東京圏の都市再生に向けて

〜国際都市としての魅力を高めるため〜

 

 

平成12年11月30日

都市再生推進懇談会(東京圏)


目 次

  1.はじめに

  2.基本的視点

  3.プロジェクトの提案

(1)土地の高度・複合利用の推進
(2)個性豊かな魅力ある拠点の形成
(3)安全性・防災性の向上
(4)都市基盤の整備改善
(5)広域的な交通基盤の整備
(6)情報ネットワークの充実とその活用
(7)環境インフラストラクチュアーの構築
(8)美しく文化的でゆとりある都市づくり

  4.制度・手法の提案

(1)都市づくりの各主体による役割の分担と連携の確保
(2)都市再生のための実行可能なマスタープログラムの策定
(3)制度の改善と積極的活用

  5.東京圏の都市再生の実現に向けて

 


1.はじめに

   都市再生推進懇談会(東京圏)は、都市再生の具体化を推進すべきとした経済戦略会議の答申等を踏まえ、我が国経済の中心である国際都市東京を21世紀にふさわしい都市圏として再生させるため、経済界、地方公共団体、学識経験者が参加し、それぞれの意見を結集する場として発足した。

 本懇談会は、本年2月2日の初会議以来、3度にわたり開催し、人口増加率の鈍化、少子・高齢化の進展、産業構造の転換など都市を動かす社会状況が著しく変化する中で、東京圏が国際社会において輝く存在であるためにこれらの構造変化にどのように対応していくべきであるのか、様々な観点から意見交換を行った。

 それら本懇談会における意見を集大成し、ここに提言として取りまとめ、内閣総理大臣、建設大臣に提出する。国、地方公共団体など東京圏の都市づくりに関わる多様な主体がこの提言を正面から受け止め、具体的な行動へと前進することを切に願うものである。

 東京圏は世界最大規模の都市圏である。現在でも、世界に比類のない活力にあふれた都市である。しかしながら、同時に、都心部の人口集積が低密度のままに郊外部へ延々と中密度の市街地が拡大する、世界でもまれな平面的過密、立体的過疎の都市を形成してきた。

 職住が隔絶され、緑やオープンスペースも不足し、道路整備も不十分なままという現実の東京圏の市街地の姿は、欧米諸国の主要都市ばかりでなく、シンガポールなどアジア近隣諸都市の一部と比べても貧弱である。このままの状況では、近年激化する国際的都市間競争に遅れをとらざるを得ず、新たな活力の生起は期待できない。

 東京圏の都市再生に必要なことは、「国際的な都市の魅力」をいかに高めていくかという視点である。ボーダレス化、脱工業化、情報化といった世界経済の潮流を考えれば、世界の人々や企業を惹きつけるのは、それぞれの都市が有している「魅力」というパワーである。東京圏が世界経済において生き残るためには、「国際都市東京の魅力を高めていく」ことが都市づくりの基本目標となる。業務機能のみならず、居住、産業、文化、教育、福祉など様々な機能に着目して東京圏の魅力を再生し、活力あふれる都市空間を創造していくことが必要である。

 その際、特に重要なことは、都市再構築のスピードを高め、目標と完成時期を明示し、その公約を守ることである。

 そのためには、国は都市再生を政策の最重要課題と位置付けなければならない。都市再生について地方公共団体のみならず国も責任を持つという姿勢を明らかにすることは、民間事業者の都市への積極的な投資を導くという観点から極めて重要であろう。 <目次へ>
 

2.基本的視点

  以下、本懇談会における議論に即し、都市づくりの基本的方向となるべき視点を挙げることとする。

 @まとまりの良い都市

 土地の有効高度利用により都市中心部に人口の集積を回復し、住のみならず、職、遊など都市生活のための様々な複合的機能を有した安全で安心な都市空間を整備し、歩ける範囲で日常の生活が完結する職住融合型のコンパクトな都市を形成する。それとともに、東京圏の枢要な地区において、21世紀にふさわしい都市像を具体化し、東京圏の都市イメージを世界に発信しうる拠点を創設する。

 A広域的交通ネットワーク

 国際都市としての機能が1都3県の中心都市圏に効率的に分散・展開し、東京圏内に業務核都市をはじめとする多核的都市構造を構築することが必要である。そのため、業務核都市を育成するとともに、幹線道路ネットワークなどの交通体系を整備する。

 B情報ネットワーク

 IT革命の進展により、就業、生産、消費、コミュニケーションなど、都市生活が大きく変わりはじめており、こうしたIT革命のインパクトを見通し、これに的確に対応する都市政策を展開すべきである。そのため、オープンネットワークの構築に不可欠な高度情報通信基盤の整備を促進し、国際的な情報ハブ都市としての地位を構築する。

 C環境調和型の都市

 地球規模での環境破壊が進行し、文明の存続を脅かすまでの課題となっており、今後は、より一層エネルギーや水を合理的に使用し、都市活動が生み出す環境負荷の低減に努める必要がある。そのため、緑被率の増加やエネルギー消費の削減などを誘導するよう都市構造や都市計画を見直し、循環型都市システムを構築して、その持続的な発展の実現を図る。

 D品格のある都市

 我が国の都市は、明治以降のわずか百年余りの近代化の歴史の中で形作られ、熟成の期間を経ないままできた。今後、まちづくりに対する意識の涵養を図り、世界の多くの人々の感性に訴えて、関心を集め、尊敬の念を覚えさせる美しく品格のある都市の形成に努める。 <目次へ>
 

3.プロジェクトの提案

 以上に述べてきた東京圏再生に関する基本的認識と視点の下に緊急に行動を起こさなければならない。以下に、その取組みの方向を示す。

1)土地の高度・複合利用の推進

 

 

◇職・住をはじめ、様々な機能が備わった都心部を創り上げるため、敷地の統合などを行い、土地の高度・複合利用を図ることが重要。
◇駅に着目し、住宅、福祉、公共・公益機能など多面的な機能の立地を促進すべき。

 職住融合型の都市構造を実現するため、細分化された敷地の統合、街区の再編、都市基盤の整備を行い、同時に、容積率や税制に関する措置など民間住宅建設のインセンティブの創出に努める。それにより、都心部及び圏域内の中心市街地へ快適な住居を供給するプロジェクトの立ち上げを促進・誘導していくべきである。

 これからは、生活の利便や様々な機会へのアクセシビリティーを優先する世代が多数を形成する社会になり、都市へのニーズはかつてなく多様化していく。これに対応するため、都心部は、職、住をはじめ、商、遊、学、育、医、憩等の様々な機能を備える必要があり、このような土地の高度・複合利用を可能とする都市計画が推進されるべきである。

 また、多くの人が日々集散する「駅」に着目し、都市空間における人々の動線の核としての機能を高めていくという視点も重要である。このため、鉄道駅やその周辺の都市空間において、駅前広場、自由通路、駐車場などの整備に加え、住宅の設置や、保育施設、福祉施設等の整備、公共・公益機能の導入など多面的機能の立地を促す。さらには、高齢者、身体障害者等に配慮したバリアフリー化を推進して、21世紀の都市生活に対応する都市づくりを進める。 <目次へ>

(2)個性豊かな魅力ある拠点の形成

 

 

◇東京圏の魅力を世界に対し発信する都市づくりが重要。
◇東京湾臨海部は、水際線を開放し、業務系、商業系、住居系の機能が複合した、東京の躍動のイメージを発信するまちに整備すべき。
◇東京駅を中心とする丸の内地区、八重洲地区などの中心業務地区では、ビジネス・商業・文化などの多様な機能を備えた、うるおいと品格のある都市空間を整備すべき。

 欧米の各都市は、誰もが共有できる明確で強烈な都市イメージや景観を有している。たとえばニューヨークのマンハッタンであり、パリのシャンゼリゼであり、シドニーのオペラハウスである。

 東京圏にも、いくつか世界的に著名な地区があるが、都市空間や都市生活のダイナミズムを端的に表すものではない。

 このためには、国際経済の枢要を担うとともに、美しい自然環境、ダイナミックな都市景観、そして、細やかなホスピタリティーにあふれる東京圏を創造し、この魅力を世界に対し発信しなければならない。具体的には、既成市街地の再編と東京湾臨海部の機能充実を兼ね備えた都市づくりを行っていく必要がある。

 たとえば、東京湾臨海部については、水際線を開放し、既に集積されつつあるアミューズメント機能、エンタテイメント機能等を向上させながら、業務系、商業系、住居系などの機能が複合した質の高い都市空間の形成を図り、世界に東京圏の躍動のイメージを強烈に発信していく必要がある。また、世界に対し我が国の象徴となる文化的施設の立地を図るという視点も必要である。併せて、環境共生、リサイクル社会を支える新資源産業や研究開発施設などの集積する拠点の整備を図るべきである。

 また、東京駅を中心とする大手町・丸の内・有楽町地区や日本橋・八重洲地区など、我が国を代表する都心の中心業務地区では、ビジネス・商業・文化など多様な機能を備えた都市空間に造りかえ、集客力の高い、うるおいと品格のある拠点として再構築する。これによって、明確な東京圏の顔を創り出すことが可能となる。

 都心において緑の創造に努めることは重要である。そのために、敷地規模に対応した容積率の設定や、敷地統合を促進する税制などに関する措置を講じるべきである。

 なお、今後増大が予想される臨海部の工場跡地等については、暫定利用を図りつつ将来における活用策及び必要なインフラ整備のあり方について関係者が連携し、幅広く検討を進めるべきである。 <目次へ>

(3)安全性・防災性の向上

 

 

◇防災上危険な木造住宅密集市街地の整備改善や耐震基準上問題のある建築物の建替えを促進すべき。
◇災害時の道路、ライフラインのリダンダンシーを確保するため、大深度地下の利用について検討を進めるべき。
◇都市機能が集中している地域における甚大な水害を防ぐため、スーパー堤防の整備、危機管理体制の刷新などを行うべき。
◇バリアフリー化や、ユニバーサルデザインの確保された、弱者に優しい都市づくりを進めるべき。 

 我が国の大都市圏の都市構造の特徴とされる、防災上危険な木造住宅密集市街地の改善は緊急の課題である。

 したがって、整備改善の必要性について市民の合意形成を図りつつ、これらの市街地について細街路の統廃合も含めた街区の再編を行い、オープンスペースの創出、建築物の不燃化等を促進する。このため、土地区画整理事業、密集住宅市街地整備促進事業などの面的整備事業を積極的に活用する。それによって、都心に近接するメリットを活かし、防災性の高い職住近接のまちに再構築する。そのためには、国も地方公共団体が実施する事業に対して積極的な財政支援を行う必要がある。特に、事業の立ち上げを支援する情報の提供、人材の活用のための資金投入は極めて重要である。

 さらに、阪神・淡路大震災の被害状況に鑑み、昭和56年の新耐震基準以前の建築物を中心に耐震診断を実施し、問題のある建築物については建替え・耐震改修を促進すべきである。また、分譲マンションについては、建替えに当たっての隘路の解決のため、合意形成や建設資金に対する支援や、容積率の取扱いなどに関する措置の必要性が高い。さらに、市街地再開発事業の施行区域要件の見直しも必要であろう。

 また、阪神・淡路大震災によって明らかになったように、大災害が発生した場合、都市圏規模の大きい東京圏は、道路、ライフライン等のリダンダンシーを確保することが非常に重要となる。このため、電線共同溝の活用等により既存施設の安全性の確保を図るとともに、大深度地下を利用し非常時及び常時のインフラとしてライフライン幹線を整備することについて検討がなされるべきである。

 本年9月の東海豪雨による都市型水害は、都市機能が集中している地域における水害の甚大さと深刻さを如実に示した。このため、スーパー堤防の整備による避難拠点の建設、そして、避難誘導体制の整備など危機管理体制の刷新を行う必要がある。

 高齢化が進展し、障害者のノーマライゼーションの要請が一層高まっていく中で、弱者に優しい都市づくりを進めていくことが必要である。そのために、公共施設や建築物のバリアフリー化を進めることに加え、分かりやすい標識・表示の整備などユニバーサルデザインの確保された都市づくりを目指すべきである。 <目次へ>

(4)都市基盤の整備改善

 

 

◇都市構造の再編に資する再開発の促進のため、都市基盤の整備目標や期限を明らかにする都市構造再編プログラムを策定すべき。
◇経済効率の向上、都市環境の改善のため、都市交通の円滑化に資する事業を促進し、渋滞解消に努めることが急務。 

 東京圏は、都市の膨張に都市基盤整備が追いつかず、十分な公共施設整備がなされていない。今後、都市再生の具体化を図るに当たり、様々な局面で都市基盤の未整備が隘路となる。

 このため、道路、市街地開発事業等の整備目標や期限を明らかにする都市構造再編プログラムの策定を推進し、沿道の土地利用に係る用途の見直しの検討をあらかじめ示唆するなど、都市構造の再編に資する再開発を誘導・促進していくことが必要である。

なお、道路と沿道のまちづくりが一体となった再開発を行うことにより、国際的水準の街並みが形成されることに強く留意すべきである。

 特に道路の未整備が交通渋滞を惹起し、経済の非効率化を招くとともに、排気ガスによる都市環境の悪化をもたらしており、都市交通の円滑化が緊急の課題となっている。このため、連続立体交差事業などによる開かずの踏切の廃止など渋滞ポイントの解消、バイパス、環状道路等の整備、公共交通ネットワークの整備などを促進し、渋滞解消に努めることが急務である。 <目次へ>

(5)広域的な交通基盤の整備

 

 

◇東京都心部への一極依存構造を是正し、多核的都市構造の実現を図る3環状道路など幹線道路ネットワークや鉄道新線の整備を促進すべき。
◇国際空港・港湾機能の充実を図るとともに、既存の鉄道施設等を活用した効率的な物流ネットワークを構築することが重要。
◇ITS(高度道路交通システム)の開発・整備や、交通需要マネジメント施策等を講じるべき。

 東京圏の都市構造を見た場合、他の先進諸国の主要都市では完成又は概成している環状道路が未整備であることが最も大きな課題として指摘される。

 東京都心部への一極依存構造を是正し、都市機能の広域展開による経済の効率化を図る上で環状道路の整備は極めて重要な意味を持つ。それとともに、環状道路は、都市部に流入する通過交通を排除し、交通渋滞を緩和するとともに、沿道環境を改善する機能を有している。東京圏の都市構造を抜本的に改善し、多核的都市構造の実現を図る3環状道路、湾岸道路その他の幹線道路ネットワーク整備は、まさに緊急の課題である。また、鉄道新線の整備も促進すべきである。

 さらに、国際的、広域的な観点から東京圏の現状を見た場合、まず、 国際的な旅客の流れと物流を円滑化し、国際競争力を強化するための国際空港機能・国際港湾機能の抜本的な充実は、国として取り組むべき最重要課題である。特に空港については、空港そのものの機能向上と、後背地との間の効率的なアクセスを整備することにより、経済的損失の回避を図り、空港に対する国際的評価を改善しなければならない。

 また、物流については、鉄道貨物線など既存の施設を活用し、道路と有機的に結合した効率的なネットワークを整備することが重要である。

 たとえば、港湾に荷揚げされた貨物を臨海部の既設の鉄道で輸送し、都市郊外部でトラックに積載し高速道路にアプローチするルートが整備されれば、都心部の通過交通の発生が回避された、効率的で環境に優しい物流ネットワークとなる。そのような物流体系の可能性について調査・検討を進めるべきである。

さらに、渋滞解消、物流効率化等を図るため、ETCなど最先端のIT技術を活用したITS(高度道路交通システム)の開発・整備を進めるとともに、交通需要マネジメント施策などのソフトウェア施策を推進する。 <目次へ>

(6)情報ネットワークの充実とその活用

 

 

◇高速大容量通信ネットワークへ接続自由なオープン・ネットワークを整備し、世界に開かれたビジネスのハブ都市を目指すべき。
◇情報化戦略として、IT革命の担い手の確保、東京コンテンツベースの環境整備などに取り組むべき。
◇ITの活用により、都市づくりに関する教育と啓蒙、パブリックマインドの形成、住民の意識改革が進展するという視点も重要。 

 東京圏が国際都市であり続けるためには、世界に開かれたビジネスのハブ都市となることを目標として、高速大容量通信ネットワークへ接続自由なオープン・ネットワーク・インフラの整備を急がなければならない。また、それと同時に、通信コストの低減、さらには、税制上の措置などインセンティブの積極的な創出が重要である。

 他方、情報通信設備の収容空間などを含むハードウェアの整備とともに、ソフトウェア、ディジタル・コンテンツなどがあいまって情報化戦略は完結するものである。これら知的インフラの質の高いストックの形成を促進するために、ITの担い手の確保、新たなコンテンツを創り出す環境の整備等も急務である。新しい文化が生まれる渋谷、新宿等のいわゆる東京コンテンツベースの職・住環境の整備は東京圏の情報化戦略の視点で取り組むべきである。

また、ITの活用により、住民、企業、NPOなどがネットワーク化し、相互の意思疎通が図られることにより、都市づくりに関する教育と啓蒙、パブリックマインドの醸成、住民の意識改革などが進展するという視点も重要である。 <目次へ>

(7)環境インフラストラクチュアーの構築

 

 

◇排気ガス規制、軽油の脱硫改善対策など、総合的なディーゼル車対策を強力に推進すべき。
◇ディーゼル燃料課税のあり方について国が責任をもって検討するとともに、都市環境の整備に係る財源の充実について検討すべき
◇資源の再利用を促進するため、廃棄物リサイクルなど新資源産業の立地を支援する措置を講じるべき。
◇都市近郊に残された緑地や、河川などの水辺空間について、生態系維持の視点や都市住民のゆとり、憩い、潤いの場として保全を図り、水と緑の調和した美しい都市環境を創出すべき。 

 環境との調和が図られた社会・経済システムの構築は、新しい世紀における根源的な価値であり、その実現を果たすことが今後の行政にとって普遍的な課題であることが共通の認識となりつつある。

 東京圏を取り巻く大気、水質、騒音等の環境条件は相当の改善を見せつつあるものの、大気汚染物質の一つであるSPM(浮遊粒子状物質)など、なお深刻な状況を脱していない点を有する。SPMの4割はディーゼルエンジンからの排出が占めており、このため、排気ガス規制の強化をはじめ、ガソリン車、天然ガス車等への転換、軽油の脱硫改善対策、DPF(ディーゼル微粒子除去フィルター)の技術開発や装着の促進など総合的なディーゼル車対策を強力に推進すべきである。

特に、燃料課税の不均衡が都市の環境悪化をもたらしていることに鑑みれば、ディーゼル燃料課税のあり方について国として責任をもって検討する必要がある。またその際には、都市環境の整備に係る財源の充実についても併せて検討すべきである。

廃棄物対策も焦眉の課題であり、その排出量を抑制することと同時に、徹底したリサイクルを進め、資源の再利用を促進する循環型経済を構築する必要がある。そのためには、廃棄物リサイクル等のいわゆる新資源産業など、新しい産業分野の創始・育成等が図られるべきである。都市政策の側からも、資源リサイクルのために、臨海部等の都市基盤の整備や新資源産業の立地を促進する支援措置を講じていくべきである。

 都市圏に残された自然環境の保全も都市再生の課題の一つである。

 たとえば、都市の共有財産である里山など都市近郊の緑地については、多種の植物、動物から構成される生態系の維持や、都市住民の憩い・癒し・学びの場の確保等の観点からも、都市に残された貴重な空間として積極的に保全すべきである。市街地のヒートアイランド対策に効果のある屋上緑化の推進とも併せ、税、財政両面について制度の充実を図っていく必要がある。また、ゆとり、憩い、潤いを与える河川や海域などの水辺空間についても、生態系の維持、水質の保全に取り組み、運河の再生など親水性の確保された空間整備を都市づくりと一体となって進める。それに関連して、下水道の再生水を都市河川に豊富に供給する方策を講ずべきである。

これらにより、豊かな水と緑が調和した美しい都市環境の創出を図るべきである。 <目次へ>

(8)美しく文化的でゆとりある都市づくり

 

 

◇「都市の魅力」という価値基準を重視し、美しく品格のある都市空間を形成するという視点が重要。
◇良好な景観形成に資する事業や、都市景観についての共通意識の醸成などの取組みを強化すべき。

 都市再生プロジェクトに共通して重要なことは、良好な都市景観や水と緑の空間などにより生み出される「都市の魅力」という価値基準を重視し、美しく品格のある都市空間を形成するという視点である。

 したがって、電線類地中化等の良好な景観形成のための事業や、看板など屋外広告の強力な規制、都市景観についての共通認識の醸成などへの取り組みがこれまで以上に必要になる。さらに、首都高速が上空を占める日本橋川を復活させるなど、都心の水辺空間の再生等を通じて豊かな水と緑にあふれる都市空間の積極的な創出にも取り組むべきである。そのためには、建築物の形態、意匠等の調和が図られた都市景観の整備に対する支援措置の充実も必要となるであろう。

また、都市づくりの視点を経済から文化へとシフトさせることも重要である。文化を醸成できる都市が経済的繁栄を得る時代を迎え、都市の中核となる文化施設をはじめとして、文化の蓄積の受け皿となる質の高い都市づくりを進めていくべきである。この観点からは、東京圏で暮らす外国人の生活に不可欠な教育機関、医療施設などのコミュニティー基盤のあり方についても改善の余地があり、検討課題である。 <目次へ>
       

4.制度・手法の提案

1)都市づくりの各主体による役割の分担と連携の確保

 

 

◇都市への重点投資を行い、国が都市再生に対し、高いプライオリティーを置いているという姿勢を明確に示すことが重要。
◇地域の主体性を活かした都市づくりを行う観点から、国、地方公共団体の役割分担や連携のあり方について議論を進めるべき。また、地域の主体性を確保する観点から、国及び地方公共団体は、ともに都市整備の財源の充実に努力を傾注すべき。
◇国及び7都県市で構成する常設の協議組織を設置し、東京圏が抱える共通の諸課題の解決のため連携を強化して取り組むべき。
◇PFI手法の活用など民間の資金力、企画力を活かした都市整備を推進すべき。
◇住民一人一人が都市づくりのあり方を考えることのできる仕組みづくりを検討すべき。

 東京圏の再生を実現していくためには、特に、国と地方公共団体、公共と民間という、都市づくりの主体間を規律する二つの基軸に沿って新たな相互関係を構築し、それぞれが主体性と責任を発揮しながら都市再生に向けて協調の歩みを展開する必要がある。

 特に重要であるのは、国が、都市再生という政策課題に対し高いプライオリティーを置いているという姿勢を明確に示すことである。その手段は様々に考えられるが、ガット・ウルグアイラウンドの際の農業分野に関する対応に準じ、10年間で12兆円の枠で都市への重点投資を行うことを宣明するなど、国の確固たる姿勢を明確にすることが必要である。

地域の主体性を活かした都市づくりを行う観点から、引き続き国と都市づくりを最前線で担う地方公共団体の役割分担や連携のあり方について積極的な議論を進めるべきである。その際、統合補助金を活用した都市基盤整備は、今後の役割分担のあり方について重要な指針を与えるであろう。また、都市への重点投資を行うには、そのための財源の確保が不可欠である。地域の主体性を確保する観点から、国及び地方公共団体は、ともに都市整備の財源の充実に努力を傾注すべきである。

国と地方公共団体との連携の確保は重要である。本懇談会の成果を踏まえて、今後は、国及び7都県市で構成する常設の協議組織を設置するなど、東京圏が抱える共通の諸課題の解決のため連携を強化して取り組むべきである。

 公共と民間という視点では、今後は、現在以上に民間の資金力、企画力等が発揮された取組みが都市整備を牽引する状況を作り出していく必要がある。特に、不動産証券化手法の充実や、PFI手法の活用等新たな民間資金の活用手法に取り組んでいくべきである。また、たとえば、高齢者の資産を有効に活用した定期金給付制度等のシステムなど、都市のリニューアルのための新たな投融資の仕組みづくりに知恵を出していくことも必要である。

 さらには、地域主体の都市づくりを進めるための住民参加システムを構築し、住民の一人一人が自らの問題として都市のあり方を考えていく仕組みづくりも重要である。地区計画についてより柔軟な都市計画メニューを定めることを可能とすることも検討されるべきである。

 既成市街地や低未利用地における都市再構築のための事業など、公共と民間が協調して取り組むことが必要なプロジェクトについては、都市づくりに関する専門的なノウハウを有する民間の専門家と公的機関を活用し、関係者間のコーディネートを行わせる。これによって、質の高い都市空間の整備を円滑に行うことが可能となる。都市基盤整備公団など都市基盤整備に多くの実績を有し、国の都市政策の具体化を直接担う公的機関を活用することが必要である。 <目次へ>

(2)都市再生のための実行可能なマスタープログラムの策定

 

 

◇都市づくりの理念や方針、具体的な目標を掲げた土地利用のマスタープログラムを策定し、民間の開発エネルギーを適切に誘導すべき。

 国際的競争力を有する都市空間の創造のためには、公・民が一致協力して都市づくりを進めることが必要である。それには、民間事業者の開発意欲を高め、それを適切に誘導する具体的な土地利用のマスタープログラムの策定が不可欠となる。このマスタープログラムは、都市づくりの理念や方針、良質で豊かな都市資産の蓄積を促す具体的な数値目標(昼夜間人口バランス、通勤時間など)に言及するとともに、土地利用基準や環境基準を示したガイドラインを含むなど、民間の開発エネルギーを十分に発揮させ、誘導することが可能となるものである必要がある。

 そして、このマスタープログラムを踏まえ、具体の地区を抽出して地区ごとに再開発基本計画を策定するとともに、計画の熟度が高くなったものについて5ヵ年程度のアクションプログラムを策定するなど、住民が期待をもって都市再生の進捗を見守ることができるよう作成すべきである。 <目次へ>

(3)制度の改善と積極的活用

 

 

◇土地収用制度を見直して手続きの迅速化等を図り、短期間に都市再生の成果が上がるようにすべき。
◇最も基礎的な土地情報であり、都市再生に多くの効用を発揮する地籍調査を都市部においても緊急かつ計画的に実施すべき。

 以上に述べた施策を展開し、東京圏の都市再生を着実に進めていくためには、これを支えるための既存の制度が的確に機能する必要がある。

 その一つは、土地収用制度の見直しである。現在の土地収用制度には多数当事者への対応など迅速性、簡潔性に欠ける点があり、不合理が指摘されている。したがって、土地収用制度を見直して手続の迅速化等を図り、都市再生の成果が短期間に着実に上がるようにすべきである。

 また、土地収用制度の見直しとともに、公共の福祉優先など都市づくりについてのパブリックマインドを啓蒙して、公共の福祉が優先するという土地基本法の理念が共通認識となるように努めるべきである。

 次に、地籍調査の推進である。土地の所有者、面積、境界などを明らかにする地籍調査の成果は、最も基礎的な土地情報として都市再生の円滑な実施に多くの効用を発揮する。西欧諸国等ではほぼ実施済みの地籍調査は、我が国では特に人口集中地区において大きく立ち遅れているが、都市再生に多くの効用を発揮する地籍調査を都市部の地方公共団体においても緊急かつ計画的に実施すべきである。

 また、東京圏の新たな都市イメージの発信拠点となる東京湾臨海部において、国際都市にふさわしい質の高い都市空間の形成を図るためには、臨港地区について港湾行政と都市行政の連携をより一層強化する必要がある。 <目次へ>
         

5.東京圏の都市再生の実現に向けて

以上、東京圏の都市再生に向けての課題の所在についての基本的認識を明らかにしつつ、その実現のための視点と講じるべき政策の方向などについて述べてきた。

 重要なのは、ここに掲げた多くの事柄を机上の議論に終わらせてはならないということである。そのためには、誰が、いつまでに、何を行うのかを明確にし、その目標に向けて歩を進めていく必要がある。

その場合、都市基盤施設相互の連携や整合性を確保し、東京圏全体の都市づくりのビジョンを示すために、広域的な計画を策定することも必要であろう。これらの広域計画は、個々の都市計画との連携が図られることにより、圏域全体として統一性の確保された都市整備を担保する役割を果たすこととなるものであり、そのための計画制度のあり方について検討が行われる必要がある。

この提言をもって、本懇談会は一応の役割を終えることとなる。今後は、この提言の趣旨も踏まえながら、都市づくりに携わる者が自らに与えられた責任を的確に果たしていくことにより、東京圏の都市再生が一歩一歩、しかし着実に具体化していくことを心より期待する。 <目次へ>


都市再生推進懇談会(東京圏)委員名簿

                            (敬称略、50音順)

石原慎太郎  東京都知事
出井 伸之  経団連新産業・新事業委員会共同委員長
       ソニー株式会社会長兼CEO(最高経営責任者
伊藤  滋  慶應義塾大学大学院教授
伊藤 元重  東京大学経済学部教授
       経済戦略会議委員
江口 克彦  株式会社PHP総合研究所取締役副社長
岡崎  洋  神奈川県知事
翁  百合  株式会社日本総合研究所主任研究員
尾島 俊雄  早稲田大学理工学部教授
坂本 春生  2005年日本国際博覧会協会事務総長
       前経済同友会副代表幹事
田中順一郎  社団法人不動産協会理事長
       三井不動産株式会社代表取締役会長
月尾 嘉男  東京大学大学院教授
土屋 義彦  埼玉県知事
鶴田 卓彦  株式会社日本経済新聞社代表取締役社長
中村 英夫  武蔵工業大学環境情報学部教授
       運輸政策研究所所長
沼田  武  千葉県知事
グレン・S・フクシマ  日本ケイデンス・デザイン・システムズ社社長
       在日米国商工会議所前会頭
古川 昌彦  経団連前副会長、前国土・住宅政策委員会委員長
       三菱化学株式会社相談役
森   稔  森ビル株式会社代表取締役社長
       経済戦略会議委員

 ◎オブザーバー

高橋  清  川崎市長
高秀 秀信  横浜市長
牧野  徹  都市基盤整備公団総裁
松井  旭  千葉市長


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