第1節 抑制続く旅行支出

  1. 経済の概況
     平成12年の我が国経済は、前年に続き緩やかに改善した。公共投資などの各種政策効果や、輸出の伸びなど、外的環境に支えられ、景気は平成11年に回復局面に入った。平成12年には、設備投資が増加するなど企業部門が好調な一方で、個人消費はおおむね横ばい状態が続くなど、家計部門の改善の遅れが目立った。この結果、平成12年の実質国内総生産は前年比1.7%増加した。
     個別項目ごとにみると、個人消費は、おおむね横ばいの動きとなった。費目別にみると、情報通信関連支出は大幅な増加を続ける一方で、食料品や衣料品の減少が続いた。住宅建設は、持家は弱含みの動きとなった一方、分譲マンションは堅調に推移したことなどから、全体ではおおむね横ばいで推移した。また、設備投資は情報通信関連業種に牽引され増加した。輸出は、アジア向けは増加から減少に転じ、欧米向けが減速したことから、伸びが低下した。生産は、情報化関連品目に牽引され堅調に増加した。完全失業率は12月に4.9%と既往最高となるなど、高水準で推移しており、雇用情勢は依然として厳しい状況が続いた。
     物価の状況をみると、国内卸売物価は、おおむね横ばいで推移した。消費者物価は前年を下回る水準で推移した。

     

  2. 所得と消費の動向
    (1)国内総支出と民間最終消費支出の動向
     国民の経済活動の成果を示す国内総支出の動向を見ると、12年の成長率(実質)は、1.7%増となった。
     また、民間最終消費支出の12年の成長率(実質)は0.5%増となった(表1-1-1)。

    表1-1-1 国内総支出及び民間最終消費支出の動向

    2)家計収支と物価の動向
     全国勤労者世帯の実収入を見ると、12年の伸び率(実質)は1.5%減と前年の2.0%減に比べ上昇した。物価は全体として弱い基調で推移し、12年の消費者物価(持家の帰属家賃を除く総合)の対前年上昇率は0.9%の下落となった。
     次に、家計消費の状況を見ると、全国勤労者世帯の12年の消費支出は、前年比(実質)0.6%減となった。また、勤労者世帯に商店主や自由業者、無職などの勤労者以外の世帯を加えた全国全世帯(農林漁家世帯及び単身者世帯を除く)の12年の消費支出は、前年比(実質)0.9%減となった

    表1-1-2 家計収支及び物価の動向(前年同期比増加率・上昇率)

    3)自由時間関連支出と旅行関連支出の推移
     自由時間関連支出は、近年は横ばいで推移している。自由時間関連支出の消費支出に占める割合は23%台で推移し、また、旅行関連支出の自由時間関連支出に占める割合は16%台で推移している(表1-1-3)。

    表1-1-3 自由時間関連支出の推移

     旅行関連支出の1世帯当たりの12年の年間支出額は、宿泊費9万3,763円、(前年比4,903円減、5.0%減)、交通費5万1,565円(同230円減、0.4%減)、旅行用かばん購入費888円(同55円増、6.6%増)の合計14万6,216円(同5,078円減、3.4%減)となっている(図1-1-1)。

    図1-1-1 旅行関連支出の推移

     旅行関連支出の推移を見ると、平成4年までは順調に伸びてきたが5年以降は消費支出の推移と同様に概ね横ばい傾向で推移し、12年には減少に転じた。
     また、旅行関連支出を過去の支出状況と比較して見ると、12年の旅行関連支出合計額は、交通費や旅行用かばん代がほぼ横ばい状態であったにもかかわらず、宿泊費の落ちこみの影響から過去10年間で最低の水準となっている。

  3. 自由時間の動向
    (1)自由時間の意義と動向

    1自由時間の意義
     我が国は、高い所得水準の割に、国民一人一人が豊かな生活を実感しているとは必ずしも言い難い状況にある。この大きな要因としては、内外価格差、住宅・社会資本整備の立ち遅れと並んで、欧州諸国に比べ長い労働時間が挙げられる(図1-1-2)。

    図1-1-2 年間総労働時間の国際比較(製造業生産労働者,1999年)

     このような状況にかんがみると、労働時間短縮の流れを確実なものとし、さらに自由時間の拡大、その利用における選択肢の増加などを図ることは、国民が生活の中で真の豊かさを実感できる社会を実現していく上で、今後の我が国の重要な課題の一つである。自由時間の拡大・充実は、国民一人一人が生活のゆとりをいかし、生涯にわたって学習に取り組み、また、市民活動に参加するなど多様な自己実現を図るための重要な基礎となるとともに、観光レクリエーション活動を促進する上でも重要である。

    2自由時間の動向
     労働時間は昭和63年以降大幅に減少しているが、12年における労働者1人平均年間総実労働時間は前年より17時間増加して1,859時間(所定内1,720時間、所定外139時間)となった(図1-1-3)。

    図1-1-3 労働者1人平均年間総実労働時間の推移

     11年の週休二日制の普及状況を見ると、何らかの形態の週休二日制の適用を受ける労働者の割合は95.8%、完全週休二日制の適用を受ける労働者の割合は58.7%となっている(図1-1-4)。

    図1-1-4 週休二日制の普及率

     なお、完全週休二日制の普及率(適用労働者数割合)は、規模1,000人以上の大企業では8割以上であるのに対し、30〜99人規模の中小企業では3割程度と、依然として規模間の格差が大きい。
     11年における労働者1人平均の年次有給休暇の付与日数等について見ると、付与日数は、17.8日、そのうち労働者が取得した日数は9.0日で、取得率は50.5%となっている。これを企業規模別に見ると、付与日数、取得日数とも企業規模が大きいほど多くなっており、取得率においても規模1,000人以上の大企業の方が高くなっている(表1-1-4)。

    表1-1-4 労働者1人平均年次有給休暇の付与日数,取得日数及び取得率

    2)国が講じた施策等
    1労働時間の短縮
     平成11年7月に閣議決定された「経済社会のあるべき姿と経済新生の政策方針」において、重要な政策方針として掲げられている年間総実労働時間1,800時間の達成・定着を図るため、週40時間労働制の遵守の徹底、年次有給休暇の取得促進、所定外労働の削減を柱として取組みを進めている。
     これまでの労働時間短縮に対する取組みにより、我が国の労働時間は、昭和63年の改正労働基準法の施行を契機に着実に減少しており、この結果、主要諸外国との労働時間の格差も縮小してきている。しかしながら、政府の目標である年間総実労働時間1,800時間の達成には至っていない。
     週40時間労働制は、平成9年4月から全面的に実施されており、平成12年度においては、その遵守の徹底を図っている。
     年次有給休暇の取得促進については、平成7年7月に策定された「ゆとり休暇推進要綱」に基づき、年次有給休暇の計画的付与制度の活用等による労使の自主的な取組みを促進している。
     長時間残業の抑制については、平成10年の改正労働基準法に基づき、労働大臣により「時間外労働の限度に関する基準」が定められ、関係労使には時間外労働協定の締結に際し、この限度基準を遵守することが義務づけられたところであり、これにより所定外労働の削減を図っている。
     また、法定労働時間の特例措置対象業種として1週間の法定労働時間が46時間と定められている規模10人未満の商業・サービス業等の事業場については、平成13年4月1日から1週間の法定労働時間が44時間と短縮され、その円滑な移行を支援する観点からも、個別事業場向けに「特例事業場労働時間短縮奨励金制度」、また、事業主団体等向けに「事業主団体等特例事業場労働時間短縮促進助成金制度」を実施し、これらの活用等により、特例措置対象事業場における労働時間の短縮の促進に努めている。

    2学校週5日制
     学校週5日制の趣旨は、学校、家庭、地域社会が一体となってそれぞれの教育機能を発揮する中で、子供たちが自然体験や社会体験などを行う場や機会を増やし、豊かな心やたくましさを育てようとするものである。
     このような考え方に立って、学校週5日制は、現在、月2回実施しているが、14年度からは、毎週土曜日を休業日とする完全学校週5日制を全ての学校段階で一斉に実施することとしている。

    3ゆとりある休暇の拡充
     ゆとりある国民生活を実現していくため、国民が多様かつ充実した休暇を取得できる環境を整えていくことが重要である。
     ゴールデンウィーク・夏季における連続休暇の普及促進を図るとともに、11月の「ゆとり創造月間」など集中的に広報啓発活動を実施した。ゆとり創造月間には「ゆとり休暇推進フェア」を9都府県で開催した。
     また、学職経験者等をメンバーとする「ゆとりある休暇」推進協議会(6年4月より開催)を引き続き開催していくこととしている。
     さらに、平成11年11月に決定された「経済新生対策」に基づき、家族の団らんやきずなの回復、地域社会との連携強化等により、少子高齢化に適切に対処するため、「長期休暇制度と家庭生活の在り方に関する国民会議」を平成12年に開催し、同年7月に取りまとめられた提言に基づき、労使の協力のもとで2週間程度の長期休暇をとれるよう、その普及・啓発に取り組んでいるところである。