目 次
【平成11年度観光の状況に関する年次報告】
【平成12年度において講じようとする観光政策】
「平成11年度観光の状況に関する年次報告」は,平成11年度の観光の状況及び政府が観光に関して講じた施策の報告であり,「平成12年度において講じようとする観光政策」は,平成11年度における観光の状況を考慮して,政府が平成12年度において講じようとする観光政策を明らかにしたものである。これら2つを併せて「観光白書」と通称されている。政府は,観光基本法第5条の規定に基づき,いわゆる「観光白書」を国会に提出することとなっている。
【平成11年度観光の状況に関する年次報告】
(1) 平成11年の我が国経済は,極めて厳しかった平成10年に比べると,緩やかに改善した。実質国内総生産は,1〜3月期,4〜6月期とも前期比で増加となったが,7〜9月期,10〜12月期と減少し,11年の実質国内総生産は,前年比で 0.3%増加した。また,個人消費は,年前半には回復の動きが見られたが,年央以降は厳しい所得環境を反映して足踏み状態となった。国内総支出は年間で前年比 0.3%増,民間最終消費支出は同 1.2%増となった。一方,消費者物価は安定的に推移し,11年の消費者物価の対前年上昇率は 0.4%の下落となった。
家計消費については,全国全世帯の消費支出は対前年比 1.2%減となった。また,旅行関連支出(宿泊費,交通費,旅行かばん)を見ると,11年は対前年0.3%増の15万 1,294円となっている。
(2) 余暇活動と密接に関係する自由時間に関しては,年次有給休暇の取得,完全週休二日制等労働時間の短縮,学校週5日制,ゆとりある休暇の拡充等を推進しているところであり,総実労働時間は近年減少傾向で推移してきており,11年は 1,842時間と前年より37時間減少した。また,10年12月現在で,完全週休二日制の適用を受ける労働者の割合は59.2%(前年比1.7%減)となっている。
(3) 現在の国民の「レジャ−・余暇生活」についての意識を見ると,今後の生活で特に重点を置きたい分野として「レジャ−・余暇生活」を挙げる者(32.3%)が最も多く,昭和58年以来連続して第一位を占め続けており,国民の余暇活動に関する志向の根強さがうかがえる(住生活25.4%,食生活21.9%)(図1−1) 。
(1) 11年の国内観光は,個人消費が足踏み状態となっている中で,宿泊・観光レクリエ−ションの旅行回数及び宿泊数とも減少し,また,消費総額も前年を下回った。
(1) 国際観光をめぐるこの1年の動き
11年の我が国の国際観光の状況は,日本人海外旅行者数については,前年比で上半期 3.3%増,下半期 3.6%増,年計で55万人増(3.5%増)の 1,636万人となった(図1−4)。
一方,11年の訪日外国人旅行者数については,前年比で上半期 9.7%増,下半期 6.7%増,年計で33万人(8.1%)増の 444万人となった(図1−4)。
(2) 国民の海外旅行
11年の日本人海外旅行者の主な旅行先の上位5位は,アメリカ(484万人) ,韓国(211万人),中国(123万人),タイ (82万人),台湾 (76万人) となっている。
目的別では,観光を目的とした海外旅行が 1,345万人で全体の82.2%を占めている。
性別構成を見ると,男性(53.2%, 871万人)が女性(46.8%, 765万人) を上回っているが,伸び率の推移を見ると,女性が男性を上回っている。
年齢階層別では,男性女性共に20〜40歳代が約6割を占め,性別では,男性の場合は30歳代が21.7%,女性の場合は20歳代が33.8%と,それぞれ最も多い(図1−5)。
海外旅行者の平均旅行日数は 8.2日となっており,ここ数年,8日程度で推移している。
(3) 外国人旅行者の訪日
11年の訪日外国人旅行者数を国・地域別に見ると,韓国が94万人と最も多く,以下,台湾93万人,アメリカ70万人,中国29万人,イギリス(香港)21万人の順となっている。対前年伸び率では,インドネシア(57.6%増),韓国(30.1%増),マレイシア(26.8%増)の増加が目立っている。
州別構成比は,アジア州59.1%,北アメリカ州18.5%,ヨ−ロッパ州17.5%の順となっており,アジア州が主流となっている(図1−6)。
訪日外国人の平均滞在日数は, 8.0日となっており,前年に比べ若干短くなっている。
訪日外国人の主な訪問地は,東京,大阪,京都,神奈川の順となっている。また,韓国,台湾を中心として,九州地域の人気が高い。
(4) 国際旅行収支
11年の我が国の国際旅行収支(旅客運賃を含む。)は,受取が 6,497億円 (前年比12.3%減),支払は4兆 6,695億円(前年比 1.1%増)で,収支の赤字は前年に比べ 1,410億円増の4兆 198億円となった。
II 最近の我が国の観光レクリエ−ションの動向及び21世紀に向けた今後の観光振興の課題
(1) 最近の日本人の国内観光の動向
ア 都市型観光が人気
最近,都市の持つ複合的な機能や各種の文化,情報の発信機能そのものが観光客にとって高い観光魅力の対象となっている。こうした都市型観光による社会・文化・経済的な波及効果は,観光産業をはじめ地域産業など広く産業全般に及び,来訪者と居住者との交流による新たな都市文化の発展にもつながるため,今後,多様な魅力を持つ都市づくりとして期待されている。
イ 個人・グル−プ旅行が好調
個人消費の足踏状態が続く中で,個人・グル−プ旅行は,ツア−価格の低下や航空運賃の割引き効果を背景に取扱額,取扱人数ともに好調を維持しており,特に,家族旅行の需要が高い。
ウ 「安・近・短」旅行と「安・遠・短」旅行の傾向が続く
国民の宿泊旅行については,従来より「安」(旅行商品の低簾化),「近」(近距離),「短」(短い日数)のいわゆる「安・近・短」旅行の傾向が指摘されてきたが,沖縄・奄美,北海道方面を中心に「安・遠(遠距離への旅行)・短」の旅行も引き続き人気を呼んでいる。
エ 旅行需要の平準化の傾向
近年の宿泊・レクリェ−ション旅行の月別傾向としては,8月,1月の旅行が減少し,その他の月が概ね増加しており,年間を通じた旅行需要の平準化の傾向が見られる。
オ 体験型レクリエ−ション等旅行ニ−ズの多様化
観光地での行動は,都市の散策,伝統文化とのふれあい,買物,飲食,テ−マパ−ク,遊園地など,体験型レクリエ−ションが人気を呼んでいる。 これらに加えて,少人数で自然や野生生物とのふれあい等を通じて自然保護に対する理解・認識を深めていくエコツ−リズムや滞在型の余暇活動であるグリ−ン・ツ−リズムへの関心も高まっている。
カ 旅行商品の更なる低価格化の進展
主要旅行業者50社の11年の国内旅行ブランド商品の取扱実績をみると,その取扱額が増加しているものの,取扱人数の伸びにまで達していない状況が続いている。これは,景気の低迷による影響等を背景として,格安で短期間の旅行商品等に対する消費者の志向が高いこと,厳しい経営状況にある旅行業者,ホテル,旅館等の連携等による低価格商品の開発,販売競争の激化等によるものと考えられる。
(2) 最近の日本人の海外旅行の動向
ア アジア地域への旅行者の増加
海外旅行についても「安・近・短」旅行が人気を呼んでおり,対前年比で中国約23%増,韓国約11%増,タイ約 6%増と,アジア地域への旅行者が増加した(図2−1)。中でも,韓国への旅行者は,平成9年以降増加し続けている。
イ 高年世代の旅行者は,6年で1.7 倍
平成5年から11年までの間の高年世代(60歳代以上)の海外旅行者数の推移を見ると,旅行者数全体では約37%伸びているが,このうち,高年世代では約68%と平均を上回る高い伸びを示している。
ウ 30歳代,50歳代の増加傾向と20歳代の減少傾向
11年の海外旅行の性別・年齢別の対前年比の伸び率の推移を見ると,10歳未満,10歳代,30歳代,40歳代前半,50歳代以上の世代で増加しており,家族旅行や熟年世代,高年世代の旅行が好調であったものと推測される。これに対して,20歳代,40歳代後半では減少しており,年齢階層別で最も多い割合を占めている20歳代の減少傾向が顕著である(図2−2)。
エ 海外旅行商品の更なる低価格化の進展
11年の主要旅行業者50社の海外ブランド商品(主催旅行)の取扱人数は概ね増加傾向にあるのに対し,取扱額は伸び悩みの傾向が見られる。
(3) 最近の旅行業、航空企業の動向
旅行商品の価格競争が一層進展する中で,国内旅行及び海外旅行市場とも低迷状況が続いており,多くの旅行業者は減益の傾向にある。
このような情勢に対応するため,旅行業者は,新聞広告販売,コンビニエンスストアでの旅行商品の販売の強化,インタ−ネットによる旅行商品取引の導入や地方公共団体等との連携により収益の確保に努力している。
また,航空分野においては,国内航空における路線参入規制の緩和,国際航空における航空企業間の提携の動きの活発化,運賃・料金の多様化・低廉化等の結果,航空需要は拡大傾向にあるが,収入単価の減少のため,旅客数の増加の割には収益増につながらず,厳しい状況が続いている。
(1) 訪日外国人旅行者数は史上最高を記録
10年の訪日外国人旅行者数は,東南アジア諸国や韓国において発生した経済危機の影響により,3年ぶりにマイナス成長となったが,11年は,韓国をはじめとするアジア諸国での景気の回復を背景とした旅行市場の大幅な回復により,前年比約8%増の 444万人となり,過去最高の受入者数を記録した(図2−3)。
そのうち滞在客は前年比 8.0%増の 431万人で,うち観光客は 8.6%増の256万人,業務その他の客が 7.2%増の 175万人であった。訪日外国人全体に占める比率は,観光客が57.7%,業務その他の客が39.5%となっている。
(2) 受入数は国際的に見て依然として低水準
外国人旅行者数を,諸外国と比較すると,日本は世界第32位であり,地理的にほぼ同条件にある韓国よりも若干多い数値となっており(図2−4),また,日本人海外旅行者数の約4分の1と不均衡な状態が続いている。このため,外国人旅行者の訪日の促進と地方圏への誘致のための施策を引き続き推進していくことが必要となっている。
(3) アジア地域からの訪日旅行者数の増加
11年にはアジア諸国の景気の回復を背景にアジア地域からは,全体の約6割を占める 283万人(前年比約8%増)が訪日した。国・地域別に見ると,韓国94万人(約30%増),台湾93万人(約11%増),中国29万人(約10%増)となっている。
(4) 訪問地別の訪問率の傾向
訪問率上位5都府県(東京都,大阪府,京都府,神奈川県,千葉県)の構成は過去5年間で変化はないが,その訪問率の推移を見ると中長期的には減少傾向にあるといえる。
(5) 日本文化と近代日本が魅力
訪日観光客の日本での活動内容をみると,日本料理・郷土料理,買物・ファッション,大都市の体験・観光,寺社・庭園・歴史的名所など近代日本と日本の伝統文化の人気が高い。また,アジア地域からの観光客はテ−マパ−ク等や温泉に,また,欧米地域からの観光客は小都市・田舎の体験・観光,日本の生活様式,伝統工芸等の日本固有の文化や風俗習慣に比較的関心が高い(表2−1)。
11年に総理府が実施した「余暇時間の活用と旅行に関する世論調査」を基に国 民の余暇時間の活用と旅行に関する意識の動向を分析する。
(1) 国民の余暇時間の活用に関する意識
(2) 国民の国内旅行に関する意識
(3) 国民の海外旅行に関する意識
国内観光地の活性化のためには,地域において,貴重な観光資源を再発見し, 将来に向けてその価値を高め,来訪者と地域社会との交流機会を創出し,将来に渡って観光振興と共生できる地域づくりに努めるなど,持続的に発展可能な観光地づくりのための取組が重要である。
このような認識の下で,観光振興が地域の社会や経済の活性化にどのような効果を生み出しているかという視点で,観光振興の事例に基づいた分析を行った。
(1) 国内観光地の新たな魅力づくりの視点
(2) 観光振興を通じた地域の活性化
(3) 観光関連産業における雇用創出
(1) 政府の取組
(2) 観光関係事業者等における取組
21世紀に向けて,観光に向けられる期待がこれまでになく高まっている中,経済発展や国民生活の向上に貢献するという観光産業に与えられた重要な社会的使命を達成するため,観光に関連する主要な企業及び関係団体等からなる「観光産業振興フォ−ラム」が11年12月に発足した。
また,各地域における観光振興の高まりを受け,11年11月以降,全国各地域で「観光百人委員会」の設立が行われており,こうした動きを契機に,観光関連の事業者や国,地方公共団体が一体となって観光振興に取り組み,日本経済の活性化に寄与していくことが期待される。
21世紀において,国民の多様化した価値観に対応して,国民一人一人がゆとりとうるおいを感じられる生活の実現が重要な課題となっている。このような観光に対する期待の高まり等に対して,平成11年4月,観光政策審議会に「21世紀初 頭における観光振興方策について」の諮問がなされており,現在,総合部会と観光まちづくり部会の両部会において,12年秋頃の答申を目指して議論が行われている。
(1) 国民の旅行環境の改善
ゆとりある生活の実現のためには,家族そろって,ゆったりと旅を楽しめるような社会環境を作っていく必要がある。このため,今後は,長期滞在型旅行の推進,年次休暇を取得しやすい社会環境づくり等の施策が重要である。
(2) 情報化社会にふさわしい観光情報の提供
政府は,電子政府の実現等,来るべき高度情報通信社会の到来のため,その基盤づくりに努めている。このような状況に対応するため,国内の観光関係の各種情報を収集・提供できる基礎を整備し,インタ−ネット等を通じ,外国語,日本語により国内外に提供し,外国人旅行や国内旅行の促進を図ることが重要である。
(3) 魅力ある国内観光地の創造
国内観光の活性化のためには,魅力ある国内観光地の創造が不可欠である。
このためには,各地域において観光の重要性に対する理解の増進,観光地の個性化,明確なビジョンに沿った「まちづくり」,多様な観光メニュ−の提供,ホスピタリティ−の向上,都市における魅力ある街づくり,農山村における観光魅力の増進等,魅力ある国内観光地の創造のためのより積極的な対応が求められている。
(4) 訪日外国人旅行者の誘致
ウェルカムプラン21,「外客誘致法」等に基づく訪日外国人旅行者の地域への受入体制の整備,国際観光振興会等による海外宣伝の強化,外国人旅行者が長期間滞在できる魅力ある観光拠点の整備,生活空間倍増戦略プランに基づいた「遊空間の拡大」による地域振興など国際交流の促進に向けた各種取組が求められる。
(5) 日本人海外旅行
日本人海外旅行のマ−ケットは,50歳代から60歳代の年齢層の増加がみられ,高齢者のニ−ズに対応した商品の企画開発,魅力ある旅行目的地の開発等が課題となる。
(6) 観光関連産業
観光関連産業は,旅行業,交通業,宿泊業,飲食業等広範多岐に渡り,また,各地域の地場産業にも関連が深く,観光振興は,これらの産業の振興につながり,地元において多くの雇用機会を創出している。今後,国民の生活の力点が,一層,レジャ−・余暇生活に置かれると考えられること,労働時間の短縮,週休2日制の一層の普及等により余暇時間が増大し,観光需要が拡大していくことを考えると,観光産業は,地域を支え,国を支える基幹産業の一つとして重要な役割を果たすべきであると考えられる。
(7) 観光分野における高齢化対策・バリアフリ−化の推進
21世紀における高齢化社会の進展を踏まえ,障害者,高齢者など全ての人々が容易に旅行できる環境を整備するため,公共交通のバリアフリ−化の更なる促進,旅行弱者に対応した観光施設等バリアフリ−化の促進,高齢者向けツア−の情報提供などを積極的に推進していく必要がある。
【観光に関して講じた施策】
政府は11年度においても前年度に引き続き,国際観光の振興及び国内観光の振興等,観光に関する施策を講じてきたが,これらのうち,主なものは次のとおりである。
(1) 国際観光テ−マ地区の整備と重点的海外宣伝の実施
外客誘致法に基づき,観光ル−トを整備する外客来訪促進地域(通称:「国際観光テ−マ地区」)の形成が盛り込まれた「外客来訪促進計画」について,12年2月までに合計10地域について同意がなされた。同テ−マ地区については,国際観光振興会による重点的海外宣伝の実施など,関係者一体となった取組が行われている。
(2) 国際交流拠点・快適観光空間の整備
国際観光テ−マ地区を訪れる外国人旅行者のため,同テ−マ地区の拠点に地域の歴史,文化,自然等の紹介機能や体験機能を備えた「国際交流拠点」の整備及びル−ト化された生きた街を散策し,住民との交流を図ることができる魅力ある観光地づくりを目的とした「快適観光空間」の整備が行われている。
(3) 外国人旅行者の国内旅行費用の低廉化と接遇の向上
博物館,宿泊施設,飲食店,レジャ−施設,交通機関等を利用する際に掲示することにより割引等の優遇措置を受けられる「ウェルカムカ−ド」が,各地で導入されている。また,国内の主要な航空会社,鉄道会社における外国人向けの割引運賃の設定,外客誘致方に基づく共通乗車船券の導入など,外国人旅行者の国内旅行費用の低廉化のための取組が各方面でなされている。
(4) 次世代観光情報基盤整備
日本の各種観光情報を外国語及び日本語により電子デ−タ化し,インタ−ネットを通じて提供するとともに,一部宿泊施設についてはホ−ムペ−ジ上で予約ができる機能も付加された次世代観光情報基盤の整備を進めた(図3−1)。これにより,12年3月には国際観光振興会のホ−ムペ−ジが全面再構築された(http://www.jnto.go.jp/)。
(5) 海外観光宣伝キャンペ−ンの実施
経済新生対策の一環として,外国人観光客の訪日の促進等により国内観光需要の早急な回復をさせるため,北米キャンペ−ン,九州・沖縄サミットを契機とした訪日促進キャンペ−ン及び2002年ワ−ルドカップサッカ−大会を契機とした訪日促進キャンペ−ンを実施した。
(6) ワ−ルドカップを活用した広報宣伝・受入体制の整備
2002年ワ−ルドカップサッカ−大会開催を契機として,国際観光振興,地域振興を図るため,「ワ−ルドカップ開催を契機とした国際観光振興戦略会議」を11年5月に設置し,ワ−ルドカップを活用した広報宣伝,受入体制の整備のための検討を行った。
(7) 日中両国の観光交流の促進
中国との観光交流を本格的に促進するため,中国人団体観光旅客の受入に向けた政府間協議を実施した。また,11年1月に国際観光振興会北京事務所を開設した。
(1) 国内観光の再生に向けた取組として,国・地方公共団体,観光関係事業者等 の緊密な連携による,様々な観光振興施策が進められている。
21世紀に向けた観光の新しい課題に対応していくため,地方ブロック単位で「広域連携観光振興会議(WAC21)」を開催し,より広域での観光振興を目 指している。11年11月には,第2回目の広域連携観光振興会議が北陸ブロック(富山,石川及び福井の3県)において開催され,「北陸三県広域観光共同宣言」がなされた。
(2) 地域伝統芸能等は,地域固有の歴史,文化等を色濃く反映したものであり,地域の特色を活かした観光の振興を図るために,極めて効果的である。
11年5月には,和歌山県田辺市及び白浜町において「第7回地域伝統芸能全国フェスティバル」が開催されたほか,海外においても地域伝統芸能等を披露し,観光客の誘致に努めている。
(3) 送客側と受入側の地方公共団体と観光産業とが協力し,中部圏の消費者をタ−ゲットに新しい国内旅行の提案,旅についての総合的な情報の発信と交流,旅の魅力をアピ−ルする展示と実演等を行う旅の総合イベントとして「旅フェア '99」が,11年4月に名古屋ド−ムにおいて開催され,約24万人の入場者があった。
(4) 政府の緊急経済対策(9年11月18日決定)を受けて,モデル地域における観光地評価を踏まえた観光地づくりプログラムの策定,観光振興イベント支援事業の集中的実施を内容とする「観光地づくり推進モデル事業」をこれまでに計10ケ所の観光地について実施した。
(5) 北海道は,明瞭な四季と豊かな自然・新鮮な味覚等の多彩な観光資源を有しており,来道者数もここ数年増加傾向にある。また,観光振興は,北海道において重要なテ−マであり,政府においても,観光基盤の整備,観光資源情報ネットワ−クの充実,アウトドア活動に資する施設整備等を通じ,北海道の特色を生かした観光振興を積極的に支援している。
(6) 沖縄県は,恵まれた自然景観・独特の伝統文化や歴史など,魅力的な観光・リゾ−ト資源を有しており,観光客も年々増加している。
また,観光産業は,沖縄県の基幹産業の一つであり,沖縄観光の魅力を増すことが必要であることから,沖縄振興開発特別措置法等の改正により観光振興地域制度及び沖縄型特定免税制度を創設し,より一層の観光振興を図っている。
さらに,11年度において,新たに沖縄の特性を活かした魅力ある地域づくりに効果的な施策として,観光リゾ−トにふさわしい景観の形成・環境の保全,海洋レクリエ−ションでにぎわう離島における旅客用設備の整備等の事業を実施して,積極的に支援している。
(1) 旅行業等に係る施策
(2) 価格・サービスの多様化等
(3) 観光分野におけるコンピュ−タ西暦2000年問題への対応
(4) 高齢者・障害者等の円滑な移動の確保
(1) 国立公園等自然公園の整備,森林の保全管理,河川,湖沼及び海洋環境の保全,都市緑地の保全,温泉の保護,野生生物の保護等を推進し,自然とのふれあいの要請にこたえるとともに,自然環境の保全を図った。
(2) 国宝・重要文化財等の文化財の保存・活用,無形文化財の伝承者養成等を進め,また,歴史的集落・町並み,歴史的風土,歴史的港湾,灯台についての保存・活用を図った。
(3) 11年11〜12月にモロッコのマラケシュにおいて開催された,第23回世界遺産委員会会議において,「日光の社寺」が我が国で10番目の世界遺産として,新たに世界遺産一覧表に記載された。
(4) 都市,農山漁村,水辺,道路について景観の整備を促進し,良好な景観の形成と魅力あるまちづくり等を進めた。
(5) 「旅に出て 心も体もリフレッシュ」を統一テ−マとした第35回観光週間(8月1日〜7日) ,みどりの週間(4月23日〜29日)等を通じて,観光資源の保全・保護等について,広報・啓発等を行った。
(1) オ−トキャンプ場,旅行村等,農山漁村地域におけるレクリエ−ション地区等,森林・公園等を活用したレクリエ−ション施設等,自然体験施設,親水レリエーション施設等の公的観光レクリエ−ション施設等の整備を推進した。
(2) 民間活力の活用に重点を置いて整備し,ゆとりある国民生活の実現と地域振興を図るために「総合保養地域整備法」に基づき整備が進められ,多数のプロジェクトが供用され地域の活性化に貢献している。リゾート整備を着実に整備・推進するため,アドバイザーの派遣等を行っている。
(3) 国民の観光レクリエーション需要の高まりに伴い,民間等により,レジャーランド,オートキャンプ場,一般キャンプ場,スキー場,マリーナ,クアハウス,ゴルフ場,観光牧場等様々な観光レクリエーション施設等が全国的に整備・運営されている。
(1) 博物館,美術館等の整備・充実を図り,所蔵品を収集・保管・展示して一般の利用に供するとともに,解説書の発行や各種講座等を開催した。
(2) 国立競技場等の体育・スポ−ツ施設や国立オリンピック記念青少年総合センタ−等の青少年教育施設の整備を進めた。また,パラグライダ−等のスカイレジャ−の進展に対応し,安全の確保及びその振興・普及に係る施策を進めている。
(1) 一定規模のホテル・旅館等については,近代化を推進するため環境衛生金融公庫において設備資金等の融資を行うとともに,「国際観光ホテル整備法」に基づく登録ホテル・旅館については,政府系金融機関による融資によって施設整備を支援した。
(2) 宿泊施設やサ−ビス・料理の面で高齢者が利用しやすい旅館・ホテルとして一定の基準を満たした旅館等をシルバ−スタ−旅館として認定登録し,従業員等に対し研修を実施しており,11年12月現在 789軒が認定登録されている。
(3) 国民宿舎,ユ−スホステル等の運営,整備を行った。
(1) 鉄道については,11年12月,いわゆる山形新幹線が山形から新庄まで延伸され,東京・新庄間が最速で3時間5分となり,22分短縮された。
また,整備新幹線の既着工3線4区間及び新規着工3線3区間の整備を着実に推進した。
さらに,車両の居住性の向上や移動制約者対応トイレの導入等の社会的ニ−ズへの対応等の観点からの輸送サ−ビスの改善が進められている。
(2) 道路については,高規格幹線道路,地域高規格道路,一般国道及び地方道,有料道路の整備・建設を促進し,「道の駅」や「ハイウェイオアシス」の整備を進めた。高速自動車国道は,11年度に北海道横断自動車道,千歳恵庭JCT〜夕張区間等新たに10区間を供用し,全体供用延長は 6,615kmとなった。
また,バスタ−ミナルの整備・運営,観光地のバス・タクシ−事業,レンタカ−事業等によって利用者利便の向上が図られている。
(3) 空港については,航空ネットワ−クの拠点となる大都市圏における拠点空港の整備を最優先課題として推進するとともに,一般空港等の整備を進めた。このうち,11年12月には,新東京国際空港について,2,180mの暫定平行滑走路の工事に着手し,また,東京国際空港については,新B滑走路の11年度末の供用開始を目指し,整備を実施した。
(4) 海上交通については,運輸施設整備事業団との共有建造方式による旅客船サ−ビスの改善,輸送力の増強等を図るとともに,旅客タ−ミナル等の整備を行った。
(5) 観光地の環境衛生施設について,地域の生活環境の保全及び向上を図るために,水道及び下水道等の整備の推進に努めた。
(1) 鉄道,道路,航空及び海上交通の交通安全対策
鉄道事故の防止を図るため,自動列車停止装置(ATS)の整備等を推進するとともに,乗務員等の教育訓練の充実,厳正な服務の徹底及び適正な運行管理を指導した。
また,山陽新幹線におけるコンクリ−ト剥落事故を受けて,鉄道事業者に対し,鉄道トンネルの総点検を実施するよう求める等鉄道の安全確保に関する厳格な指導を実施した。
道路については,交通事故が多発している道路等について,特定交通安全施設等整備事業七箇年計画に基づき交通安全施設等の整備拡充を図るとともに,交通安全思想の高揚,自動車運送事業者における適正な運行管理の確保及び整備不良車両の運行防止等により交通事故の防止を図った。
航空については,11年7月に発生した全日空機ハイジャック事件を踏まえ,受託手荷物受取場から出発ロビ−への逆流防止のための恒久的措置の導入,保安検査機器の最新のものへの更新等,航空保安措置の見直し・強化等を行い,航空機に対する不法妨害行為防止対策の充実・強化を行った。
海上交通の安全を確保するため,海事関係法令の励行,旅客船の運航管理制度の徹底,プレジャ−ボ−ト等の海難防止指導等により事故防止に努めた。
(2) 宿泊施設等における安全対策
旅館,ホテル等の防火対策として,建築基準法,消防法による指導を行うとともに,過去の火災事例等を踏まえて作成した「旅館・ホテル等の防火安全の手引き」等の活用による指導を促進した。
また,ホテル・旅館,飲食店等食品関係営業者に対して,食品衛生監視員の指導,食品衛生法に基づく管理運営基準の遵守の徹底を図った。
(3) 観光地における自然災害防止対策
台風や集中豪雨などの気象条件により土砂災害の発生しやすい環境にある山地流域については,砂防工事を実施するとともに,総合的な土砂災害対策の推進,火山噴火警戒避難対策事業の実施等の災害対策を推進した。
(4) 気象等の情報の提供
台風・集中豪雨雪対策等観測予報体制の強化,地震・火山対策の強化及び海洋・海上気象業務の強化を行い,観測体制の充実及び適時適切な予報・警報並びに情報の提供に努めた。
また,11年8月に発生した神奈川県の玄倉川におけるキャンプ客の水難事故等,近年,河川におけるアウトドア活動中の事故が増大していることを受け,出水時における安全確保のあり方について検討を行った。
(5) 遭難等の防止対策
山岳遭難,水難防止を図るため,救助体制の充実,安全指導等諸施策を推進するとともに,観光旅行者に対し災害危険箇所及び避難地・避難路等の周知徹底を図るよう地方公共団体に対し指導を行うなど,避難体制の確立に努めた。
(6) 事故災害への対応と観光需要の喚起
自然災害等の発生に際して,旅行関係団体等に対して安全情報の提供を行った。さらに,11年9月に発生した茨城県東海村の核燃料加工施設の臨界事故に際して,その後,政府による安全宣言が出された後も風評被害が発生したため,観光キャンペ−ンの開催,安全性の広報や観光客誘致についての協力依頼を行った。
(1) 地方公共団体は,交流を通じた様々な地域振興の観点から,観光振興に積極的に取り組んでおり,観光基本計画等を策定し,総合的な推進を図っている。
また,観光関連産業は,交通産業,旅行業,宿泊業,飲食産業,土産品産業等幅広い分野を包含した産業であり,その消費額の規模や関連する雇用規模からみて地域経済に多大な貢献をしている。このため地方公共団体は,インタ−ネットのホ−ムペ−ジを活用した観光情報の発信・提供,全国各地での特色あるイベント,キャンペ−ン,物産展等の実施・開催,外国人観光客誘致の促進,観光客の受入体制の充実等を図っている。
さらに,自然環境の保全,文化財の保護,観光地の美化清掃等を進めるとともに,国の支援・協力を受け,また独自に,観光施設・観光基盤の整備を行っている。
(2) 近年,地域の自然,歴史,文化等の紹介を,住民ボランティアが地域の言葉と真心で案内する「地域紹介・観光ボランティアガイド」活動が,全国の観光地で展開されており,その数も急速に増加してきている。これらの「観光ボランティアガイド」の活動は,来訪者との交流,地域住民参加によるホスピタリティの向上に寄与するとともに,町づくり,地域の活性化,地域の観光振興にとって重要な役割を果たしてきている。
【平成12年度において講じようとする観光政策】
平成12年度においては,従来の観光関係施策の充実強化に努めるほか,以下の事項について重点的に実施することとしている。
(1) 観光資源の保全・保護,公的観光レクリエ−ション地区・施設の整備,観光関連施設の整備,宿泊・休養施設の整備,観光基盤施設の整備等に関して地方公共団体を支援・協力し,地域における観光の振興を引き続き推進する。
(2) 一部祝日の月曜日指定化を内容とする改正祝日法の平成12年からの施行などを受けて,旅行期間の長期化,国内観光機運の醸成により,消費の拡大,景気の回復を図るため,旅行需要喚起等のための施策を推進し,長期滞在型観光を振興する。
(3) 「第3回広域連携観光振興会議(WAC21)」を南九州地域において,また 「第8回地域伝統芸能全国フェスティバル」を北海道において開催する。さらに,13年度に福島県において開催される「うつくしま未来博」,山口県において開催される「21世紀未来博覧会」,北九州市において開催される「北九州博覧祭2001」に対して各種の支援措置を講じる。
(4) 国内旅行の促進と旅行を通じた交流人口の増大による地域の活性化を図るために,都道府県等と旅行関連産業が連携し開催する旅の総合見本市「旅フェア2000」を,12年4月に千葉県の幕張メッセで開催する。
(5) 一定のテ−マのもとに,地域の特色を生かした広域観光案内板,小規模休憩施設を整備し,自動車旅行の利便の増進と魅力ある個性的な観光地を創出する「広域観光テ−マル−ト」事業を実施する。
(6) 北海道観光のより一層の振興を図るため,道路・空港・港湾等の整備や観光情報システムの充実等の観光基盤の整備等について各種の措置を講ずる。
(7) 沖縄の基幹産業ともいえる観光の振興を図るために,引き続き関連施設の整備促進を行う。また,観光振興地域制度及び沖縄型特定免税店制度に関して,魅力ある観光拠点の形成と制度の効果的な運用に努める。
(1) 一層の消費者保護を図るため,8年4月から施行されている旅行業法の円滑な実施を引き続き図る。また,各運輸事業者による各種運賃・料金施策等利用 者サ−ビスの充実を図る。
(2) インタ−ネット等の情報通信メディア等を活用し,国民に観光地の最新情報を正確かつ迅速に提供するための観光情報提供体制の整備を進める。
また,国際相互理解の増進や観光振興を通じた地域の活性化に資するため,利用者が容易に検索可能な形で情報提供を行う次世代観光情報基盤の整備を引き続き推進する。
(3) 公共交通機関等における高齢者・障害者の円滑な移動の確保のためのバリアフリ−施設の整備を進めるとともに,割引運賃等の措置を引き続き実施する。
(1) 自然公園の公園計画について所要の見直しを進める。また,国有林野では,適切な森林の管理施業を推進するとともに,保護林の設定,世界遺産に登録された屋久島,白神山地を始めとする既存の保護林の適切な保護管理等により自然環境の保全・形成を図る。
(2) 水質の保全を図るため,水生植物等の生態系を活用した水質浄化施設の整備を推進する。また,水質・底質の浄化を図る海域環境創造事業を実施する。
(3) 文化財等の文化遺産の保護・保存・活用を一層推進するとともに,都市景観,農山漁村景観等の整備等を推進する。
(4) 第36回観光週間(8月1日〜7日),自然に親しむ運動,みどりの週間,文 化財保護強調週間等を通じて,観光資源の保全・保護に関連する広報・啓発活動を実施する。
(1) 整備新幹線の建設,主要幹線鉄道の高速化,輸送力増強及び輸送サ−ビスの向上等を促進するための都市鉄道の整備を推進する。
(2) 道路整備五箇年計画に基づき,「新たな経済構造実現に向けた支援」等4つの緊急課題に重点を置き,道路政策を重点的かつ計画的に推進する。
(3) 空港整備七箇年計画に基づき,大都市圏の拠点空港の整備を優先課題として空港整備を推進する。
(4) 港湾整備七箇年計画に基づき,旅客船タ−ミナル,マリ−ナ等の整備を図る。
(5) 下水道整備七箇年計画に基づき,公共下水道,流域下水道,特定環境保全公 共下水道等の整備を図る。
(1) 鉄道事故の防止を図るため,自動列車停止装置(ATS)等の整備を進める。
(2) 近年の交通事故の多発傾向にかんがみ,安全かつ円滑・快適な道路交通環境の整備を図るため,特定交通安全施設等整備事業七箇年計画に基づき,交通安全施設等の一層の整備拡充を図る。
(3) 航空交通の安全性,効率性及び管制処理能力の向上を図るため,衛星を利用した航空管制を行うための航空衛星システムの整備を推進するとともに,航空路監視レ−ダ−の性能向上整備の推進,方位・距離情報提供施設の性能向上整備等を進める。
(4) 前年に引き続き全日空機ハイジャック事件の発生を踏まえた航空保安措置の見直し強化の推進,航空危機管理体制の一層の充実及び航空機に対する不法妨害行為防止対策の充実・強化を図る。
(5) 海上交通の安全を確保するため,海事関係法令の励行に重点を置くとともに,航路標識の新設等を計画的に推進する。
(6) 宿泊施設等における防火安全体制を確立するため,防火基準適合表示制度の充実及び一層の推進を図る。
(7) 気象,地象,水象に関する観測・監視体制の強化及び予報・警報等の精度向上等,迅速かつ的確な気象情報の提供を推進する。
(8) 山岳遭難に関し,救助体制の強化・充実,安全登山の注意喚起を図る。また,迅速かつ的確な水難救助を図るための指導や救助訓練等を実施する。
(9) 北海道の有珠山噴火の影響により観光客減少が懸念される北海道観光に関して,安全情報の提供等を行うとともに,地元北海道や旅行事業者等の関係者と連携して北海道への観光促進キャンペ−ン等の実施に向けて取り組んでいくこととしている。
(1) 観光政策審議会を始め各観光関係審議会は,適宜所管の事項について調査,審議を進める。
なお,今般の中央省庁等改革の一環として,現在,総理府が所掌している観光関係の事務については,平成13年1月6日に,その事務の内容に最も関連の深い国土交通省に移管される予定である。
(2) 観光関係団体の活動に対し引き続き支援,指導を行い,観光の振興を図る。
なお,今般の中央省庁等改革の一環として,観光政策審議会は平成13年1月6日に廃止され,以後の観光基本法の施行に関する重要事項の調査審議等については,新たに国土交通省に置かれる交通政策審議会において行われる予定である。