(建設業の人材育成)  技能は昔は「親方の背中を見て仕事を盗んで覚えろ」と言われていた。ところが現代では、そのような“OJT(On the Job Training)”方式とは別に、近代的な学校方式で、効率的な「教育訓練」を行うことが必要とされてきている。人材育成を通じて、職人芸・匠の域にあり属人的に人が有している「暗黙知」から、技のプロセスを言語化して他人に伝授可能な「形式知」に技能を転換することで、現場でフィードバックしていくことの必要性も指摘されてきている。  建設業に関する教育訓練としては、高等学校等における技能実習(「インターンシップ(就業体験)」として現場実習を行えるような取組みも実施されている。)、職業能力開発施設における職業訓練、企業内教育、業界単位での教育、さらには我が国初の全国的・業種横断的な教育訓練を行うための施設で国の支援も得ている富士教育訓練センター等により実施されている。若い入職時から、年齢や技能の向上に併せ、適時の教育訓練を実施していくことが必要である。  なお、マンション建設などでは、天井、設備等の規格化・統一化、工法の機械化等の技術革新に伴って、内装関係など各業種を一括して請負うことで作業調整・手戻りなどを不要にするいわゆる内装一式工事の出現で、他の職種にまたがる流れ作業を一貫して行える多能工も登場しはじめている。今後、マンションやオフィスビルの効率的な設計やリフォーム工事において、また、限られてくる労働力の有効活用の一環として、多能工に対する需要が増加すると考えられる。  しかし、いかなる時代においても、現場での経験の積み重ねによるOJTの大切さには変わりはない。特に建築の工法や様式は、我が国では建築業者の提案と施主である国民のニーズとの間で、これまでは効率性や機能性、安全性などを重視して決まってきた。労働生産性の向上を目指す上で、省人化・効率的施工の追求により技能をマニュアル化、単純化し、誰もができる作業とする道が近年の技術進歩により開発されているが、同時に、「技を身につけたい」「歴史に自分の跡が残る仕事をしたい」と希望を持って入ってきた若者の期待に応えて「技と経験知」を伝授し、責任を持った作業・管理のできる人材、さらに進んで付加価値の高い新たな建築文化を創れる技術や技能を目指せるような創造的な人材に育てていく道とをともに用意しておくことが大切である。