国総民発第七号
平成一三年五月二四日

都道府県・政令指定都市・中核市・特例市宅地防災行政担当部長あて

国土交通省総合政策局民間宅地指導室長通知


宅地造成等規制法の施行にあたっての留意事項について


平成一二年四月一日付けで「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(平成一一年法律第八七号)が施行され、宅地造成等規制法(昭和三六年法律第九一号)に基づく許可等の事務が機関委任事務から自治事務に移行したところであります。
これに伴い、別紙一に掲げる宅地造成等規制法の施行に関し発出した通達もその効力を失ったところであり、その旨御了知願います。
なお、今般、宅地造成等規制法の施行にあたっての留意事項を別紙二のとおり、まとめたので、参考とされたく送付いたします。



別紙一

平成一二年四月一日付けで廃止になった通達

○宅地造成等規制法の施行について
(昭和三七年二月一日)
(住発第七号)
○宅地造成等規制法の運用について
(昭和三七年二月二〇日)
(住発第四九号)
○地方自治法等の一部改正による中核市制度の創設に伴う宅地造成等規制法の運用上の留意点について
(平成七年七月三日)
(建設省経民発第二六号)
○宅地造成工事規制区域の指定について
(平成九年一月九日)
(建設省経民発第一号)
○宅地造成に関する工事の許可に係る事務の迅速化について
(平成一一年九月一〇日)
(建設省経民発第三五号)
○「特殊擁壁の材料又は構法による擁壁」に関する大臣認定の取扱いについて
(平成二年六月六日)
(建設省経民発第二二号)
○コンクリートブロック練積み造擁壁の認定について
(昭和四〇年七月五日)
(住地発第三六号)
○宅地造成等規制法の施行に伴う建築基準法の一部改正について
(昭和三七年二月二七日)
(住発第五六号)
○宅地造成工事規制区域内における建築確認事務の取扱いについて
(昭和四四年三月二八日)
(/建設省計宅開発第二九号/建設省住指発第九九号/)
○宅地造成等規制法と建築基準法の運用に際しての連絡調整について
(昭和五一年八月五日)
(建設省計宅発第六八号)
○宅地造成に伴うがけくずれ又は土砂の流出による災害の防止について
(昭和四四年七月一七日)
(建設省計宅開発第六七号)
○宅地造成に伴う災害の防止について
(平成一一年六月一〇日)
(建設省経民発第一五号)
○宅地造成に伴う災害の防止について
(平成一一年六月一〇日)
(建設省経民発第一六号)
○宅地防災マニュアルの改定について
(平成一〇年二月三日)
(建設省経民発第一号)
○宅地防災マニュアルの改定について
(平成一〇年二月三日)
(建設省経民発第二号)
○宅地防災マニュアルの改定について
(平成一〇年二月三日)
(建設省経民発第三号)
○宅地防災マニュアルの改定について
(平成一〇年二月三日)
(建設省経民発第四号)
○宅地防災マニュアルの改定について
(平成一〇年二月三日)
(建設省経民発第五号)
○宅地開発に伴い設置される浸透施設等について
(平成一〇年二月三日)
(建設省経民発第六号)
○宅地擁壁の復旧技術マニュアルについて
(平成七年八月二五日)
(建設省経民発第三一号)
○宅地擁壁の復旧技術マニュアルについて
(平成七年八月二五日)
(建設省経民発第三二号)
○宅地擁壁の復旧技術マニュアルについて
(平成七年八月二五日)
(建設省経民発第三三号)



別紙二

宅地造成等規制法の施行にあたっての留意事項について

第1 総括的事項

(1) 慎重かつ厳格な許可、監督及び検査

宅地造成工事規制区域内において行なわれる宅地造成に関する工事については、その許可、監督及び検査を慎重かつ厳正に行ない宅地造成に伴う災害の防止に遺憾なきを期すべきであること。

(2) 適正な区域指定の促進等

宅地造成工事規制区域については、宅地造成に伴い災害が生じるおそれの著しい区域であるので、適正な区域指定の促進を図り、宅地造成に伴う災害の防止に万全を期すべきであること。
なお、区域指定にあたっては、「宅地造成等規制法に基づく宅地造成工事規制区域指定要領(別添一)」を参考とされ、指定後の宅地造成等規制法第三条第三項の規定に基づく国土交通大臣への報告にあたっては、管轄する地方整備局長等あてに行うべきであること。

(3) 関係機関との調整

1) 指定文化財の現状を変更し又は保存に影響を及ぼす行為を伴う宅地造成に関する工事の許可、勧告又は命令をしようとする場合は、あらかじめ、関係機関と連絡調整を図ることが望ましいこと。
2) 宅地造成に関する工事について許可した場合及び検査済証を交付した場合には、管轄の建築主事に対してその旨を連絡することが望ましいこと。

第2 宅地造成に関する工事等の許可について

(1) 宅地造成工事規制区域内において行なわれる宅地造成に関する工事に係る許可に際しては、「宅地防災マニュアル(別添二)」及び「宅地開発に伴い設置される浸透施設等設置技術指針(別添三)」を参考とし、慎重かつ厳正に行ない災害の防止に遺憾なきを期すべきであること。また、工事中の災害の防止を図るため、できるだけ具体的な条件を附することが望ましいこと。
(2) 宅地造成に関する工事の許可に係る事務の処理期間については、申請者の負担を軽減するために、一層の事務の迅速化が求められ、適切な標準処理期間を設けることが必要であり、原則として申請のあった日から二一日以内の期間を設定することが望ましく、また、今後も標準処理期間の設定及び短縮化に努め、一層の事務の迅速化を図ることが望ましいこと。
(3) 擁壁の透水層については、擁壁の裏面で水抜き穴の周辺その他必要な場所には砂利等の透水層を設ける旨規定されているが、「砂利等」として石油系素材を用いた「透水マット」の使用についても、その特性に応じた適正な使用方法であれば、認めても差し支えないこと。
(4) 宅地造成等規制法施行令第一五条の規定により認定を受けた擁壁については、認定書別記に記載されている事項を確認するなど適切に審査すべきであること。

なお、胴込めにコンクリートを用いて充填するコンクリートブロック練積み造擁壁については、昭和四〇年六月一四日建設省告示第一四八五号において明らかにされているところであるが、審査にあたっては、以下の点に留意することが望ましいこと。
1) 胴込めにコンクリートを用いて充填するコンクリートブロック練積み造擁壁が告示の各号に適合するものであるかどうかについては、宅地造成等規制法第八条第一項の規定による許可の際に許可権者は慎重に審査すること。
2) 胴込めにコンクリートを用いて充填するコンクリートブロック練積み造の擁壁とは、告示の別表に規定する控え長さ一杯までコンクリートを充填し、胴込めに用いたコンクリートが連続して一体の構造となる擁壁であること。
3) 第三号のコンクリートブロックの重量は胴込めコンクリートを充填せずに、当該コンクリートブロックを積み上げたと仮定した場合の壁面一平方メートル当りの重量であること。
4) 第四号の使用実績は当分の間は五〇万箇程度以上の使用実績があり、かつ、過去に倒壊等の重大な支障を生じたことのないものであること。
5) 第五号の壁体の曲げ強度はコンクリートブロック四×六個又は五×七個の試験体三体以上について試験しその結果によること。
6) 第六号の載荷量は擁壁の高さだけ擁壁上端より後退した範囲の載荷重とすること。

第3 工事完了の検査について

宅地造成等規制法担当部局は、許可をした宅地造成工事が完了した場合には、遅滞なく工事完了検査を実施すべきであること。
このため、造成主に対する工事完了検査申請の督励、工事中における報告の徴取、必要な中間検査の実施及び是正措置の確認に努めることが望ましいこと。
また、宅地造成工事が全部完了しない場合でも、部分検査が可能であれば、これを積極的に行なうようにすることが望ましいこと。

第4 工事の届出

法第一四条第一項の規定による届出があった場合において、届出の内容が事実と相違すると認めたときは、届出者に対し、その旨を文書により連絡することが望ましいこと。

第5 監督処分等について

(1) 常に宅地造成工事規制区域内の宅地の状況に留意し、宅地造成に伴う災害の防止のため必要があると認めるときは、すみやかに、適正な勧告又は命令を行なうべきであること。

また、無許可で宅地造成工事が行われている場合等については、厳格に法に基づいて適切な措置を講じるべきであること。
なお、勧告又は命令を行なうにあたっては、当該宅地の状況を十分調査するとともに、周囲の土地の状況も勘案して、当該宅地の所有者等に対して、不当な義務を課することとならないよう留意することが望ましいこと。

(2) 勧告又は命令については、勧告又は命令しようとする措置の内容を具体的に明らかにして行ない、かつ、当該措置が適確にとられているか否かについての確認を行なうべきであること。なお、勧告又は命令を行なう場合には、あらかじめ特定行政庁と連絡調整を図ることが望ましいこと。
(3) 宅地擁壁が被災した場合等において災害復旧や危険擁壁の改築等を行うに当たっては、宅地擁壁の復旧等に関する基本的な考え方及び工法選定上留意すべき点を整理した「宅地擁壁の復旧技術マニュアル(別添四)」を参考として、審査・指導事務の迅速化を図るとともに安全な宅地の早期復旧の促進に努めることが望ましいこと。



(別添一)

『宅地造成等規制法に基づく宅地造成工事規制区域指定要領』

第1 目的

この要領は、宅地造成等規制法(昭和三六年法律第一九一号。以下「法」という。)第三条の規定に基づく宅地造成工事規制区域(以下「規制区域」という。)の指定に当たっての考え方を明確にすることにより、適正な規制区域指定の促進を図り、もって宅地造成に伴う災害の防止に資することを目的とする。

第2 用語の定義

この要領において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
1 造成に伴い災害の生ずるおそれの強いがけの発生しやすい地域

勾配が一五度を超える傾斜地が過半を占める区域をいう。
(解説) 災害の生ずるおそれの強いがけとは、地表面が水平面に対して三〇度を超える角度をなす土地のことであり、高さ一メートル以上の盛土又は二メートル以上の切土のがけ面が生ずる場合は、法の規定により擁壁を設置しなければならないが、このようながけ面は勾配が一五度を超える傾斜地において、平均的な宅地造成(十メートル四方程度以上)を行った場合に必ず生ずることになる。

2 災害の発生しやすい地盤特性を有する地域

火山灰(関東ローム、シラス等)台地、風化の進行が著しい台地又は地盤の軟弱な台地が過半を占める区域をいう。
(解説) 火山灰や風化の進行しやすい土質・地質条件の場合、その特性から降雨等により土砂の崩壊や流出が発生しやすく、これらの地盤特性を有する丘陵地、台地等において宅地造成が行われた場合は、一般的にがけくずれ、土砂の流出による災害を受けるおそれが強い。また、宅地造成が行われる地盤が軟弱である場合は、盛土等を行った際に、地盤沈下やのり面崩壊等の宅地災害が発生するおそれが強い。

なお、宅地災害のおそれのある地域として、地震時に液状化する可能性のある地盤が挙げられるが、法が主としてがけくずれ又は土砂の流出による宅地災害を防止することを目的としているため、原則として、地震時に液状化する可能性のみが災害の発生しやすい地盤特性としてある場合は、この要領において、災害の発生しやすい地盤特性を有する地域には含めないこととする。

3 土砂災害発生の危険性を有する地域

土砂災害発生の危険性を有する地域とは、次に掲げる地域のことをいう。
(イ) 一定の区域内に急傾斜地崩壊危険箇所、地すべり危険箇所、土石流危険渓流等の土砂災害に係る危険箇所が相当の割合で存在する地域
(ロ) 過去に大災害が発生した地域

4 都市計画区域

都市計画法(昭和四三年法律第一〇〇号)第五条の規定に基づき指定された都市計画区域及び追加編入又は新たに区域指定が行われる予定の区域をいう。

5 地域開発計画等策定区域

法令等に基づいているか否かを問わず、地域の総合計画、開発計画等が策定されている区域をいう。

第3 指定の対象とする区域

指定の対象とする区域は、次に掲げる自然的要件及び社会的要件を満たす区域とする。
1 自然的要件

自然的要件とは、次のいずれかに該当するものとする。
(イ) 造成に伴い災害の生ずるおそれの強いがけの発生しやすい地域
(ロ) 災害の発生しやすい地盤特性を有する地域
(ハ) 土砂災害発生の危険性を有する地域

2 社会的要件

社会的要件とは、次のいずれかに該当するものとする。
(イ) 都市計画区域
(ロ) 地域開発計画等策定区域
(ハ) 現に宅地造成が行われている区域又は今後宅地造成が行われると予想される区域(必要に応じ既に宅地造成が行われた区域を含む。)
(ニ) その他関係地方公共団体の長が必要と認める区域

第4 規制区域指定のための調査

1 規制区域指定のための検討手順

規制区域の指定を行うに当たっては、当該区域が指定の要件に該当するかの具体的な技術的判断がその前提となるため、以下の手順に基づき、当該調査対象区域が規制区域指定の要件に該当するかを技術的観点から検討し、指定の候補区域を確定するものとする。

2 区域の調査、検討に当たっての留意事項

調査の実施に際し、自然的要件及び社会的要件に該当する区域の検討にあっては、以下の事項に留意するものとする。
イ 自然的要件に該当する土地の区域の選定

(1) 造成に伴い災害の生ずるおそれの強いがけの発生しやすい地域

(イ) 使用する基図:一万分の一程度の地形図
(ロ) 勾配が一五度を超える傾斜地の区域については、ホートン法等一般に認められた斜面傾斜の算定法を用いて、勾配が一五度を超える傾斜地をゾーニングする。斜面傾斜は、一キロメートル四方程度の一帯区域を単位として勾配を算出するものとする。

縁辺部のゾーニングは、航空写真、現地調査等により確認する。

(2) 災害の発生しやすい地盤特性を有する地域

(イ) 使用する基図:一万分の一程度の地質図
(ロ) 火山灰・風化の著しい土質・地質並びに軟弱地盤については、各地域において一般に認められている当該土質・地質の分布図等を用いてゾーニングする。

土質・地質の境界部は、現地調査等により確認する。

(3) 土砂災害発生の危険性を有する地域

(イ) 使用する基図:一万分の一程度の地形図
(ロ) 一キロメートル四方程度の一帯区域を単位として、当該区域内に急傾斜地崩壊危険箇所、地すべり危険箇所、土石流危険渓流等の土砂災害に係る危険箇所が相当の割合で存在する区域をゾーニングする。
(ハ) 過去の災害履歴を整理し、その原因・被害程度等を考慮して再び災害が生じるおそれの高い区域をゾーニングする。

ロ 社会的要件に該当する土地の区域の選定

(1) 都市計画区域

既存の都市計画図(一万分の一程度)を用いて、都市計画区域について、上記の自然的要件を満たす区域をゾーニングする。

(2) 地域開発計画等策定区域

地域開発計画等策定区域について、一万分の一程度の縮尺の基図を用いて、上記の自然的要件を満たす区域をゾーニングする。

(3) 上記(1)及び(2)の外、現に宅地造成が行われている区域、今後宅地造成が行われると予想される区域又は関係地方公共団体の長が必要と認める区域については、一万分の一程度の縮尺の基図を用いて、上記の自然的要件を満たす区域をゾーニングする。

第5 指定の手続

規制区域の指定に当たっては、以下の手順により行うものとする。
(注1):概略調査は机上における調査を主体とし、詳細調査は現地における調査を主体とする。
(注2):都道府県知事及び関係市町村長は、区域住民の協力が得られるよう、必要に応じて説明会、広報誌等によるPRなどについて積極的な対応を図ることが望ましい。

第6 境界の設定について

規制区域の境界については、尾根、傾斜変換点等の地形的条件のほか、河川、水路、道路、鉄道、同一の字等により規制区域界が明瞭に判断できる諸条件を勘案して設定するものとする。

第7 国土交通大臣への報告

この要領に基づき規制区域の指定を行った場合は、法第三条第三項の規定により、下記の項目について国土交通大臣に報告するものとする。
1 指定を公示した日、番号及び公報の写し
2 指定を行った理由



(別添二)

『宅地防災マニュアル』

I 総説

I・1 目的
本マニュアルは、開発事業に伴うがけ崩れ、土砂の流出等による災害及び地盤の沈下、溢水等の障害を防止するために、切土、盛土、のり面の保護、擁壁、軟弱地盤の対策、排水の処理等についての基本的な考え方及び設計・施工上留意すべき点を整理したものである。
これによって、上記の災害及び障害を防止するとともに、開発許可等の事務手続きの迅速化及び適正化を図り、もって開発事業の円滑な実施に資することを目的とする。
I・2 対象範囲
本マニュアルは、宅地造成等規制法(昭和三六年法律第一九一号)の許可等を必要とする宅地造成に関する工事及び都市計画法(昭和四三年法律第一〇〇号)の許可を必要とする開発行為(以下「開発事業」と総称する。)を対象とし、開発事業者が事業を実施する際及び行政担当者が開発事業を審査する際の参考に供するものである。
I・3 取扱い方針
開発事業の実施に当たっては、本マニュアルに示す基本的な考え方及び留意事項を踏まえた上で、さらに開発事業を実施する区域(以下「開発事業区域」という。)の気象、地形、地質、地質構造、土質、環境等の自然条件、開発事業の内容、土地利用状況等の社会条件に留意して、個々具体的に必要な防災措置を検討するものとする。
I・4 関連指針等
本マニュアルに示されていない事項については、一般的に認められている他の技術的指針等を参考にするものとする。

II 開発事業区域の選定及び開発事業の際に必要な調査

II・1 開発事業区域の選定
開発事業区域の選定に当たっては、あらかじめ法令等による行為規制、地形・地質・地盤条件等の土地条件、過去の災害記録、各種公表された災害危険想定地域の関係資料等について必要な情報を収集し、防災上の観点からこれについて十分に検討することが必要である。
II・2 開発事業の際に必要な調査
開発事業の実施に当たっては、気象、地形、地質、地質構造、土質、環境、土地利用状況等に関する調査を行い、開発事業区域(必要に応じてその周辺区域を含む。)の状況を十分に把握することが必要である。

III 開発事業における防災措置に関する基本的留意事項

開発事業における防災措置は、基本的に次の各事項に留意して行うものとする。

1) 開発事業の実施に当たっては、開発事業区域の気象、地形、地質、地質構造、土質、環境、土地利用状況等について必要な調査を行い、その結果を踏まえて適切な措置を講じること。
なお、必要に応じて開発事業区域周辺も含めて調査を行うこと。
2) 開発事業における防災措置の検討に当たっては、開発事業全体の設計・施工計画との整合性に留意すること。
3) 工事施工中における濁水、土砂の流出等による災害及び障害を防止するために必要な措置を講じること。
4) 他の法令等による行為規制が行われている区域で開発事業を実施する場合には、関係諸機関と調整、協議等を行うこと。

IV 耐震対策

IV・1 耐震対策の基本目標
開発事業において造成される土地、地盤、土木構造物等(以下「宅地」という。)の耐震対策においては、宅地又は当該宅地を敷地とする建築物等の供用期間中に一?二度程度発生する確率を持つ一般的な地震(中地震)の地震動に際しては、宅地の機能に重大な支障が生じず、また、発生確率は低いが直下型又は海溝型巨大地震に起因するさらに高レベルの地震(以下「大地震」という。)の地震動に際しては、人命に重大な影響を与えないことを耐震対策の基本的な目標とする。
IV・2 耐震対策検討の基本的な考え方
開発事業の実施に当たっては、開発事業における土地利用計画、周辺の土地利用状況、当該地方公共団体の定める地域防災計画等を勘案するとともに、原地盤、盛土材等に関する調査結果に基づき、耐震対策の必要性、必要な範囲、耐震対策の目標等を具体的に検討することが必要である。
また、耐震対策の検討は、開発事業の基本計画作成の段階から、調査、設計及び施工の各段階に応じて適切に行うことが大切である。
IV・3 耐震設計の基本的な考え方
開発事業において耐震対策の必要な施設については、当該施設の要求性能等に応じて、適切な耐震設計を行わなければならない。
盛土のり面及び擁壁の安全性に関する検討においては、震度法により、地盤の液状化判定に関する検討においては、簡易法により設計を行うことを標準とし、必要に応じて動的解析法による耐震設計を行う。

V 切土

V・1 切土のり面の勾配
切土のり面の勾配は、のり高、のり面の土質等に応じて適切に設定するものとし、そのがけ面は、原則として擁壁で覆わなければならない。
ただし、次表に示すのり面は、擁壁の設置を要しない。
なお、次のような場合には、切土のり面の安定性の検討を十分に行った上で勾配を決定する必要がある。
1) のり高が特に大きい場合
2) のり面が、割れ目の多い岩、流れ盤、風化の速い岩、侵食に弱い土質、崩積土等である場合
3) のり面に湧水等が多い場合
4) のり面又はがけの上端面に雨水が浸透しやすい場合
表 切土のり面の勾配(擁壁の設置を要しない場合)

 
のり高
がけの上端からの垂直距離
 
のり面の土質
 
1)H≦5m
2)H>5m
軟岩(風化の著しいものは除く)
 
80度以下
(約1:0.2)
60度以下
(約1:0.6)
風化の著しい岩
 
50度以下
(約1:0.9)
40度以下
(約1:1.2)
砂利、まき土、関東ローム、硬質粘土、その他これらに類するもの
 
45度以下
(約1:1.0)
35度以下
(約1:1.5)

V・2 切土のり面の安定性の検討
切土のり面の安定性の検討に当たっては、安定計算に必要な数値を土質試験等により的確に求めることが困難な場合が多いので、一般に次の事項を総合的に検討した上で、のり面の安定性を確保するよう配慮する必要がある。
1) のり高が特に大きい場合

地山は一般に複雑な地層構成をなしていることが多いので、のり高が大きくなるに伴って不安定要因が増してくる。したがって、のり高が特に大きい場合には、地山の状況に応じて次の2)?7)の各項について検討を加え、できれば余裕のあるのり面勾配にする等、のり面の安定化を図るよう配慮する必要がある。

2) のり面が割れ目の多い岩又は流れ盤である場合

地山には、地質構造上、割れ目が発達していることが多く、切土した際にこれらの割れ目に沿って崩壊が発生しやすい。したがって、割れ目の発達程度、岩の破砕の度合、地層の傾斜等について調査・検討を行い、周辺の既設のり面の施工実績等も勘案の上、のり面の勾配を決定する必要がある。
特に、のり面が流れ盤の場合には、すべりに対して十分留意し、のり面の勾配を決定することが大切である。

3) のり面が風化の速い岩である場合

のり面が風化の速い岩である場合は、掘削時には硬く安定したのり面であっても、切土後の時間の経過とともに表層から風化が進み、崩壊が発生しやすくなるおそれがある。したがって、このような場合には、のり面保護工により風化を抑制する等の配慮が必要である。

4) のり面が侵食に弱い土質である場合

砂質土からなるのり面は、表面流水による侵食に特に弱く、落石、崩壊及び土砂の流出が生じる場合が多いので、地山の固結度及び粒度に応じた適切なのり面勾配とするとともに、のり面全体の排水等に十分配慮する必要がある。

5) のり面が崩積土等である場合

崖すい等の固結度の低い崩積土からなる地山において、自然状態よりも急な勾配で切土をした場合には、のり面が不安定となって崩壊が発生するおそれがあるので、安定性の検討を十分に行い、適切なのり面勾配を設定する必要がある。

6) のり面に湧水等が多い場合

湧水の多い箇所又は地下水位の高い箇所を切土する場合には、のり面が不安定になりやすいので、のり面勾配を緩くしたり、湧水の軽減及び地下水位の低下のためののり面排水工を検討する必要がある。

7) のり面又はがけの上端面に雨水が浸透しやすい場合

切土によるのり面又はがけの上端面に砂層、礫層等の透水性の高い地層又は破砕帯が露出するような場合には、切土後に雨水が浸透しやすくなり、崩壊の危険性が高くなるので、のり面を不透水性材料で覆う等の浸透防止対策を検討する必要がある。

V・3 切土のり面の形状
切土のり面の形状には、単一勾配ののり面及び土質により勾配を変化させたのり面があるが、その採用に当たっては、のり面の土質状況を十分に勘案し、適切な形状とする必要がある。
なお、のり高の大きい切土のり面では、のり高五m程度ごとに幅一?二mの小段を設けるのが一般的である。
V・4 切土の施工上の留意事項
切土の施工に当たっては、事前の調査のみでは地山の状況を十分に把握できないことが多いので、施工中における土質及び地下水の状況の変化には特に注意を払い、必要に応じてのり面勾配を変更する等、適切な対応を図るものとする。
なお、次のような場合には、施工中にすべり等が生じないよう留意することが大切である。
1) 岩盤の上を風化土が覆っている場合
2) 小断層、急速に風化の進む岩及び浮石がある場合
3) 土質が層状に変化している場合
4) 湧水が多い場合
5) 表面はく離が生じやすい土質の場合
V・5 長大切土のり面の維持管理
開発事業に伴って生じる長大切土のり面は、将来にわたる安全性の確保に努め、維持管理を十分に行う必要がある。

VI 盛土

VI・1 原地盤の把握
盛土の設計に際しては、地形・地質調査等を行って盛土の基礎地盤の安定性を検討することが必要である。
特に、盛土の安定性に多大な影響を及ぼす軟弱地盤及び地下水位の状況については、入念に調査するとともに、これらの調査を通じて盛土のり面の安定性のみならず、基礎地盤を含めた盛土全体の安定性について検討することが必要である。
VI・2 盛土のり面の勾配
盛土のり面の勾配は、のり高、盛土材料の種類等に応じて適切に設定し、原則として三〇度以下とする。
なお、次のような場合には、盛土のり面の安定性の検討を十分に行った上で勾配を決定する必要がある。
1) のり高が特に大きい場合
2) 盛土が地山からの湧水の影響を受けやすい場合
3) 盛土箇所の原地盤が不安定な場合
4) 盛土が崩壊すると隣接物に重大な影響を与えるおそれがある場合
5) 腹付け盛土となる場合
VI・3 盛土のり面の安定性の検討
盛土のり面の安定性の検討に当たっては、次の各事項に十分留意する必要がある。
ただし、安定計算の結果のみを重視してのり面勾配等を決定することは避け、近隣又は類似土質条件の施工実績、災害事例等を十分参照することが大切である。
1) 安定計算

盛土のり面の安定性については、円弧すべり面法により検討することを標準とする。
また、円弧すべり面法のうち簡便式(スウェーデン式)によることを標準とするが、現地状況等に応じて他の適切な安定計算式を用いる。

2) 設計強度定数

安定計算に用いる粘着力(C)及び内部摩擦角(φ)の設定は、盛土に使用する土を用いて、現場含水比及び現場の締固め度に近い状態で供試体を作成し、せん断試験を行うことにより求めることを原則とする。

3) 間げき水圧

盛土の施工に際しては、透水層を設けるなどして、盛土内に間げき水圧が発生しないようにすることが原則である。
しかし、開発事業区域内における地下水位又は間げき水圧の推定は未知な点が多く、また、のり面の安全性に大きく影響するため、安定計算によって盛土のり面の安定性を検討する場合は、盛土の下部又は側方からの浸透水による水圧を間げき水圧(u)とし、必要に応じて、雨水の浸透によって形成される地下水による間げき水圧及び盛土施工に伴って発生する過剰間げき水圧を考慮する。
また、これらの間げき水圧は、現地の実測によって求めることが望ましいが、困難な場合は他の適切な方法によって推定することも可能である。

4) 最小安全率

盛土のり面の安定に必要な最小安全率(Fs)は、盛土施工直後において、Fs≧1.5であることを標準とする。
また、地震時の安定性を検討する場合の安全率は、大地震時にFs≧1.0とすることを標準とする。

VI・4 盛土のり面の形状
盛土のり面の形状は、気象、地盤条件、盛土材料、盛土の安定性、施工性、経済性、維持管理等を考慮して合理的に設計するものとする。
なお、のり高が小さい場合には、のり面の勾配を単一とし、のり高が大きい場合には、のり高五m程度ごとに幅一?二mの小段を設けるのが一般的である。
また、この場合、二つの小段にはさまれた部分は単一勾配とし、それぞれの小段上面の排水勾配は下段ののりと反対方向に下り勾配をつけて施工する。
VI・5 盛土の施工上の留意事項
盛土の施工に当たっては、次の各事項に留意することが大切である。
1) 原地盤の処理

盛土の基礎となる原地盤の状態は、現場によって様々であるので、現地踏査、土質調査等によって原地盤の適切な把握を行うことが必要である。
調査の結果、軟弱地盤として対策工が必要な場合は、「IX 軟弱地盤対策」により適切に処理するものとし、普通地盤の場合には盛土完成後の有害な沈下を防ぎ、盛土と基礎地盤のなじみをよくしたり、初期の盛土作業を円滑にするために次のような原地盤の処理を行うものとする。
1) 伐開除根を行う。
2) 排水溝及びサンドマットを単独又はあわせて設置し排水を図る。
3) 極端な凹凸及び段差はできるだけ平坦にかき均す。
なお、既設の盛土に新しく腹付けして盛土を行う場合にも同様な配慮が必要であるほか、既設の盛土の安定に関しても十分な注意を払うことが必要である。

2) 傾斜地盤上の盛土

勾配が一五度(約1:4.0)程度以上の傾斜地盤上に盛土を行う場合には、盛土の滑動及び沈下が生じないように原地盤の表土を十分に除去するとともに、原則として段切りを行うことが必要である。
また、谷地形等で地下水位が高くなる箇所における傾斜地盤上の盛土では、勾配にかかわらず段切りを行うことが望ましい。

3) 盛土材料

盛土材料として、切土からの流用土又は付近の土取場からの採取土を使用する場合には、これらの現地発生材の性質を十分把握するとともに、次のような点を踏まえて適切な対策を行い、品質のよい盛土を築造する。
1) 岩塊、玉石等を多量に含む材料は、盛土下部に用いる等、使用する場所に注意する。
2) 頁岩、泥岩等のスレーキングしやすい材料は用いないことを原則とするが、やむを得ず使用する場合は、その影響及び対策を十分検討する。
3) 腐植土、その他有害な物質を含まないようにする。
4) 高含水比粘性土については、5)に述べる含水量調節及び安定処理により入念に施工する。
5) 比較的細砂で粒径のそろった砂は、地下水が存在する場合に液状化するおそれがあるので、十分な注意が必要である。

4) 敷均し

盛土の施工に当たっては、一回の敷均し厚さ(まき出し厚さ)を適切に設定し、均等かつ所定の厚さ以内に敷均す。

5) 含水量調節及び安定処理

盛土の締固めは、盛土材料の最適含水比付近で施工するのが望ましいので、実際の含水比がこれと著しく異なる場合には、バッ気又は散水を行って、その含水量を調節する。
また、盛土材料の品質によっては、盛土の締固めに先立ち、化学的な安定処理等を行う。

6) 締固め

盛土の締固めに当たっては、所定の品質の盛土を仕上げるために、盛土材料、工法等に応じた適切な締固めを行う。
特に切土と盛土の接合部は、地盤支持力が不連続になったり、盛土部に湧水、浸透水等が集まり盛土が軟化して完成後仕上げ面に段違いを生じたり、地震時にはすべり面になるおそれもあることから、十分な締固めを行う必要がある。

7) 防災小堤

盛土施工中の造成面ののり肩には、造成面からのり面への地表水の流下を防止するために、必要に応じて、防災小堤を設置する。

VI・6 盛土内排水層
高盛土又は地下水による崩壊の危険性が高い盛土の場合には、盛土内に水平排水層を設置して地下水の上昇を防ぐとともに、降雨による浸透水を速やかに排除して、盛土の安定を図ることが大切である。

VII のり面保護

VII・1 のり面保護の基本的な考え方
開発事業に伴って生じるがけ面を擁壁で覆わない場合には、そのがけ面が風化、侵食等により不安定化するのを抑制するために、のり面緑化工又は構造物によるのり面保護工でがけ面を保護するものとする。
VII・2 のり面保護工の種類
のり面保護工の種類としては、のり面緑化工、構造物によるのり面保護工及びのり面排水工がある。
VII・3 のり面保護工の選定
のり面保護工は、のり面の勾配、土質、気象条件、保護工の特性、将来の維持管理等について総合的に検討し、経済性・施工性にすぐれた工法を選定するものとする。
工法の選定に当たっては、次の各事項に留意することが大切である。
1) 植生可能なのり面では、のり面緑化工を選定し、植生に適さないのり面又はのり面緑化工では安定性が確保できないのり面では、構造物によるのり面保護工を選定するのが一般的である。
2) のり面緑化工及び構造物によるのり面保護工では、一般にのり面排水工が併設される。
3) 同一のり面においても、土質及び地下水の状態は必ずしも一様でない場合が多いので、それぞれの条件に適した工法を選定する必要がある。
VII・4 のり面緑化工の設計・施工上の留意事項
のり面緑化工の成否は、植物の生育いかんによるため、その設計・施工に当たっては、次の各事項に留意することが大切である。
1) のり面緑化工完成に必要な施工場所の立地条件を調査すること
2) のり面の勾配は、なるべく四〇度(約1:1.2)より緩い勾配とすること
3) のり面の土質は、植物の生育に適した土壌とすること
4) 植物の種類は、活着性がよく、生育の早いものを選定すること
5) 施工時期は、なるべく春期とし、発芽に必要な温度・水分が得られる範囲で、可能な限り早い時期に施工すること
6) 発芽・生育を円滑に行うために、条件に応じた適切な補助工法を併用すること
7) 日光の当たらない場所等植物の生育の困難な場所は避けること
VII・5 構造物によるのり面保護工の設計・施工上の留意事項
構造物によるのり面保護工の設計・施工に当たっては、のり面の勾配、土質、湧水の有無等について十分に検討することが大切である。
VII・6 のり面排水工の設計・施工上の留意事項
のり面排水工の設計・施工に当たっては、次の各事項に留意することが大切である。
1) 地下水及び湧水の状況を把握するために、事前に十分な調査を行うこと
2) のり面を流下する地表水は、のり肩及び小段に排水溝を設けて排除すること
3) 浸透水は、地下の排水施設により速やかに地表の排水溝に導き排除すること
4) のり面排水工の流末は、十分な排水能力のある排水施設に接続すること

VIII 擁壁

VIII・1 擁壁の基本的な考え方
開発事業において、次のような「がけ」が生じた場合には、がけ面の崩壊を防ぐために、原則としてそのがけ面を擁壁で覆わなければならない。
1) 切土をした土地の部分に生ずる高さが二mを超える「がけ」
2) 盛土をした土地の部分に生ずる高さが一mを超える「がけ」
3) 切土と盛土とを同時にした土地の部分に生ずる高さが二mを超える「がけ」
ただし、切土をした土地の部分に生ずることとなるがけの部分で、「V・1 切土のり面の勾配」の表に該当するがけ面については、擁壁を設置しなくてもよい。
VIII・2 擁壁の種類及び選定
擁壁は、材料、形状等により、練積み造、無筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造等に分類される。
擁壁の選定に当たっては、開発事業区域の適用法令、設置箇所の自然条件、施工条件、周辺の状況等を十分に調査するとともに、関係する技術基準等を考慮し、擁壁に求められる安全性を確保できるものを選定しなければならない。
VIII・3 擁壁の設計及び施工

VIII・3・1 擁壁の設計・施工上の一般的留意事項

擁壁の設計・施工に当たっては、擁壁に求められる性能に応じて、擁壁自体の安全性はもとより擁壁を含めた地盤及び斜面全体の安全性についても総合的に検討することが必要である。
また、擁壁の基礎地盤が不安定な場合には、必要に応じて基礎処理等の対策を講じなければならない。

VIII・3・2 鉄筋コンクリート造等擁壁の設計及び施工

VIII・3・2・1 鉄筋コンクリート造等擁壁の設計上の一般的留意事項

鉄筋コンクリート造又は無筋コンクリート造擁壁(以下「鉄筋コンクリート造等擁壁」という。)の設計に当たっては、土質条件、荷重条件等の設計条件を的確に設定した上で常時及び地震時における擁壁の要求性能を満足するように、次の各項目についての安全性を検討するものとする。
1) 土圧、水圧、自重等(以下「土圧等」という。)によって擁壁が破壊されないこと
2) 土圧等によって擁壁が転倒しないこと
3) 土圧等によって擁壁の基礎がすべらないこと
4) 土圧等によって擁壁が沈下しないこと

VIII3・2・2 鉄筋コンクリート造等擁壁に作用する土圧等の考え方
1) 擁壁に作用する土圧は、擁壁背面の地盤の状況にあわせて算出するものとし、次の各事項に留意する。

1) 盛土部に設置される擁壁は、裏込め地盤が均一であるとして土圧を算定することができる。
2) 切土部に設置される擁壁は、切土面の位置及び勾配、のり面の粗度、地下水及び湧水の状況等に応じて、適切な土圧の算定方法を検討しなければならない。
3) 地震時土圧を試行くさび法によって算定する場合は、土くさびに水平方向の地震時慣性力を作用させる方法を用い、土圧公式を用いる場合においては、岡部・物部式によることを標準とする。

2) 擁壁背面の地盤面上にある建築物、工作物、積雪等の積載荷重は、擁壁設置箇所の実状に応じて適切に設定するものとする。
3) 設計に用いる地震時荷重は、1)3)で述べた地震時土圧による荷重、又は擁壁の自重に起因する地震時慣性力に常時の土圧を加えた荷重のうち大きい方とする。
VIII・3・2・3 鉄筋コンクリート造等擁壁の底版と基礎地盤との摩擦係数

擁壁底版と基礎地盤との摩擦係数は、原則として土質試験結果に基づき、次式により求める。

μ=tanφ(φ:基礎地盤の内部摩擦角)

ただし、基礎地盤が土の場合は、〇・六を超えないものとする。

なお、土質試験がなされない場合には、宅地造成等規制法施行令別表第三の値を用いることができる。

VIII・3・2・4 鉄筋コンクリート造等擁壁の施工上の留意事項

鉄筋コンクリート造等擁壁の施工に当たっては、次の各事項に留意することが大切である。
1) 地盤(地耐力等)

土質試験等により原地盤が設計条件を満足することを確認する。

2) 鉄筋の継手及び定着

主筋の継手部の重ね長さ及び末端部の定着処理を適切に行う。

3) 伸縮継目及び隅角部の補強

伸縮継目は適正な位置に設け、隅角部は確実に補強する。

4) コンクリート打設、打継ぎ、養生等

コンクリートは、密実かつ均質で十分な強度を有するよう、打設、打継ぎ、養生等を適切に行う。

5) 擁壁背面の埋戻し

擁壁背面の裏込め土の埋戻しは、所定のコンクリート強度が確認されてから行う。また、沈下等が生じないように十分に締固める。

6) 排水

擁壁背面の排水をよくするため、透水層、水抜き穴等を適切な位置に設ける。

7) その他

がけ又は他の擁壁の上部に近接して設置される擁壁については、下部のがけ又は擁壁に悪影響を与えないよう十分注意する。

VIII・3・2・5 鉄筋コンクリート造等擁壁の基礎工の設計

鉄筋コンクリート造等擁壁の基礎は、直接基礎とすることを原則とする。また、直接基礎は良質な支持層上に設けることを原則とするが、軟弱地盤等で必要地耐力が期待できない場合は、地盤の安定処理又は置換によって築造した改良地盤に直接基礎を設ける。また、直接基礎によることが困難な場合は、杭基礎を考慮する。

VIII・3・3 練積み造擁壁の設計及び施工

VIII・3・3・1 練積み造擁壁の設計上の留意事項

間知石練積み造擁壁その他の練積み造擁壁の構造は、勾配、背面の土質、高さ、擁壁の厚さ、根入れ深さ等に応じて適切に設計するものとする。
ただし、原則として地上高さは五・〇mを限度とする。
なお、擁壁を岩盤に接着して設置する場合を除き、擁壁には、鉄筋コンクリート造又は無筋コンクリート造で、擁壁のすべり及び沈下に対して安全である基礎を設けるものとする。
また、がけの状況等により、はらみ出しその他の破壊のおそれがあるときには、適当な間隔に鉄筋コンクリート造の控え壁を設ける等の措置を講じる必要がある。

VIII・3・3・2 練積み造擁壁の施工上の留意事項

練積み造擁壁の施工に当たっては、次の各事項に留意することが大切である。
1) 丁張り

擁壁の勾配及び裏込めコンクリート厚等を正確に確保するため、表丁張り及び裏丁張りを設置する。

2) 裏込めコンクリート及び透水層

裏込めコンクリート及び透水層の厚さが不足しないよう、組積み各段の厚さを明示した施工図を作成する。

3) 抜型枠

裏込めコンクリートが透水層内に流入してその機能を損なわないよう、抜型枠を使用する。

4) 組積み

組積材(間知石等の石材)は、組積み前に十分水洗いをする。また、擁壁の一体性を確保するために、芋目地ができないよう組積みをする。

5) 施工積高

一日の工程は、積み過ぎにより擁壁が前面にせり出さない程度にとどめる。

6) 水抜穴の保護

コンクリートで水抜穴を閉塞しないよう注意し、また、透水管の長さは、透水層に深く入り過ぎないようにする。

7) コンクリート打設

胴込めコンクリート及び裏込めコンクリートの打設に当たっては、コンクリートと組積材とが一体化するよう十分締固める。

8) 擁壁背面の埋戻し

擁壁背面の埋戻し土は胴込めコンクリート及び裏込めコンクリートが安定してから施工するものとし、十分に締固めを行い、常に組積みと並行して施工する。

9) 養生

胴込めコンクリート及び裏込めコンクリートは、打設後直ちに養生シート等で覆い、十分養生する。

10) その他

がけ又は他の擁壁の上部に近接して設置される擁壁については、下部のがけ又は擁壁に有害な影響を与えないよう十分注意する。

IX 軟弱地盤対策

IX・1 軟弱地盤の概念
軟弱地盤は、盛土及び構造物の荷重により大きな沈下を生じ、盛土端部がすべり、地盤が側方に移動する等の変形が著しく、開発事業において十分注意する必要がある地盤である。
なお、地震時に液状化が発生するおそれのある砂質地盤については一種の軟弱地盤と考えられ、必要に応じて別途検討するものとする。
IX・2 軟弱地盤の分布及び特徴

IX・2・1 軟弱地盤の分布

軟弱地盤は、一般に、河川沿いの平野部、海岸沿いの平坦な土地、湖沼、谷等に分布する場合が多い。
また、軟弱地盤は、地下水位が高く冠水等の障害が起こりやすいので、土地利用状況からみると低平な水田又は荒地になっていることが多い。

IX・2・2 軟弱地盤の特徴

軟弱地盤を構成する土層は、ここ数千年の間に堆積したものが多い。
また、軟弱地盤はその地形的分布、土質等から、泥炭質地盤、粘土質地盤及び砂質地盤に大別することができる。
しかし、同質の地盤であっても、その土質の性状等の特徴は、軟弱地盤の生成された環境によって大きく異なるのが一般的である。

IX・3 軟弱地盤対策の検討手順
軟弱地盤の分布が予想される箇所で開発事業を行う場合、あるいは開発事業に伴う事前の調査ボーリングの結果から地層に粘土等の存在が明らかになった場合には、標準貫入試験、スウェーデン式サウンディング試験、コーン貫入試験等の調査を行って、軟弱地盤であるかどうかを判定する。
その結果、軟弱地盤と判定された場合には、さらに沈下量、沈下時間、安定性等について検討を行い、適切な対策を講じるものとする。
IX・4 軟弱地盤の判定に必要な調査
軟弱地盤の判定は、標準貫入試験、スウェーデン式サウンディング試験、コーン貫入試験等の結果に基づき行うものとする。
これらの試験等による判定が困難な場合には、必要に応じて土質試験を行い判定するものとする。
IX・5 軟弱地盤の判定の目安
軟弱地盤の判定の目安は、地表面下一〇mまでの地盤に次のような土層の存在が認められる場合とする。
1) 有機質土・高有機質土
2) 粘性土で、標準貫入試験で得られるN値が二以下、スウェーデン式サウンディング試験において一〇〇kg以下の荷重で自沈するもの、又はオランダ式二重管コーン貫入試験におけるコーン指数(qc)が四kgf/cm2以下のもの
3) 砂質土で、標準貫入試験で得られるN値が一〇以下、スウェーデン式サウンディング試験において半回転数(Nsw)が五〇以下のもの、又はオランダ式二重管コーン貫入試験におけるコーン指数(qc)が四〇kgf/cm2以下のもの

なお、軟弱地盤の判定に当たって土質試験結果が得られている場合には、そのデータも参考にすること。

IX・6 軟弱地盤対策の検討

IX・6・1 軟弱地盤対策の基本的な考え方

軟弱地盤対策に当たっては、地盤の条件、土地利用計画、施工条件、環境条件等を踏まえて、沈下計算及び安定計算を行い、隣接地も含めた造成上の問題点を総合的に検討する。
その結果、盛土、構造物等に対する有害な影響がある場合は、対策工の検討を行うものとする。

IX・6・2 沈下量、沈下速度等の検討

軟弱地盤において開発事業を実施する場合には、圧密沈下が長期間にわたり、将来的に重大な影響を及ぼすおそれもあるので、盛土、構造物の荷重等による圧密沈下量及び圧密沈下速度を検討するとともに、許容残留沈下量を満足するのに要する時間を設計段階で把握しておく必要がある。

IX・6・3 許容残留沈下量

軟弱地盤において開発事業を実施する場合には、残留沈下によって家屋及び構造物に有害な影響を及ぼさないようにしなければならない。
許容残留沈下量の設定に当たっては、事業計画及び地盤条件を十分考慮し、家屋及び構造物の構造、重要性及び工事費、宅地処分時期等を総合的に評価した上で適切な値を定める必要がある。

IX・6・4 沈下量の計算方法

盛土荷重による軟弱地盤の沈下量の計算には、通常、次の三つの方法が用いられている。
1) 間げき比(eo)を主とした式
2) 圧縮指数(cc)を使用した式
3) 体積圧縮係数(mv)を使用した式

IX・6・5 沈下時間の計算方法

盛土荷重による軟弱地盤の沈下時間の計算は、一般に、次式に示す一次圧密解析法によって行われる。

t=D2/Cv・Tv

ここに、

t :任意の平均圧密度(
)に達するのに要する時間(日)
D :圧密層の最大排水距離(cm)

D=H/2(両面排水条件)、
D=H(片面排水条件)

H :圧密層厚(cm)
Cv:圧密係数(cm2/日)(圧密試験により求める。)
Tv:平均圧密度(
)に応じた時間係数(通常は次表に示す値を用いる。)

 
=圧密層全体のある時間における沈下量の平均値/圧密層全体の全沈下量の平均値

表 平均圧密度(
)と時間係数(Tv)の関係
 
 
0.10
0.20
0.30
0.40
0.50
Tv
0.008
0.031
0.071
0.126
0.197
0.60
0.70
0.80
0.90
0.95
1.00
0.287
0.403
0.567
0.848
1.128
IX・6・6 沈下の検討における留意事項

沈下の検討に当たっては、次の各事項に留意する必要がある。
1) 計算値と現場における沈下との対応
2) 二次圧密等の長期沈下
3) 広域地盤沈下

IX・6・7 軟弱地盤上の盛土のり面付近の安定

軟弱地盤に盛土を行う場合には、施工中、施工直後及び完成後の将来にわたり、常にその安定性を確保しておくことが大切である。

IX・6・8 安定計算の方法

盛土端部の安定は、単一の円弧すべり面を想定した全応力法による計算に基づいて検討することを標準とする。
ただし、安定計算の結果のみを重視することなく、近隣又は類似土質条件の施工実績、災害事例等を十分参考にすることが大切である。

IX・6・9 安定計算における留意事項

盛土端部の安定計算に当たっては、次の各事項に留意する必要がある。
1) 軟弱層基盤の傾斜
2) 地盤強度の低下
3) テンションクラック
4) すべり面(臨界円)の位置
5) 盛土材の強度の評価

IX・6・10 軟弱地盤上の盛土端部の安全率

盛土端部のすべり破壊に対する最小安全率(Fs)は、常時において次の条件を満足しなければならないものとする。
盛土施工直後においてFs≧1.2

IX・6・11 盛土周辺地盤への影響検討

軟弱地盤上に盛土を行う際に、隣接地に家屋若しくは重要な構造物がある場合又は盛土端部の安定計算によって求められた安全率に十分な余裕のない場合には、周辺地盤への影響について詳細な検討を行うとともに、必要に応じて試験盛土により沈下及び側方変位の性状を把握して、適切な対策を講じることが大切である。

IX・7 軟弱地盤対策と土地利用計画等
軟弱地盤対策を検討する場合には、土地利用計画、各構造物の設計上の対応等を考慮するとともに、安全性、経済性、効果等を勘案して、適切な対策を選定する必要がある。
なお、その際には、開発事業の計画から設計、施工及び維持管理までの全般にわたる開発の流れを念頭において検討することが大切である。
IX・8 軟弱地盤対策工の選定

IX・8・1 対策工の選定の基本的な考え方

対策工の選定に当たっては、軟弱地盤の性状、土地利用計画、工期・工程、施工環境、経済性、施工実績等の諸条件を総合的に検討することが必要である。

IX・8・2 対策工の目的及び種類

対策工には、その目的によって、沈下対策を主とする工法、安定対策を主とする工法、沈下及び安定の両者に対して効果を期待する工法等がある。

IX・8・3 対策工の選定手順

対策工の選定に当たっては、まず、その必要性及び目的を明確にし、地盤、施工等に関する諸条件を考慮して、いくつかの対策工案を抽出する。
次に、それらの対策工について詳細な比較検討を行うとともに、総合的な判断に基づいて最適な工法を決定する。

IX・8・4 対策工の選定上の留意事項

対策工の選定に当たっては、次の諸条件を十分に考慮することが大切である。
1) 地盤条件(土質、軟弱層厚、成層状態、基盤の傾斜等)
2) 宅地条件(土地利用、施設配置、盛土厚等)
3) 施工条件(用地、工費、工期、材料、施工深度等)
4) 環境条件(周辺環境、隣接地への影響等)

IX・8・5 周辺への影響防止

軟弱地盤上の盛土の施工に伴う周辺環境への影響については、事前に十分な調査・検討を行い、いかなる場合においても周辺施設に重大な影響を及ぼすことのないよう万全の対策をとることが大切である。

IX・9 軟弱地盤対策の各工法の設計及び施工

IX・9・1 対策工の設計・施工上の留意事項

対策工の設計に当たっては、その特徴を十分理解するとともに、軟弱地盤の性質を的確に把握することが大切である。
また、施工に際しても、かく乱等により地盤の性状を著しく変化させ、設計時の条件と異なった状態とならないように十分留意する必要がある。

IX・9・2 各工法の目的及び特徴

IX・9・2・1 表層処理工法

表層処理工法は、軟弱地盤上の地表水の排除、盛土内の水位低下、施工機械のトラフィカビリティの確保、軟弱地盤上の盛土又は構造物の支持力確保等を目的として用いる。

IX・9・2・2 置換工法

置換工法は、盛土端部の安定を短期間に確保する場合、盛土層が薄く建物荷重や交通荷重による沈下が大きな問題となる場合等において、軟弱土を良質材に置換える工法である。

IX・9・2・3 押え盛土工法

押え盛土工法は、盛土端部の安定確保及び側方地盤の変形の軽減を目的とする工法であり、用地に余裕がある場合及び施工時の変状に対する応急対策として用いる。

IX・9・2・4 緩速載荷工法

緩速載荷工法は、盛土端部の安定確保及び側方地盤の変形の抑制を目的として、地盤の変形等を計測しながら盛土を施工する工法である。

IX・9・2・5 載荷重工法

載荷重工法は、圧密沈下を促進して残留沈下を軽減する目的で用いる工法である。

IX・9・2・6 バーチカルドレーン工法

バーチカルドレーン工法は、圧密沈下の促進及び地盤の強度増加を目的として用いる工法である。

IX・9・2・7 締固め工法

締固め工法は、盛土端部の安定を図ることを目的とする工法であり、主にサンドコンパクションパイル工法が用いられている。

IX・9・2・8 固結工法

固結工法は、盛土端部の安定確保又は構造物基礎地盤の改良を目的として用いる工法である。

IX・10 軟弱地盤における施工管理

IX・10・1 施工管理の基本的な考え方

軟弱地盤における工事の実施に当たっては、常に地盤の挙動を監視し、異常が発見された場合には、早急にその原因を究明して適切な対応を図るとともに、施工の推捗に応じて施工計画、工法及び設計の修正又は変更を行うことが大切である。

IX・10・2 施工管理の内容

軟弱地盤における施工管理では、軟弱地盤の性状、施工条件、工期等を十分勘案した施工計画を立て、現場計測を主体として地盤の安定及び沈下を管理することが大切である。

IX・10・3 計測管理の目的

計測管理は、軟弱地盤の沈下量、側方変位量、強度等の経時変化を測定し、その結果に基づき盛土の安定管理と沈下管理を行うことを目的とする。

IX・10・4 安定管理の留意事項

安定管理においては、盛土施工中、盛土の立上げ速度を適切に管理して、原地盤の著しい変形及びすべりを未然に防止し、常に安定した状態を保持することが大切である。

IX・10・5 沈下管理の留意事項

沈下管理においては、動態観測により得た実測沈下量に基づき、設計時に見込んだ沈下量を修正して盛土量を管理するとともに、施工後に継続して生じる沈下量を推定し、残留沈下量の適否を確認することが大切である。

IX・10・6 現場計測の方法

現場計測に当たっては、盛土の規模、工期、設計段階において予測された問題点等の諸条件を考慮して、計測項目、計器の種類及び配置、測定時間及び頻度等を決定することが大切である。
また、計測管理に役立つよう、測定結果を速やかに整理することも大切である。

IX・10・7 盛土工の施工管理及び施工上の留意事項

盛土工の施工管理は、盛土の品質管理試験によることを標準とし、また、盛土工の施工に当たっては、次の各事項に十分留意することが大切である。
1) 準備排水及び施工中の盛土面の排水
2) 盛土作業
3) 盛土端部の処理

IX・10・8 環境管理

工事中の環境管理は、施工管理と一体として行うとともに、次の各事項に留意して適切な処置を講じ、工事が円滑に進められるようにすることが大切である。
1) 盛土に伴う周辺地盤の変位
2) 建設機械による騒音・振動
3) 土砂流出による水質汚濁

IX・10・9 試験盛土の目的

試験盛土は、設計値と試験盛土による実測データとを比較し、実測データが設計時の考え方に適合しているか等を検討することにより、合理的な設計・施工方法を見出すことを主目的とする。

IX・10・10 試験盛土の方法

試験盛土の方法は、試験の目的、盛土の規模、軟弱層の特性、対策工の種類等によって異なり、一律に定められないが、盛土施工に伴う軟弱地盤の挙動及び土性の変化等を詳細に把握できる方法を用いることが大切である。

IX・11 地盤の液状化

IX・11・1 液状化対策の基本

開発事業に際しては、開発事業区域内及びその周辺部において、地震時の液状化現象により悪影響を生じることを防止・軽減するため、液状化に対する検討を行い、必要に応じて適切な対策を行うものとする。

IX・11・2 液状化地盤の確認・調査

開発事業に際しては、あらかじめ既存資料等により液状化地盤の分布状況を確認するものとする。
また、土地利用計画等を踏まえ、必要に応じて地盤調査、土質試験等を行い、開発事業区域内及びその周辺地域の液状化地盤の分布、液状化発生の可能性に関する判定等を行うものとする。
さらに、液状化が発生すると、周辺地形等の条件によっては地盤が側方流動することがあるため、地盤調査及び土質試験の他、周辺地形等の調査も必要になる。

IX・11・3 液状化地盤の判定

液状化地盤の判定は、標準貫入試験、コーン貫入試験、サウンディング試験等の地盤調査結果、細粒分含有率試験結果、地下水位の測定結果等を用いて行うことを標準とする。
また、必要に応じて判定結果に基づく液状化地盤の分布を示した地図(液状化マップ)を作成する。

IX・11・4 液状化対策工法の検討

開発事業区域内又はその周辺地域に液状化地盤が存在する場合には、地震時における地盤の液状化に伴う被害及び悪影響の範囲並びに程度に関する十分な検討に基づき、土地利用計画、経済性、構造物等の重要性等を総合的に勘案して対策工の必要性及びその範囲並びに程度について検討し、適切な対策工を選定するものとする。
また、地盤の液状化による被害又は悪影響が著しい場合には、土地利用計画を再検討することも必要である。
なお、液状化対策は実施の時期として、開発事業の実施段階で行う場合とその後の建築物等の建設段階で行う場合があり、対策の方針として、液状化の発生そのものを抑制する方法と液状化の発生を前提に建築物等の基礎構造で対応する方法、さらに、それぞれを併用する方法があるため、最も適切な対応方法について十分な検討が必要である。

X 自然斜面等への配慮
山地、丘陵地等における開発事業に際しては、土砂災害に関する法指定区域、危険箇所等の周辺自然斜面等の状況に十分留意して、適正な土地利用を図る等、開発事業区域の安全を確保する。
また、関係部局との相互の連携を充実させるものとする。

XI 治水・排水対策
XI・1 治水・排水対策の基本

XI・1・1 治水・排水対策の基本的な考え方

開発事業においては、開発事業区域内及び周辺に溢水等の被害が生じないよう、区域内の雨水及び地表水並びに区域外から流入する雨水及び地表水を安全に流下させるための治水・排水対策を実施するものとする。

XI・1・2 治水・排水対策の種類

治水・排水対策は、開発事業区域内の雨水(区域外から流入するものを含む。)を適切に排出し、切土及び盛土のり面の侵食、崩壊、路面又は宅盤面の冠水等の被害を防止するための排水対策と開発事業に伴う流出形態の変化等による開発事業区域内及び下流域の洪水被害を防止するための治水対策に大別される。
治水対策は、さらに下流河川等の改修による対策と流出抑制施設による対策に分けられる。

XI・2 開発事業区域内の排水施設

XI・2・1 排水施設の配置

開発事業区域内の一般に次に掲げる箇所においては、排水施設の設置を検討しなければならない。
1) 切土のり面及び盛土のり面(擁壁で覆われたものを含む。)の下端
2) のり面周辺から流入し又はのり面を流下する地表水等を処理するために必要な箇所
3) 道路又は道路となるべき土地の両側及び交差部
4) 湧水又は湧水のおそれのある箇所
5) 盛土が施工される箇所の地盤で地表水の集中する流路又は湧水箇所
6) 排水施設が集水した地表水等を支障なく排水するために必要な箇所
7) その他、地表水等を速やかに排除する必要のある箇所

XI・2・2 排水施設の規模

排水施設の規模は、降雨強度、排水面積、地形・地質、土地利用計画等に基づいて算定した雨水等の計画流出量を安全に排除できるよう決定する。
なお、開発事業区域内に流出抑制施設として浸透施設等を設置した場合には、必要に応じ、その効果を見込んで、排水施設の規模を定めることができる。

XI・2・3 排水施設の設計・施工上の留意事項

排水施設の設計・施工に当たっては、計画流出量を安全に排出する能力を有し、将来にわたりその機能が確保されるよう、構造上及び維持管理上十分な配慮をする必要がある。

XI・3 開発事業に伴う下流河川等の治水対策

XI・3・1 治水対策の基本的な考え方

開発事業においては、事業実施に伴う開発事業区域下流の洪水被害を防止するため、治水対策を検討することが必要である。
治水対策は、地域の自然及び社会条件、下流河川等及び周辺の状況、技術的及び経済的条件等を勘案し、当該下流河川等の管理者との調整に基づき、安全で合理的かつ効果的な規模及び方法で実施しなければならない。

XI・3・2 治水対策の種類

開発事業に伴い必要となる治水対策は、河川等の改修により河道の流下能力を増大させる方法、流出抑制施設により洪水流出量を調節する方法及び両者の併用による方法に大別される。

XI・3・3 河川改修

XI・3・3・1 河川改修の設計上の留意事項

開発事業に伴い必要となる河川等の改修に当たっては、当該河川等の特性、周辺の土地利用状況、下流河川等の改修状況等を勘案し、次の各事項に十分留意して設計することが必要である。
1) 当該水系の下流において現に実施されている河川改修計画と整合のとれた規模及び形態とすること
2) 開発事業による影響が下流に及んで、洪水被害を増大させることのないよう必要な改修区間を設定すること
3) 河川等の管理者と十分調整を行うこと

XI・3・3・2 流量計算

河川等の改修計画の策定に当たっては、次の各事項を検討し、対象とする洪水の流量を設定する。
1) 計画高水流量の算定

河川改修計画に必要となる計画高水流量は、一般に合理式を用いて算定する。

2) 流出係数

合理式において用いる流出係数の値は、流域の地質、植生状況、将来における流域の土地利用状況等を考慮して決定する。

3) 平均降雨強度

合理式において用いる洪水到達時間内の平均降雨強度は、原則として、確率別降雨継続時間?降雨強度曲線により求める。
また、河川改修計画の降雨確率については、当該水系の下流で現に実施されている河川改修事業と整合のとれたものとなるように設定する。

XI・3・3・3 改修断面の決定

改修断面は、計画高水流量を安全に処理できるよう決定するものとする。

XI・3・4 調節(整)池

XI・3・4・1 調節(整)池の位置付け

調節(整)池は、開発事業に伴い河川等の流域の流出機構が変化して、当該河川等の流量を著しく増加させる場合に、洪水調節のための施設として設置されるものである。
調節(整)池は、治水・排水対策において河川管理施設、下水道施設等として恒久的に管理される調節池及び下流河川改修に代わる暫定的施設とされる調整池がある。

XI・3・4・2 調節(整)池設置のために必要な調査

調節(整)池の洪水調節容量、構造、堤体の構造及び施工方法等の検討に際しては、降雨特性、地盤の特性、堤体の材料等について十分調査することが大切である。

XI・3・4・3 調節(整)池の設置位置

調節(整)池の設置位置を決定する際には、地形及び地質並びに河川及び沢の特性、基礎地盤等について十分に把握しておくことが大切である。

XI・3・4・4 洪水調節方式

調節(整)池の洪水調節方式は、原則として自然放流方式とする。

XI・3・4・5 調節(整)池の計画

調節池の計画については、「防災調節池技術基準(案)」により、調整池の計画については、「大規模宅地開発に伴う調整池技術基準(案)」によることを原則とする。

XI・3・4・6 調節(整)池の構造

調節池の構造については、「防災調節池技術基準(案)」により、調整池の構造については、「大規模宅地開発に伴う調整池技術基準(案)」によることを原則とする。

XI・3・4・7 堤高

調節(整)池の堤高は、高さ一五m未満とすることを原則とする。

XI・3・4・8 堤体の施工

堤体の施工については、調節池の場合は「防災調節池技術基準(案)」により、調整池の場合は「大規模宅地開発に伴う調整池技術基準(案)」によることを原則とする。

XI・3・4・9 下流河川等への接続

下流河川等への接続については、土地利用、周辺の宅地化の状況、地形等を勘案の上、下流の人家、道路等への被害が生じないように配慮するものとする。
特に、洪水吐き末端には減勢工を設けて、洪水吐きから放流される流水のエネルギーを減勢処理する必要がある。

XI・3・4・10 調節(整)池の多目的利用

調節(整)池は、公園、運動場施設等として多目的に利用することができる。
なお、多目的利用に当たっては、原則として「宅地開発に伴い設置される洪水調節(整)池の多目的利用指針(案)」によるものとする。

XI・3・4・11 維持管理

完成後の堤体の安定及び調節(整)池の機能を確保するため、維持管理を十分に行う必要がある。

XI・3・5 オンサイト貯留施設

XI・3・5・1 オンサイト貯留施設の設置

オンサイト貯留施設は、土地利用計画に配慮し貯留時においても利用者の安全が確保できるとともに、流出抑制機能の継続性及び良好な維持管理が可能な場所に設置するものとする。

XI・3・5・2 オンサイト貯留施設の計画及び設計

オンサイト貯留施設の計画及び設計については、「流域貯留施設等技術指針(案)」によることを原則とする。

XI・3・5・3 オンサイト貯留施設の維持管理

オンサイト貯留施設の維持管理は、設置場所の土地利用、施設の構造等に応じて適切に行うものとする。

XI・3・6 浸透型施設

XI・3・6・1 浸透型施設の選定

開発事業において用いる浸透型施設には、井戸法による施設及び拡水法による施設がある。
開発事業において浸透型施設を設置する場合は、設計浸透量が確実に浸透するよう、施設の種類及び構造を選定することが必要である。
また、宅地としての安全性の観点から斜面等の地形について調査し、浸透型施設の設置可能な範囲を設定する。
さらに、浸透型施設は地下水の涵養、低水流量の保全等の水循環を保全する機能を有するため、このような効果にも配慮して計画することが大切である。
なお、浸透型施設のうち拡水法による施設の調査、計画、設計、施工及び維持管理については、「宅地開発に伴い設置される浸透施設等設置技術指針」によることを原則とする。

XI・3・6・2 地盤の浸透能力の評価

地盤調査、現地浸透試験等の結果をもとに、浸透可能範囲における地形区分面毎の浸透能力の評価を行うとともに、浸透能力マップ等に取りまとめる。
現地浸透試験の方法、浸透能力の評価手法及び浸透能力マップの作成法は、「宅地開発に伴い設置される浸透施設等設置技術指針」によることを原則とする。

XI・3・6・3 浸透型施設の構造、施工及び維持管理

浸透型施設は、地質構成、集水区域、設置場所の土地利用等を配慮して、浸透機能が効果的に発揮できる構造形式を選定し、確実な施工を行うとともに、浸透機能を継続的に保持するために必要な維持管理を適切に行わなければならない。

XI・4 治水・排水対策における環境対策の基本的な考え方
開発事業における治水・排水対策の検討に当たっては、土地利用計画等を勘案のうえ、水循環、水辺の景観、生態系等の水に係る環境を保全するよう努めることが望ましい。
XII 工事施工中の防災措置
XII・1 工事中の防災措置の基本的な考え方
開発事業においては、一般に、広範囲にわたって地形、植生状況等を改変するので、工事施工中のがけ崩れ、土砂の流出等による災害を防止することが重要である。したがって、気象、地質、土質、周辺環境等を考慮して、適切な防災工法の選択、施工時期の選定、工程に関する配慮等、必要な防災措置を講じるとともに、防災体制の確立等の総合的な対策により、工事施工中の災害の発生を未然に防止することが大切である。
XII・2 工事施工中の仮の防災調整池等
工事施工中においては、急激な出水、濁水及び土砂の流出が生じないよう、周辺の土地利用状況、造成規模、施工時期等を勘案し、必要な箇所については、濁水等を一時的に滞留させ、あわせて土砂を沈澱させる機能等を有する施設を設置することが大切である。
XII・3 簡易な土砂流出防止工(流土止め工)
周辺状況、工事現場状況等により、開発事業区域内外へ土砂を流出させないようにするために、仮の防災調整池等によらず、ふとんかご等の簡易な土砂流出防止工(流土止め工)を用いる場合には、地形、地質状況等を十分に検討の上、その配置及び形状を決定することが大切である。
XII・4 仮排水工
工事施工中の排水については、開発事業区域外への無秩序な流出をできるだけ防ぐとともに、区域内への流入及び直接降雨については、のり面の流下を避け、かつ、地下浸透が少ないように、速やかに仮の防災調整池等へ導くことが大切である。
XII・5 のり面からの土砂流出等の防止対策
人家、鉄道、道路等に隣接する重要な箇所には、工事施工中、のり面からの土砂の流出等による災害を防止するために柵工等の対策施設を設けることが大切である。
XII・6 表土等を仮置きする場合の措置
工事施工中に、表土等の掘削土を工事施工区域内に仮置きするような場合には、降雨によりこれらの仮置土が流出したり、濁水の原因とならないように適切な措置を講じることが大切である。
XII・7 工事に伴う騒音・振動等の対策
工事現場周辺の生活環境に影響を及ぼし、住民への身体的・精神的影響が大であると考えられる以下の事項については、適用法令を遵守するとともに、十分にその対策を講ずる必要がある。
1) 騒音
2) 振動
3) 水質汚濁、塵埃及び交通問題
XIII その他の留意事項
XIII・1 注意すべきその他の地盤
開発事業区域内に、その工学的特徴について十分に配慮しなければならないような地盤が存在する場合には、その安全性等について十分な調査・検討を行うことが必要である。
XIII・2 建設副産物に対する基本的な考え方
開発事業に伴う建設副産物は、その発生を抑制することが原則であるが、やむを得ない場合は、積極的に再利用又は再資源化を推進することにより資源の有効な利用確保を図るとともに、適正処理の徹底を行うことが重要である。
XIII・3 環境に対する配慮
開発事業における防災措置の実施に当たっては、周辺景観との調和に配慮するとともに、開発事業区域及び周辺の自然環境の保全に努めるものとする。
XIV 施工管理と検査
XIV・1 施工管理

XIV・1・1 施工管理の基本的な考え方

工事の実施に当たっては、所定の工期内に安全かつ効率的に工事を進め、許可の内容に適合するよう完成させるために、適切な施工管理を行うことが大切である。
特に、災害の防止のための施工管理が重要である。

XIV・1・2 施工管理上の留意事項

開発事業における災害を防止するために必要な施工管理は、気象、地形、地質等の自然条件、開発事業の規模、資金計画等を考慮したうえで、施工時期及び工程の調整、防災体制の確立等をあわせた総合的な対策を立て適切に行うことが大切である。
施工管理における主な留意事項は次のとおりである。
1) 常に工事の進捗状況を把握し、計画と対比しながら必要な対策をとること
2) 各工種間の相互調整を図り、不良箇所が生じたり、手戻りとならないよう注意すること
3) 定期的及び必要に応じて測定、試験等を行い、災害防止のため必要な措置を確実かつ効率的に行うこと
4) 降雨予測等の情報に注意するとともに、自然現象の変化に適切に対応して、可能な限り事前に災害防止対策を施すよう努めること
5) 工事の経過、対策の内容等について図面、写真等の関係書類を整備し、工事の内容を明らかにしておくこと
6) その他、開発事業区域周辺への配慮も行うこと

XIV・2 検査

XIV・2・1 検査の基本的な考え方

検査は、開発事業が宅地造成等規制法及び都市計画法の許可の内容に適合し、適正に施工されていることを確認するため、工事完了時及び必要に応じて工事施工中において行うものとする。

XIV・2・2 検査の方法

検査は、一般に、設計・施工についての図面、写真等の関係図書による審査、目的物の目視及び検測により行われる。また、必要に応じて破壊検査が考慮される場合がある。

XIV・2・3 検査に当たっての留意事項

検査は、工事の施工全般に対して効率的かつ確実に行い、その実施に当たっては、特に次の各事項に留意することが大切である。
1) 開発事業者(工事の施工者)に、工事内容、出来形等について裏付けとなる関係図書を整備させること
2) 検査に当たっては、工事の責任者等工事内容の説明できる者に立会を求めること
3) 工事の途中において行う中間検査は、進捗状況、工程等を考慮して適切な時期に行うこと
4) 検査の結果、不適当な箇所がある場合には、速やかに必要な対策を講じさせ、再度検査を行うこと



(別添3)

『宅地開発に伴い設置される浸透施設等設置技術指針』
第一章 総説

1・1 目的
本指針は、宅地開発に伴い開発事業者によって設置される流出抑制施設のうち、浸透施設を主体に、調査、計画、設計、施工及び維持管理に関する一般原則を示すことによって、土地の有効利用を図るとともに、地下水の涵養、河川低水流量の保全等、水循環の向上に資することを目的とする。
1・2 適用範囲
本指針は、宅地開発に伴い開発事業者によって設置される流出抑制施設のうち、浸透施設を主体に、他の貯留型施設との組み合わせを含めた調査、計画、設計、施工及び維持管理を行う場合に適用する。
なお、地方公共団体において、地域の実状に応じた浸透施設に関する技術指針等が整備されている場合は、それによることもできるものとする。
1・3 浸透施設による水循環の保全
浸透施設は流出抑制効果に加え、地下水涵養、河川低水流量の保全等、水循環の保全・再生効果があり、この結果、生態系及び水質の保全、利水の確保等の二次的効果が期待されるので、このような効果にも十分配慮して浸透施設の検討を行うことが必要である。
1・4 流出抑制方式の検討
流出抑制対策は、開発事業区域の規模、地形及び土地利用計画、放流先河川等の状況等を考慮して、確実に流出抑制効果が期待できるものを設置するものとする。
さらに、前記の条件に加えて、環境に対する影響、施工性、維持管理等を総合的に勘案の上、貯留型施設及び浸透型施設を単独又は組み合わせて最も効果的なものを選定する。
1・5 用語の定義
本指針で用いる用語を、それぞれ次のように定義する。
(1) 流出抑制施設

従来の流域が有していた保水遊水機能を適正に保つことによって、宅地開発に伴い増加する流出量を抑制し、下流河川等に対する洪水負担の軽減を目的として設置する施設をいい、浸透型施設と貯留型施設に分類される。
浸透型施設には、浸透施設と浸透井戸があり、貯留型施設には、オンサイト貯留施設とオフサイト貯留施設がある。

(2) 浸透施設

雨水を地表又は地表浅所より不飽和の地層を通して分散・浸透させる方法(拡水法)によりピーク流出量の低減と総流出量の抑制を図るための施設をいう。
浸透施設には、浸透ます、浸透トレンチ、トラフ&トレンチ、浸透側溝、透水性舗装等がある。

(3) 浸透井戸

地中の浸透層に達する井戸により、雨水を直接的に注入する施設をいう。

(4) オンサイト貯留施設

雨水の移動を最小限に抑え、雨が降った場所(現地)で貯留するもので、柱棟間、駐車場、公園、運動場等における空間地に、施設本来の機能を損なうことがないよう低水深で雨水の一時的滞留を図り、雨水の流出を抑制する施設をいう。

(5) オフサイト貯留施設

雨水流出の調節を第一義として設置するもので、オンサイト貯留施設が土地利用計画との対応により開発事業区域内に分散配置されるのに対し、オフサイト貯留施設は比較的大きな用地を集約的に確保し、これに貯留することによって雨水流出を抑制するもので、河川管理施設、下水道施設等として恒久的に管理される施設である調節池と、下流河川改修に代わる暫定的施設である調整池がある。

(6) 貯留浸透施設

浸透池や砕石空隙貯留施設のように、雨水貯留機能に加えて設置場所の地盤の浸透機能を有する施設をいう。

第二章 基礎調査

2・1 一般事項
基礎調査は、流出抑制施設の設置計画及び構造設計に必要な資料調査、流出抑制の目標の設定及び現地浸透試験等の浸透能力調査について行うものとする。
2・2 資料調査
流出抑制施設の計画・設計に当たっては、当該開発事業区域の土地利用計画、造成計画及び下水道計画に加え、必要に応じて地形、地質、地下水位、放流先河川等の現況及び改修計画並びに降雨等の基礎資料を調査するものとする。
2・3 流出抑制の目標
流出抑制施設の計画上目標とする水理・水文条件は原則として次のとおりする。
1) 流出抑制対策の目標とする計画規模
2) 開発事業区域からの許容放流量
これらについては、資料調査、現地調査等により開発事業ごとに設定するが、地方公共団体に技術指針等の規定がある場合は、それによることができるものとする。
なお、小規模開発における流出抑制の目標値としては、許容放流量以外の適切な値を設定してもよい。
2・4 浸透能力調査
流出抑制を目的として浸透施設を導入する場合は、表層地盤の浸透能力の把握が必要である。
浸透能力の把握は、地質、地下水位等の資料調査及び現地浸透試験を主体とする現地調査によって以下のように行う。
(1) 浸透施設の設置可能範囲の検討は、開発事業区域の表層地盤の地質、地下水位等の資料調査等により行い、対象浸透層を把握する。
(2) 対象浸透層の浸透能力は、原則として現地浸透試験によって把握する。
(3) 現地浸透試験及び地盤調査結果をもとに浸透能力マップを作成する。
(4) 浸透施設の構造形式別に、目詰まり及び地下水位による影響等に配慮して単位設計浸透量を設定する。
なお、浸透不適地及び浸透可能区域を示す簡易な浸透能力マップについては、流域の状況、開発計画の動向等に応じて、あらかじめ各地方公共団体ごとに作成しておくことが望ましい。

2・4・1 浸透施設の設置可能範囲

開発事業区域の地形、地質、地下水位等から地盤の浸透可能範囲を検討するとともに、宅地としての安全性の観点から斜面等の地形について調査し、浸透施設の設置可能範囲を設定する。

2・4・2 地盤調査

既存の調査資料の不足を補い、現地浸透試験地点の土質・地質の詳細、地下水位の所在、土壌物性等の地盤特性の把握を目的として、ボーリング調査、土質試験等の地盤調査を実施する。

2・4・3 現地浸透試験

浸透施設の計画に当たって、対象浸透層の浸透能力の定量的評価を行うために、原則として現地浸透試験を行うものとする。

2・4・4 浸透能力の評価

地盤調査及び現地浸透試験の結果をもとに、浸透可能範囲における地形区分面ごとの浸透能力の評価を行うとともに、浸透能力マップ等に取りまとめる。
浸透能力の評価手法は、次のいずれかによるものとする。
1) 飽和透水係数による方法
2) 終期浸透量と静水圧との相関関係による方法(静水圧法)

2・4・5 単位設計浸透量の設定

浸透施設の単位設計浸透量は、現地浸透試験による浸透能力の評価をもとに、設置する浸透施設の構造及び設計水頭における基準浸透量を求め、これに各種の浸透に対する影響係数を乗じて次式により算定する。
Q=C×Qf
ここに、
Q:浸透施設の単位設計浸透量(m3/hr)
C:各種影響係数
Qf:浸透施設の基準浸透量(m3/hr)

第三章 浸透施設等の設置

3・1 一般事項
流出抑制施設の設置計画に当たっては、開発事業区域の面積、地形、地質、地下水位、土地利用、造成計画等の諸条件について、総合的に検討することが必要である。
3・2 土地利用別浸透施設の設置
浸透施設の設置に当たっては、設置場所の土地利用計画と調整を図り、居住者及び利用者の安全、浸透機能の維持及び管理が確実に担保される施設の構造形式及び配置を検討するものとする。

3・2・1 集合住宅地用地

集合住宅地内の土地利用計画に応じて、各種の浸透施設及び貯留型施設を単独又は有機的に組み合わせて、効果的に流出抑制が行えるよう配置計画を立案することが望ましい。

3・2・2 戸建て住宅地用地

一般の戸建て住宅地内では、各戸ごとに敷地内に降った雨を浸透施設に導入し、特段の維持管理行為を要しない構造形式を採用することが望ましい。

3・2・3 公共公益施設用地

校庭、公園、広場等の面的に広い公共公益施設用地に浸透施設を導入する場合は、貯留型の施設と併用することが望ましい。

3・2・4 道路用地

開発事業区域内の道路においては、必要に応じて浸透施設を設置して、流出抑制を図ることが望ましい。

3・2・5 設計浸透量の算定

設計浸透量は、浸透処理区域ごとに設置した各浸透施設の単位設計浸透量にその設置数量を乗じて、これらを合計することにより算定するものとする。
また、設計浸透強度は、設計浸透量を集水面積で割ることにより算定する。

3・3 オンサイト貯留施設の設置
オンサイト貯留施設は、本来の利用目的を有する開発事業区域内の土地に、小堤式・小掘込式等の貯留施設を面的に分散して設置するため、土地利用計画に配慮し貯留時においても居住者及び利用者の安全が確保でき、機能の継続性と良好な維持管理が確保できる場所であるとともに、降雨の集水、貯留及び排水が効果的に行えるよう、適切な貯留可能容量を設定しなければならない。
3・4 オフサイト貯留施設の設置
オフサイト貯留施設は、一般に、丘陵地においてはダム式となり、平坦地においては掘込式となる。
ダム式調整池は自然の谷部を利用して設けられるが、湛水深が深く、貯留されるエネルギーも高くなることから、高い治水安全度が要求される。
掘込式調整池は、放流先河川等の高さから制約を受ける場合が多く、地下水位の高い地域では、さらに制約を受けることになるので、貯留容量の設定に当たっては十分注意しなければならない。
3・5 浸透施設等の設置における雨水利用の併用
浸透施設の設置に当たっては、浸透施設の維持管理の省力化を図ることを目的として施設の機能を維持するための前処理装置として貯留型施設を併用することが望ましいが、この場合、貯留型施設に貯留した雨水は、防災用水、平常時の環境用水、雑用水等として利用することが可能である。

第四章 水文設計

4・1 一般事項
流出抑制施設の水文設計は、流域の状況及び浸透施設等の設置計画の状況に応じた適切な流出モデルを設定し、計画降雨に対して目標とする流出抑制効果について、浸透機能の確保に十分留意しつつ評価するとともに、流出抑制施設の構造設計に係わる条件を設定するものとする。
4・2 計画降雨
流出抑制施設の計画規模及び流出抑制効果の検討に用いる計画降雨は、確率降雨強度曲線(降雨強度?降雨継続時間曲線)によって求めることを原則とする。
また、計画降雨波形は、原則として中央集中型又は後方集中型降雨波形を用いるものとし、降雨継続時間は二四時間を標準とする。
4・3 洪水流量の算定

4・3・1 ピーク流量の算定方法

洪水のピーク流量は、合理式により算定することを原則とする。

4・3・2 洪水到達時間

合理式に用いる洪水到達時間は、等流流速法を主体に、土研式又は角屋の式により算出し、最も妥当なものを用いるものとする。
また、オンサイト貯留施設や浸透施設は一般に集水面積が小さいので、この場合の洪水到達時間の最小値は、一〇分を標準とする。

4・3・3 流出係数

流出係数は、開発前後の流域、植生、土地利用、地形等を勘案して適切な値を設定する。

4・3・4 流出ハイドログラフ

流出抑制施設の水文設計に用いる流出ハイドログラフ(時間?流入量曲線)は、ハイエトグラフ(時間?降雨量曲線)に合理式連続モデルを導入して算定することを原則とする。

4・4 浸透施設の水文設計

4・4・1 大規模開発における浸透施設の水文設計

大規模開発における浸透施設による水文設計は、次の手順によるものとする。

1) 計画降雨強度曲線の設定と流出ハイドログラフの算定
2) 許容放流量(Qc)の設定(2・3節参照)
3) 浸透処理区域における浸透施設の流出モデルの設定
4) 流出抑制効果の算定(開発事業区域流末での流出量とQcとの比較)

4・4・2 小規模開発における浸透施設の水文設計

小規模開発における浸透施設による水文設計は、次の手順によることを標準とするが、必要に応じて大規模開発の手順に準じることもできる。

1) 流出抑制の目標値の設定(2・3節参照)
2) 浸透施設設置量、設計浸透量又は設計浸透強度(3・2・5節参照)の設定
3) 流出抑制効果の算定(目標値と設計浸透量等との比較)

4・5 オンサイト貯留施設の水文設計

4・5・1 オンサイト貯留施設の貯留容量算定手順

オンサイト貯留施設の計画諸元設定は、次の手順によるものとする。

1) 貯留可能容量と集水面積の設定
2) 計画降雨強度曲線の設定と流入ハイドログラフの算定
3) 簡易式による放流量の概算(貯留可能容量に対する放流量を求める。)
4) 貯留部の水位容量曲線の作成と放流孔の仮定
5) 厳密計算法による貯留追跡計算(貯留限界水深と降雨終了後の排水時間(二時間程度を標準とする)を満足する放流孔の設定)

4・5・2 オンサイト貯留施設と浸透施設との併用

オンサイト貯留施設と浸透施設を併用して流出抑制を行う場合の計画降雨に対する貯留可能容量と放流量の関係の算定は、簡易式によるものとし、貯留施設設計諸元の設定は、厳密計算法によることを原則とする。

4・5・3 設計堆積土砂量

オンサイト貯留施設での堆積土砂量は、設計上、特に考慮しなくてもよい。

4・6 オフサイト貯留施設の水文設計

4・6・1 オフサイト貯留施設の調節容量算定手順

調整池等のオフサイト貯留施設の洪水調節容量は、宅地開発後における洪水流量を計画降雨規模相当の降雨から求めた開発前のピーク流量の値又は開発事業区域下流河川等の許容放流量の値まで調節するために必要な容量であり、その算定は次の手順によるものとする。

1) 計画降雨強度曲線の設定
2) 許容放流量の設定(2・3節参照)
3) 集水面積、洪水到達時間、流出係数の設定とハイドログラフの算定
4) 簡易式による必要調節容量の概算
5) 貯留施設の水位容量曲線の作成と放流孔の仮定
6) 厳密計算法による貯留追跡計算

4・6・2 簡易式による必要調節容量の概算

オフサイト貯留施設の概略の洪水調節容量は、計画降雨強度曲線を用いて求める次式のViの値を最大とする容量をもって、その必要調節容量とすることができる。
Vi=(ri?1/2rc)・60・ti・f・A・1/360
ここに、

Vi:必要調節容量(m3)
ri:任意の降雨継続時間に対する計画降雨強度曲線上の降雨強度(mm/hr)

計画降雨強度曲線:ri=a/tin+b

rc:許容放流量に相当する降雨強度(mm/hr)(rc=360・Qc/f・A)
ti:降雨継続時間(分)
f:流出係数
A:集水面積(ha)
n、a、b :計画降雨強度曲線の定数

4・6・3 厳密計算法による貯留追跡計算

貯留施設における厳密計算法による貯留追跡計算は、流入量と放流量の差を貯留するとした連続の式によって行うものとする。

4・6・4 オフサイト貯留施設と浸透施設の併用

オフサイト貯留施設と浸透施設を併用して流出抑制を行う場合のオフサイト貯留施設の調節容量の設定は、次のように行うものとする。
(1) 開発事業区域を浸透処理区域と直接流出域に区分し、計画降雨による流入ハイドログラフを算定する。
(2) 浸透処理区域からの流出量は、浸透施設による浸透量を差し引いた流量を算定する。
(3) 浸透処理区域と直接流出域からの流出量を合成し、これをオフサイト貯留施設への流入量とする。
(4) 簡易式による必要調節容量の概算
(5) オフサイト貯留施設の水位容量曲線とオリフィスを設定し、厳密計算法による貯留追跡計算を行い必要調節容量を算定する。

4・6・5 設計堆積土砂量

オフサイト貯留施設の設計堆積土砂量は、次の各項により決定する。
(1) 土地造成中の土砂流出量は、その流域面積、流況、地形及び地質の状況、土地造成の施工計画等により一様ではないが、流入造成面積一ヘクタール当たり一五〇m3/年を標準とし、他の類似地区における実績を勘案して決定する。
(2) 土地造成完了後の土砂流出量は、流入造成面積一ヘクタール当たり一・五m3/年を標準とする。
(3) 堆積土砂量算定における設計堆積年数は、土地造成の施工年数、施設の設置期間及び維持管理の方法により決定するが、一年を下回らないものとする。

4・7 開発事業区域全体の流出抑制効果の評価
浸透施設並びにオンサイト及びオフサイト貯留施設の各種タイプの流出抑制施設が設置されることによる流出抑制効果の評価は、前節までの各施設の簡易計算法及び厳密計算法により行うが、開発事業区域全体の流出抑制効果の評価は、次の各号に示す手順により行うものとする。
ここに示す検討は、主に大規模開発において適用することを想定したものであるが、小規模開発においても準用することが望ましい。

(1) 流域の区分

開発事業区域を浸透施設及びオンサイト貯留施設により集水される貯留・浸透処理区域と直接流出区域に区分する。

(2) 貯留・浸透処理区域の流出ハイドログラフの計算

貯留・浸透処理区域の計画降雨によるハイドログラフを算定し、浸透施設及びオンサイト貯留施設による流出抑制効果の計算を行い、オフサイト貯留施設又は下流河川等への流出ハイドログラフを算出する。

(3) 直接流出域からの流出ハイドログラフの計算

直接流出域からの計画降雨による流出ハイドログラフを計算する。

(4) 流出抑制効果の評価

(2)による貯留・浸透処理区域及び(3)による直接流出域からの流出ハイドログラフを合成し、その最大流量Qoが、許容放流量Qcの値以下であれば、オフサイト貯留施設なしで流出抑制施設の整備を行うこととする。QoがQcを超える場合は、オフサイト貯留施設を地区の流末に設置することを検討する。

(5) オフサイト貯留施設の検討

(4)による合成ハイドログラフをオフサイト貯留施設への流入ハイドログラフとして厳密計算法による洪水調節計算を行い、許容放流量以下に調節し得るオフサイト貯留施設の調節容量及び放流施設の規模を設定する。
第五章 構造設計

5・1 一般事項
流出抑制施設の構造設計に当たっては、設置場所の地形、地質、土地利用、安全性、維持管理等を総合的に検討することが必要である。
5・2 浸透施設の構造設計
浸透施設の構造は、浸透機能が効果的に発揮できるものとする。また、その機能を長期にわたり維持するため、土砂等の流入による目詰まり及び堆積に対し十分に配慮するものとする。

5・2・1 浸透ます

浸透ますは、設置場所の土地利用、他の浸透施設との組み合わせ等に応じて、点検と維持管理の容易な構造形式を選定するものとする。

5・2・2 浸透トレンチ

浸透トレンチは、浸透施設のうち浸透ますと並んで最も代表的な施設であり、主として建物周り、公園緑地、学校、広場、道路等において、浸透ますと組み合わせて設置するものとする。

5・2・3 トラフ&トレンチ

トラフ&トレンチは、窪地の下に浸透トレンチを組み合わせた構造とし、トレンチの上部は透水性の高い土で埋戻し、窪地の表面には芝張り等の植栽により埋戻し土の団粒化を図り浸透機能の継続性を確保するものとする。

5・2・4 浸透側溝

浸透側溝は、側溝の側面及び底面に透水性又は有孔コンクリート材料を用いて集水した水を地中に浸透させるもので、設置に当たっては浸透機能の継続性に配慮し、土砂等の目詰まり物質の流入がない場所に限るものとする。

5・2・5 透水性舗装

透水性舗装の構造設計は、原則として次の各項によるものとする。
(1) 透水性舗装は、歩道、交通量の少ないアプローチ道路、駐車場等に用いる。
(2) 舗装材料及び構造は、「透水性舗装ハンドブック」(日本道路建設業協会編)によるものとする。

5・2・6 透水性ブロック舗装

透水性ブロック舗装は、公園、グラウンドの歩道、駐車場等に用いるものとし、透水性の空隙を有するブロック若しくは目地を通して雨水を浸透させる構造又はコンクリートブロックの枠に透水性のよい土を充填しここから雨水を浸透させる構造とする。

5・3 砕石空隙貯留施設の構造設計

5・3・1 施設の構造

砕石空隙貯留施設の構造設計に当たっては、地形、地質、土地利用、安全性、貯留水の有効利用、維持管理等を総合的に勘案し、貯留機能や浸透機能が有効に発揮できる構造とする。
なお、貯留水の有効利用を図る場合においても、流出抑制機能を損なわない構造とする。

5・3・2 材料

砕石空隙貯留施設に用いる材料は、原則として次の各項によるものとする。
(1) 充填材は、十分な強度を有し、効果的な貯留ができるものとし、条件を満足すれば現地発生材も使用できる。
(2) 透水シートは、覆土の流入を防止できるものとする。

5・4 オンサイト貯留施設の構造設計

5・4・1 構造設計

オンサイト貯留施設の構造設計に当たっては、地形、地質、土地利用、安全性、維持管理等を総合的に勘案し、流出抑制機能が効果的に発揮できる構造とする。

5・4・2 構造の安定

オンサイト貯留施設の構造形式は、設置場所の状況により種々の形式となるので、その採用する構造に応じて予想される荷重に対し必要な強度を有するとともに、十分な安全性を確保しなければならない。

5・4・3 周囲小堤

オンサイト貯留施設の貯留部の構造は、小堤式又は浅い掘込式とする。

5・4・4 放流施設等

オンサイト貯留施設の放流施設等は、計画放流量を安全に処理できるものとし、次の各号の条件を満たす構造とする。
(1) 流入部は、土砂、塵埃等が直接流出しない配置・構造とし、放流孔が閉塞しないように配慮しなければならない。
(2) 放流施設には、出水時において人為操作を伴うゲート、バルブ等を設けてはならない。
(3) 放流管は、計画放流量に対して、放流孔を除き自由水面を有する流水となる構造とする。
(4) オンサイト貯留施設には、底面芝地への冠水頻度を減らし、排水を速やかにするために、側溝等の排水設備を設けるものとする。

5・4・5 余水吐と天端高

オンサイト貯留施設の周囲小堤が盛土等による貯留構造となる場合は、設計降雨時の安全性を配慮して余水吐を設けるものとする。
余水吐は、自由越流式とし、土地利用及び周辺の地形を考慮し、安全な構造となるよう設定する。
天端高は、原則として、計画貯留水深に余水吐の越流水深を加えた高さ以上とする。

5・4・6 底面処理

オンサイト貯留施設の底面は、降雨終了後の排水を速やかに行うために、その土地利用機能に応じて適切な底面処理を施すものとする。

5・4・7 管理上設計段階で考慮すべき設備等

オンサイト貯留施設の設計に当たっては、特に、生活空間と密着した位置に設置される場合、施設の構造形式に応じ、安全管理及び環境保全上必要な設備を設計段階から考慮しておくものとする。

5・5 オフサイト貯留施設の構造設計
オフサイト貯留施設の構造形式は、ダム式、掘込式、越流堤式及び地下式に大別される。
これらの構造設計に当たっては、地形、地質、堤体材料、土地利用、安全性、維持管理等を総合的に勘案し、施設の特性に応じた適切な構造とする。
オフサイト貯留施設は、その採用する構造に応じて想定される荷重に対し、必要な強度と水密性を有するとともに、十分な安全性を確保しなければならない。

第六章 施工管理

6・1 一般事項
施工管理は、設計どおりの出来型、品質等を確保し、定められた工期内に安全かつ円滑に施工が行われるよう実施するものとする。
6・2 浸透施設の施工管理

6・2・1 浸透ます、浸透トレンチ等

浸透ます、浸透トレント等の施工に当たっては、次の各項によるものとする。
(1) 施工時に地盤の浸透機能を低下させないことが重要であるため、浸透面を締固めないものとし、掘削後は床付けを行わず、直ちに敷砂を行い充填材を投入する。
(2) 充填材の投入に当たっては、施設内に土砂が混入しないように注意する。また、浸透面に透水シートを被覆する等の土砂流入防止策をとる。
(3) 工事中の排水については、原則として、浸透施設を使用しない。
(4) 工事完了後、開発事業区域の規模及び浸透施設の種類・設置数に応じ、必要な箇所において、浸透能力確認のための浸透試験を行う(試験方法は、現地浸透試験の実物試験と同様とする。)。

6・2・2 透水性舗装

透水性舗装の施工に当たっては、路床、フィルター層、路盤及び表層の各層における透水性を妨げないように作業を進めることが必要である。

6・3 砕石空隙貯留施設の施工管理
砕石空隙貯留施設の施工に当たっては、次の点に留意するものとする。

(1) 施工においては、浸透面を締固めないものとする。また、掘削後は床付けを行わず、直ちに敷砂を行い充填材を投入する。
(2) 充填材の投入に当たっては、施設内に土砂が混入しないように注意する。
(3) 工事中の排水については、原則として、当該施設を使用しない。
(4) 充填材の締固めは、その上部の土地利用に悪影響を及ぼさないよう入念に行う。

6・4 オンサイト貯留施設の施工管理
オンサイト貯留施設の施工に当たっては、施設の構造形式に応じ、適切な施工管理のもとに、所定の品質で出来型が得られ、工事が安全に施工でき、所定の工期内に実施されるようにしなければならない。
6・5 オフサイト貯留施設の施工管理
オフサイト貯留施設の施工に当たっては、施設の構造形式に応じ、適切な施工管理のもとに、所定の品質で出来型が得られ、工事が安全に施工でき、所定の工期内に実施されるようにしなければならない。

第七章 維持管理

7・1 一般事項
流出抑制施設の維持管理は、施設の機能を維持し、安全、衛生、環境等を保全するため、設置場所の土地利用、地形、地被、施設の構造形式等に応じて、適切に行うものとする。
7・2 維持管理の内容
流出抑制施設の維持管理は、点検作業及び清掃、修繕工事等からなる。
点検作業は、定期的に行う定期点検、洪水時・地震時に行う緊急点検及び浸透施設の機能点検に分けられる。点検作業の結果、機能低下、土砂の堆積等が認められる場合は、必要に応じて清掃、修繕工事等を行うものとする。
7・3 流出抑制施設の台帳
流出抑制施設を適正に維持管理するために、開発事業者は、施設の配置、構造、機能等を記載した施設に関する資料を台帳として整備し、適正な管理に備えることが必要である。
7・4 浸透施設の維持管理

7・4・1 維持管理の内容

浸透施設の維持管理においては、土砂、ゴミ等の流入による目詰まりを生じないよう点検を行い、適切な時期に堆積物の清掃及び土砂搬出を行うことが必要である。
また、代表的な施設を対象として、一定の周期で簡易な浸透試験を行い、浸透機能を点検するとともに、必要に応じて機能回復作業を行う。

7・4・2 浸透施設の点検の方法

定期点検及び緊急点検における点検の方法は、目視、計測等によるものとする。
また、機能点検の方法は、簡易な浸透試験によるものとする。

7・4・3 浸透施設の目詰まり防止上の留意点

浸透施設の維持管理に当たっては、施設の構造形式の特性に配慮し、機能低下の原因となる要素を除去するよう管理作業に努めるものとする。

7・4・4 清掃、土砂搬出等の機能保全のための作業

点検作業の結果、ゴミ、土砂等の堆積等により浸透機能への影響が予想される場合には、必要に応じて清掃、土砂搬出等の機能保全のための措置を講ずる。

7・5 オンサイト貯留施設の維持管理
オンサイト貯留施設の維持管理は、「流域貯留施設等技術指針(案)」によるものとする。
7・6 オフサイト貯留施設の維持管理
オフサイト貯留施設の維持管理は、調整池においては「大規模宅地開発に伴う調整池技術基準(案)」により、調節池においては「防災調節池技術基準(案)」によるものとする。
7・7 維持管理記録の保管
維持管理記録については、資料を整理の上取りまとめて保管し、以後の維持管理の基礎とする。
7・8 維持管理体制
流出抑制施設の機能を継続的に確保するため、良好な維持管理が担保されるよう、関係者間の管理協定の締結等必要な措置を講ずるとともに、維持管理体制を整備することが必要である。



(別添4)

『宅地擁壁の復旧技術マニュアル』

I 総説

I・1 目的
このマニュアルは、風水害、地震等の一次災害により被災した宅地擁壁の復旧等に関する基本的な考え方及び工法選定上留意すべき点を整理し、擁壁の所有者等が復旧工事等を実施する際及び行政担当者が復旧工事に関する審査を行う際等の参考に供するものである。
また、被災擁壁に起因する災害(二次災害)を防止するとともに、復旧に伴う工法の適正化と事務手続きの迅速化を図り、もって安全な宅地の早期復旧に資することを目的とする。
I・2 適用範囲
このマニュアルは、宅地造成等規制法に基づく宅地造成工事規制区域内に存する宅地擁壁に適用する。
I・3 取扱い方針
被災擁壁の復旧等の実施にあたっては、本マニュアルに示す基本的な考え方及び留意事項を踏まえた上で、さらに復旧工事を実施する地域の気象、地形、地質、地質構造、土質、環境等の自然条件や復旧工事の内容、土地利用状況等の社会条件に留意して個々具体的に必要な措置を検討するものとする。
I・4 被災後の対応

I・4・1 災害復旧の基本

被災した宅地擁壁に関する被災後の措置としては、一般的に、応急措置、仮復旧、本復旧がある。
風水害、地震等の一次災害に伴い被災した宅地擁壁に関する対応については、所有者等の責任において速やかに行われることが原則であり、工法の選定、復旧の程度等は所有者個人の意向に従い決定されるものであるが、本復旧後の宅地擁壁は、原則として宅地造成等規制法に規定する技術基準に基づく擁壁と同等以上の安全性を確保したものでなければならない。

I・4・2 対策方針の検討

被災宅地擁壁の復旧に際しては、本復旧工法、本復旧のための仮設工法及び全体の工期等を総合的に検討するとともに、施工期間中に出水期が重なり二次災害が発生する可能性のある場合には、必要に応じて応急措置、仮復旧の実施について検討する等復旧の工程全般にわたり合理的な対策を行うための方針について検討を行うものとする。

I・4・3 応急措置

応急措置は、一次災害発生直後の短期間において、被災した宅地擁壁に起因する二次災害を防止・軽減するために応急的に実施する措置である。

I・4・4 仮復旧

仮復旧は、応急措置のみでは、被災擁壁に起因する二次災害の発生を防ぎ得ない場合に、危惧される二次災害による被害を防止・軽減するために、応急的に暫定工法により実施する措置である。
仮復旧は、あくまでも応急的かつ暫定的な措置であるので、本復旧の施工が可能となり次第速やかに本復旧を実施しなければならない。
本復旧が実施されるまでの期間は、被災擁壁及び被災宅地の地盤の変状等について十分監視を行うとともに警戒避難体制を整備し、危険な場合には速やかに避難することが必要である。

I・4・5 本復旧

本復旧は、安全な宅地を確保するための恒久対策として実施する措置であり、被災原因等の対策を行うことにより、再度災害の発生を防止するとともに、宅地造成等規制法に基づく技術基準と同等以上の安全性を確保した工法で復旧するものとする。
I・5 関連指針等
このマニュアルに示されていない事項については、一般的に認められている他の技術的指針等を参考にするものとする。

II 擁壁の復旧の際に必要な調査

II・1 被災地域周辺の調査
被災した宅地擁壁の復旧にあたっては、あらかじめ、法令等による行為規制、地形、地質・地質構造・土質等の土地条件、気象条件、環境、土地利用状況等について必要な情報を把握することが大切である。
また、一次災害の復旧等に対して公的にとられる措置等に関する情報を把握しておくことも重要である。
II・2 概略調査
被災した宅地擁壁の復旧にあたっては、被災擁壁自体の変状の形態・程度並びに被災擁壁の直上の宅盤や直下の地盤の変状等についての調査を行い、一次災害後の被災実態を十分把握するとともに被災擁壁と周辺地盤の変状との関連性の有無を検討することが必要である。
また、被災擁壁及びその周辺地盤の変状の形態・程度によって、必要に応じて変状の進行状況を把握するための観測調査を行うことが重要である。
II・3 詳細調査・検討
被災擁壁の基礎部に変状がある場合や被災擁壁と周辺地盤の変状に関連性のある場合等には、必要に応じて土質調査、土質試験等の詳細調査を行い、被災原因の究明を行うとともに、適切な対策について検討する必要がある。
II・4 基礎部の検討
被災擁壁の本復旧工法の選定に際しては、当該擁壁の基礎部及び基礎地盤のすべり、沈下、ズレ等の変状、及びその進行性の有無について十分な調査・検討を行い、復旧後の擁壁が再度災害を発生することのないよう適切な対策を行わなければならない。

III 本復旧

III・1 本復旧の基本的留意事項
被災擁壁の本復旧において、基本的に次の事項に留意して行うものとする。

1) 被災擁壁の本復旧の実施にあたっては、復旧擁壁の周辺の気象、地形、地質、地質構造、土質、環境、土地利用状況等について必要な調査を行い、その結果を踏まえて適切な措置を講じること。

なお、必要に応じて復旧工事区域周辺も含めて調査を行うこと。

2) 被災擁壁の対応措置の検討にあたっては、宅地全体及び周辺地盤全体の被災状況(程度、規模等)を踏まえ、それらに対する措置との整合性に留意すること。

なお、必要に応じて擁壁の変状の進行度合を観測するなど、十分な調査を行うこと。

3) 工事施工中におけるがけ崩れ、周辺地域への濁水、土砂の流出等による災害を防止するために必要な措置を講じること。
4) 施工にあたっては、被災擁壁周辺の建築物、道路・水路等の公共施設、周辺の急傾斜地等に対する影響を防止するために必要な措置を講じること。
5) 被災後の出水等による二次災害を防止するために必要な措置を講じること。

III・2 本復旧工法の選定

III・2・1 個々の被災擁壁の本復旧の基本方針

個々の被災擁壁の本復旧方針は、宅地の安全性確保の観点から、原形復旧、補修、及び再構築に分類される。

III・2・2 本復旧の工法選定

本復旧の工法は、擁壁の被災状況、施工性、周辺環境との調和、経済性等を十分検討して選定するものとする。
また、本復旧工法の選定にあたっては、上部敷地の家屋の有無、施工時の安全確保、工期、建設機械の搬入の可能性、周辺人家への影響、経済性等を総合的に勘案し、適切な仮設工法を選定しなければならない。
III・3 本復旧に関する個別検討事項

III・3・1 再構築の方針

対策方針の検討において、被災擁壁を解体・撤去し、再構築する必要のある場合には、別添二「宅地防災マニュアル」を参考とし、適切な復旧を図るものとする。
なお、施工に伴う仮設工法についても、十分検討する必要がある。

III・3・2 擁壁タイプ別の復旧工法選定

本復旧工法の選定にあたっては、擁壁の変状の形態、程度、範囲、詳細調査結果等に基づき、擁壁の種類ごとに検討し、適切な本復旧工法を選定するものとする。
(1) 練積造擁壁
練積造擁壁の壁体の変状形態には、一般的に折損、ハラミ、ひびわれ、出隅部の破壊等があり、それぞれの形態に応じた変状の程度、変状の進行性の有無及び程度、所有者の意向、被災擁壁が宅地造成等規制法の技術基準に適合していたか否か等を総合的に勘案し、本復旧工法を選定するものとする。
(2) 空石積造擁壁
空石積造擁壁の壁体の被災形態には、一般的に折損、ハラミ、出隅部の破壊、目地モルタルのひびわれ等があるが、本復旧工法の選定に際しては、概略調査結果に基づき概定した対策範囲について詳細調査・検討を行い、原則として再構築を行うものとする。
(3) RC擁壁
プレキャスト擁壁を含むRC擁壁の壁体の変状形態には、一般的に折損、出隅部の破壊、ひびわれ等があるが、それぞれの形態に応じた変状の程度、進行性の有無及び程度、被災擁壁が宅地造成等規制法の技術基準に適合していたか否か等を総合的に勘案し、本復旧工法を選定するものとする。
(4) 増し積み擁壁
増し積み擁壁の壁体の変状形態には、一般的には折損、ハラミ、出隅部の破壊、ひびわれ等があるが、それぞれの形態に応じた変状の程度、進行性の有無及び程度、下部擁壁が宅地造成等規制法の技術基準に適合していたか否か等を総合的に勘案し、本復旧工法を選定するものとする。
(5) 二段擁壁
二段擁壁等の多段擁壁が被災等を受けている場合の本復旧は、被災した擁壁の本復旧に際して、上下に隣接する被災していない擁壁に悪影響が及ばないよう配慮することが大切である。
個々の擁壁の復旧工法の選定については、各タイプの擁壁の復旧工法の選定に準ずるものとする。
(6) 張り出し床版付擁壁
張り出し床版付擁壁が被災した場合の擁壁部分の本復旧については、各タイプの擁壁の復旧方針に準ずるものとする。
III・4 仮設工法
仮設工法は、使用目的、使用期間等に応じて適切な工法を選定するものとし、工事規模に対して過少とならないように十分配慮するとともに、施工中の安全確保等の観点から必要かつ無駄のないよう合理的に計画するものとする。

IV 仮復旧

IV・1 仮復旧の基本的留意事項
仮復旧は、出水期等において被災擁壁に起因した災害が二次的に発生する恐れがある場合に応急かつ暫定的な対策として実施する措置であり、本復旧が実施されるまでの間に懸念される災害の防止に必要な程度まで実施しなければならない。
本復旧の実施が可能となった場合には速やかに本復旧を行うものとし、仮復旧のまま長期にわたり放置してはならない。
IV・2 仮復旧工法の選定
仮復旧工法は、擁壁の被災の程度・状況、及び施工機械の搬入路の有無、宅盤上の建築物の状況、緊急性等を考慮して、想定される災害の種類、規模等に応じた適切な工法を選定しなければならない。
仮復旧工法の選定にあたっては、本復旧を行うに際して手戻りとならない工法を選定することが望ましい。
IV・3 仮復旧に関する個別検討事項

IV・3・1 擁壁

出水期等において、被災擁壁に起因する二次災害が発生する恐れがある場合には、壁体の状態に応じた適切な措置を講ずるものとする。

IV・3・2 宅盤

擁壁の被災に伴う宅盤の沈下、陥没、降起、段差、亀裂等の変状の有無、程度等について十分に調査を行い、宅盤の変状が確認される場合には、宅盤の水や土砂が擁壁やのり面に直接流れ出ないよう、変状形態に応じた適切な処理を行うことが必要である。

IV・3・3 のり面

のり面に亀裂、ハラミ出し、崩壊等の変状が生じていないかを十分に調査しなければならない。
のり面に変状が生じた際には、その形態に応じた適切な措置を行い、土砂が流出しないように処理することが必要である。

V 警戒避難体制

工事中は、降雨による斜面の崩壊・土砂流出等の災害が起きやすいため、不時の集中豪雨等に対処するために必要な応急資機材をあらかじめ工事現場の要所に備蓄しておくとともに、非常時の連絡体制を明確にし、気象情報の収集等に努めることが必要である。
工事中に緊急事態が発生した場合等においては、施主、請負者、関係官公庁等が一体となってその対応にあたり、当該地区及びその周辺に関わる災害の予防、応急措置等を実施することが必要である。
また、人命に危害を及ぶおそれがある場合には、影響範囲の住民の速やかな避難が必要である。


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