第6節 日本人海外旅行者の安全確保施策の展開
国民一人一人が安全意識を高めることが益々必要となってきており、旅行者自身による十分な情報収集努力と万が一に備えた事前準備を行っておくことが必要である。
また、12年中の海外における旅券紛失又は盗難の数は計11,129件である(国内は30,128件で合計41,257件)。地域別に見ると、特に東南アジア及び欧米の観光地において顕著である。
なお、盗まれた旅券が改ざんされ、不正使用される事件が世界各地で発生しており(平成12年1年間で169件、計477件が発覚。)、旅行者による旅券の一層の管理・保全強化が特に望まれる。
(1)迅速かつ適切な援護と積極的な情報提供・広報活動
事故・事件に遭った日本人に対しては迅速かつ適切な援護に努める一方、海外旅行が広く国民に浸透し、渡航目的あるいは渡航先が多様化するという最近の傾向を踏まえ、世界各地の在外公館から寄せられた報告に基づいた情報提供、広報活動を、外務省「海外安全相談センター」を通じて次のように行うとともに、同センター外来用閲覧室において一般国民の来訪に対する便宜を図った。
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渡航或いは滞在に当たって通常以上の特別な注意が必要な国・地域の治安状況等を5段階の危険度に区分し「外務省海外危険情報」として、インターネット「外務省ホームページ」及び12年8月から開設された「外務省・海外安全ホームページ」に掲載したほか、我が国旅行業界や都道府県の旅券発給窓口等を通じ一般国民に広く周知を図った。12年に発出した「海外危険情報」は284件に上り、うち主なものは表3-6-2のとおりである。 |
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日本人旅行者をねらった犯罪手口及びその防犯対策や、テロ情勢、流行病の発生状況等を「海外安全相談センター情報」として提供した。12年に発出した「海外安全相談センター情報」は計226件に上り、うち主なものは表3-6-3のとおりである。 |
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「国別・海外安全情報FAXサービス」、「海外安全テレフォンサービス」及び成田空港、関西空港の出発ロビー等に設置された「海外安全情報タッチビジョン」により国・地域別の安全情報を提供した。更に平成12年4月より、180カ国以上の「国・地域別海外安全情報」を外務省ホームページを通じ提供を始めた。また、海外安全情報専用の「外務省・海外安全ホームページ」を開設し、インターネットによる情報提供の拡充を図った。 |
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海外旅行中の安全・防犯のためのポイントを紹介したビデオやテロ予防のノウハウを紹介するビデオの作成・貸出を行った。 また、海外旅行のトラブル防止のポイントを取りまとめた小冊子や、テロを予防するための小冊子の作成、希望者への無料配布を行った。 |
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国民一人一人の海外安全意識を高めるため、平成5年度以降毎年「海外安全週間」を実施している。12年度は6月19日から25日までを期間とし、ポスターやチラシを作成して全国的に配布すると共に、キャンペーンの開催や愛知県名古屋市及び兵庫県宝塚市での海外安全セミナー等の実施により、海外安全意識の啓発強化を図った。 |
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海外修学旅行安全対策として、都道府県等からの依頼を受けて、安全対策に関する資料を学校に送付するとともに、旅行先を管轄する在外公館に旅行計画書を配付した。 |
(2)国際観光振興会による情報提供
国際観光振興会は、日本人海外旅行者の安全確保のための情報提供として「海外旅行情報」、「目でみる安全な旅のヒント」、「安全な楽しい旅のために」などを旅行者に配布しているほか、一般消費者向けに「海外旅行安全セミナー」を実施している。また、各海外観光宣伝事務所においては、日本人海外旅行者に対する旅行の安全に関する情報の提供と相談・案内業務を行っている。さらに、同会が中心となり、現地の日本の旅行業者、航空事業者等とともに日本人旅行者の安全対策のための体制を整備し、総合的なノウハウの蓄積を行っている。
(3)旅行業者を通じた啓発活動
旅行業者を通じて次の啓発活動を行っている。
海外危険情報
「観光旅行延期勧告」等の「海外危険情報」を、旅行業者を通じ、書面で交付するこ
とにより、旅行者に周知徹底を図っている。
ホームステイ
ホームステイに係る適正化、普及を図るため、(社)日本旅行業協会の「ホームステイツアー等適正化協議会」の活動について指導・協力を行っている。
(4)旅券に関する広報啓発
近年の海外渡航者数の増加に伴って、現在、有効な旅券は3,000万冊に上り、国民の4人に1人が旅券を所持する状況になっている。それに伴い、旅券に関する知識不足や不注意による旅券の紛失・盗難の件数が増えている。このような現状を勘案して、平成10年に同年2月20日(明治11年の「海外旅券規則」の制定記念日)を「旅券の日」と定め、以降毎年この日を中心に、旅券の重要性や国内外での旅券の紛失・盗難防止に関する認識を高めるため、全国の旅券事務所等と協力して広報啓発を行ってきている。平成13年の旅券の日は、歌舞伎役者の七代目・市川新之助をポスター等のイメージキャラクター
に起用した。
海外旅行者の増加により、コレラ、赤痢、マラリア等の感染症に罹患する機会が増し、海外では、我が国には存在しないエボラ出血熱等のウイルス性出血熱などの感染症も報告されている。
このような状況に対し、検疫所において、感染症の国内侵入を防止する対策を行ったほか、総合的な感染症予防対策を推進する一環として、検疫の対象となる疾病を見直し、隔離及び停留の方法及び手続を見直すとともに、検疫所において感染症に関する情報提供、予防接種の拡充等の施策を盛り込んだ検疫法の一部を改正する法律が平成11年4月1日から施行された。
また、エイズの感染拡大が世界的に深刻になる中、世界の感染者は国連合同エイズ計画(UNAIDS)の発表によると3,360万人に達しており、一方、日本人の感染者も急増し、感染経路としても異性間性的接触による感染が主流となってきている。こういった状況から、「エイズ問題総合対策大綱」(62年2月のエイズ対策関係閣僚会議決定、4年5月改正)に基づき、関係省庁の協力の下、海外旅行者等にエイズに対する正しい知識の啓発、普及を推進した。
薬物の乱用問題は、地球規模での重要な問題として国連、サミット等の国際的な枠組みの中で、その解決に向けた取組みがなされている。
我が国においては、大量の覚せい剤が密輸入され、末端乱用者が増加するなど、依然として「第三次覚せい剤乱用期」にあることから、これを早期に終息させるため、政府を挙げた薬物乱用対策を推進している。
近年、日本人旅行者が、海外で薬物を不正に入手して逮捕されたり、国内に覚せい剤、大麻、MDMA等の薬物を持ち込んで逮捕される例が目立っていることから、関係省庁の協力の下、これらを防止するための広報・啓発活動を推進した。
また、青少年の銃器犯罪根絶意識の醸成を図るため、各種マスメディアを活用した広報活動やイベントを開催した。
近年、日本人旅行者が国外において、児童買春のために逮捕される例が見られる。平成8年8月、ストックホルムで「児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」が開催されたことをきっかけに、政府は啓発活動を進めるとともに、平成13年2月、児童の商業的性的搾取に対する国内行動計画を策定した。
また、平成11年11月より施行された「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」に基づく、日本国民の国外犯の取締のため、諸外国政府に対し協力を求めるとともに、在留邦人や短期渡航者に対し広報を行っている。
さらに、旅行業界においても、旅行者等に対し本法の周知を行うなど、不健全旅行の排除に積極的に取り組んでいる。