前文
1) 官公庁施設に求められる地震防災機能
2) 官公庁施設の地震防災機能の確保のための基本的考え方
3) 実施すべき施策
官公庁施設の地震防災機能の在り方に関する答申
平成8年6月4日
建築審議会
官公庁施設の地震防災機能の在り方について
前文
この答申は、平成7年1月の阪神・淡路大震災で得られた教訓を基に、官公庁施設の地震防災機能の在り方について、その基本的考え方及び講ずべき施策を取りまとめたものである。
国家機関の建築物はもとより、政府関係機関、地方公共団体等の建築物が、この答申に示された理念、認識を共通の基盤として、地震防災機能を備えたものとして整備されることが望まれる。
官公庁施設以外の建築物においても、地震防災機能を発揮することが期待される公共・公益施設、避難所として位置づけられた施設、不特定多数の者が利用する施設等については、この答申の趣旨を踏まえ、十分な耐震性能を確保することが期待される。
また、今後、各機関で実施される諸施策の有機的な連携が図られることにより、地域全体の地震防災機能が向上することを期待する。
1) 官公庁施設に求められる地震防災機能
1 官公庁施設の役割と阪神・淡路大震災から得られた教訓
官公庁施設の多くは、地震災害時に、応急対策、復旧・復興、避難者の受け入れ等の重要な地震防災機能を果たす防災拠点としての役割が期待されている。
政府においては、昭和56年の本審議会の官庁施設の地震防災性能の強化に関する答申を受けて、「官庁施設の総合耐震計画標準」を始めとする各種の技術基準の整備、既存官庁施設の耐震点検・改修等の諸施策を講ずることにより、地震防災機能の確保に努めてきている。
しかし、先の阪神・淡路大震災は、近代的大都市を襲った直下型地震による大規模災害として未曾有のものであり、官公庁施設も多くの被害を受け、災害対策活動のみならず、行政サービスの提供にも重大な支障が生じた。
構造体に大きな被害がない場合でも、通信設備や電源設備の被害によって迅速な災害情報の収集、伝達に支障を来たし、また、ライフラインの途絶により設備が機能せず、結果として、地震防災機能が発揮できなかった事例も数多くあった。
さらに、国、地方公共団体等の災害対策活動における施設面での連携の重要性が再認識された。
今後の官公庁施設の整備に当たっては、これらの教訓を踏まえて、より広い観点から、総合的な地震防災機能の向上を図る必要がある。
2 防災拠点となる官公庁施設整備の基本的課題
(1)地震防災機能を担う官公庁施設の整備に当たっては、防災拠点としての役割の重要度に応じて、建築物全体としての総合的な耐震性能を確保する必要がある。
また、地震防災機能を確保するため、入念な設計、ていねいな施工、適切な維持管理が重要である。
(2)災害対策活動施設、地域防災計画において避難所として位置づけられた施設等の整備に当たっては、地震防災機能の確保のための投資を効果的に実施するため、重要な部分に重点的・効率的な投資を行う必要がある。
(3)地震防災機能を担う国、地方公共団体、公共・公益機関等の相互の連携は、災害対策活動を円滑かつ効果的に行ううえで特に重要である。
このため、官公庁施設の整備に当たっては、これらの機関等との有機的な連携に配慮した施設づくりに努める必要がある。
2) 官公庁施設の地震防災機能の確保のための基本的考え方
1 耐震性能の確保
(1)施設の用途に応じた耐震性能の確保
官公庁施設の整備に当たっては、施設の用途に応じて、地震災害時に施設に必要とされる機能、施設が被害を受けた場合の社会的影響並びに施設が立地する地域的条件及び敷地条件を考慮し、構造体、非構造部材、建築設備等について、施設の防災上の重要度に応じた耐震性能の目標を定め、これを確保する必要がある。
特に、災害応急対策活動を行う機関が入居する施設、避難所として位置づけられた施設、多数の者が利用する施設、危険物を貯蔵又は使用する施設等については、防災上の重要度が高いため、他の施設に比べて耐震性能に余裕を持たせる必要がある。
(2)既存施設の耐震性能の確保
既存の官公庁施設のうち、建築基準法に基づく「新耐震基準」が、昭和56年6月に施行されるまでに建設されたものについては、十分な耐震性能が確保されていないものもあるため、これらの施設の耐震診断及び改修が、地震防災上重要である。
(3)新技術の活用
官公庁施設の整備に当たっては、免震・制振技術等の新技術の性能等を適正に評価し、その効果が期待できる防災拠点施設等にこれを積極的に活用して耐震性能の向上を図り、併せて、耐震に関する新技術の確立・普及に資することが望ましい。
2 地震災害時における防災機能の確保
(1)ライフライン途絶時の地震防災機能の確保
地震災害時に防災拠点となる官公庁施設にあっては、ライフラインが途絶した場合にも、必要な地震防災機能を確保できるよう、復旧するまでの期間を想定したうえで、自家発電設備等の整備を行う必要がある。
特に、地震災害時には、迅速かつ正確な情報の収集、伝達が重要であるため、通信機能が途絶することがないよう、通信手段の多重化等を図る必要がある。
なお、地震防災機能を確保するためには、高度かつ複雑な設備に頼り過ぎることなく、自然や人力を使用した、緊急時にも確実に機能する設備等を活用することも重要である。
(2)適切な維持管理による地震防災機能の確保
官公庁施設が、地震防災機能を十分に発揮するためには、平常時からの施設及び設備の適切な維持管理が重要である。
特に、地震災害時に重要な役割を果たす自家発電設備等の設備が確実に機能するよう、適切な維持管理に努める必要がある。
また、施設及び設備の整備に当たっては、地震直後、参集した要員等により比較的容易に操作ができる構造のものとすると共に、要員等に対する実践的な訓練を積み重ねておくことが大切である。
(3)避難所
地域防災計画において避難所として位置づけられた学校・公民館等の施設については、避難者の生活に必要な施設及び設備の整備に努めると共に、生活必需品の備蓄場所等についても配慮する必要がある。
なお、避難所として位置づけられた施設については、日常から地域住民の理解を得ておくことが地震災害時の円滑な対応のうえで大切である。
(4)災害対策活動に柔軟に対応できる施設の整備
地震災害発生直後から復旧・復興まで、災害対策活動の態様は、刻々と変化していくため、官公庁施設の整備に当たっては、災害対策活動に柔軟に対応できるものとする必要がある。
特に、地震災害時に、外部からの応援者を含む多数の災害対策要員が集中的に活動するためには、災害対策活動に使用できる共用スペース等の確保が重要である。
なお、国、地方公共団体の本来業務も、一般的には、他で代替できない性格のものであり、その早期回復に対する配慮も必要である。
3 官公庁施設相互の連携
(1)国、地方公共団体相互の円滑な連携を可能とする施設整備
官公庁施設の整備に当たっては、災害対策活動を行う機関相互の円滑かつ効果的な連携が可能となるよう計画することが重要である。
例えば、官公庁施設をアクセスが容易な位置に、公園、広場、備蓄倉庫等と共に一体的に防災拠点として整備することが防災上有効である。
このため、官公庁施設整備に係る計画等の策定に当たっては、地震災害時の防災関係機関相互の連携の観点からも検討を加え、防災拠点地区の整備の促進を図ることが望ましい。
なお、防災拠点地区の整備に際しては、災害に関する正確な情報を迅速に住民等に提供することのできる防災情報基地の整備について検討することが望まれる。
(2)防災拠点間の交通・通信手段の確保
ある地域が被災した場合、被災していない地域の防災関係機関等からの人的・物的支援が円滑かつ効果的に行われることが重要である。
このため、防災拠点となる官公庁施設については、通信手段の多重化を図ると共に、緊急輸送道路からのアクセスが容易な位置に整備することが望ましい。
また、防災拠点には、ヘリコプター離着陸場及び対空標識を整備することが望まれる。
(3)被災地方公共団体等に対する技術的支援
地震災害が発生した場合、災害対策活動の拠点となる官公庁施設の応急危険度判定及び応急復旧が急務である。
このため、国、地方公共団体等において、これらの技能を有する職員の養成に努めると共に、国においては、被災した国の機関、地方公共団体等の緊急時の要請に備え、国、地方公共団体相互の技術的な支援体制を整備しておく必要がある。
3) 実施すべき施策
1 地震防災機能の確保のための基準の策定
官公庁施設が保有すべき地震防災機能に応じて、施設の位置の選定、構造体、非構造部材及び建築設備の設計並びに施設の維持管理に関する総合的な技術基準を策定し、また、既存施設の診断・改修を行うための技術基準を策定する。
これらの技術基準については積極的に公表し、公共性の高い民間の建築物への活用に資する。
2 既存施設の改修等の推進
地震防災機能が確保できない可能性のある既存施設については、早期に耐震診断を実施し、施設の防災上の重要度、耐震診断の結果等を考慮して、緊急性の高いものから計画的に改修等を行う。
3 防災を考慮した維持管理指針、緊急点検・運転マニュアルの策定
地震災害時に、施設及び設備が確実に機能を発揮できるよう、防災上重要な施設については、維持管理の指針を整備する。
また、地震直後、参集要員等による施設の応急危険度判定、設備等の安全のための緊急措置及び災害対策活動に必要な設備の運転が可能となるよう、緊急点検・運転マニュアルを整備する。
4 防災拠点整備指針の策定
地震災害時における防災関係機関相互の連携を円滑かつ効果的に行うため、官公庁施設の整備の面から防災拠点の在り方に関する検討を行い、防災拠点へのアクセスの確保、効果的な災害対策活動のための敷地及び施設の一体的な利用等に関する防災拠点地区づくりの指針を策定する。
5 モデル防災拠点の整備
官公庁施設を核としたまちづくりの制度であるシビックコア地区整備制度等を活用し、まとまりのある官公庁施設が整備される都市を選定してモデル防災拠点としての整備を進める。
6 耐震関係技術開発の推進
官公庁施設の地震防災機能の確保のため、ニーズの高い耐震改修技術を始めとする耐震関係の新技術について、開発目標を明確にし、技術開発の諸制度を活用して開発を推進する。