実が求められる。

 

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 横浜市で平成10年(1998年)に実施した「すこやかな子どもを育てる住宅および地域環境に関するアンケート」調査結果によると、子育て世代が望む住宅や地域環境を整備するに当たっては以下のような課題がある。

 ・全般的に、子育て世代は、日当たり、風通し、駐車・駐輪スペースの確保を第一の力点に置くが、子どもが小さいうちは一人でも安全に遊べるよう、大きな道路に面さないこと、子どもが学齢期にさしかかると個室や収納スペースの確保などに第2の力点を置くようになる。

  したがって、末子の年齢によって細やかな対応が必要である。

 ・住み替えを希望するのは末子が小学校に上がる6歳であることから、住み替えが円滑にできる支援が必要である。

  特に子どもによる入居差別のないようにしなければならない。

 ・民間賃貸住宅に住んでいる者は、世帯主の年齢も若く、子どもが小さく、伸び伸びと遊ばなければならない時期に狭いところに住んでいる場合が多い。

  したがって、持ち家との格差是正、低層住宅やタウンハウスの充実等、民間賃貸住宅の質の向上は大きな課題である。

 ・子どもを育てやすい社会をつくるためには住宅だけでは解決できず、住宅に付随したポケットパークや子どもが遊べる共有コーナーなどのような子どもが自由に遊べる小さな共有空間の整備なども必要である。

 

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4. コミュニティとプロセスが生むゆとり

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◎ 日本の雑然とした都市景観に対しては、多くの批判があるが、どのような景観が望ましいものであるのか、価値観が多様化している中で全員の合意を得ることはきわめて困難。

◎ 地域コミュニティが、じっくりと時間をかけた話し合いのプロセスを経て、美しい景観という公益について合意形成に努めるなど、都市景観についての共通意識を醸成していく取り組みの強化を図ることが必要。

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 暮らしの中で日々使う場所が美しいということは、潤いのある生活を送る上で非常に大切な要素である。

 また、環境が人をつくることからも、美しい景観が必要である。

 しかしながら、日本の都市景観に対しては、雑然としている、醜いといった批判がある。

 例えば、日本の都市景観を醜くしているものとして、沿道の看板、宣伝用ののぼり、コンビニエンスストア、自動販売機、余分なガードレールなどが挙げられる。

 景観においては、ジグソーパズルと同じように、一つのピースが全体を台無しにすることがある。

 例えば1軒のガソリンスタンドが非協力であったり、不釣り合いなパラボラアンテナが1基あるだけで、全体の景観が阻害されてしまう。

 また、公的施設の整備を急ぐあまり行政が景観を阻害するものを整備し、批判を受けることがあるのも事実である。

 外国の景観は美しいと言われているが、その特徴はよけいなものが何もないことである。

 例えば、イスラエルの山上の垂訓教会には周辺に余分なものは何もなく、美しい景観を保っているが、法隆寺の場合、すぐ脇の店のため景観が阻害されている。

 水辺に目を向けると、外国の場合、自然の状態が維持され、市民が容易に近づけるようになっており、事故に備えて柵を設けるのではなく、ロープや浮輪が用意されているだけという例もある。

 フィンランドでは、建物は、外観もそれほど凝らず、あっさりと街並みに溶け込むような形でつくられている。

 ただ、中が非常に美しく、インテリアデザインを大切にしているし、中庭をパーティーや物干しなどの生活に活用するなど、古い街並みの保全といいながらも、今も生きた形で保全している。

 また、地下にプールを設けるなど、地下空間を活用して、逆に地上では豊かな自然環境の保全に努めている。

 このようなことから、美しい景観づくりを進める上では世代間のサスティナビリティという考え方が重要であり、生活の仕方、インテリアデザイン、建物の外観が一体となった良質なものを残すべきである。

 そのような意味では、子どもが安心して遊べる路地といった微小な空間も重視しなければならない。

 より広い都市空間についても、まちの昔の層を生かした形で設計し、昔から住んでいた人たちの空間とある程度連続性を持たせた形にすることが必要で、こうした工夫により、高齢者にとっても外に出やすく生活しやすい都市となろう。

 日本においては、高度成長期を通じて、新奇なものや個人の好み、個人の役割があまりにも強調され、価値観も多様化してきた。

 こうした中で、美しい景観とは何かということに関して性急に合意形成を図ることはきわめて困難である。

 こうした問題については、先を急ぐことは得策でない。

 それぞれの「私」をもとに自分たちできちんと調整していき、本当に何がよいのかということを自分たちで決定するというプロセスから美しい景観という「公」ができていくという、「公」のつくり方をじっくり時間をかけて実践していくことが必要である。

 なお、このプロセスにいわゆる「公」がどのように関わっていくのか、「教育」がこのプロセスにどのように寄与すべきか、検討すべき課題は多い。

 

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5. 自然の香りの回復

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◎ 自然は、人を支え、癒す。その意味で、都市にあっても自然が存在することはきわめて重要。             

◎ 価値観が多様化する中で、自然に対する考え方、捉え方も人により異なるが、このような違い、対立を超え、市民やNPO、行政などそれぞれの主体が積極的に参画し、継続的な努力を払うことにより、都市の自然の保全を図っていくことが必要。

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 都市を整備し、都市活動を行うということは、その反面、自然に負荷を加え、変容を強いる。

 例えば、水系において生物が棲息するための場の条件という面から見ると、都市においては、特に、@川が上下につながっているか、A細流、水路等のつながりが有効か、B冠水率の高い水辺(湿地)はあるか、C水辺林が連続しているかといった点で大きな問題がある。

 こうした状況において、自然の保全ということについて考えると、次のような全く異なる考え方が混在している。

 第1の考え方は、例えば、貴重な動物が棲息している地域にはできるだけ立ち入らず、外来種が入り込まないよう駆除するといった、バリアを築いて立ち入らせないというものである。

 第2の考え方は、人の手を加えて、自然の回復も期待し、よりよいものにしていこうというものである。

 第3の考え方は、これらの考え方とは全く異なり、もともとあった自然をなくしたところに、従来の生態系とは異なるいい環境、価値ある環境を改めて創出するというものである。例えば、明治神宮や新宿御苑がそれであり、このようなものは人間との関わりにおいての自然であるから、適正な管理なくしては維持できないものである。

 したがって、このカテゴリーに属する自然のありようは、その属する人間社会のレベルに対応したものとなるといった面がある。

 このように、都市における自然をどのように捉えるか、どのように保全していくべきかについては、多様な意見があるところである。

 また、都市の中の自然に対する人々の意識には大きな違いがある。

 例えば、ある個人の家で桜が咲いた場合、善意の第三者は美しいと思って通り過ぎるが、他方で、よけいな花びらが入ってきて困ると苦情を訴える隣人もいる。

 ある地域コミュニティでは例えば道路周辺の緑化に積極的に関わっていこうとするし、他のコミュニティではそういったものは行政が管理すべきものだといった著しい違いがある。

 一方、都市においては、例えば、春の「雨に濡れた土のにおい」といった自然の歳時記を人間に備わった五感を働かせて感じるといった経験がまれなものとなりつつあるが、それでも、苦しいことがあった時にお気に入りの川に行けば、そこで自然の安心感や開けた静けさに触れ何らかの支えを得られるとか、人間以外の生物とのふれあいの中で心が癒やされるといったことがある。

 また、オランダにおける市民による環境調査や農地での自然回復運動、横浜市の「市民の森愛護会」による民有林の下草刈り、枝打ち、枯れ枝の処理といった活動への参加は、自分が存在している空間、自然、社会、文化を理解し、そこに所属している意識、そこで自分が役に立っているという意識、いわば生きがいを醸成することができる。

 このように、その地域の人々の生活の中で自然との関わり合いは大きな位置を占めており、住民の意識と空間づくりを一緒に育てていく時間が必要である。

 そして、自然の保全は、行政だけでも、NPOだけでも容易にできるものではなく、それぞれの主体が継続的な努力を払うことにより初めて可能となるものであり、行政は明確な事業目的を持ったNPOと市民を支えていくことが必要である。

 以上のことから、価値観が多様化する中で、自然に対する考え方、捉え方も人により異なるが、このような違い、対立を超え、市民やNPO、行政などそれぞれの主体が積極的に参画し、継続的な努力を払うことにより、都市の自然の保全を図っていくことが必要である。

 

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6. 就労と家庭・コミュニティとの調和

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◎ 夫婦ともパートタイム労働を選択することにより十分な所得を得ながら短い労働拘束時間が実現できることから家庭生活やコミュニティ活動にも従事できるオランダの「 1.5モデル」も参考にしながら、地域コミュニティの中で人々が支え合うこととにより、サラリーマンだけでなく高齢者、障害者も含めて、就労、家庭、コミュニティのすべてに積極的に関わっていくことが必要。

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 近年、福祉に対する考え方が、「恵まれない人々に対する保護、サービス提供、金銭給付」から「市民にとって必要な、社会生活上、ライフステージの中で発生する様々な課題に対しての自立支援」へと変化してきている。

 このような中で、地域で生活するためのサービスは、従来の非常に限定的な行政による福祉だけではなく、自分たちの住む地域コミュニティの中で市民あるいはNPOなども提供することが求められている。

 したがって、従来のいわゆるフォーマルな仕事だけでなく、インフォーマルな地域コミュニティでの労働が重要になってくる。

 にもかかわらず、現在の日本においては、働く母親を含む多くの勤労者が通勤や就労に長時間を割かなければならないため、経済的には豊かであっても家族と関わる時間が少ない、地域コミュニティ活動になかなか参加できないなど、望ましい状況にはない。

 また、児童、青年、働く母親、サラリーマン、障害者、高齢者など人々が何らかの問題を抱え、単独ではその問題を解決することが難しい状態になっているので、市民のエンパワーメントが必要な状況にある。

 この状況を改善するひとつのモデルとして、生活設計に合わせパートタイム労働かフルタイム労働が選択可能なオランダモデル(1.5モデル)と言われる就労モデルが注目されている。

 オランダでは、夫婦共々就労するが、どちらが主ということではなく、どちらもパート労働を選んだとしても一家族としては十分な所得が得られ、一家族としての労働拘束時間が少なくなることから、家庭や子育て、地域コミュニティ活動において十分な役割を果たすことができる。

 次世代の都市生活においては、サラリーマンや子どもを持った母親だけでなく、高齢者、障害者が無理のない仕事をし、家庭、地域に対する責任も果たせることが可能になるよう、就労と家庭・コミュニティとの調和が図れるようにしなければならない。

 

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オランダモデル(1.5モデル)とは?

 オランダの協議制度を基本とした労使関係により、良好な経済パフォーマンスとパートタイム労働の創出で雇用拡大などに成功した事例として近年注目を集める就労モデルであり、パートタイム労働を積極的に位置づけていることが特徴である。

 一人週40時間フルタイム労働に対して、夫婦が共に週30時間、計60時間のパートタイム労働となったとしても一家族としてみると十分な賃金を得ることが可能となることから1.5モデルと言われている。

 日本では「パート=低賃金・不安定雇用」であるが、オランダのそれは決定的に異なる。

 賃金・一時金等は労働時間に則して案分され、社会保険等はすべてフルタイム労働者と同等に適用される。

 パートの職種は補助的業務だけでなく、社会的地位も賃金も高い職種もあり、労働者は自身の生活設計に合わせてパートかフルタイムを選択することができる。 <元に戻る>

 

エンパワーメントとは?

 エンパワーメントとは、辞書(デイリーコンサイス英和辞典)によれば、

  (1)力をつけること。また,女性が力をつけ,連帯 して行動することによって自分たちの置かれた不利な状況を変えていこうとする考え方。

  (2)権限の委譲。従業員の組織内での力を引きのばすためや,開発援助において被援助国の自立を促進するために行われる。

であるが、ここでは、何らかの問題を抱え、単独でその問題を解決することが難しい状態の市民が自立的に力をつけることの意味で用いている。<元に戻る>

 

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7. まちのルールづくり

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◎ 美しい、魅力のある都市空間を形成していくためには、個人の権利の過度の強調と公益の軽視という日本特有の考え方を変えることが必要。そのためには、住民の主体的参画による地区計画、建築協定などを通じたコミュニティ主体のまちづくりを通じて公益に関するコンセンサスを形成していくことが必要。

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 日本では憲法第29条第1項のいわゆる財産権の不可侵が非常に強調され、土地であっても要するに自分のものであるから自由に使えるのは当然であるという考え方が国民性ともなっている。

 したがって、少なくとも今までは法律で都市計画制限をかけられるといったことに対する反発が非常に強いものとなっている。

 日本にも土地収用法のシステムがあり、私有財産であっても正当な補償の下に公共のために用いることができることになっている。

 ドイツやフランスでは同様のシステムがそれほど抵抗なく用いられているが、日本ではこのシステムの発動に官民ともに相当な抵抗がある。

 都市計画法・建築基準法に基づく建ぺい率や容積率の制限についても、欧米ではごく当然のこととして受け入れられているものが、日本では反発があるばかりでなく、法律違反の事例が見られるところである。

 ことに都市景観については、街並みを是正するという発想とは全く逆で、周囲から目立った方がよいといった考え方がむしろ一般的であるともいえる。

 こうした事態に、従来は行政指導という形で対応してきたが、これも行政手続法の制定により相手方が任意に従わない限り効力を有しないことが明らかになったため、有効な手段となっていない。

 また、条例による規制は非常に緩いものであるため、十分な手段とはなっていない。

 こうした状況を打破するための方法としては、ひとつには法律でしっかりと定めてしまうというものがあるが、他方まちづくりについてはそれぞれのコミュニティが主体的に考えるという方法も考えられる。

 従来は別としても、現在ではまちづくりNPOが育ってきていることや若い人の外国体験が深化していることも考え合わせれば、土地というものは個人が全く自由に使うべきものではなく、住民の主体的な参画による建築協定や地区計画などを活用することによって、まち全体、ひいては住民全体にとって最もよい姿になるように使うという公益に関するコンセンサスを形成していくことが必要である。

 

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●日本の都市と海外の都市に関するアンケート調査

 

 建設省は、欧米などに住んだ経験のある日本人女性を対象に実施した現地と日本とを比較・検討するアンケート調査を実施した。

その概要は下記の通り。

 (1)調査実施期間

   平成11年(1999年)10月12日に調査票の郵送・送信を開始し、11月30日までに回収が完了したものを集計。

 (2)調査対象

   以下の条件を満たす方

    ・女性(年齢は海外在住時に大学生以上)

    ・在住期間は原則1年以上で、帰国から10年以内

    ・在住国は米国、カナダ、EU加盟国を中心としたヨーロッパ、オーストラリア、ニュージーランド

      (米国:42.7%、英国:23.7%、ドイツ:7.6%)

 (3)回収状況

   全体で131件の有効回答(回収率61.5%)

 (4)主な結果

    ・生活全体の印象: 

      「日本より外国」(60.9%) 「外国より日本」(10.2%)

    ・街の中の緑の多さ: 

      「外国」(91.6%) 「同程度」:7.6%  「日本」:0.8%

    ・公園などのオープンスペースや、建物の形・高さ・色などの調和:

      「外国」(93.1%) 「同程度」:2.3%  「日本」:2.3%

    ・高齢者・身体障害者への対応:

      「外国」(78.6%) 「同程度」:3.8%  「日本」:0.8%

 

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8.都市を語り合う人々

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◎ ITを通じた情報のやりとりなどにより、まちづくりについて熱く語る人々が全国的に増え、多様な活動を展開している。今後のまちづくりは、このような人材の積極的な参画を得ながら、総体的にノウハウを高めていくことが必要。

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 この数年間でまちづくりを熱く語る人たちが全国的に増えてきている。

 都市政策や都市計画について語る人もいれば、自分のまちやこれからのまちづくりについて語る人たちもいる。

 他方、まちの使い方であるとか、どのまちならよいサービスを受けられるとか、どこのまちが遊びに向いているかといった情報に詳しい、情報おたくのような人たちもいる。

 このような人たちがパソコンや携帯電話で情報のやりとりをしているうえ、海外経験のある人がますます増えていることから、地球規模で都市の生活、文化、人生を語り合う時代になってきている。

 具体的には、次のような事例が見られる。

 ・「安全・安心まちづくり女性フォーラム」を通じて、自由な発想を持った女性たちが「安全・安心まちづくり」をテーマに、まちづくりの企画論、計画論を多様に展開した。

 ・「黒部まちづくり協議会」では、全市規模でまちづくりのNPO活動が積極的に展開されることとなった。

 ・「都市観光を創る会」では、観光の専門家や都市計画の専門家、映像プロデューサー、イベントプロデューサーといった様々な業種のプロが集まって、インフォーマルな形で、観光の世界から見た都市づくり、逆に都市の戦略としての観光活用といった様々な観点から議論を展開している。

 このように都市を語り合える人々が増えていくことを受けて、まちづくりにおいても次のような点について転換が図られることが期待される。

 第1は、まちづくりの経営、運営に関し、どのような空間ボリュームを、どのような主体、力が担いうるかということについての整理。

 第2は、公民協働システムということがよく言われるが、そこでの「公」の在り方、従来の「官」や「行政」との関係等についての整理。

 第3は、情報システムやコンテンツが高度なものとなる中で、行政においては、元の情報が少ないとか加工能力が低いといった問題の解決。

 第4は、クルマ社会の在り方についても、全面的に自動車という前提を置くのでなく、まちの構造やタウンモビリティの在り方について、様々な可能性を考えること。

 第5は、再生建築や商店街の再活性化ということについては、例えば、早稲田での商店街がエコによる商店街づくりを成功させたように、価値を転換したり、高めたりといった変換システムの仕組みを考えること。

 第6は、財政制約の中で、その運営に多額の維持費と高度な企画力が求められるアリーナやドームのような大規模空間の活用方策の真剣な検討。

 すなわち、おもしろい、楽しい、安心、美しいといった新しいテーマについては、従来とは違った仕組み、仕掛けを作っていくことが必要であるが、そのためには、NPOと行政との連携がますます必要になる。

 

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安全・安心まちづくり女性フォーラムとは?

  女性の視点から、安全で安心して暮らせるまちの実現のために、女性の価値観や視点、能力を最大限に活かすことを通して、新しい知恵や方法を創り出し広く社会に提言しながら、具体的な行動に結びつけることを目的としたフォーラム。

  具体的には、「安全・安心」をきっかけとしたまちづくりへの市民参加の推進やそのための調査・研究、各方面で活躍をするグループ同士のネットワークの構築、イベントやシンポジウムの開催などの活動を平成9年(1997年)から平成11年(1999年)にわたり全国23箇所で展開した。<元に戻る>

 

黒部まちづくり協議会とは?

  黒部市商工会議所が黒部市長に提出した提言書を受けて、平成9年(1997年)6月に、黒部市内の主な団体と市内外の学識経験者によって設立された。同協議会は市民ワークショップを実行組織と位置付け、行政や企業などを支援組織として、市民全体のまちづくりを進めている。協議会の理念は「はな(華・花・英)」。「華」は、華のある個性づくり、「花」 は、花と名水の美しい自然を活かした魅せるまちづくり、「英」は、英れた知恵と感性、先進と伝統の創造技術による美しい文化づくり、を目指している。 <元に戻る>

 

都市観光を創る会とは?

  これからの活力ある都市づくりのためには、都市をモノの生産や流通拠点とするだけでなく、自己実現や交流のための舞台装置として位置づけることが重要で、それが「都市観光」につながる。都市観光は、市民、企業、行政が一体となり、国内外の多様な人々との交流を通じて、都市の生活、文化、産業の好循環を生み出すことから、産官学の代表者による都市観光の振興を図ることを目的とした会。平成11年(1999年)7月に設立。会長は木村尚三郎東京大学名誉教授。 <元に戻る>

 

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9. 快適な都市生活のための人づくり

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◎ 快適な都市生活、持続可能な地域づくりのためには、主体性と市民力を備えた人づくりが重要。そのためには、アメリカのハンズオンの展示手法(参加体験型の展示手法)に基づく子どもミュージアム、イギリスやドイツの校庭改善プロジェクトのように、自ら調べ、考え、実践するというプロセス学習を家庭も巻き込みながら実践する子ども時代からの人づくりが必要。

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 真に快適な都市生活を実現し、持続可能な地域づくりを行っていくためには、基本的に主体性と市民力を備えた人づくりが重要である。

 欧米ではこのような認識に立った教育を幼児の頃から実施している。

 例えば、イギリスの環境教育は、人工的な環境と自然のバランス、人と環境、人と人とのつながり、自然・歴史・文化の持続可能性、といったことに関し、まず好奇心を喚起してから知識や理解、コミュニケーションといった能力を獲得させるとともに、多元的な見方ができるようにしている。

 そこではまず知識(about)を与えるのではなく、子どもたちのいろいろな体験を通して(through)、気づかせ、関心を促した上で子どもたち自らが調べに行って、考え、そして実践していくというプロセス学習が行われている。

 このような中で、未来をイメージしてそれを具体的な形につくっていく時には、解決の道はひとつだけでなく様々な発想があるという考えや他人の信念や意見に対する寛容さ、そして自分自身で社会を変えていく力が養われるのである。

 このような持続可能性に向けた教育は他の国々でも同様に行われているが、その具体例には次のようなものがある。

 まず、ドイツやイギリスで実施されている校庭改善プロジェクト。

 これは、水と緑が豊かな校庭に改善することについて子どもたち自身がアイディアやビジョンを出して、それを実践するためにはどうしたらよいか、PTA・家庭も巻き込みながら一緒に考え、改善・実践していくものである。

 次にアメリカの子どもミュージアム。これは、いろいろな街、いろいろな暮らしがあるということを異文化体験をさせながら展開するものであるが、日本と異なるのはハンズオンの展示手法に基づいているということである。

 第3にまち学習における街ウォッチング。これは1972年頃、イギリスでストリートワークとして用いられた手法であるが、これは日本でも各地で実践されており、子どもたちと街ウォッチングをやりながら、よいところ、悪いところ、残したいところ、変えたいところを発見し、まちづくりマップに残して表現したり、あるいは昔のまちの様子を大人から聞くといった相互交流を行ったりしている。

 

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ハンズオンとは?

 「ハンズオン」とは辞書(デイリーコンサイス英和辞典)によると「実際に参加する。実地の」という意味であるが、アメリカで子どもミュージアムや科学博物館で始まった「自分から積極的に見て触って試して理解へ導く展示の手法」がその語義である。

 日本ではハンズオン展示を体験型や参加体験型展示という場合が多い。

 また、ハンズオンという言葉は最近では展示だけでなく「分かりやすい方法」や「子どもに理解できる方法」という意味にも使用するケースが増えている。<元に戻る>

 

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○「次世代の都市生活」を創る

 

 バブル崩壊に至るまでの日本の数十年間は、歴史的に見ても世界的に見ても例のない、奇跡的な高度成長の時代であった。

 

 多くの人々は、地方部から大都市圏へと住まいを変え、勤勉に働きながら、高度成長を支えてきた。

 

 その一方で、やがては自然の豊かな郊外に住む、あるいはふるさとで第二の人生を送ることを夢見ながら、現実には、長距離通勤に耐え、家庭生活や地域活動に十分な時間を割くことができないという生活を余儀なくされる場合も多かった。

 

 また、この間、決して恵まれているとはいえない住環境、都市景観の荒廃、公共施設や商業施設の郊外立地に伴う中心市街地の活力低下・地域コミュニティの崩壊といった、様々な都市のひずみが生じてきた。

 

 バブル崩壊から約10年を経過した今、私たちは成熟社会を迎えている。その成熟社会とは、いいかえれば、多くの人々が都市に生まれ、都市に育ち、そして都市でその生を終える、「都市型社会」であるということができよう。

 

 同時に、私たちは、今、急激な少子高齢化や、人類がいまだかつて経験したことのない地球環境問題にも直面している。

 

 私たち、そして次世代をになう私たちの子どもたちは、このような未曾有の大変化の中で、都市のひずみを克服しながら、みんなで力を合わせ、元気で前向きに「次世代の都市生活」を創っていくことが必要である。

 

 それは、私たち、そして次世代をになう私たちの子どもたちが、自分たちの住まう「都市」の真の快適さや美しさとは何かという課題を自分のこととして考え、「都市」という舞台の上で様々な価値観を持った人々と広く交流し、理想の都市像を語り合いながら、「次世代の都市生活」についてのコンセンサスを練り上げていく創造的なプロセスにほかならない。

 また、それは、仕事と家庭生活と地域活動のバランスをとりつつ、市民力豊かな人々が熱い思いで参画し、かつ、行政やNPOとのパートナーシップも創っていく、主体的な営みとなるであろう。

 

 このようなプロセスを通じてこそ、年齢や心身の状態に関わりなく「ふつうの生活」を送ることができるノーマライゼーション、子どもを産み育てたい人にふさわしい住宅や地域環境、いろいろな世代の人々が集まり、遊び、交流できる場、美しい都市景観や自然環境、様々な問題を抱えながらもいっしょうけんめい生きているすべての市民のエンパワーメント、主体性と市民力を備えた人づくりといった理想が現実のものとなる。

 

 地域を中心としたこれらの取り組みとその成果は、親世代から子世代へ、子世代から孫世代へと確実に引き継がれていく持続可能な都市生活コミュニティの形成へと発展していくことだろう。

 

 持続可能な都市生活コミュニティが形成されたとき、過去と現在と未来がつながり、人と人とがつながり、人と自然とがつながることとなる。

 すなわち、このコミュニティの中での自分の存在感や役割、自然との一体感を感じ、自分の思いが次の世代に継承されていくことを発見して、私たちは、一日一日が充実感にあふれた生活を送ることができるようになるだろう。

 

 そこに、初めて、真の意味で快適で、生きがいのある「次世代の都市生活」が実現するのではないだろうか。

 

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「次世代の都市生活を語る懇談会」名簿

 

 

 座長 金平 輝子   東京都社会福祉協会会長

    井手 佳季子  (株)ポリテクニック・エイディディ

             地域計画部ランドスケープグループ主任研究員

    犬養 亜美   エッセイスト

    大江 守之   慶應義塾大学総合政策学部教授

    大熊 由紀子  ジャーナリスト

    大野 美代子  (株)エムアンドエムデザイン事務所代表取締役

    小幡 純子   上智大学法学部教授

    岸井 隆幸   日本大学理工学部土木工学科教授

    小澤 紀美子  東京学芸大学教授、附属教育実践総合センター長 

    白石 真澄   (株)ニッセイ基礎研究所主任研究員

    田島 優子   弁護士、さわやか法律事務所

    栃本 一三郎  上智大学文学部社会福祉学科助教授

    森泉 陽子   神奈川大学経済学部教授

    森下 郁子   (社)淡水生物研究所所長

    森下 慶子   (株)ケーピー代表取締役

   

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「次世代の都市生活を語る懇談会」開催経緯

 

第一回  平成11(1999)年7月2日(金)15:00〜17:00 都市計画会館

 『少子高齢化が都市に及ぼす影響』(大江委員)

 『住宅需要について』(森泉委員) 

 

第二回  平成11(1999)年9月27日(月)10:00〜12:00 麹町会館 ガーネット

 『子どもを健やかに産み育てる住宅環境』(白石委員)

 『高齢社会の法律問題』(田島委員)

 

第三回  平成12(2000)年1月18日(火)10:00〜12:00 麹町会館 ガーネット

 『日本の景観を考える〜諸外国と比較しつつ〜』(犬養委員)

 『フィンランド等の都市景観について』(大野委員)

 

第四回  平成12(2000)年5月15日(月)15:00〜17:00 麹町会館 ガーネット

 『都市における自然とのふれあい』(井手委員)

 『都市の自然環境』(森下郁子委員)

 

第五回  平成12(2000)年7月17日(月)15:00〜17:30 建設省 4階会議室

 『障害者は高齢社会の水先案内』(大熊委員)

 『都市における個人の権利と公益』(小幡委員)

 『快適な都市生活のための人づくり』(小澤委員)

 

第六回  平成12(2000)年11月29日(水)16:00〜18:30 三番町共用会議所

 『コミュニティとエンパワーメント

   〜新しい就労と家庭・コミュニティとの調和〜』(栃本委員)

 『21世紀の都市生活』(森下慶子委員)

  懇談会報告書について議論

 

第七回  平成12(2000)年12月14日(木)13:00〜14:30 建設省 3階会議室

  懇談会報告書について議論

 

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