II 高度情報化の推進 1 高度情報通信社会の構築に向けて (1)国土づくりにおける高度情報化  全世界的なインターネットの爆発的な普及、電子メールの活用、携帯電話をはじめとする携帯情報端末の普及等に見られるように、数年前には予想し得なかったスピードで経済・社会の諸分野におけるネットワーク化が急速に進展している。  また、21世紀の経済・社会を大きく変革すると言われる電子商取引についても、政府における先導的な実証実験の実施や、民間団体等によるガイドラインの策定等、官民を挙げた取組みにより、本格的な実用化への気運が高まっている。  こうした中、情報通信インフラは、国民生活を支える重要な社会資本として「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」(平成7年2月、10年11月高度情報通信社会推進本部決定)が策定され、我が国の高度情報通信社会の構築に向けた基本的な考え方と基本的な方向性が示されており、経済構造改革の達成、真のゆとりと豊かさを実感できる国民生活、多様なライフサイクルの実現と新たなコミュニティの形成等に向け、高度情報通信社会の構築を一層強力に推進することとしている。  建設省においても、高度情報化社会の進展を踏まえ、より質の高い生活の実現、国土の均衡ある発展、経済社会の発展基盤の形成を図るためには、全国的な光ファイバネットワークの形成をはじめとした情報通信インフラの整備が極めて重要な課題であるとの認識から、この基本方針に基づき、平成8年7月に、マルチメディア社会の推進に向けた基本的な考え方や施策展開の方向についてとりまとめた「マルチメディア社会推進に向けて(中間とりまとめ)」を策定するとともに、平成9年7月には、公共施設管理用光ファイバ等情報通信ネットワークの整備、その経済効果及び民間通信事業者との関係等について「建設省情報通信ネットワークビジョン」を取りまとめ、行政サービスの高度化、業務の効率化等のために高度情報通信ネットワークを活用した公共施設管理を積極的に進めることとしている。 イ 国土づくりを取り巻く情勢  我が国の住宅・社会資本整備の歴史は浅く、欧米諸国に比べ立ち遅れており、戦後、精力的かつ着実な整備がなされてきたところである。その結果、今なお、欧米と比べての整備格差や地域的な整備格差があるものの、相対的に整備率は向上し、生産性の向上や、安全性・利便性の確保、環境の保全など、国民に様々な便益をもたらしてきている。  21世紀には、生産年齢人口の減少を含む本格的な高齢化時代の到来が確実に予想され、財政構造改革が急務の課題となっている現在、国土基盤づくりにおいても、整備水準の向上と併せて、投資余力の減退下における社会資本の効率的整備、ストック利用の効率化、及び増大するストックに必要となる維持管理コストの低減が不可欠なところであり、今後は施設の整備から維持管理、更新までの費用の総計であるライフサイクルコスト、特に、維持管理コストを意識した社会資本整備や既存ストックの有効活用などについて、強力に取り組む必要がある。  一方、情報通信技術に関しては、近年、光ファイバの伝送速度、品質に見られるようなハード面の発達に加え、デジタル圧縮技術等により同じ設備で大容量の画面情報を送信できるなどソフト面での発達も大きい。さらには、利用者の拡がりに伴うユーザーニーズの拡大に起因して、ユーザーインターフェースの技術も進歩し、多様な業務を特別な知識がなくとも行えるようになってきている。  このような技術革新等に支えられつつ、電気通信事業においては、移動体通信やインターネット等が急速な普及を見ており、社会経済のあらゆる分野における通信ニーズの増大や事業者間の競争促進により、通信技術はさらに技術進歩のスピードを早めるとともに、コスト面での低下もさらに進むものと思われる。  建設行政においては、高度道路交通システム(ITS)や総合防災情報システム等の高度なサービスを提供するに当たって、より大量の情報を双方向かつ迅速に伝えることが求められているのに加え、社会資本整備に伴い累計的に増大する公共施設における管理費用の縮減等効率的な管理を図るうえでも、光ファイバ網整備の果たす役割は益々増大すると考えられる。  さらに、公共施設管理用光ファイバ網及び収容空間の整備にあたっては、将来的にほとんどの市町村において整備が行われることを踏まえ、地方公共団体の管理する区間も含めた戦略的、段階的な取組みが求められており、各地方ブロックにおける情報化の促進の観点に立ち、連携・支援を図っていくことも重要である。  また、良好な都市環境の形成、歩行者空間及び交通安全の確保、電力・通信の災害に対する安全性・信頼性の向上等を図るためには、電線類の地中化を促進する必要があるが、地中化には土木工事費の負担が大きく、民間事業者の負担の軽減を図る必要があること、公的な空間を効率的に利用していくこと、行政側と民間事業者の重複投資による道路掘り返し工事を減らす必要があることなどの観点から、官民協調して、電線共同溝等を整備し、公平な利用と負担の軽減を図っていくことが重要である。 ロ 高度情報通信技術を活用した公共施設管理の視点(図2-II-1)  高度情報通信技術を利用して、21世紀初頭における公共施設の管理を次の視点から行うこととし、公共サービスの高度化、効率化を図るとともに、地域の活性化、豊かな国民生活の実現に資する。 1) 国土づくりを支える行政サービスの高度化  イ)ETC(ノンストップ自動料金収受システム)、AHS(走行支援道路システム)の導入により、料金所渋滞の解消、安全走行の支援等を図るとともに、カーナビゲーションシステムにリアルタイムな道路交通情報を提供するVICS(道路交通情報通信システム)により、利用者サービスの充実を図る。  ロ)災害情報や警戒情報を迅速に提供し、必要に応じて避難誘導等を図る。  ハ)公共施設の調査、設計から施工、維持管理に至るライフサイクルについて建設CALS/EC(公共事業支援統合情報システム)を導入したり、都市防災や道路、河川等の管理、環境影響評価にGIS(地理情報システム)を導入したりすることにより、煩雑なデータの整理、分析等を簡略化するとともに、データを共有化するなどして業務の効率化を図る。 2) 公共施設管理の高度化と将来の公共施設管理像  イ)公共施設管理光ファイバやGPS(汎地球測位システム)、ITV等情報通信技術を活用し、災害時の被害状況をリアルタイムで把握するなど管理の高度化・効率化を図る。また、センサー設置等により地震時の橋梁の被害状況、通行規制区間、長大法面、雪崩等状況をリアルタイムで把握する。  ロ)防潮水門、堰、火山、工事現場、排水ポンプ場等において、自動監視、遠隔操作等を用いた管理を推進し、省力化を図ることにより、公共施設の安価な管理の実施に資するとともに、業務の危険性の解消を図る。  ハ)災害に強い無線網と大容量のデータを高速に伝送できる光ファイバをネットワーク化し、画像データ等の伝送を行い、災害時等における速やかな行政判断に資する。  ニ)下水処理場、ポンプ場等の施設間を光ファイバ等の通信線で結び、遠隔監視・操作、情報の通信等を行い、下水道管理の高度化、維持管理にかかるコストの低減を図る。 3) 国民との情報の共有化  各種行政情報のデータベースを充実させ、国民への提供を図ることにより「開かれた行政」の実現に資する。さらに、インターネット等の活用を推進することにより、国民との対話を重視したコミュニケーション型行政の推進や、公共事業のアカウンタビリティの向上を図る。 ハ 国民生活・経済への波及効果 1) 民間事業者の情報通信インフラ整備への効果  イ)地方ブロックにおけるネットワークづくりに配慮しつつ、公共収容空間の提供を可能にすること等により、民間通信事業者の多様なネットワーク構築に資する。  ロ)通信線の多ルート化や地中化等が図られることにより、地震等に対する通信の安全性、信頼性を増大させるとともに、情報セキュリティの確保が見込まれる。  ハ)民間のニーズ、事業展開のスピードを踏まえ、公共収容空間の提供を適切に推進することにより、民間事業者の円滑な事業展開が期待される。 2) 国民生活環境の改善  イ)電線類の地中化等により、安全で快適な通行空間の確保や都市景観の向上を図り、良好な都市環境の形成を促進する。  ロ)ITS(高度道路交通システム)導入により、交通事故の削減、渋滞による多大な時間損失・経済損失の軽減が可能になる。また、渋滞の軽減あるいは交通流動、交通量の適正化により効率的なエネルギー利用を可能にするとともに、排ガス等の削減を実現し、沿道環境や地球環境の保全に寄与する。 3) 新産業の創出  適切な環境整備の下に、高度情報通信社会づくりを柱の一つとした経済構造改革を実行することにより、多くの新規・成長分野が展開できると予想される。  イ)ITSに関し、車載器をはじめとして、情報収集機器、情報発信機器等電子、通信、自動車分野において、21世紀に向けた新たな研究開発や設備投資、生産活動のけん引役となり、世界規模での市場展開が可能な産業分野を創出するものとして期待される。  ロ)GIS(地理情報システム)に関し、測量、調査等の情報収集部門、マーケティングコンサルタント、宅配業等の情報利用部門等、地理情報産業分野において、新産業の創出や市場の成長が見込まれる。