1 良好で活力ある都市環境の創造及び建築行政の推進
1−1 都 市
1.今後の都市政策のあり方
(1)歴史的転換期を迎えた都市政策
近年、高齢化・少子化の急速な進展、国民ニーズの多様化・高度化、経済の空洞化と低成長の持続など、都市を取り巻く社会経済情勢が大きく変化するとともに、地方都市の人口減少や中心市街地の空洞化など、都市構造についても大きな変化が生じてきている。
このような社会経済情勢や都市構造の変化等を踏まえ、平成9年6月9日、都市計画中央審議会基本政策部会は、今後の施策の基本方向等を盛り込んだ「都市政策ビジョン(仮称)」の中間とりまとめを行った。
我が国の人口のピークが間近に迫る中、都市の拡張テンポの低下、地域間人口移動の減少等の変化がみられ、一方、生活面でも、都市生活の広域化、環境問題への関心の高まり、住民の参加意識の向上等の変化が見られる。
一方、都市の内部には解決すべき問題が数多く残されているとともに空洞化など新たな問題が出てきている。人口、産業が都市へ集中し、都市が拡大する「都市化社会」から、都市化が落ち着いて産業、文化等の活動が都市を共有の場として展開する成熟した「都市型社会」への移行に伴い、都市の拡張への対応に追われるのでなく都市の中へと目を向け直して「都市の再構築」を推進すべき時期に立ち至っている。
(2)新しい都市政策の視点
1)既成市街地の再構築と都市間連携
従来、急激な都市化の圧力に対応して、郊外における新市街地開発及びそれに伴う都市基盤整備等を重点的に実施してきたが、今後は、都市周辺の自然を保全する必要性など環境問題への対応から、郊外部における新市街地整備等を抑制し、既成市街地の再構築に政策を集中することが必要である。その際、都市圏を一体として捉え、圏内のネットワーク整備による連携の強化を図りつつ、諸機能の配置について、各都市においてフルセットで整備するのでなく、都市圏を一体とした配置を図ることが必要である。
2)経済活動の活性化等に寄与する都市整備の展開
地方都市の中心市街地の衰退・空洞化が進行しているなどの状況を踏まえ、従来広く行われてきたような、立地条件を整え製造業を中心とした工場誘致を行うといった、個別業種の事業者に着目した地域振興・経済活性化ではなく、都市機能の強化により、投資・生産・生活の場として、また、異業種間の交流を促進するなど起業の場として都市を整備し、もって経済構造改革に資することが必要である。このような都市政策の方向は、わが国経済全体の活性化にもつながるものであり、都市政策は、経済政策、産業政策の側面をも持つとの観点から再構成する必要がある。
3)環境問題、景観形成など新たな潮流への対応
環境問題は、身近な水や緑の保全・創出から温暖化、酸性雨など地球環境問題に至るまで広範な意味を持つものである。都市は資源・エネルギーの大量消費地であり、大気・水・土壌等の物質循環の中で環境に大きな負荷をかけていることから、環境と共生する都市の実現が重要である。また、都市に美しさが欠けているという不満はわが国の都市に対する基本的な不満であり、美しい景観形成に関する国民の意識は一層高まっている。
さらに、急速に進むわが国の高齢化や、世界的規模の高度情報通信社会の形成等に対しても的確な対応が必要となっている。
2.都市行政の近年の課題
(1)都市の再構築
1)中心市街地の活性化、低未利用地等の土地の有効利用
近年、多くの都市で、夜間人口の減少、商業環境の変化、モータリゼーションの進展等を背景として、中心市街地の衰退、空洞化が深刻な社会問題となっている。長年にわたる諸活動の結果として形成された中心市街地は、固有の歴史や伝統、文化、地域のコミュニティ等を有しているが、戦後の高度経済成長期を経て、経済発展と引き換えにこれらの都市の記憶ともいうべき多くのものを失いつつある。このような中心市街地の問題は、まさに都市型社会への転換期にあって、都市の再構築の一環として取組まなければならない重要なテーマであると言える。
2)都市構造再編プログラム
「都市構造再編プログラム」は、都市の再構築の実現のため、広く国民に対して望ましい都市の姿を明らかにするよう、基盤整備、高度利用等の具体的な目標を示すものである。具体的には、今後5年間に完成する都市計画道路の区間、市街地再開発事業等のプロジェクトを示すとともに、それによる投資の誘発効果等を地方公共団体が明らかにし、将来の都市構造の再編の方向を示すものである。これにより、都市づくりの方向が明確になり、民間の活力が十分に発揮されることが期待される。
(2)快適な都市生活を支える質の高い生活環境の創出
1)高齢化社会への対応
高齢社会の到来を迎え、高齢者等を含め市民全員が安全かつ安心で豊かに生活できる都市生活基盤の整備が求められており、福祉の視点に立ったまちづくりの推進を図るため、これまで実施されてきた道路の歩道部の段差解消などの面的なバリアフリー化や、都市公園等の公共施設のバリアフリー化に加え、市民が利用したい社会福祉施設を利用し易い場所に適正に立地することが重要な課題となっている。また災害時に需要が大幅に高まるという観点からも、社会福祉施設の配置等に対する十分な配慮が必要である。
2)生活環境の保全
都市は安全で便利、快適であることが望まれる一方で、人々が都市において「心の豊かさ」や「うるおい」を求める意識はますます高まってきており、緑や水辺の空間の整備・保全に加えて、過去の優れた歴史・文化のストックを保全・活用するとともに、文化的価値のある都市施設の整備、ふれあいや文化的な活動のための都市空間の整備などによって、新たな都市文化を創造する、歴史・文化に根ざしたまちづくりが求められている。
3)高度情報化社会への対応
社会の高度情報化の進展に伴い、大量の情報を処理できる情報基盤施設の整備が求められている。このため、街路や下水道などの都市施設の空間を活用することで効率的にその整備を進めることが期待されている。
(3)安全で安心できる都市づくりの推進
地域の防災性の向上のため、公民協同によるまちづくり活動の活性化を図るとともに、市街地再開発事業、土地区画整理事業、都市公園等整備事業等の多様な都市整備事業との連携を図りつつこれらを重層的に実施するなど、総合的な施策を講じて都市の防災構造化を推進する。
3.都市政策の新たな課題への対応
都市政策の新たな課題に対応するために、平成9年度、平成10年度の主要施策について記述する。
(1)都市の再構築の推進
1)新たな法制度等による中心市街地の活性化
都市化社会から都市型社会への歴史的転換期にあって、中心市街地の活性化は喫緊に取り組まねばならない重要な課題である。中心市街地の活性化にあたっては、商業のみならず、業務、居住などの都市機能や文化・福祉などの公益施設の集積と再配置を図るとともに、これを支える道路、駐車場等の基盤施設を計画的に整備することが必要であり、低未利用地の集約・再編を通じた「街なか再生」を実現する土地区画整理事業や市街地再開発事業の推進、街並みの賑わいの向上や交通環境の改善等を図るための道路、駐車場や公園の整備、電線類の地中化、居住人口の回復に向けた多様な世帯が居住可能となる住宅の供給など中心市街地の活性化に有効な各種施策の充実を図っている。
また、「中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律」が、平成10年6月3日に公布された。法律のスキームでは、市町村は国の定めた基本方針に基づき基本計画を作成し、国は計画に盛り込まれた所管事業に対し支援を行うこととしている。
2)都市構造再編プログラム
土地の有効利用とこれを通じた土地取引の活性化、グローバル社会に対応した防災性の高い都市づくりに向けた「都市の再構築」の推進が求められている。こうした中、東京23区における都市の再構築に向けて民間の活力が十分に発揮されるよう、都市構造の将来像を示し、基盤整備、高度利用等の具体的な目標を明らかにする「都市構造再編プログラム」を平成10年4月10日に東京都とともに策定したところであり、今後大阪等大都市地域を中心として策定を推進していく。
3)都心居住推進、産業跡地等土地利用転換等の土地の有効利用
a.都心居住の推進
都心地域における居住機能の向上により職住近接による豊かな住生活の実現を図るとともに、低未利用地の有効・高度利用による住宅及び住宅地の供給を促進するため、平成9年度、土地の有効高度利用を通じ、良質な共同住宅の供給促進を図り、職住近接の都市構造を実現するため、都市計画法・建築基準法の改正により、高層住居誘導地区を地域地区に関する都市計画に加え、これについては容積率の引き上げ、斜線制限の緩和、日影規制の適用除外等を行ったほか、マンション等共同住宅の共用の廊下・階段について、容積率制限の対象から除外する措置を講じている。また、総合設計制度において、敷地規模が大きくなるほど容積率が高くなるような容積率割増制度を創設したところである。
b.産業跡地等の土地利用転換
臨海部等に存する工場等の統廃合、遊休化等が全国レベルで進みつつあり、商業、業務、住宅等のいわゆる都市的土地利用への転換にあたっては、既成市街地との連携を図るアクセス道路等を含めた都市基盤の整備を図る必要がある。臨港地区においては、土地区画整理事業が予定される場合は港湾事業と、内容、スケジュール等の調整を行って、臨港地区を適切に見直すとともに、港湾事業との連携を図りつつ、土地区画整理事業を積極的に推進する。
(2)快適な都市環境を支える質の高い生活環境の創出
1)市街地整備・公園整備と社会福祉施設の一体的整備等
緑に囲まれた快適な公園で、高齢者、障害者等ハンディキャップのある人とない人が交流しふれあうことにより、思いやりや助け合いの心を育むことができるよう、福祉施設と一体となった公園の整備を推進する。加えて高齢者等のくつろぎやコミュニティの形成の場となるパークセンターや日常的に健康づくりができる健康運動施設の整備を推進している。
2)生活環境の保全等
日常生活の豊かさを実感できる身近な生活空間の整備や、より質の高い街路空間の整備に対するニーズの高まりに応えるため、幹線街路の整備や地区レベルの街路の再整備を面的に実施し、豊かな都市空間形成に向けた先導的なまちづくりを行う身近なまちづくり支援街路事業を推進する。
土地区画整理事業においては、地域の発意と創意に基づき、うるおいのある生活環境の創造及び地域経済の活性化を図るため、個性的で魅力ある都市空間の形成を図る必要が高く、かつ施行者及び権利者の積極的な取組がなされており、公共施設整備と併せて地区計画、建築協定等により計画的な建築物の整備が誘導されるなど、一定の総合的整備効果が期待され、先進的な事例となりうるものをふるさとの顔づくりモデル土地区画整理事業として推進する。
3)高度情報化社会への対応
下水道施設管理の高度化を図るため、光ファイバーの活用等により下水道の高度管理を行う自治体を積極的に支援しており、管理用光ファイバーに対する通常の国庫補助のほか、事業場と処理場等を光ファイバーで結び、排水水質の常時遠隔監視等を行うシステムを構築する「下水道管理高度情報化モデル事業」を実施している。
加えて、次世代都市整備事業の中に、都市における下水道管理用光ファイバーと市役所、小中学校等の公共施設とを結ぶ光ファイバーの敷設に対する補助制度を創設し、行政・教育等の情報通信ネットワークの構築を推進している。
また、平成8年には、下水道法の一部改正が行われ、下水道管渠内に下水道管理者以外の第三者が光ファイバーを敷設することが可能となった。平成9年度には、下水道管理者が下水道管理用光ファイバーの敷設に併せて、第三者に空間占用を行わせることを目的とした中空パイプを一体のケーブルとして整備する「下水道情報基盤整備モデル事業」を創設した。
4)次世代都市整備の推進
環境、エネルギー、防災、高度情報化等に関連する技術のうち、都市及び都市システムに関連する技術を複合・統合化し、パイロット事業として現実の都市への適用を先導的に行い、次世代の都市システムとして社会的定着を図るため、「次世代都市整備事業」を推進する。
5)路面電車の走行できる路面等の整備による交通混雑の解消等
快適な通勤・通学を実現するため、道路交通の効率化及び道路空間の有効利用を図る都市モノレール、新交通システム、ガイドウェイバスシステムの整備を推進するとともに、バスの定時性や利便性の向上を図るバス路線の整備を図る。さらに、路面電車の延伸・新設についても支援策を充実し、その整備を推進する。
6)水と緑のネットワークに係る連携の強化
多様な生物の生息・生育地の確保、都市気象の緩和等、都市環境の改善に資する「水と緑のネットワーク(生態系保全ネットワーク)」の整備について、拠点となる都市公園の整備とあわせて、河川、下水道事業等との連携を強化し、より効果的な事業の展開を図る。
7)再生資源活用緑地整備事業の創設
建設残土等の建設副産物を、公園の盛土材料等として計画的に都市公園の整備に活用し、幅広い資源の有効利用と廃棄物の削減を促進するため、再生資源活用緑地整備事業を創設する。
(3)安全で安心できる都市づくりの推進
1)防災公園等の整備
大震火災時に避難地、救援活動拠点となり、通常時には緑豊かな生活環境を提供する防災公園の整備を推進するとともに、地区全体の防災性の強化や都市環境改善等に資する多様な緑地の整備を行うグリーンオアシス緊急整備事業の事業期間の延長等を実施する。
2)緊急の雨水対策の推進
床上浸水が頻発し、甚大な被害が発生している都市を対象に計画策定段階から河川部局と連携し、安全な地域づくりを推進する。
3)都市の防災構造化の推進
都市の骨格的な防災施設の整備として、避難路や広域避難地となる防災公園等の整備を着実に推進するとともに、消防活動困難区域の解消に資する道路整備、低未利用地等を活用した多様な緑地の整備等を推進する。
密集市街地対策としては、地域の実情に応じて、土地区画整理事業や市街地再開発事業による一体的面整備、「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律」や都市防災構造化推進事業等による段階的整備を推進し、地区内の道路・公園等の整備、老朽木造建築物の更新等を図る。これらの施策を実現するため、災害危険度の判定・公表等により戦略的地区を抽出するとともに、住民主体のまちづくり活動への支援等により公民協働のまちづくりを推進する。
また、安全で安心できる都市づくりを計画的に推進するため、地方公共団体における防災都市づくり計画の策定を促進する。
4)市街地再開発事業、土地区画整理事業の推進
危険な密集市街地を解消するため、住宅、公共施設等の整備事業と連携しつつ、密集市街地等の環境の改善を行う市街地再開発事業、土地区画整理事業を積極的に推進することにより、地域の防災性の向上を図る。
1−2 建築
1.建築活動の現況
平成10年度の我が国の建設投資額は約75兆円、このうち建築に対する投資は約40兆円の規模となる見込みである。この建築投資額は、GDPの約7.6%に相当し、欧米先進国に比して高い水準にある。
また、建築投資を公共・民間の部門別にみると、平成10年度においては8割以上を民間部門が占めており、我が国の建築活動の大部分は民間において担われている状況にある。
2.建築物に求められる社会的役割
第一に、地震、火災等に対する基本的な安全性が確保されている必要がある。このために、構造耐力、防火、避難等に関する安全性の確保に不断の努力がなされてきた。
第二に、生活の場として、利便性、快適性が確保されている必要がある。
第三に、経済活動の場としての建築物の役割がますます重要性を増してきている。
第四に、良好な市街地環境の形成に対する国民のニーズが高まっている中で、その構成要素としての建築物の役割が一層重視されてきている。
第五に、建築物は、環境に与える影響が大きなものであるため、建築物の整備に当たり、環境に対する負荷の低減を図っていくことは、環境対策に重要な役割を負っている。
3.時代の要請に対応した建築活動への規制、誘導の必要性
建築物の安全性の確保、高齢者・障害者等の利用にきめ細かく配慮した建築物の整備等多面的な要請に対応した良好な建築ストックの形成等を図っていくためには、特に、建築投資の大部分を占める民間における建築活動を適切に支援していくことが必要不可欠である。このため、将来へ承継する質の高い建築資産の形成に向けて民間建築活動を誘導する様々な施策の実施を図っていく必要がある。
このため、平成9年3月24日に建築審議会より提出された「二十一世紀を展望し、経済社会の変化に対応した新たな建築行政の在り方に関する答申」を受け、
について検討を進め、平成10年3月17日、建築基準法の一部を改正する法律案が閣議決定された。
改正案は、規制緩和、国際調和、安全性の一層の確保及び土地の合理的利用の推進等の要請に的確に対応した新たな建築規制制度を構築するため、民間機関による建築確認・検査制度の創設、建築基準への性能規定の導入を始めとする単体規制の見直し、建築確認の円滑化のための新たな手続制度の整備、中間検査制度の創設、一定の複数建築物に対する建築規制の適用の合理化等の措置を講ずるものとしている。