京阪神地域の都市再生に向けて

〜住みたい街、訪れたい街、働きたい街〜

 

平成12年11月30日

都市再生推進懇談会(京阪神地域)


目 次

1.はじめに

2.京阪神地域の危機的状況

(1)京阪神地域の活力の低下
(2)都市構造上の基本的課題
(3)都市再生の意義

3.都市再生の基本的視点

4.プロジェクトの提案

(1)地域の財産を生かした活力の再生
(2)歴史と自然を生かしたまちづくり
(3)既成市街地の再構築
(4)都市基盤の整備

5.事業手法・制度改善の提案

6.多様な主体の連携と協調

7.終わりに


 

1.はじめに

京阪神地域は、西日本の政治・経済・文化の中心であり、我が国を代表する大都市圏として、東京圏と並び日本の発展を牽引してきた。

 しかしながら、東京圏への一極集中の進展などにより徐々に経済的活力を失ってきた京阪神地域は、今日、絶対的衰退の淵に立たされているといって過言ではない。

 折りしも、我が国経済の新生のためには、都市構造を抜本的に再編し、21世紀にふさわしい機能を備えた都市に再生していくことが不可欠の条件であるとの認識が示されるようになった。京阪神地域においても、今こそ都市に目を向け、世界的な規模で人、マネー、情報などが行き交う、生き生きとした都市空間を創造していかなければならない。

 本懇談会は、このような状況を背景に、京阪神地域の都市再生の具体化の方策などについて、経済界、地方公共団体、学識経験者が参加し、それぞれの意見を結集する場として発足し、会議を2回開催した。

 議論の中では、京阪神地域が、京都・大阪・神戸の3都市を核としながら、都市圏の魅力を全世界に対しアピールして、我が国を代表する大都市圏の一つとして飛躍を遂げていくために何をなすべきかについて、幅広く意見交換を行った。

 ここに、京阪神地域の都市再生に寄せる各委員の意見を提言として取りまとめ、内閣総理大臣、建設大臣に提出する。都市再生に関わる様々な主体に本懇談会における議論の趣旨が理解され、具体的な取組みを立ち上げる契機となることを切望する。<目次へ>
 

2.京阪神地域の危機的状況

1)京阪神地域の活力の低下

 京阪神地域は、京都・大阪・神戸と、際立った個性を備えた都市を中心として発展してきた地域である。そして、近世に我が国経済の中心たる地位を築き上げて以来、常に経済発展の先頭に立ってきた結果、今日京阪神地域は、先進国一国に相当する経済規模を有するに至った。

 また、京阪神地域は、アジア地域を中心として多くの国・地域との長い交流の歴史を有しており、現在においても、関西国際空港及び神戸港などを玄関口として我が国の国際交流の拠点の役割を担っている地域である。

 このように、京阪神地域は世界経済の拠点機能を担うことのできるポテンシャルを内在しているにもかかわらず、今日、その経済的地位は相対的に低下し、むしろ、絶対的衰退の危機に直面しているともいえる。

 その背景には、グローバルな産業構造の転換、IT革命の進展などの世界的潮流の中で、この地域が、素材型の古い産業基盤に依存してきたこと、メディアが集中する東京圏に比べ情報発信力が弱く、存在感が低下してきたことなど、固有の構造的問題がある。つまり、現在の経済的低迷は一時的な景気動向によるものだけでなく、京阪神地域の産業・経済システムの根幹的な揺らぎに起因しているということができる。

 京阪神地域が、我が国を代表する経済拠点に留まり続けるためには、新たなビジネスが創出される場である都市が求心力を回復し、国内外の注目と関心を引き付けることが必要である。本物の価値を持つ都市の魅力をいかに創造するかが、京阪神地域の再生の鍵を握ることになる。<目次へ>

2)都市構造上の基本的課題

 東京圏が東京都心部の求心力が極めて大きい一極集中型であるのに対し、京阪神地域は、京都・大阪・神戸という、自立的に発展を遂げてきた3都市を中心とする多核的都市構造を有していることが特徴である。また、綿々たる歴史、永年にわたり培われてきた文化、先取のアカデミズムが築いた学術、港を通じた交流が育んできた進取の気風など、他の地域が持ち得ない、重厚な厚味のある地域資源を有しており、独自の発展を遂げていく可能性を内包している。

 しかしながら、京都・大阪・神戸の3都市は、東京圏の都市間相互の関係と異なり、相互の社会的・経済的な依存度合いが低い。さらに、平野に山地が入りくむ地理条件の影響もあり、それぞれの都市が有する個性と特徴を生かした取組みが必ずしも十分な相乗効果を発揮していない。

 また、狭小で老朽化した住宅の密集する市街地が広範に分布しており、阪神・淡路大震災で露呈したように、災害に対し脆弱な都市構造となっている。

 京阪神地域は、これら特有の都市構造を前提としながら、東京圏も、他の都市圏も持ち得ない「魅力」を創出し、それを全世界に発信していくことを目標とすべきであり、都市づくりに関わる様々な主体がその目標に向けて連携をとって協力関係を構築し、一体的に取り組んでいくことが求められている。<目次へ>

3)都市再生の意義

 現在我が国の経済社会は、グローバル化、情報化、少子・高齢化など、大きな構造的変化に直面している。また、厳しい財政状況に直面する公共セクターのみならず、景気の先行きの不透明感が払拭できない民間セクターも、リスク管理の厳格化が一層進捗し、環境との調和の要請も顕著となる中で、都市整備に対する投資意欲が減退している状況である。

 これらの構造的変化への対応を誤れば、京阪神地域は一気に地方都市化への道をひた走る懸念すらある。京阪神地域が大都市圏としての魅力を失い、東京圏への一極集中がさらに加速することとなれば、東と西に大都市圏を配する我が国の複眼的構造が潰え去る。そうなれば、国土構造上も経済構造上も硬直化を招き、結局は我が国全体の国際競争力を弱めることとなる。それぞれ中規模程度の国の規模を有する東京圏と京阪神地域が相互補完の関係に立ち、交通体系や情報通信基盤等の整備など相乗効果を発揮するシステムを構築することが、我が国の国力を高めていくために不可欠であるという認識を持つべきである。

 このように、京阪神地域の都市再生は我が国全体の視点から捉えるべき課題であり、あくまでも国家的な戦略課題として、国と地方公共団体がそれぞれの責任を果たして行くことが必要であろう。<目次へ>
 

3.都市再生の基本的視点

 京阪神地域の都市再生を考える場合、上述のような状況を踏まえ何を基本的な視点に据えて取り組みの方向を定めていくかが重要なポイントとなる。特に、経済的な活力を再興するための産業の新生や、居住環境とともに集客環境の向上を図るなど、そのポテンシャルをどう高めていくかについての京阪神地域の共通認識を打ち立てる必要がある。

 @構造転換に対応した産業の高度化

 世界的に進展する産業構造の変化に対応し、医薬品、家電、ゲームソフト、ファッションなど京阪神地域の特色ある産業集積も活かしつつ、IT、バイオ、医療関連産業、環境産業等の都市型産業を強化し、21世紀にふさわしい高度な産業・経済システムの再構築を行うことが必要である。

 そのためには、それらの産業の発展の条件となる都市基盤施設の整備や、産業の担い手を育成し得るシステムの創設など、産業の振興、雇用の創出等を支援するハードウェア、ソフトウェア両面からの都市政策の展開が求められる。

 A世界から人々が集う賑いのあるまちづくり

 京阪神地域は我が国第一の歴史的・文化的資源を有するとともに、人材、企業、大学、研究機関など世界的水準にある数々の地域資源が集積しており、様々な分野において国際的な拠点機能を果たしうる地域であると評価できる。

 京阪神地域は、このような強みを活かし、国の内外から人々が集う、賑わいのあるまちづくりを進めるべきである。このため、都市問題、環境、防災、健康・福祉等の分野において、アジア・太平洋地域と欧米地域との接点を担う機能を強化し、集客力の高い国際交流拠点としての地位を構築すべきである。

 B多様な魅力を活かした都市居住の推進

 京阪神地域は、大都市圏としての都市機能集積の魅力に加え、東京圏に比して短い通勤距離、自然や歴史文化との近接性、京都・大阪・神戸等それぞれ個性の異なる都市の存在、大都市圏域を取り巻く北近畿・南近畿・瀬戸内海沿岸のような文化と自然に富む地域の存在など、多様な魅力に富む立地特性を有し、東京圏やその他の大都市圏と比較しても居住環境の面で優位に立っている。

 また、甲子園球場、花園ラグビー場、タカラヅカ、吉本興業など、いわゆる「メッカ」の地位にあるスポットを有し、若い世代を中心として全国の憧れや注目を集める地域でもある。

 このような都市圏の特徴を活かし、地域に対する愛着と誇りを持ち、安心して安全に暮らすことのできる、「住の魅力」にあふれる都市居住を推進することが重要である。

 C多核ネットワーク型都市圏の形成による総合力の発揮

 京阪神地域が世界の中で独自の輝きを放つ大都市圏として生き残っていくためには、京都・大阪・神戸といった中心都市が個性を磨きながら、各地域が相互に交流と連携を図るべきである。そして、その相乗効果により地域全体に高い都市機能が集積する多核ネットワーク型都市圏を構築する必要がある。

そのため、京阪神地域全体のグランドデザインを描き、それに基づき交通、情報などの交流基盤の整備を推進するとともに、地域開発プロジェクト相互の間で連携と機能分担を図り、京阪神地域の総合力を発揮していくことが求められている。<目次へ>
 

4.プロジェクトの提案

1)地域の財産を生かした活力の再生

 京阪神地域は、我が国の都市圏の中でも際立った個性を有する都市圏である。他の都市圏が持ち得ない地域の財産を十分に生かし、活力の源としながら、独自性のあるまちづくりに取り組むことが求められる。

 

 

☆関西文化学術研究都市等の学研都市群の整備を促進するとともに、交通・情報基盤等の整備によりネットワークを構築し、「関西知識回廊」と呼ぶべきリサーチコンプレックスを形成すべき。
☆都市型産業の育成のため、起業化支援施設を整備すべき。特に、拠点地区について、開発のインセンティブを総合的に導入する制度について検討すべき。
☆新たな拠点施設等の整備により観光産業の集客力を高めるべき。また、今後ニーズが高まると考えられる分野を育成すべき。

 @学研都市群の整備による「知」のネットワーク化

   京阪神地域は、大学など長年にわたる実績を有する公的研究機関・研究施設に加え、企業の研究開発部門など、層の厚い研究開発機能を備える地域である。この機能をさらに強化するため、関西文化学術研究都市をはじめ、国際文化公園都市、東播磨情報公園都市、播磨科学公園都市等の学研都市群の整備の促進を図ることが必要である。

 また、これらの学研都市、大学、企業等の研究開発部門が相互に連携と分担を図り、それぞれの研究開発機能を補完しあえば、より相乗的な整備効果を得ることが可能である。このため、交通基盤、情報基 盤等を整備してこれら学研都市等を結ぶネットワークを構築し、税制上の配慮とも併せ、「関西知識回廊」と呼ぶべきリサーチコンプレックスの形成を目指すべきである。これにより、世界への情報発信力の強化と、国際規模の学会の招集など「知」の機能を通じた集客力のある都市圏が実現することとなろう。

 A多彩な都市型産業の育成

 京阪神地域は、学術・文化を先導し、斬新で豊かな発想力を駆使し、ものづくりの先端を担ってきた。従来型の素材産業からの脱却に遅れをとった京阪神地域は、地域が有する人材、企業、医療・研究機関等の集積を生かし、IT・ソフトウェア産業、福祉産業、医療関連産業、バイオビジネスなどの都市型産業を早急に育成するべきである。このためにも、例えば、中小企業が集積する住工混在地区や、新たなライフスタイルの定着が進むベイエリアなどにおいて、都市型産業の効果的な育成につなぐことのできる起業化支援施設の整備を進めるべきである。

 特に、高度な都市機能を戦略的に立地させるべき拠点地区については、先導的機能の立地を制約する各種規制の緩和とともに、インセンティブの総合的な導入を図る制度(エンタープライズゾーン制度)について検討する必要がある。

 また、観光産業の集客力を高めるため、官民をあげて進めている「歴史街道」プロジェクトのように世界に比類のない歴史的遺産・伝 統的街並みの蓄積を活用するとともに、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)をはじめとする新たな拠点施設の整備や、京阪神地 域が有する都市的センスやエネルギーにあふれるスポットの開拓を進めるべきである。

 さらに、少子・高齢化などの進展に伴い今後ニーズが高まると考えられる産業分野を積極的に支援すべきである。たとえば、高齢者、女性の能力を活用する産業やコミュニティの再構築を支援する産業(スモールビジネス、シルバービジネス、コミュニティビジネス等)などの育成を図るためには、SOHOやサテライト・オフィスを設け、職住近接コミュニティを形成するべきである。また、これらの担い手をサポートする家事・子育て支援、介護支援などのサービス機能や、文化、スポーツなどオフタイムの充実を図るための施設整備に努めることも必要であろう。<目次へ>

2)歴史と自然を生かしたまちづくり

 京阪神地域は、歴史的価値を有する様々な財産を都市の中に綿々と受け継ぐとともに、都市の近傍に美しい山なみや水辺空間を有するなど、豊かな歴史と自然環境に囲まれた都市構造を形成している。

 京阪神地域の大きな魅力の一つとなっているこのような利点を的確に生かし、都市の活力を備えながら癒しと安らぎに満ちた、動と静のコントラストの鮮やかな都市空間を創造することが重要である。

 

 

☆歴史的風土の保全を図るとともに、京町家など歴史的景観・環境と都市活動の営みが共存する都市づくりを進めるため、緑地保全、景観保全等の手法を積極的かつ柔軟に活用すべき。
☆健康・福祉・医療のセーフティネットが整備された中で自然と共生するライフスタイルを実現するための条件整備を進めるべき。

 @歴史的な環境の保全と活用

 地域の貴重な財産である歴史的風土の保全を図るとともに、京町家など歴史的景観・環境と都市活動の営みが共存するまちづくりを進めることが京阪神地域の都市再生固有の課題の一つとなっている。緑地保全、景観保全、建築規制などの手法について、それらを都市再生の観点から積極的かつ柔軟に活用する方策を考えていくべきである。

 また、京都和風迎賓館の整備を促進し、京阪神地域の国際交流機能の一層の充実を図ることが必要である。

 A多自然居住の推進

 高齢化の進む中では、多様な都市機能が高度に集積する都心部への居住を推進するという考え方と並び、豊かな自然環境に囲まれ、健康・福祉・医療のセーフティネットが整備された中で、自然との共生を基調とするライフスタイルを送るという考え方も支持されるべきである。京阪神地域ならではのこのような多自然居住を、高齢者の住まい方の選択肢の一つとして提示できるような条件整備を進めるべきである。

 さらに、まちづくりと一体となった河川・下水道事業などによる水辺空間の整備や、屋上緑化や街路樹、公園整備など都市内の緑地の積極的な保全・創出を通じ、水と緑あふれる潤いのある都市空間の創造に努め、都市生活の質を高めていくことも重要である。<目次へ>

3)既成市街地の再構築

 京阪神地域においても、業務機能や商業機能などの都市機能が陳腐化し、中心市街地が求心力を失って空洞化が進行するとともに、臨海部では大規模な遊休地が発生している状況である。また、老朽木造住宅密集市街地が広範囲に分布し、防災上危険な都市構造となっている。  したがって、都心部に人口を回帰させ、豊かな都市生活を可能とする機能が備わった安全で快適な、魅力ある都市空間を創出する必要がある。

 

 

☆高齢者、障害者などに配慮した職住融合型の都市構造を実現するとともに、バリアフリー化、電線類の地中化等を推進すべき。
☆大阪駅北地区、神戸東部新都心地区、京都丹波口駅地区等の拠点地区を開発し、求心力の回復と都市機能の高度化を図るべき。
☆臨海部において、アミューズメント産業、情報通信・映像関連産業などの都市型産業創出のための拠点を形成すべき。
☆阪神臨海地域において、自然との共生を理念とした水と緑の空間を構築する先導的プロジェクトを推進し、環境創造を図る。
☆公共施設の整備を通じた安全で安心な生活の基盤づくりが重要。また、都市型水害を防ぐための対策を推進すべき。

 @職と住が融合したまちづくりの推進

 少子・高齢化、女性やシルバーエイジの就労の増加、就業形態の多様化など、都市は社会構造の変化に機敏に対応することが求められる。

 このため、徒歩圏内の適度な広さのエリアの中に、職、住をはじめ都市生活をサポートする様々な機能を備えたまちづくりを進めるなど、子供、女性、高齢者、障害者などへの心配りが行き届いた職住融合型の都市構造を実現するべきである。

 さらに、従来の地域のコミュニティを守りながら、老朽木造住宅密集市街地などの住環境整備を図るべき市街地の整備改善を進めることも重要である。また、安全で快適な暮らしを実現し、国際的にも魅力ある都市空間を創出するため、歩行空間のバリアフリー化や電線類の地中化、街灯整備などを進めるべきである。特に、近年の社会情勢の変化の中で犯罪が多発する傾向にあり、社会的な面でも安全・安心な都市をつくり、管理することが求められている。今後のまちづくりにおける重要な課題の一つとして取り組んでいくことが必要である。

 A都心及びインナーエリアの再構築

 これからのまちづくりは、求心力のある拠点を整備し、それぞれの都市の持つ強みをさらに強化するという視点が重要である。京阪神地域においては、広域的な都市圏の中枢地区として、大阪駅北地区、神戸東部新都心地区(HAT神戸)、京都丹波口駅地区等の拠点地区の開発を進めることが大きな課題である。これにより、都心の求心力の回復と都市機能の高度化を図り、魅力と活力にあふれる都市空間を創 造すべきである。

 また、特に大阪市域については、空室率の増加など金融再編等の影響が顕著である御堂筋の活性化などの南北軸方向の再整備に加え、ベイエリアから京阪奈地域に至る東西軸方向の整備を強化することが必要であり、それによって集客力を強化するとともに、都市の活性化の起爆力を作り上げていくべきである。

 Bベイエリアの再生

 大阪、神戸、堺、尼崎等の臨海部においては、USJの進出をテコとして、アミューズメント産業、情報通信・映像関連産業など新たな都市型産業の創出のため、都市開発と産業政策を組み合わせた拠点形成を目指す必要がある。そして、これらの拠点を核として研究開発型産業、ベンチャー企業等の誘致・育成等を進め、ベイエリアの産業構造の転換を促進するべきである。あわせて、水を生かした環境共生型の住宅地開発も進めていくべきである。

 また、ベイエリアは、関西国際空港や神戸港など我が国を代表する国際空港・港湾を有している。これらの施設と新たな産業の集積を積極的に活用した、国境を越えた提携・協力や、都市型産業分野等におけるメッセの開催、テクニカル・ビジット(産業観光)の受け入れなど国際交流・国際交易を推進すべきである。

 かつて日本の産業発展をリードした阪神臨海地域において、自然と人の営みの豊かな共生を理念として、新たな都市空間を整備する試みにも積極的に取り組む必要がある。例えば、水と緑の空間を構築する先導的プロジェクトを推進するなど、瀬戸内海の自然環境の保全・回復と沿岸地域の健全な発展を目指し、積極的な環境創造を図るべきである。

 C災害に対し安全な都市構造の構築

 阪神・淡路大震災は、人口や諸機能の集中する大都市がいかに災害に対し脆弱な構造となっているかを明らかにした。このため、災害に対し危険度の高い市街地について面的整備を進めるとともに、交通インフラ等の強化によるリダンダンシーの確保、治水・下水道事業等の着実な推進、公園や緑地の整備による防災拠点の形成など、公共施設の整備を通じ安全で安心な生活の基盤づくりを行うことが必要である。

 また京阪神地域では、災害を受けやすいゼロメートル地帯や、土砂災害に対して脆弱な山麓域に人口・産業が集積している。先般の東海豪雨による甚大な水害を踏まえ、総合的な治水対策や土砂災害対策、避難誘導体制の整備等のソフト面での施策の充実強化などを着実に推進する必要がある。<目次へ>

4)都市基盤の整備

 京阪神地域は、古くから国外との交流の窓口となり、外国に門戸を閉ざした後も国内各地との交易の中心を担ってきた。現在も、地理的に我が国の中央部に位置し、国土構造上の要衝の地を占めている。この地の利を十分に活かすための取り組みを強化するべきである。


 
☆第二名神高速道路、紀淡連絡道路等の交通基盤や、関西国際空港や港湾等の整備に力を注ぐべき。また、都市間交流、学研都市のネットワーク化のため、幹線道路ネットワークを整備すべき。
☆IT革命の進展に対応した都市政策を展開すべき。また、高度な都市基盤施設の整備を推進するとともに、次世代産業を支える起業化支援施設などの戦略的な先行整備を展開すべき。

 @交流と連携を促進する広域交通基盤の整備

 京阪神地域を国内外に開かれた地域とするため、交流と連携を促進するための基盤の整備には特に重点的な取り組みが必要である。

 第二名神高速道路、紀淡連絡道路等の国土軸を形成する交通基盤とともに、「東アジア一日圏」に象徴されるような世界との直接の交流を可能とするハブ機能を強化するための関西国際空港の整備をはじめ、神戸空港、神戸港などの国際港湾等の広域交通、物流拠点の整備に力を注ぐべきである。

 さらに、京阪神の都市間の交流、連携の強化や学研都市群のネットワーク化のため、京奈和自動車道、第二京阪道路、大阪湾岸道路、学研都市連絡道路等の幹線道路ネットワークの整備を着実に推進すべきである。また、京阪奈地域に至る鉄道新線についても、その整備を推進することが必要である。

 一方、都市内においては、道路・都市鉄道の整備、連続立体交差事業をはじめボトルネック踏切の改良などによる渋滞ポイントの解消など、経済活動の効率化のために不可欠な都市基盤の整備を推進し、市街地の開発ポテンシャルを高めていくことが不可欠である。

 これらと併せて、渋滞緩和や沿道環境改善等のため、ネットワーク整備を推進しつつ、環境ロードプライシングなど既存ストックを有効に活用した施策についても、積極的に取り組んでいくべきである。

 AIT革命進展に対応する都市づくり

 いわゆるIT革命の急速な展開は、市場経済の情報化を急激に加速し、予想を超えるインパクトを与えている。今後、個人や企業の諸活動の激変が予測されるが、これに的確に対応し、IT革命時代における新たな行動基準を支えるための社会モデルや都市政策のあり方が問われている。これを機会に、社会構造や都市機能の古いシステムやモデルを切り替えていく努力を講じるべきである。

 このため、高度情報通信基盤や効率的な物流体系、高度道路交通システム(ITS)など、高度な都市基盤施設の整備を推進するとともに、次世代産業を支える研究施設、起業化支援施設、金融センター等の戦略的な先行整備を展開させることが必要である。<目次へ>
 

5.事業手法・制度改善の提案

   都市再生が円滑に進むか否かには、制度のあり方が大きく影響する。迅速な都市再生の具体化に寄与し、かつ、地域の実情や社会経済情勢の変化に柔軟に対応できる制度インフラを構築することが求められる。


 
☆地域の裁量を重視した投資の重点化を促進するとともに、産業系、福祉系の施策を総合的に投入する仕組みについて検討すべき。
☆良好な地域コミュニティの育成のため、医療、福祉などに関連する施策を包含した統合的な都市居住施策を実施すべき。
☆土地需要に柔軟に対応しながら段階的な開発を行うための計画的手法、事業的手法のあり方を検討すべき。
☆土地の細分化や歴史的遺産の散逸を防ぐための税制上の措置を講じ、良好な都市ストックの保全を図るべき。

 @都市再生のための投資の重点化

 地方分権の趣旨を踏まえ、地域がそれぞれの実情に応じて主体的、総合的に都市再生に取り組むことを可能とするため、統合補助金等により地域の裁量を重視した投資の重点化を促進する。また、地方の主体性をより柔軟に発揮して直面する課題に取り組むため、大都市部の財政状況も踏まえた交付金を含む包括的な助成のあり方についても検討を行うべきである。

 さらに、都市機能導入の促進を総合的・一体的に図るため、産業系、福祉系等の施策をも総合的に投入する仕組みについても検討を行うことが必要である。

 A地域コミュニティの育成を目指した施策の充実

 都市への居住を進めるためには、コミュニティが良好に機能し、あらゆる世代が安心して暮らせるまちづくりが必要である。このため、地方公共団体が中心となって、民間との適切な連携のもとに、地域医療、介護、子育てなど福祉に関連する施策を包含した統合的な都市居住施策の実現を図るべきである。

 また、京町家など歴史的市街地においては、その環境を保全しつつ居住機能を向上させるため、地区単位での街並み保全と活性化のための事業により、歴史的遺産と現代的都市機能との融和を図るモデルとして提示する試みが求められる。その場合は、かつて地域コミュニティの中心であった小学校の空き教室や廃校跡地を新たな地域単位のまちづくりの核として活用することにも配慮するべきである。

 B都市機能の立地促進を図るための施策の強化

 工場跡地などの大規模な土地利用転換を図るプロジェクトについては、土地需要に柔軟に対応しながら段階的に開発を進めることが必要となる。このため、計画的手法、事業的手法のあり方とともに、暫定的又は実験的な土地利用を可能とする制度についても検討を進めることが必要である。

 さらに、産業再生にとって制約要因ともなっている工場等制限法については、大学・専修学校等の教育研究施設、無公害型工場に対する適用の緩和についてさらに検討を行う。

 C円滑な都市基盤整備を図るための施策の強化

 都市基盤整備を円滑化し、迅速なまちづくりを進めるために、土地収用制度を見直すとともに、それぞれの事業の的確な遂行に寄与する地籍調査を進めることが必要である。さらに、道路などの都市基盤施設と沿道の街区とを一体的に整備する手法を充実させるべきである。

 また、市街地再開発組合の設立に際しての権利者の同意要件等について制度の適正な運用に努め、事業の迅速化を図るとともに、円滑に権利調整を進めるための事業者に対する助言等の方策を強化する必要がある。

 D良好な都市ストックの保全、都市居住を支援する措置の強化

 大都市圏においては、地域住民の世代交代の際に土地の細分化や地域の共有財産の喪失が加速している実情がある。このため、都心の既成市街地、歴史的街並みなどまちづくりの核となる地区において税制上の措置を講じ、土地の細分化や歴史的遺産の散逸を防ぐなど、地域の資源となる良好な都市ストックの保全を試みる。

 また、円滑な住み替え、住宅の改良等都市居住水準の向上に資する税制上の措置や、住宅金融公庫融資の充実等、多様な都市居住を支援する施策を充実させることにより、良質な住居ストックを形成する。<目次へ>

 

6.多様な主体の連携と協調

 都市のあり方を地域自身が主体的に考えていこうとする気運がかつてないほどに高まりを見せている。いわゆる「まちづくり」を担う国、地方公共団体、民間事業者、NPO、TMO、地域住民など多様な主体の間で、新たなパートナーシップの構築が求められている。


 
☆国は都市再生の必要性を明確に示して都市への重点投資を行い、地方は地域の実情に応じ主体的に取り組むべき。また、両者が適切な協調関係を築くための役割分担について議論を継続すべき。
☆中心業務地区の再構築を公民連携のもとで推進するため、都心型タウンマネージメントに全国に先駆けて取り組むべき。
☆住民主体のまちづくりを支援するため、活動に対する補助制度の充実等について検討が進められるべき。また、都市住民の意識を啓発し、品性のある都市を創り上げるべき。
☆国と地方公共団体による協議組織を活用し、都市再生を具体化する方策について、連携して総合的な取り組みを講じるべき。

 @国と地方の新たなパートナーシップの構築

 都市再生を具体化するために、国は、都市再生が我が国の新たな繁栄のために必須の政策課題であることを明確に示して都市への重点投資を行い、地方公共団体は地域の実情に応じて主体的な取り組みを講じることが求められている。両者が適切な協調関係を築いていくための役割分担のあり方について引き続き議論を行っていくべきである。また、都市整備のための財源確保の方策についても、それぞれの責任を踏まえた議論を行うことが重要である。

 A公と民との協調・連携関係の強化

 公の権限と民のノウハウを有機的に結合させ、相互の連携と適切なリスク分担のもとでまちづくりを進める日本版PFIなどの投資システムを確立すべきである。

 さらに、京阪神地域を代表する拠点を開発する戦略的プロジェクトなどの事業について、実績とノウハウを有する都市基盤整備公団の参画を促し、事業計画についての公民のコーディネートや適切な役割分担のもとでの事業の施行などにその専門的能力を活用するべきである。

 また、都心の中心業務地区の再構築を公民連携のもとで推進するため、現在、行政と経済界が協力して取り組んでいる御堂筋活性化に見られるような都心型タウンマネージメントを京阪神地域で成功させ、全国の先駆事例として普及させることが必要である。

 B住民主体のまちづくりシステムの強化

 居住機能を中心として整備を図るべき地区においては、住民主体のまちづくりが特に必要である。その活動を支援するために、公的な補助制度の充実やまちづくり専門家に関する公的資格制度の必要性などについても検討が進められるべきである。

 また、地域の住民は、愛着をもって自らのまちを育んでいくべきである。近年のモラルの低下は憂うべき事態に立ち至っており、若年世代をはじめとする都市住民の意識を啓発し、品性のある都市を創り上げていくべきである。

 C京阪神地域の広域的な連携の強化

 京阪神地域の都市再生推進のためには、都市圏を構成する行政間の連携をはじめ、まちづくりを担う公民の連携が不可欠である。

 このため、国及び地方公共団体で構成する協議組織を活用するなど、京阪神地域の都市再生を具体化する方策について関係主体が連携して総合的な取り組みを講じていくべきである。

 また、オリンピックの誘致、開催についても、国を含めた広域的な協調体制を整え、このビッグイベントを契機とした一層の都市再生の推進を図るべきである。<目次へ>

 

7.終わりに

 以上に述べてきたとおり、京阪神地域は国際都市として存在しうるかどうかの岐路にある。この地域が我が国の中心をなす大都市圏の地位を占めていくためには、解決されるべき課題が少なくはない。しかしながら、京阪神地域が有するポテンシャルは我が国においても有数のものであり、地域に存する様々な資源を的確に生かしていけば、その発展可能性は計り知れず大きいということができる。

 その可能性を具体化させることができるかどうかは、いかに都市再生に関わる公と民の英知を結集し、京阪神地域全体の観点から一体的な取り組みを講じていくかに委ねられている。目標の時期を定め、それぞれに与えられた課題を一つ一つ確実に具体化していくべきである。それとともに、かつて大坂八百八橋のほとんどが民の手により架けられたといわれるとおり、京阪神地域には市民によるまちづくりの気風が脈々と流れている。この伝統の下に、市民一人一人が都市空間の創造に参加し、その責任を果たしていくことが期待される。

 国、地方公共団体、経済界、学識経験者が一つのテーブルを囲み、京阪神地域の都市再生の具体化のために想いを一つにして議論を行ったこの懇談会を契機として、それぞれがこれまで以上に相互の連携を強め、21世紀に燦然と輝きを放つ京阪神地域の創造のために確実な一歩を踏み出すことを心より祈念する。<目次へ>


都市再生推進懇談会(京阪神地域)委員名簿

(敬称略、50音順)

秋山 喜久  社団法人関西経済連合会会長
       関西電力株式会社代表取締役会長
荒巻 禎一  京都府知事
安藤 忠雄  建築家、東京大学大学院教授
上島 一泰  日本青年会議所会頭
       株式会社ウエシマコーヒーフーズ代表取締役社長
江口 克彦  株式会社PHP総合研究所取締役副社長
太田 房江  大阪府知事
貝原 俊民  兵庫県知事
熊谷 信昭  大阪大学名誉教授、科学技術会議議員
小林 公平  社団法人都市開発協会理事長
       阪急電鉄株式会社代表取締役会長
篠崎由紀子  株式会社都市生活研究所代表取締役
田代  和  大阪商工会議所会頭
       近畿日本鉄道代表取締役会長
巽  和夫  京都大学名誉教授
津田 和明  社団法人関西経済同友会代表幹事
       社団法人関西経済連合会文化委員長
       サントリー株式会社副社長
イーデス・ハンソン  アムネスティ・インターナショナル日本支部副支部長
三木 信一  財団法人21世紀ひょうご創造協会理事
       前神戸商科大学長
吉川 和広  関西大学工学部教授、京都大学名誉教授
ケネス・ラドル   関西学院大学総合政策学部教授

 ◎オブザーバー

桝本 頼兼  京都市長
磯村 隆文  大阪市長
笹山 幸俊  神戸市長
牧野  徹  都市基盤整備公団総裁


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