第9節 地方公共団体による観光振興施策の展開

第9節のポイント
 地方公共団体は、交流を通じた様々な地域振興の観点から観光振興に積極的に取り組んでおり、観光基本計画等を策定し、総合的な推進を図っている。
 自然環境の保全、文化財の保護、観光基盤・施設の整備を進めるとともに、広報・宣伝活動や観光客の受入体制の充実を図っている。
 観光ボランティアガイドが全国各地で展開されており、地域の活性化・観光振興にとって重要な役割を果たしている。

  1. 概説
     観光は、交流に伴う様々な需要を通じ新たな所得と雇用を創出する産業として、地域振興に大きく寄与するものであることから、地方公共団体は観光振興に積極的に取り組んでいる。
     近年、観光振興の施策としては、観光に関するニーズの変化や地域振興の観点から個別観光資源の保護や観光関係施設を整備するだけでなく、地域全体の景観や雰囲気を含めた広域的かつ総合的な施策を推進することが重要になってきており、地方公共団体の主導による個性的な魅力あるふるさとづくり、活力あるまちづくりの有力な手段として進められている。
     都道府県等の地方公共団体は観光振興を図るため、商工労働部等に「観光課」等の名称の担当課を設置し、観光行政に取り組んでいる。観光担当課では、観光行政の全般にわたり、広報・宣伝、観光施設整備、基盤整備等幅広く行っている例が多く、職員数は10〜20人台の都道府県が多い。
     また、都道府県等は観光基本計画等を作成し、観光行政を進めているところが大半であり、また、観光関係審議会等を設置しているところも多い。
     なお、都道府県の目的別歳出内訳を見ると、観光費(人件費、自然公園関係経費及び観光宣伝に要する経費等。観光施設事業会計への繰出金等も含む。)は、都道府県全体で平成11年度は1,358億円となっており、10年度に比べ1.7%増となっている。歳出総額に占める割合は、0.3%である(総務省調べ)。

    秋田観光フェスタin渋谷(秋田県)
    能登キリコ祭り(石川県)
    おかやま後楽園300年祭〜幻想庭園〜(岡山県)
    みやざきフラワーフェスタ2001(宮崎県)
    光圀公300年・斉昭公200年記念事業 歴史ウォーク(茨城県)
    恐竜エキスポふくい2000(福井県)
    火まつり「火振り神事」(熊本県)

  2. 平成12年度に実施した観光施策等
    (1)都道府県における観光施策等

    1観光情報の発信・提供等
     観光関連産業は、交通産業、旅行業、宿泊業、飲食産業、土産品産業等の幅広い分野を包括した産業であり、その消費額の規模や関連する雇用規模からみて、各都道府県及び市町村等の地域経済に多大な貢献をしているところであり、全都道府県において、インターネットのホームページを活用した「観光地の紹介」、「観光イベント等の紹介」、「特産品の紹介」等の情報の発信・提供を行っている。
     また、首都圏及び関西圏等の大都市圏において「アンテナショップ」等を設置して、観光情報の発信・提供を行い、観光客の誘致に努めている。

    2 各種キャンペーン等
     都道府県では、観光客の来訪を促進するために、首都圏及び関西圏等の大都市圏において「観光客誘致キャンペーン」を実施し、観光客の誘致を図るとともに、鉄道会社や航空会社とタイアップした「デスティネーション・キャンペーン」を展開している。
     また、複数の県による観光圏を形成し、各県共同による「観光客誘致キャンペーン」を実施している。
     さらに、「空港の開港」、「鉄道・道路・トンネルの開通」、「連絡橋の完成」等の交通基盤施設の整備を機会に、観光振興のための各種イベント等の開催や、積極的な「観光客誘致キャンペーン」を展開している。
     訪日外国人旅行者の地方圏への誘致の促進を図るために、都道府県は、単独で又は共同して「外客誘致法」に基づく外客来訪促進計画を策定するとともに、同計画の実施を関係者一体となって推進するため、各国際観光テーマ地区ごとに、都道府県と観光関係事業者からなる協議会等を設置し、関係者一体となった外客来訪促進計画の推進を図っている。
     また、「ウェルカムカード」等を発行し、海外へのPRや外国人旅行者の利便性の向上と国内旅行費用の低廉化を図るとともに、「ボランティア通訳」の育成と組織化等により、外国人観光客の受入体制の整備に努めている。

    2)市町村における観光施策等
    1観光情報の発信・提供等
     市町村においては、各都道府県と同様に、「観光地の紹介」、「観光イベント等の紹介」、「特産品の紹介」等を、インターネットのホームページにより情報の発信・提供を行っている。

    2 観光関連施設等
     過疎化や少子化等により、廃校となった小・中学校の施設等を利用し、「体験型観光・宿泊施設」及び少子高齢化に対応した「生涯学習・観光施設」等として活用している例や、「健康ランド」等の温泉等の資源を活用して、観光客の誘致等を図っている例がある。

    3 観光客誘致
     市町村では、海、山、川等の豊かな自然環境とともに、地域的な特徴(温暖、寒冷、雪等)を利用し、地域性豊かなイベント、観光客が自ら参加する「体験型」のイベント、また、複数の市町村の共同によるイベント等を企画し、観光客の誘致と四季を通じた観光客の平準化に努めている。
     さらに、観光客の旅行費用の低廉化及び利便性を考慮して「○○パスポート」、「○○手形」等の発行、特定期間の無料バスの運行等により、より一層の観光客の誘致の促進に努めている事例がある。

  3. 観光資源の保護
    (1)自然環境の保全

     都道府県は、観光の振興を図るとともに自然環境の適切な保全について様々な取組をしている。例えば、優れた自然の風景地であって条例に定めるところにより指定する都道府県立自然公園が全国に306か所、195万haと国土面積の約5.17%を占めている。これらの自然公園の整備及び所要の規制措置により自然環境の保全に努めている。
     「森林法」に基づく保安林については、都道府県知事は全国森林計画に即して地域森林計画をたて、計画的な整備を推進することにより自然環境の保全及び形成その他森林の有する公益的機能の維持増進に努めている。
     また、生活雑排水については、「水質汚濁防止法」に基づき都道府県知事が生活排水対策重点地域を指定し生活環境の保全を図っている。

    2)文化財の保護
     地方公共団体は、条例等の定めるところによりその地域にとって重要な建物、絵図、演劇、音楽、年中行事及び古墳等を地方公共団体指定有形文化財、無形文化財、民俗文化財、史跡等に指定し、保存及び活用のための必要な措置を講じている。12年5月1日現在地方公共団体が指定している文化財は表4-9-1のとおり都道府県指定が1万9,311件、市町村指定が8万2,382件である。

    表4-9-1 地方公共団体の指定文化財件数

    3)観光地の美化清掃
     観光地における美化清掃活動は、観光資源の保護にとっても重要であり、市町村を中心として地方公共団体が積極的に取り組んでいる。8月の「観光週間(1日〜7日)」、「自然公園クリーンデー(8月第一日曜日)」等の行事期間を中心に全国の観光地においてゴミ袋の配布等の美化清掃活動が行われたほか、観光地における廃棄物処理等にもあたっている。

  4. 観光施設・観光基盤の整備
     地方公共団体は国からの支援を受け、また独自に様々な観光施設の整備を進めている。例えば、国際観光関係施設の整備としては、国際観光テーマ地区の整備、コンベンション法に基づくコンベンション施設等の整備がある。公的レクリエーション地区・施設については、国の補助・支援等を受けつつ自動車旅行拠点、自然体験滞在拠点、ふるさと自然公園国民休養地、河川レクリエーション施設等各種施設の整備を進めている。
     また、快適で安全な旅行を提供するため、観光案内設備、観光地のトイレ、観光情報センター等の整備等にも力を入れている。
     このほか、ふるさとづくり事業を始めとする各種支援施策を活用し、公園等の基盤施設の整備を進めている。
     さらに、地方公共団体は総合的、一体的な観光地域づくりとして、「総合保養地域整備法」に基づく総合保養地域の整備を進めている。

  5. 広報・宣伝活動及び観光客の受入体制の充実
     上記のような観光基盤・施設整備のほか、全国各地で特色あるイベントや地域間の交流事業にも熱心に取り組み、それぞれの地域の特性を生かした観光の活性化に努めている例も多い。また、様々な機会をとらえ地域観光の広報・宣伝を進めるとともに、観光客の受入体制の充実に努めている。

    1)広報・宣伝活動の実施
     地方公共団体は観光宣伝を熱心に進めており、ポスター、パンフレット、テレビによる宣伝に加え、インターネット等のニューメディアを用いた情報提供にも取り組んでいる。
     また、国内における観光客誘致のためのキャンペーン活動等に加え、海外における観光展の開催・参加、観光ミッションの派遣など外国人旅行者の誘致活動を積極的に行っている。最近は、訪日外国人の中で比重が高まっているアジアを重視した外客誘致活動に積極的に取り組んでいる。

    2)観光物産展の開催
     特産品等の宣伝・販売、観光情報の提供、観光客の誘致等のため、多くの人が集まりやすい都市において工夫を凝らした観光物産展を開催し、宣伝に努めている。

    3)特定博覧会の開催
     「ふるさと創生」の一環として、地域の自主性・主体性を尊重し、個性的かつ独創性のある博覧会を「ジャパンエキスポ」として経済産業大臣が認定し、企画立案への補助金交付や種々の支援を行うジャパンエキスポ制度がある。各地方公共団体等は本制度を地域活性化手段の一つとして活用し、博覧会を開催してきている。

    4)受入体制の充実
     地元の観光従事者に対する各種接遇講座の開設や接遇マニュアルの作成等により、観光サービスの充実を図っている。また、観光客の利便の向上のため、観光関係事業者の協力の下、観光バスや観光タクシーの提供を進めるなど観光客の受入体制の充実に努めている。

    5)観光ボランティアガイドの活動
    1概要
     近年、各都道府県・市区町村及び各観光地等では、地域の自然、歴史、文化等の紹介を、住民ボランティアが地域の言葉と真心で案内する「地域紹介・観光ボランティアガイド」活動が、全国各地で展開されており、その数も急速に増加してきている。
     また、「観光ボランティアガイド」の活動は、来訪者との交流、地域住民参加によるホスピタリティの向上に寄与するとともに、町づくり、地域の活性化、地域の観光振興にとって重要な役割を果たしてきている。

    2地域紹介・観光ボランティアガイド全国大会
     観光ボランティアガイドの活動がより一層活発になるように、毎年度(社)日本観光協会の主催により「地域紹介・観光ボランティアガイド全国大会」を開催している。
     平成8年度に第1回大会が横浜市で開催され、以後、9年度長浜市で、10年度北九州市で、11年度弘前市でそれぞれ開催され、12年度は「もっと優しく、もっと素敵に」をメインテーマに倉敷市において開催され、観光ボランティアガイド活動に関わる事例の紹介や問題の提起がなされた。

    3現状
     観光ボランティアガイドは、全国で約650団体が組織されており、特に、平成年代に設立された組織が、大多数を占めている。
     また、各組織毎の人数は、数名〜30名前後が平均的な人数となっており、高年齢層の人々の活躍が顕著である。