2. 文化遺産の保存
(1)文化財の保護等
1 文化財保護の意義と仕組み
 文化財は、我が国の歴史、文化等の正しい理解のために欠くことができないものであり、また、将来の文化の向上発展の基礎となるものであることから、その適切な保存・活用を図ることが極めて重要である。
 国は、貴重な国民の財産である文化財を保護するため、「文化財保護法」に基づき、建造物、絵画、彫刻などの有形文化財を国宝・重要文化財に、演劇、音楽、工芸技術などの無形文化財を重要無形文化財に、農具や漁猟用具、祭りや民俗芸能などの民俗文化財を重要有形・無形民俗文化財に、遺跡、名勝地、動植物などを史跡・名勝・天然記念物に指定し、歴史的な集落・町並みを重要伝統的建造物群保存地区として選定するなどして、その適切な保存・活用を図っている。重要無形文化財の指定に当たっては、併せて保持者、保持団体を認定している。
 さらに、文化財の保存のために欠くことのできない伝統的な技術又は技能を選定保存技術として選定し、併せて保持者又は保存団体を認定している。
 また、8年10月から文化財の保護手法の多様化を図るため、従来の指定制度に加え、新たに文化財登録制度を有形文化財のうち建造物について導入した。
 13年1月1日現在の国指定文化財等の件数は表4-3-4のとおりである。
重要無形民俗文化財 見付天神裸祭

表4-3-4 国指定文化財等件数一覧

2 文化財保護のための制限と支援
 国は、指定等した文化財の適切な保存・活用を図るため、文化財の現状変更、修理、輸出などに一定の制限を課するとともに、管理、修理、公開などについて必要な指示、命令、勧告等ができることとなっている。
 一方、有形文化財や史跡等の場合には、保存修理、防災施設の整備、買い上げ等に対し、無形文化財の場合には、伝承者養成や記録の作成等に対し、その保護に必要な助成措置等を講じている。

3文化財の活用
 国立博物館等における公開に加え、公私立の歴史民俗資料館等において地域の民俗文化財等の保存・活用を図っているほか、史跡や歴史的建造物等の整備・活用事業を推進している。

4地方拠点史跡等総合整備事業(歴史ロマン再生事業)等
 文化財の活用の観点から、地域の歴史的・文化的なシンボルとなっている史跡等について、その地域の歴史や文化にふれあうことのできる場として積極的に整備するため、遺跡等の復元にとどまらず、ガイダンス施設等の情報・学習提供機能を総合的に整備する地方拠点史跡等総合整備事業(歴史ロマン再生事業)を実施している。
 また、我が国の歴史を理解する上で極めて重要な街道、水路などのうち、往時のたたずまいを残しているものを「歴史の道」として選び、それに添う地域と一体として保存・整備し、活用を図る歴史の道整備活用推進事業を実施している。さらに、平成8年には、都道府県教育委員会の協力により、より一層「歴史の道」への理解と関心を深めることを目的に、「歴史の道百選」として中山道(岐阜県)等78カ所の街道・運河を選定しており、更なる良好な「歴史の道」の選定のための調査を続けている。
 このほか、天然記念物については、平成12年度まで野外観察施設や学習施設を設置し、公開活用を図る天然記念物整備活用事業を実施、また、別に平成10年度からは、史跡等を複合的・統合的に活用する方法についての研究開発である「ふれあい歴史のさと事業」を行っている。

2)歴史的町並み・地域の保存等
1歴史的集落・町並み
 歴史的な集落・町並みの保存が、我が国の伝統的な文化を重視した地域の活性化や良好な環境づくりを目指した新しい村づくり、町づくりの一環として進められている。
 伝統的な景観を持っている集落・町並みとして最近の調査では約1、000地区がリストアップされている。

  ア.保存地区の決定等
 集落・町並み調査を実施した市町村では、伝統的建造物群の保存と地域の活性化や良好な住環境を得るため、保存地区を決定し、保存計画を定めている(12年末で52市町村57地区)。また、市町村が決定した保存地区は、すべて文化財保護法に基づく重要伝統的建造物群保存地区として国の選定を受けている(図4-3-3)。 白馬村青鬼伝統的建造物群保存地区(長野県)

図4-3-3 重要伝統的建造物群保存地区 一覧

  イ.保存
 重要伝統的建造物群保存地区に選定された地区については、市町村が行う事業に対しての助成措置を講じている。

  ウ.活用
 歴史的集落・町並みを訪れる観光客は増加する傾向にある。重要伝統的建造物群保存地区に選定された集落・町並みの大部分には公開活用等の施設があり、地区学習と交流の拠点になっている。

2歴史的風土
  ア.歴史的風土保存区域等
 古都における歴史的風土を保存するため、「古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法」に基づき、歴史的風土保存区域は、平成12年3月現在、5区域、27地区、15,526haが指定されている。
 各保存区域には歴史的風土保存計画が決定されており、この計画に基づき、歴史的風土の保存上枢要な部分を構成している地域は、都市計画で歴史的風土特別保存地区として指定され、建築等の行為の制限が行われている。歴史的風土特別保存地区は、51地区、5,919.7haが指定されている。
 また、奈良県高市郡明日香村については、「明日香村における歴史的風土の保存及び生活環境の整備等に関する特別措置法」に基づき、明日香村歴史的風土保存計画が定められ、同計画に基づき、その全域を都市計画上第1種歴史的風土保存地区(125.6ha)及び第2種歴史的風土保存地区(2,278.4ha)として指定し、歴史的風土特別保存地区と同様に所要の規制が行われている。

  イ.飛鳥・藤原地域
(ア) 閣議決定に基づく事業
 「飛鳥地方における歴史的風土および文化財の保存等に関する方策について」(昭和45年12月閣議決定)に基づき、引き続き重要な史跡の整備、(財)飛鳥保存財団による歴史的風土保存活動の指導等の事業を行った。また国営飛鳥歴史公園においては閣議決定に基づき、キトラ古墳周辺地区の設定を行うとともに公園の整備、維持管理を推進した。

(イ) 明日香村特別措置法に基づく施策
 「明日香村における歴史的風土の保存及び生活環境の整備等に関する特別措置法」に基づき、12年度には、次のような施策を講じた。
 明日香村等に対する財政上の特別助成措置を講ずるとともに、「明日香村における生活環境及び産業基盤の整備等に関する計画」(計画期間は12年度から21年度まで)に基づき、引き続き道路、河川、下水道の整備等各種の整備事業を推進した。
 明日香村整備基金の運用益等により、歴史的風土の保存を図るために行われる事業等各種の事業を推進した。

3歴史的港湾・灯台
  ア.歴史的港湾施設の状況
 港湾は歴史的に海陸交通の拠点として、また、海外への窓口として発展してきたものであり、港の中には様々な歴史的港湾施設が残されている。全国的には800以上の歴史的港湾施設があり、そのうち旧中村家住宅(江差港)、旧新潟税関庁舎(新潟港)、富岩運河水閘門施設(中島閘門)(伏木富山港)などが重要文化財に、また、和賀江嶋などが史跡として国の指定を受けるなど、「文化財保護法」の指定を受けているものがある。

清水港(静岡県)

  イ.歴史的港湾施設の保存・活用
 歴史的な情緒ある港湾施設等は、快適で潤いある港湾環境や港湾のイメージを形づくる上で重要な要素となる。また、港湾の再開発に伴い失われつつある貴重な歴史的港湾施設に対する保存・活用の措置が強く求められている状況にある。このため、運河、煉瓦造りの倉庫等の歴史的港湾施設を保存・活用し、歴史的な情緒漂う美しい空間とする歴史的港湾環境創造事業を、12年度までに、横浜港(神奈川県)等の13港において実施した。
 また、瀬戸内海のもつ自然と貴重な歴史的資源の保全と活用を図り、海の歴史を軸としたネットワークづくりを行うための港湾施設を整備する「瀬戸内・海の路事業」を、12年度までに丸亀港(香川県)等の13港において実施した。

  ウ.歴史的灯台の保存
 明治時代に建設された灯台の中には、今なお、現役のものが66基あり、これらの多くが、歴史的・文化財的価値を有していることから特に価値の高い灯台について、その価値を損なうことなく現役のまま運用することとしている。