5.1 危険度判定評価の基本と方法
宅地擁壁老朽化に対する危険度判定評価では、擁壁の種類に応じて、それぞれの基礎点(環境条件・障害状況)と変状点の組み合わせ(合計点)によるものとし、その宅地擁壁の劣化の背景となる環境条件を十分に把握した上で、総合的な評価を行うものです。 |
5.2 擁壁の種類
擁壁の種類については次のように分類し、配点を行います(形状については表−1参照)。
1.練石積み・コンクリートブロック積み擁壁
2.重力式コンクリート擁壁
3.鉄筋コンクリート擁壁(プレキャストを含む)
4.空石積み擁壁(野面石積み・玉石積み等を含む)
5.増積み擁壁
6.二段擁壁
7.張出し床版付擁壁 |
表−1 擁壁の種類及び形状
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種類 |
形状 |
1 |
練石積み・コンクリ−トブロック積み擁壁 |
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2 |
重力式コンクリート擁壁 |
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3 |
鉄筋コンクリート擁壁
(プレキャストを含む) |
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4 |
空石積み擁壁
(野面石積み・玉石積み等を含む) |
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5 |
増積み擁壁 |
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6 |
二段擁壁 |
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7 |
張出し床版付擁壁 |
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●5.3.1 基礎点項目の解説
宅地擁壁の老朽化変状を事前に判断するための主な項目に関しては、以下のような事が明らかとなっています。
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●5.3.2 地盤条件
擁壁表面の湧水(浸潤及びにじみ出し・流出等も含む)状況を表−2で示すように分類し、表−8による配点を行います。 |
表−2 湧水の状況分類表
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分類 |
内容 |
形状 |
良い 
悪い |
3 |
擁壁表面がかわいている。 |
2 |
常に擁壁表面が湿っている。
擁壁背後が湿潤状態で目地や水抜き穴から湿気が感じられる状態。 |
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1 |
水がしみ出し、流出している。
水抜き穴はあるが、天端付近で水が浸透しやすい状況にあり、かつ湧水がある場合。 |
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●5.3.3 構造諸元
水抜き穴及び排水施設の状況を表−3で示すように分類し、表−8による配点を行います。ただし、空積み擁壁の場合は、背面排水施設の設置状況についてのみ区分します。 |
表−3 排水施設等の設置状況分類表
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分類 |
内容 |
形状 |
良い

悪い |
3 |
3m2に1ヶ所で内径75mm以上の水抜き穴及び排水施設があるかまたは、天端付近雨水の地盤への浸透が阻止されている場合。 |
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2 |
水抜き穴はあるが、天端付近で雨水が浸透し水抜穴の詰りが生じている状況にある場合。 |
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1 |
水抜き穴が設置されていないか、3m2に1ヶ所で内径75mm以上を満たしていない場合で雨水が浸透しやすい状況である場合。 |
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(2)擁壁高さ
擁壁高さについては1mを超えるものを対象とし、その最大地上高さに応じて表−8による配点を行います。 |
●5.3.4 障害状況
(1)排水施設の障害
排水施設の障害の程度を表−4で示すように分類し、表−8による配点を行います。また、排水施設の障害のそれぞれの状況を以下に示します。
障害Aとは、擁壁天端の排水溝に土砂が堆積し、雑草が繁茂するなどその排水機能を損なうものを示します。さらに、排水溝の目地部分がずれるなど、擁壁背面部に水が侵入する状況等を示します。
障害Bとは、擁壁の水抜き穴の詰まり、擁壁のクラック(ひび)や目地からの湧水、天端の小陥没などがある状況等を示します。
障害Cとは、障害Bに加え、破損、沈下、ずれなどがあり、排水機能が失われている状況等を示します。 |
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表−4 排水施設の障害の程度(A,B,C)の説明
※クリックすると拡大画像が見られます。
(2)劣化障害
劣化障害の程度は、擁壁のタイプにより異なるため、 表−5、 6で示すように分類し、 表−8による配点を行います。また、劣化障害のそれぞれの状況を以下に示します。ただし、空積み擁壁は対象外です。
1)練石積み・コンクリートブロック積み擁壁
障害Aとは、擁壁の石積み、又はコンクリートブロックの表面が風化により摩耗し、ざらざらとなっている状況等を示します。
障害Bとは、表面の摩耗に加え、合わせ目の破損が目立ち、目地モルタルが剥落している状況等を示します。
障害Cとしては、表面が剥離したり、欠損などが目立ち、抜け石も見られるなど風化の末期状況等を示します。 |
2)重力式・鉄筋コンクリート擁壁
1. 全面劣化障害
障害Aとは、擁壁全面に規則性のないクラックが散見される状況等を示します。
障害Bとは、障害Aに加え、アルカリ骨材反応による亀甲状のクラックが発生している状況等を示します。
障害Cとは、アルカリ骨材反応による亀甲状のクラックが明確となり、そのクラック幅も大きくなる状況等を示します。 |
2. 端面劣化障害
障害Aとは、積雪寒冷地等における凍害により擁壁端面の長手方向に沿って細かなクラックが発生している状況等を示します。
障害Bとは、擁壁端面周辺の長手方向に沿ってクラックが多数発生している状況等を示します。
障害Cとは、凍害によるポップアウトやスケーリング現象を生じるなど、擁壁端面周辺の長手方向に広範囲にクラックが発生し、角が欠け落ちている状況等を示します。 |
(3)白色生成物障害
白色生成物障害の程度は、擁壁のタイプにより異なるため、 表−7で示すように分類し、 表−8による配点を行います。また、白色生成物障害のそれぞれの状況を以下に示します。ただし、空積み擁壁は対象外です。
1)練石積み・コンクリートブロック積み擁壁
障害Aとは、積石の一部から裏込めコンクリートの白色生成物が折出している状況等を示します。
障害Bとは、積石の数箇所から白色生成物が折出しており、その高さが一定である状況等を示します。
障害Cとは、積石の全面に白色生成物が折出し、漏水も見られる状況等を示します。 |
2)重力式・鉄筋コンクリート擁壁
障害Aとは、擁壁表面のクラックが生じている一部に白色生成物が折出している状況等を示します。
障害Bとは、擁壁表面の数箇所のクラックを生じている部分に、白色生成物が析出している状況等を示します。
障害Cとは、擁壁全面に白色生成物が折出し、漏水も見られる状況等を示します。 |
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5.4 基礎点項目と配点
擁壁の基礎点を求めるには、まず以下の表−8により各項目で配点を行います。
次に各項目の配点から、環境条件(a)の中で最も大きな配点と、障害条件(b)の中で最も大きな配点の数値を加算します。これが擁壁の基礎点となります。 |
擁壁の基礎点
= 環境条件(a)の最大配点値 + 障害状況(b)の最大配点値 |
表−8:擁壁の基礎点項目と配点表
5.5 宅地擁壁の変状点項目
宅地擁壁の老朽化変状の形態は、各種擁壁の種類にかかわらず同様の項目に整理し、変状の程度を以下のように三つに分類します
- 小変状
変状を生じているが、その部分を補修することにより、その機能が回復するもの(使用限界状態)。
- 中変状
被災を受けており、補修または部分的な改修によりその機能が回復するもの(損傷限界状態)。
- 大変状
致命的な打撃を受け、その機能を失っているもの。また、復旧には全体の改修を要するもの(終局限界状態)。
宅地擁壁の老朽化変状点項目は、その軽微なものから大きいものまで項目別に整理し、各現象・想定原因別に分類した表−11〜19(左の下線部をクリックすると、表-11〜19がPDFでご覧になれます)をもとに、表―9のとおり配点します。
この際、宅地擁壁の変状点は、表−9の各項目の配点における最大点を採用します。
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表−9:宅地擁壁の変状点項目と配点表
※クリックすると拡大画像が見られます。
ただし、小変状にも該当しない微小な変状の場合の配点は0点とする。
注1) コンク:コンクリート
CB :コンクリートブロック
注2) 鉄筋コンクリートの場合のみ考慮する。 |
5.6 危険度の評価
擁壁の危険度の評価は、表―8の基礎点(配点の最大値a+b)に、表―9の変状点(配点の最大値)を加算した値を、表−10に示す「点数の最大値」として危険度評価区分により行います。 |
危険度評価区分(点数の最大値)= 基礎点 + 変状点 |
点数の最大値 |
危険度
評価区分 |
評価内容 |
5.0点未満 |
小 |
小さなクラック等の障害について補修し、雨水の浸透を防止すれば、当面の危険性はないと考えられる宅地擁壁である。 |
5.0点以上
〜9.0点未満 |
中 |
変状程度の著しい宅地擁壁であるが、経過観察で対応し、変状が進行性のものとなった場合は継続的に点検を行うものとする。また、必要がある場合は変状等の内容及び規模により、必要に応じて勧告・改善命令の発令を検討し、防災工事の必要性についても検討を行う必要がある。 |
9.0点以上 |
大 |
変状等の程度が特に顕著で、危険な宅地擁壁である。早急に所有者等に対しての勧告・改善命令の発令を検討する必要があり、防災工事を行うとともに、周辺に被害を及ぼさないよう指導する。 |
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※表−11〜19:左の下線部をクリックすると、表−11〜19がPDFでご覧になれます。
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