今後の筑波研究学園都市の整備に向けて

(平成9年11月 今後の筑波研究学園都市の整備に関する研究委員会)
※「今後の筑波研究学園都市の整備に関する研究委員会」は、
国土庁(当時)が茨 城県と共同で、今後の筑波研究学園都市の
整備のあり方について討議することを目的として
平成8年12月に設置したものである。

はじめに

  1. 筑波研究学園都市の整備の現状と成果
    1. 本都市建設の経緯と整備状況
    2. 「都市づくり」面での成果と課題
    3. 「科学技術・学術の集積及び研究活動」面での成果と課題
  2. 今後の本都市を取り巻く動向
    1. 転換を迫られる日本
    2. 科学技術分野の新しい挑戦
    3. 首都圏における広域的役割
    4. 科学技術・学術研究及び生活面における情報化の進展
  3. 本都市の将来像
    1. 目指すべき都市像
    2. 将来人口フレーム
  4. 今後の本都市整備の基本的方向
    1. 科学技術研究機能の集積と整備
      (1)独創的な高度先端科学技術の創造拠点としての整備
      (2)国際的研究交流機能の強化
    2. 科学技術集積等を活かした都市の活性化の推進
      (1)新しい成長産業の創造
      (2)科学技術の理解増進への貢献
      (3)科学技術の農業等への還元
      (4)科学技術集積活用のためのシステムの構築
    3. 広域都市圏にふさわしい都市機能の集積
      (1)高速交通体系の早期整備
      (2)高次都市機能の整備
      (3)多様な交通ニーズへの対応
    4. 豊かな住環境と景観の形成
      (1)環境共生型都市づくりの推進
      (2)自然・田園・都市が調和した土地利用の推進
      (3)つくばらしい景観と文化の形成
      (4)多様なライフスタイルの共生
  5. 都市づくりに取り組む体制と方策
    1. 国・県・市・町・公団の協調体制の強化
    2. 高まる自治体の役割
    3. 地域住民や研究機関の都市づくりへの参画
    4. 国の企画・調整機能の強化
    5. まちづくり実施機関としての住宅・都市整備公団の役割
    6. 公的機関と連携する民間セクターの役割
    7. 総合的まちづくり支援システムの構築
  6. 委員会メンバー表 (PDF形式・38Kb 平成20年3月現在)

    はじめに

    筑波研究学園都市は昭和38年の閣議了解により国家プロジェクトとして建設が始まって以来30余年を経過し、今では、国・民間合わせ約300に及ぶ研究機関・企業の集積する科学技術都市として、「つくば」は世界に通用するブランドに成長した。間近に迫った21世紀に「科学技術創造立国」として国家の活路を拓こうとする我が国としては、この筑波研究学園都市の集積効果の活用は、今、まさに喫緊の課題である。

    しかし、本都市は、中心部に未利用地が多数点在しているなど都市としての集積度が低く、加えて、公共交通機関が脆弱であることなどにより生活利便性は不十分であり、研究者等の定住化も遅れている傾向にあり、都市としての成熟度は必ずしも高いとは言えない。また、我が国の科学技術振興のための拠点として集中整備がなされ、国際的にも有数の高度研究機関の集積した効果が産業や社会に十分活かされるまでには至っていない。さらに、国際的研究水準の科学技術・学術研究成果をこれまで以上に数多く生み出し、多くの内外の研究者が集う国際研究交流拠点が形成されなければならない。このように、「つくば」はまだまだ「未完の街」であり、ここまで育て上げてきた貴重な財産を、未完のまま途中で放棄することは許されるものではない。

    一方、本都市はパイロットモデル都市として、真空集じんシステム、ハイブリッド型CATV等多くの先端的都市施設が導入され、他の大規模ニュータウン開発等に活かされてきた実績がある。今後も、省エネルギー等環境との共生、多様なライフスタイルの共生、緑に囲まれた美しいアーバンデザインなど、新しい都市づくりの課題に果敢に立ち向かい、ここでの成果を広く全国に還元していく役割を担うべきであろう。この観点に立っても、本都市は永遠に「未完の街」として未来に向かって挑戦を続ける先導的モデル都市であり続けることが必要である。

    つくばエクスプレス建設や首都圏中央連絡自動車道の整備が図られ、周辺開発地区の大規模都市開発整備が推進されようとする新たな段階に入った今、「つくば」の現状を改めて見つめ直し、今後のあり方についてお互いが共通の認識を深めることは極めて意義深いものと考える。

    本研究委員会は、平成8年12月、国土庁および茨城県により、今後の筑波研究学園都市の整備についての調査を委託されて以来、9回にわたり会議を開催し、その間、現地の視察、関係者からのヒアリング、一般市民に公開されたフォーラムの開催等を行い、検討を重ねてきた。また、平成9年9月には、国土庁大都市圏整備局長から、今後の筑波研究学園都市の整備について、改めて意見を求められた。この度、これら検討の結果を踏まえ、提言を取りまとめるにあたって、関係者が本都市の更なる育成に関して共通認識を持ち、本提言が今後の施策に活かされることを切に期待するものである。

    I. 筑波研究学園都市の整備の現状と成果

    本都市建設の経緯と整備状況

    (1)第1ステージ「都市建設期」  
    昭和38年9月の閣議了解において、研究学園都市を筑波に建設すること、用地の取得・造成を日本住宅公団(現住宅・都市整備公団)が行うことが決定し、東京の過密解消と、科学技術振興・高等教育の充実を目的に、国家プロジェクトとして、茨城県南に位置する常総台地上の約28,400ha(旧6町村)の広大な地域を対象に、都市建設が開始された。
    昭和41年12月には用地買収を開始、主として宅地造成は新住宅市街地開発事業と土地区画整理事業で、研究・教育機関の施設建設は一団地の官公庁施設事業で進められた。昭和45年5月には「筑波研究学園都市建設法」が制定され、都市建設の法的枠組が作られた。そして昭和55年、予定された43の国の研究教育機関(現在45機関立地)が移転・新設され、関連公共・公益的施設についても整備が進められ、新都市としての基礎固めが終わった。

    (2)第2ステージ「都市整備期」
    その後、昭和58年には「つくばセンタービル」が完成し、都心地区には大規模商業施設が建設されるなど、都市施設が充実していく。昭和60年、日本で3回目の万国博覧会「国際科学技術博覧会」が開催され、科学技術を身近なものとして理解増進が図られるとともに、「TSUKUBA」の名を世界的に広める契機となった。また、この頃から周辺開発地区において茨城県や住宅・都市整備公団が施行した工業団地等への民間企業の進出にはずみがつき、現在では、国・民間合わせ約300に及ぶ研究機関・企業が活発な活動を展開しており、人口約18万人、約1万3千人の研究者を擁する我が国最大の研究開発センターに成長した。

    (3)第3ステージ「都市発展期」  
    つくばエクスプレスや首都圏中央連絡自動車道(圏央道)などの整備の具体化や、科学技術基本計画に基づく本都市の位置づけ等を踏まえ、今後は、これまで集積してきた資源を活かし、実質的な成果を発現する世界的科学技術都市へと発展が期待される第3ステージを迎える。



    「都市づくり」面での成果と課題


    (1)成 果  
    a.整然とした美しい街と先端的都市施設  
    本都市では、我が国に例の少ない本格的計画都市として、自動車交通に対応した南北東西に伸びる格子状の幹線道路や駐車場、都市公園、集合住宅、つくばセンタービル、小・中・高等学校等の各種公共・公益的施設が整備されるなど、整然と計画的に基盤整備が行われた。  
    また、地域冷暖房、真空集塵、CATVの各システムが収められた共同溝、ペデストリアンデッキを用いた歩車分離などの先端的都市施設等は整備範囲が限られているものの、その成果は、他の大規模ニュータウン開発等に活かされることになった。  

    b.豊かでゆとりある研究・居住環境  
    本都市では、自然・田園的環境に囲まれた、ゆとりある研究環境、居住環境が実現された。また現在では、研究教育機関等に残る既存樹林に加え、施設内緑化や街路樹等計画的な植栽帯も順調に成長し、緑豊かな都市として、風格を備えつつある。  
    また、土地区画整理事業等の計画的な実施により、開発段階のスプロールの発生を抑制し、特に、周辺開発地区では、平地林等の自然環境や、田園的環境が保全されてきた。  

    c.均衡ある首都圏の整備への貢献  
    土浦市や牛久市との連携・交流を深め、自立都市圏を形成するため、土浦・つくば・牛久業務核都市基本構想が推進されている。また、国の試験研究・教育機関等が移転した東京都区内等の跡地(64跡地359ha)は、公園緑地等公共公益施設用地として有効に利用されている。
    (2)課 題  
    a.定住化の遅れ  
    研究学園地区の人口は約6万人と、計画人口10万人を大幅に下回っている。この原因としては、研究機関等在勤者の中に本都市における家族の生活・教育等の問題を理由とする単身赴任者や通勤者が未だに少なくないことや、定年後の職場の確保の困難さや、地区内の地価の高さ等のために定住化が遅れていることなどがあげられる。また、その結果として、土地区画整理区域内の宅地化の遅れが見られる。  

    b.公共交通機関の脆弱さ等都市的利便性の不足  
    バス等の公共交通機関が脆弱であり、外国人や子ども、高齢者など自動車を持たない住民層や短期滞在者の域内交通に支障が生じている。また最近では、交通渋滞の発生や駐車場不足、交通事故の発生などが問題となっている。  
    さらに、商業・業務施設や、ホテル・文化・娯楽施設等の各種サービス業など全般的に都市的サービスが不足しており、人々が集まる都市的賑わいも少ない。  

    c.先端的都市施設等の適切な維持管理  
    計画的に導入・整備された先端的都市施設、整備水準の高い公園・緑地、ペデストリアンデッキなどの公共施設の維持管理にかなりの費用を要し、施設も整備後かなりの年数を経過し老朽化してきており、今後修繕・更新を含めた施設の適切な維持管理が課題となる。また、定住化の遅れ等に伴い積み残しとなっている公共公益施設の建設やCATVのサービスエリアが限られていることなどが課題である。  

    d.研究学園地区・周辺開発地区との格差  
    研究学園地区は、住宅・都市整備公団等による基盤整備を計画的に行うことにより、全国平均を上回る水準の都市施設整備が行われたものの、周辺開発地区は研究学園地区と比べ、上・下水道や道路整備等の居住環境の整備が遅れている。また、研究学園地区の住民の市政等への関心の低さなど、両地区の住民に必ずしも一体感があるとはいえない状況にある。
    「科学技術・学術の集積及び研究活動」面での成果と課題

    (1)成 果  
    a.産学官の研究機関の集積する我が国最大の研究開発センター  
    本都市には、国の研究機関(本所所在)が26機関立地し、全国の国立研究機関の約27%、職員数にして約44%を占めている。また、筑波大学やその他の研究機関等を合わせると45機関となる。さらに、周辺開発地区の研究団地・工業団地などを含めると、国・民間合わせて約300に及ぶ研究機関・企業が集積し、我が国最大の研究開発センターが形成されている。  

    b.国際交流拠点の形成  
    国際的水準の科学技術・学術研究成果が数多く生み出されるとともに、内外の研究教育機関等との研究交流が進み、また、数多くの国際会議も開催され、外国人研究者も年々増加するなど、科学技術・学術研究活動における国際交流拠点を形成した。  

    c.我が国の科学技術振興の牽引役  
    全国各地域において科学技術振興が進められる中で、本都市は情報ネットワークの拠点や我が国の科学技術流通の窓口となり、科学技術中枢拠点として、我が国全体の科学技術の底上げに貢献、欧米のキャッチアップから脱却するための牽引車的役割を果たした。  

    d.科学技術成果の社会還元
    国際科学技術博覧会や、各研究機関等の常設展示施設、毎年4月に開催される科学技術週間や科学フェスティバル等を通じた、科学技術の理解増進、科学技術成果の社会還元、地元還元を進めてきた。近年は、本都市で、新産業創出等に寄与するTARA(筑波大学先端学際領域研究センター)や筑波塾等が設立され、また、茨城県では「中小企業テクノエキスパート派遣事業」等の取り組みがなされている。
    (2)課 題
    a.研究交流・技術移転に際しての壁  
    本都市のみならず、我が国共通の問題としてよく指摘されているところであるが、本都市においても、省庁間の有機的な連携の不足、研究職公務員の人事システムに柔軟性が低いこと、官民間の壁の存在など、研究機関や研究者相互の横断的な研究交流が活性化しにくい環境がいまだに存在する。また、国の研究教育機関等が生み出す先端的な研究成果や技術の知的情報が、民間企業の技術開発に直接結びつかないことや、実用化研究への移転が進まないなど、産業分野への技術移転が遅れている。
    さらに、シリコンバレー等の海外の研究都市と比較すると、基礎研究等により生み出された技術の実用化を進めるベンチャー企業や、ベンチャー企業を育成する各種支援機能の整備・定着が遅れている。  

    b.研究施設の老朽化・研究支援機能の不足  
    研究の高度化・多様化に対応し、最先端の学術研究等を行うためには常に施設・設備等の更新・拡充を行うことが不可欠である。しかし、国の試験研究施設が建設されてから約20年が経過し、多くの施設で老朽化や狭隘化が問題となっている。  
    また、科学技術・学術研究活動を支える機能も必要であるが、技術相談やコンサルティング、情報処理、分析・計算等の研究支援サービスや、これらを担う研究支援者等が不足している。

    c.外国人研究者の受入れ体制が不十分  
    本都市に訪れる外国人研究者は年々増加し、約半数の公・民研究機関に在籍するとともに、滞在期間は長期化し、家族を伴う研究者、留学生が増えている。しかし、外国人研究者の受入れ制度や、短長期滞在に対応した宿舎や日本語研修などの受入れ体制は十分とはいえない。また、本都市における医療、教育、地域サービスなどの家族の生活についての不安があることも、優秀な外国人研究者の受入れの障害となっている。

    II. 今後の本都市を取り巻く動向

    転換を迫られる日本  
    本都市建設の決定以来30年余り、本都市を取り巻く社会経済環境は大きく変化した。国際的には、冷戦終結に伴う新しい秩序づくりに向けての国際社会の模索、経済の自由化、国際化に伴う経済競争の激化とアジア諸国の国際社会における重要性の高まりといった動向がみられ、また、国内的には、少子化・高齢化の進展に伴う社会システムの見直しの必要性、バブル経済崩壊以降の安定的成長のための経済の新たな枠組みの構築と独創的・先端的な科学技術の開発による新産業の創出の必要性といったさまざまな課題を抱えている。  
    さらには、食糧・エネルギー問題、環境問題など人類の生存に係わる地球規模の問題が喫緊のものとなり、これらの諸問題の解決に対して科学技術への期待が高まるとともに、人間や社会と科学技術の関係、
    ひいては自然科学と人文科学の調和のとれた発展の必要性についても認識が高まっている。


    科学技術分野の新しい挑戦  
    我が国は、フロントランナーの一員として、自ら未開の科学技術分野に挑戦していくことが必要であるが、ひるがえって我が国の科学技術の現状を見ると、近年経験したことのない厳しい状態にある。特に、政府の研究開発投資負担が欧米と比較して低く、投資額自体も伸び悩みの傾向を示していること、基礎研究に係る多くの分野が、欧米と比較して劣位を拡大させていること、応用・開発研究についても、米国に比べると全分野で劣位が拡大していること、研究開発システムの柔軟性・競争性が低く、さまざまな制約が顕在化していることなど、多くの課題が山積している。  
    さらには、将来の我が国の科学技術を担う若者に科学技術離れもみられるなど由々しき状況にあり、こうした中で、平成7年11月、我が国における科学技術水準の向上を図り、もって我が国の経済社会の発展と福祉の向上に寄与するとともに、世界の科学技術の進歩と人類社会の持続的な発展に貢献することを目的として、科学技術基本法が制定され、これに基づき、平成8年7月には科学技術基本計画が策定された。科学技術基本計画では、こうした我が国の科学技術を巡る厳しい現状を真摯に受け止め、

    a. 研究環境の柔軟かつ競争的で開かれたものへの抜本的改善
    b. 産学官全体の研究開発能力の引き上げと最大限の発揮、
    c. 研究成果の国民、社会、経済への円滑な還元

    を政策上の優先課題として掲げ、任期付任用制や兼業許可の円滑化、ポスドク等1万人支援計画など数多くの画期的な施策を実施し、科学技術政策を総合的、計画的に推進することをうたっている。  
    科学技術基本計画においても、本都市は、都市としては唯一固有名詞をあげて、内外に開かれた連携・交流拠点として育成を図ることや、世界の情報・研究交流の核としていくことなど具体的に果たすべき役割がうたわれ、我が国全体の研究開発能力の底上げに貢献していくことなどが期待されている。


    首都圏における広域的役割  
    本都市は、都市建設当初と比べて格段に広域化した人々の生活圏や情報化を背景とし、また、平成5年に承認された「土浦・つくば・牛久業務核都市基本構想」により、茨城南部の自立都市圏の中核都市と位置付けられるなど、近接する土浦市や牛久市との都市機能分担や連携を強めてきた。加えて、21世紀初頭に完成が予定されるつくばエクスプレスと圏央道は、本都市の広域的な位置づけを抜本的に変えていくこととなる。  
    つくばエクスプレスは、秋葉原〜つくば間を45分で結び、平成17年開業が予定されている。従来、高速バスで最短65分かかっていた東京都心との時間距離が大幅に短縮されるほか、定時性が確保されることも大きな効果である。これは人、情報等の流れにおいて東京と本都市との関係をより緊密なものにすると期待される。また、大規模な沿線地域の住宅開発等により、本都市建設以前の居住者や研究者等に加え、東京への通勤者を含む新しいライフスタイルを持つ約10万人の人々が本都市で暮らし始めることになる。さらに、中心地区に新駅が整備されることや、都市圏全体の人口が増加することにより、中心地区には拡大する自立都市圏の中核都市にふさわしい高次都市機能の一層の集積が必要となる。一方、新駅周辺において域内交通の流動が変化することから、これに対応した都市施設整備も必要となる。  
    一方、圏央道は、首都圏の40〜60km圏を新たに環状で結ぶ自動車専用道路である。つくば〜成田インター間を25分で結ぶなど、新東京国際空港を始めとした千葉・埼玉方面の時間距離が短縮されることになる。新東京国際空港へのアクセス性向上は、国際コンベンションなど国際機能強化のポテンシャルをもたらす。また、圏央道を経由して東北・北陸方面へのアクセス性が向上するとともに、東京へのアクセスでは選択性が向上する。さらに本都市は、常磐道と圏央道との交通結節点となることから、物流など新しい産業の立地や、広域防災拠点など首都圏の広域的な役割を担いうるポテンシャルが生まれる。一方、南北幹線を中心に、本都市内の通過交通が増加し、交通渋滞の悪化等が懸念される。


    科学技術・学術研究及び生活面における情報化の進展
     
    インターネットや電子メール等が普及するなど、情報化は昨今急速に進展している。情報化は、科学技術・学術研究分野の振興に大きく寄与するだけでなく、生活者に対しても、サイバースペース上のショッピングや、行政サービスなど各種サービスの利用を通じて、生活利便性を向上させていくことが期待されている。  
    本都市では、CATV((財)研究学園都市コミュニティケーブルサービス:ACCS)によって情報通信基盤の整備が進められており、新しい包括的な情報通信システムの構築の一環として大学、各研究機関、国際会議場を結ぶLANの実証実験が始まっている。また、国の研究機関では学術研究ネットワーク等を整備している。さらに、研究者を中心に情報リテラシーの高い住民を多数擁していることから、他都市と比べ本都市の情報化の進度は早く、情報化が学術研究分野や社会・生活へ与えるインパクトを最大限に引き出していくための受け入れ体制は整っているということができる。

    III. 本都市の将来像

    目指すべき都市像  
    今後の筑波研究学園都市の整備について、「ひと・科学・街 〜21世紀を提案するつくば〜」を基本目標として、以下の3都市像を具体的都市像とする。  
    科学技術中枢拠点としての整備を中心課題としつつ、つくばエクスプレス及びその沿線開発並びに圏央道の整備に伴う都市機能の段階的な集積の中で、土地利用や居住環境の整備に当たっては、豊かな自然・田園環境との共生を図ることとする。


    (1)科学技術中枢拠点都市(CCOE)  
    未踏の科学技術分野のチャレンジャーとして、独創的・先端的な研究を生み出す世界的な科学技術中枢拠点都市(CCOE= Center City of Excellence)とする。また、科学技術研究開発拠点の集積を活かし、新産業創出、科学技術理解増進、農業等との連携の拠点とする。さらには、サイエンス型国際コンベンション都市としての機能を備えた都市とする。

    (2)広域自立都市圏中枢都市  
    広域化する本都市圏の中枢都市として、つくばエクスプレス及び圏央道といった高速交通体系の整備等のインパクトを生かし、高次都市機能の集積と都市内の高い利便性を実現した都市とする。

    (3)エコ ライフ モデル都市  
    21世紀の住文化やライフスタイルを提案する都市づくりのパイロットモデル都市として、地域固有の資源である自然・田園的環境と都市の調和、省エネルギー型・循環型の街づくり、緑豊かな居住環境、美しい景観、豊かな文化、多様な住民の交流と街づくりへの参画、次世代を担う子供等に夢を与える環境等の実現した都市とする。

    将来人口フレーム  
    本都市建設時の都市計画、つくばエクスプレス沿線開発構想等を勘案し、本都市の将来人口は約35万人と見込む。

    将来計画人口 35万人
    研究学園地区 10万人
    周辺開発地区 25万人(うち、つくばエクスプレス沿線開発地区10万人)


    備考1)1997年9月1日現在、研究学園地区64,055人、周辺開発地区123,003人、研究学園都市全体で187,058人。
    備考2)目標年度は、沿線開発地区の人口定着が図られると想定される、概ね2030年頃とする。

    IV. 今後の本都市整備の基本的方向

    科学技術研究機能の集積と整備

    (1)独創的な高度先端科学技術の創造拠点としての整備  

    科学技術基本計画において、科学技術振興の中核拠点として一層の育成整備がうたわれている本都市は、引き続き、独創的な高度先端科学技術創造のための研究活動の展開と、研究成果の発現を通じた世界への情報発信により科学技術中枢拠点都市(CCOE)としての役割を果たすことが期待されている。  
    また、科学技術基本計画においては、公的研究教育機関や民間研究機関などの研究交流や、共同研究の一層の推進のほか、退官した研究職公務員の人材活用、兼業規制の緩和など研究人材の流動化等により、柔軟かつ競争的で開かれた研究環境の実現などを推進することとしているが、本都市の整備もこれらの科学技術政策との有機的連携を持ったものとする必要がある。また、外国人宿舎、外国人支援機関等の整備等を図ることで、海外からの研究者を積極的に受け入れ、国際的な研究交流を促進していく必要がある。  
    さらに、我が国における基礎研究の拡大等に資するため、新たな高度情報通信基盤の整備や研究施設・設備の維持保全や計画的更新を行うとともに、21世紀に向け世界的水準の研究開発を可能とする高度な研究施設と最先端の研究設備の整備、さらには、民間等の研究支援サービス業の育成も必要である。  
    加えて、本都市内外の若年層を対象とする新たな高等教育機関の誘致を図ることや、筑波大学の大学院を充実させ研究者養成機能を強化することなどにより、研究教育資源の蓄積を進めることが必要である。

    (2)国際的研究交流機能の強化  
    世界の研究情報の受発信拠点、国際的な研究者の交流拠点となるためには、科学技術・学術研究分野を中心とした国際コンベンションを積極的に開催することが期待される。また、開発途上国における研究学園都市建設の在り方、プロセス等に関する国際協力も「TSUKUBA」を持つ我が国の果たすべき重要な役割である。  
    このため、その中心的役割を担う国際会議場を整備するとともに、国際会議開催の支援、国際級ホテルの整備、標識等の外国語併記による表示、まちなかにおける携帯電話を利用した都市案内システム、アフターコンベンション機能の強化など、外国人の利便性・快適性の向上を図ることにより、外国人研究者の来訪を促進し、国際コンベンションの質的向上を図ることが必要である。また、圏央道を早期整備することは、新東京国際空港とのアクセス性を飛躍的に向上させることとなり、国際研究交流機能の強化にとって極めて効果的なものとなることはいうまでもない。  また、各研究教育機関、行政機関等を統一した本都市全体のホームページ等の開設によって、情報ネットワーク上での、世界に向けた総合的な情報発信を進めていく必要がある。

    科学技術集積等を活かした都市の活性化の推進


    (1)新しい成長産業の創造  
    我が国トップレベルの学術研究機能が集積する本都市にとって、新しい成長産業の創造・育成は、我が国における大きな責務である。産業ニーズに基づいた研究分野に配慮するとともに、効果的かつスムーズな研究成果の移転を促進する機関を設立することなどにより、新しい成長産業のインキュベーターとしての役割を果たすことが必要である。また、研究支援サービス業など本都市の研究開発機能の活性化に資する産業の立地や、研究教育機関との近接性を活かした企業誘致の受け皿となる研究開発団地、SOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)等の整備を推進していくことも必要である。  
    また、産業の付加価値の源泉となる先端的な研究成果が、起業家により、既往の産業にはない新たなベンチャービジネスとして転化することを促進するため、研究開発者の交流を促進するベンチャー育成施設や企業等からの寄付講座に類するベンチャーラボラトリーの整備を支援することにより、都市全体のリエゾン(媒介)機能を拡充するとともに、ベンチャービジネスの支援サービス業等の本都市での充実を図ることが必要である。  
    なお、これと関連して「産・学・官」の連携による学際領域における最先端研究を推進する筑波大学先端学際領域研究センター(TARA)等の研究機関の充実を図ることも重要である。

    (2)科学技術の理解増進への貢献  
    若者の科学技術離れに対応し、市民の科学技術に対する理解を増進するため、科学技術資源の集積する本都市の貢献できるポテンシャルは高い。本都市内の常設展示場の公開、科学技術週間における研究所施設の公開、「つくば青少年科学フェスティバル」の開催など、既にこの面での活発な活動が展開されているが、今後更に、研究施設や研究機関の持つ常設展示場のネットワークを形成するなどして、市民や青少年に分かりやすい科学学習のスクーリングを開催していくことが望まれる。また、各研究所における見学機能を一層充実するなどにより、科学技術を見せる都市、科学技術が体験できる都市とするため、科学技術に対する理解増進、啓発普及活動、生涯学習の支援を積極的に進めていくことが必要である。また、創意工夫に満ちた先端的な都市施設の導入とその内部の公開などにより、街づくりそのものが、科学の魅力を伝える工夫に満ちた、遊び心をくすぐるようなものであることが望まれる。

    (3)科学技術の農業等への還元  

    本地域は、稲作、芝等の農業が盛んなところであり、かつ平地林や水田等によりすぐれた田園的環境に恵まれているが、近年、都市化の進展により、自然的地域環境の蚕食も見られる。このため、つくばの特性を活かし、本都市の研究機関と地元市町の連携協力を図る等により、研究機関での農業・生物分野等における研究成果を地域農業に活用するための条件整備を進めることが重要である。また、都市化を活かした都市型農業の推進や、都市住民、子供達が農業に触れ、農家との交流を図れるよう努めるなど、地域農業と都市住民とが積極的に交流する場を作ることが望まれる。

    (4)科学技術集積活用のためのシステムの構築  
    上述の科学技術集積等を活かした都市の活性化の方向を現実のものとするためには、官・民の研究機関、大学、行政、市民、農業等を含めた産業が、互いに研究等の成果を公開し、触発しあい、新たな創造や社会・地域への貢献・還元につなげてゆく必要がある。  
    このためには、従来の役割分担の枠組みを越えて、共同で、企画、調整、企業化等を検討実施するシステムの構築が必要である。これは、今後の我が国にとって先導的に必要とされるべきものであって、システム構築に関する要件と環境を備えた「つくば」において、モデル的に構築していくことが望ましい。

    広域都市圏にふさわしい都市機能の集積

    (1)高速交通体系の早期整備  
    つくばエクスプレス及び圏央道は、今後の本都市圏域の都市集積を促進する上で本質的な構成要素であるが、開通の遅れは民間企業等に不測のリスクをもたらし、円滑な沿線開発整備を阻害する恐れが強い。これらの整備が遅滞なく推進されるように、関係各方面において最大限の努力が払われる必要がある。また、つくばエクスプレスのネーミングについても、沿線各地域に配慮しつつ、アカデミックで、かつ田園をイメージさせるものとすることが期待される。

    (2)高次都市機能の整備  
    本都市は、首都圏の重要な広域拠点都市であり、つくばエクスプレスおよび圏央道の整備等によって交通の結節点となることから、広域防災拠点、物流拠点等を始めとした、新しい広域的な都市機能を積極的に整備していく必要がある。  
    広域的には、本都市に集積された科学技術や都市基盤を鉄道や道路、通信インフラによりネットワーク化し、広く土浦・牛久等の広域つくば圏に拡大し、地域の特性に応じた連携と役割分担を図りつつ、圏域全体の一層の発展を目指す必要がある。さらに、都市圏内の主要な都市である土浦市、牛久市との連携を強化するため、本都市と両都市を結ぶ交通体系のあり方を再度検討する必要がある。  
    また、将来人口35万人となる本都市及びこれを包含する広域都市圏の中枢拠点を形成するため、現在の中心地区および新たに開発される葛城地区の一体的な土地利用の推進等により、既存の都心地区を形成する南北軸に加えて、東西軸の形成を計画的に誘導し、業務・商業・宿泊・文化等の高次都市機能を集積させることにより、都心機能を強化していく必要がある。  
    研究学園地区の中心地区においては、中央通りにつくばエクスプレスつくば駅が新設される予定であり、駅前広場の整備や、つくばエクスプレスの導入による土地利用ポテンシャルの向上に伴う再整備および高度利用を行う必要がある。その際、主に平面駐車場として利用されている都心地区の暫定利用地や未利用地を有効に活用していくとともに、既存の施設についても建て替え時期等を考慮しつつ、再配置についても検討していくことが重要である。一方、都心地区以外の研究学園地区においても都市機能を一層充実させるため、まとまった未利用地等の有効利用を進めていく方策を検討し、その実施に努めることも重要である。  
    さらに、情報化の進展に対応し、産業分野への研究成果の移転等を支援する情報化や、生活利便性向上やACCSの自主放送番組を活用したコミュニティー形成のための情報化の促進とグレーター・ワシントンに匹敵するつくば圏全域にわたる広域ネットワークとしての情報通信基盤の充実を図る必要がある。

    (3)多様な交通ニーズへの対応  
    近年顕在化しつつある道路交通の渋滞や、駐車場不足は、圏央道やつくばエクスプレスの整備等に伴い、都市集積の促進による交通量の増加、さらには自動車とつくばエクスプレス乗り継ぎ時の駐車需要の増加等が考えられるため、一層顕著になることが想定される。このため、都心地区や、つくばエクスプレス新駅周辺等における駐車場の整備や、幹線道路の立体交差化など、自動車交通の円滑化を図ることが必要となる。  
    また、今後は、ライフスタイルの多様化に伴い、高齢者、短期滞在外国人を含めたあらゆる人々が、モビリティを確保できる公共交通機関ネットワークを形成することが求められる。さらに、つくばエクスプレスの整備によって新たに鉄道利用者の端末交通手段が必要となることから、本都市にふさわしい中心市街地内の短距離交通システムの導入が必要となる。

    豊かな住環境と景観の形成

    (1)環境共生型都市づくりの推進  
    筑波山、牛久沼、平地林、日本の原風景ともいえる既存集落とそれを取り囲む屋敷林といった自然的・田園的環境は、計画的に作られた都市的環境とあわせて、本都市の主要な地域資源であり、生活環境の重要な構成要素となっている。このため、本都市では、自然・田園的環境の重要性と、今後の都市づくりにおいては量ではなく質の向上が重要であることを十分認識した上で、各地域固有の地域特性を活かしながら、居住環境・景観を保全・創造し、また、低利用地への植林など自然創出の努力を行うことによって、魅力ある都市づくりを進めていく必要がある。  
    また、公園など自然環境を活かした都市と農村の交流拠点の整備、地域バザール等の開催や子供達の農業体験等を通じた農業従事者と都市住民との交流促進、徹底した分別収集・リサイクルを始めゴミの適正な処理、廃棄物の肥料化等を通じた本都市内における物質循環の促進、公共交通を含めた環境共生・省エネルギー構造の都市・住宅の整備など、自然・田園・都市の3資源が共生した意欲的かつ先導的な環境共生型都市づくりを進めていく必要がある。本都市の研究機関の環境技術に関する成果は、まず本都市がエコ・ライフ・モデル都市として整備されるために生かされることが期待される。  
    一方、研究学園地区については、モデル都市として計画的に導入・整備された先端的都市施設、公共施設等の適切な維持管理、計画的更新を関係者一体となって行っていくことが重要である。また、研究学園都市全体の都市的空間と田園的空間とが一体感を持って、バランスある整備が図られることが必要であることから、周辺開発地区で遅れている上・下水道等の基礎的な都市基盤について、着実な整備が必要である。

    (2)自然・田園・都市が調和した土地利用の推進
     
    つくばエクスプレス開業し、大規模な宅地開発が予定される本都市においては、開発の在り方に関しても、自然・田園・都市がそれぞれの特性を活かしながら互いに調和・共生した、他都市のモデルとなるような先導的な土地利用を進めていく必要がある。すなわち、研究学園地区、沿線開発地区、周辺開発地区などの地域特性に応じ、居住環境・都市景観の創出、新しい都市型農業等の育成などを進める必要がある。また、省庁間の協力によって、自然系・田園系土地利用と都市系土地利用との総合的かつきめ細かな土地利用調整や定期借地権の活用による都市の成熟段階を考慮した土地利用の手法の導入など、土地利用政策を検討していく必要がある。

    (3)つくばらしい景観と文化の形成
     
    本都市は、学術研究活動にふさわしい落ちついた都市環境と、豊かな自然環境の中に科学と文化、生活が調和したつくば独自の文化を醸成していくことが必要である。  
    このため、つくば固有の農村景観の保全と、都市景観においても、木々の緑等と調和したアーバンデザインを考慮した風格ある街並み形成を一層目指す必要がある。  
    一方で、地域に根付いた祭りや伝統芸能の伝承、外国人居住者が身につけている各国文化の交流、さらには、国の研究教育機関を中心とした研究者による地域学習支援システムの構築など科学技術を地域社会へ還元することで独自の生活文化を確立するためのソフト面の整備等も求められる。  
    また、本都市の各機関が、街づくりの主体として、街に「つくば」独自の「面白さ」を加えて創意工夫をすることも一考である。

    (4)多様なライフスタイルの共生  
    本都市には、都市建設以前からの居住者や、研究機関関係者を中心とした本都市建設に伴う転入者、外国人研究者に加え、つくばエクスプレスの整備に伴う新たな転入者などの多様な住民が居住することになる。こうしたことから、住民各層の多様なライフスタイルに対応した住環境整備を進めていくことが必要となる。また、品格と質感のある低層の住宅の供給が望まれる。さらに、互いの個性を理解・尊重しながら交流することができる環境を創造し、街づくりへの住民の参画と多様な住民の共生の在り方を模索するモデル地域を目指していくことが重要である。  
    その際、生活レベルでの情報化を進めることや、高度情報基盤の利用可能区域の拡大を進めることで情報ネットワーク上のオンラインコミュニケーションを促進したり、生涯学習、クラブライフなど人間の全人格的成長を促進する都市環境整備の充実など、オンライン、オフラインの双方での生活コミュニケーションを推進する必要がある。  
    また、国際的な評価を高めるという見地からも、特に、インターナショナルスクールの充実などの教育や住宅等、家族を含めた外国人の生活環境を整備・充実し、本都市の財産ともいえる外国人研究者、留学生の受け入れを促進する必要がある。

    V. 都市づくりに取り組む体制と方策

    国・県・市・町・公団の協調体制の強化
    本都市は、建設当初から、国、茨城県、つくば市(旧筑波町、大穂町、豊里町、谷田部町、桜村)、茎崎町、住宅・都市整備公団が、それぞれの責任と役割に応じて互いに協力し合うという基本姿勢のもとに整備が進められてきた。今後も、各主体の持つ特性を活かし、5者の緊密な協調体制を維持・強化することが必要である。
    しかしながら、本都市の整備の方向性については、これまでの国の研究機関等の移転と、それに伴う公共公益施設の整備の段階から、土浦市、牛久市を含む広域的な視点を有し、環境共生等の観点を取り入れた新しい都市づくりのモデル地域としての整備へとシフトしていくことになる。都市建設、都市整備という都市づくりの基礎段階から都市発展を目指す新たな段階に達した今、これらに対応した各主体の役割の見直しも必要となる。

    高まる自治体の役割
    平成17年に予定されるつくばエクスプレスの整備を契機に人口の急激な増加が見込まれること、高齢人口の増加が確実なこと、生活面の充実に対する要望が強まることなどを踏まえると、住民に密着した自治体であるつくば市および茎崎町の役割は一層重要になる。本都市に居住する様々な住民の特性やニーズにきめ細かく対応し、居住環境の向上に努めるとともに、住民に対して地域市民として地域の政治・行政への関心を高め、参加を促すことが重要である。また、地方分権を巡る昨今の動向や、本都市が成熟段階に入ったことを鑑みると、市町は今後、住民に身近な団体として基礎的な都市行政を推進することはもとより、自然・田園・都市が調和した環境共生型都市づくりや都市と農村の交流推進母体として、トータルな街づくりの主体としての役割を担う必要がある。
    広域自治体としての茨城県は、つくばエクスプレスや圏央道等の基幹となる交通体系の整備の推進母体としての役割を一層強化し、また、研究学園地区を核としたつくばエクスプレス沿線開発等による都市圏の整備の推進に努めるほか、広域的な都市圏にふさわしい中枢拠点地区の形成や総合的な都市機能の充実など、広域都市圏整備のための総合的な計画・調整機能を発揮していくことが重要である。また、科学技術の集積や産業の振興を図ることは、本都市の自立的発展にとって重要な課題であり、この観点からも地域産業の活性化を担う茨城県の役割は重要であり、国の産業政策等と連携しつつ、本都市の科学技術の集積を活かした中小企業や農業など地域産業の振興を図る必要がある。

    地域住民や研究機関の都市づくりへの参画
    研究機関関係者、学生、外国人、さらには今後の新たな転入者を含めた住民は、地域市民として、街づくりや地域活動に積極的に参画することが求められる。特に、本都市の研究者は、海外での都市生活を経験する機会が多く、これまでにも経験を活かした都市づくりに関するいくつかの提案がなされているが、今後も「つくば」の都市づくりに参画する積極的姿勢が望まれる。また、国の研究教育機関や民間企業等についても筑波研究学園都市研究機関等連絡協議会等の活動を通じて、都市づくりに関する提言のとりまとめやその実践を通して、地域への貢献を更に進める必要がある。
    なお、研究学園都市づくりが住民等との理解・協力のもとに進められるのは当然のことであり、都市づくりに関する情報は、住民や本都市来訪者に広く周知するため、つくばインフォメーションセンター等を通じ適時適切に広報されるべきである。

    国の企画・調整機能の強化
    科学技術基本計画において、科学技術振興の中核拠点として位置づけられている本都市の整備にあたって国としての役割を果たす必要があることはいうまでもない。特に研究教育機関間の研究交流や共同研究の一層の推進を図るためには、関係省庁間の横断的調整を図ることが不可欠である。また、例えば、外国人研究者の生活支援に対しても、その支援システムを関係省庁が共同で整備するなどの努力が必要である。
    また、本都市は、新しい都市づくりのモデル地域として、ここでの成果を広く全国に還元していく使命を持ち続けていくことから、本都市の整備に対して、国としての役割を果たしていくことが必要である。
    現在、関係省庁の調整等のため「研究・学園都市建設推進本部」等が国土庁に置かれているが、これを中心に、今後の都市整備の方向性に対応した企画・調整機能を強化するとともに、関係省庁が一体となって取り組む体制づくりが必要である。

    まちづくり実施機関としての住宅・都市整備公団の役割
    本都市においては、今後、周辺開発地区において、つくばエクスプレス沿線を中心とする大規模かつ広域的な都市開発整備が必要となること、また、研究学園地区内の熟成、さらには都心地区の再整備や科学技術の集積を活かした次世代産業の立地促進、環境問題への対応等さまざまな課題がある。
    住宅・都市整備公団は、今後とも、本都市におけるまちづくりの主体として大きな役割を占めるため、他の主体と連携しながら、これまでの実績、総合的なまちづくりのノウハウや都心地区の資産を活かしつつ、本都市の都市づくりの重要な役割を担い、21世紀のパイロットモデル都市づくりを推進していくことが期待される。

    公的機関と連携する民間セクターの役割

    今後、成熟段階に入った本都市の都市整備においては、国、地方公共団体、住宅・都市整備公団等の公的機関に加えて、民間セクターの参入が不可欠であり、公的機関との連携を図りながら、民間セクターを都市づくりの中に取り込んでいくことが重要である。したがって、商業・業務施設、情報通信基盤、ホテル、物流施設等の整備に当たっては、民間セクターの導入を積極的に進めるとともに、民間セクターの活動環境を整備することが必要である。

    総合的都市づくり支援システムの構築
    間近に迫った21世紀に「科学技術創造立国」として国家の活路を拓こうとする我が国としては、この筑波研究学園都市の集積効果を最大限活用することは喫緊の課題であり、「つくば」関係者総体の責務である。また、本都市内の多数の研究機関の研究成果を街づくりと市民生活に積極的に活用することは、研究成果の実用化、普及宣伝という意味からも、快適な市民生活の実現という意味からも、研究機関と市民の共通の利益である。そのような意味からも、本都市はパイロットモデル都市として、今後も、環境との共生、多様なライフスタイルへの対応、緑に囲まれた美しいアーバンデザインなど、新しい都市づくりの課題に果敢に立ち向かい、ここでの成果を広く全国に還元していく役割をも担っている。この観点に立って、本都市は永遠に「未完の街」として未来に向かって挑戦する先導的都市であり続けることが必要である。
    このような先導的都市づくりは、通常の地方行政の範囲を超えるものであり、茨城県、つくば市、茎崎町による都市づくりを補完するためにも、国、住宅・都市整備公団の役割を継続させることはもとより、地域住民等の力をも活用する新たな概念としての総合的都市づくり支援システムを確立する必要がある。
    総合的都市づくり支援システムは、当然のことながら、各行政主体や研究機関が自らの役割と責任に基づき実行できる事業を含まない。むしろ、関係主体それぞれが果たす役割と責任の狭間に存在する課題を、関係主体間の共同、協調、連携により解決し、都市づくりに貢献するシステムである。例えば、研究機関が有機的に連携し地域産業活性化への貢献方策を深める際の仲介役を務めたり、外国人研究者の生活支援を各研究機関の共同委託に基づき実施したり、国際コンベンションの開催を企画推進したり、各研究機関の常設展示場のネットワークを形成するなどして科学技術の理解増進に努めたり、日常的に農業従事者と都市住民との交流を促進したりすることなど、既存の行政組織や各研究機関の個別努力では対応することが困難な課題に対し柔軟に対処するためのシステムである。
    国の関係機関、茨城県、つくば市、茎崎町等関係主体がその必要性を深く認識し、早急にそのシステム構築に取り組むことを強く期待する。

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