(2)都市を取り巻く環境の変化  我が国の都市を取り巻く環境は、以下に示すとおり、人口の都市集中の鈍化、高齢化の進展、産業構造の転換等様々な面で大きく変化している。  こうした都市を取り巻く環境変化を踏まえつつ、今後、限られた資源を効率的、効果的に活用しながら、地域の自然的・社会的特性を生かした都市再構築に向けた取組みを進めていくことが重要である。 イ 人口動向 1) 都市化への対応  我が国では、これまで一貫して人口の増加が続く中で、都市の人口が増大してきた(図2-V-1)。特に、戦後、製造業主導の経済成長が実現する中で、人口、産業が都市に集中するいわゆる「都市化」が急速に進展した。 2) 都市型社会の到来  しかしながら、近年、我が国の人口の増加率は急速に鈍化し、今後2007年をピークに減少に転じ、世帯数も2014年以降減少するものと予測されている。  人口の社会的移動も減少傾向にあり(図2-V-2、図2-V-3)、人口集中地区も、面積及び人口のいずれもが拡大し密度を低下させつつ規模を拡大してきたこれまでの傾向と比較し、落ち着きを見せている(図2-V-4)。戦後続いてきた「都市化」は一段落し、我が国は成熟した「都市型社会」を迎えている。 3) 人口減少都市の拡大  今後、我が国全体の人口が減少する中で、都市人口も地域によっては、増加がストップし、減少に転ずるものと考えられる(表2-V-1)。 ロ 高齢化の進展 1) 急速な高齢化の進展  我が国の人口構成は、少子化と相まって急速に高齢化が進行しつつあり、全人口に占める65歳以上の高齢者の割合は1995年の14.6%から2015年には全人口の4分の1以上(25.2%)と急速に上昇することが予測されている。  こうした急速な高齢化は、欧米諸国でも例をみないだけではなく、高齢者人口の水準も極めて高水準である。  また、世帯主65歳以上の世帯は、1995年の867万世帯から2020年には1,718万世帯と倍増し、そのうち単独世帯は220万世帯から537万世帯と2.5倍に増加するものと推測されている。 2) 今後急速に進展する大都市圏での高齢化  高齢化は、現在、地方圏で先行し、大都市圏の高齢化率は未だ低いが、今後は大都市でも急速に高齢化が進む見込みである。 3) 都市中心部、ニュータウンで進む高齢化  都市内の高齢化の状況をみると、都市の中心部(中心市街地)での高齢化が顕著となっている。  一方、都市の人口集中の受け皿として整備されてきた郊外型のニュータウンは、居住者の人口構成が一定の範囲に集中する傾向があるため、今後一気に高齢化が進展する可能性がある。 ハ 産業構造の変化 1) 第3次産業化  我が国経済の牽引車は、かつての製造業から第3次産業、特にサービス業に移行している。 2) 今後の成長産業と企業の立地自由度の高まり  今後の新規・成長産業は、情報・通信、住宅、生活文化、新製造業技術といった分野で発展が期待されている。  こうした新しい成長産業は、立地自由度が高く、従来の製造業のように広大な土地や水を必要とせず、既成市街地の物的・社会的なストックを基盤として成立し、特に、情報通信やソフトウェア業などは担い手となる能力を持った人々の存在が立地を規定することが少なくない。  また、交通・情報手段の発達により、製造業そのものも立地自由度が高まっている。 3) 産業構造変化に伴う遊休地の発生  産業構造の変化により、都市内に工場跡地等の遊休地・低未利用地が大量に発生している。  これは、製造業の再編、第2次産業から第3次産業までにいたる企業のリストラ等によるものであるが、土地を有していることが含み資産として企業経営に有利だった時代から、遊休・低未利用地の所有が企業経営の効率性を図る上でマイナスと評価されるように大きく転換したことから、企業はこうした土地を放出する方向にあり、こうした傾向は今後も続くものと予測される。 ニ 地価の動向 1) バブル崩壊後の地価の下落傾向  我が国の都市の地価は、人口・産業の都市集中を背景に上昇し、特に、いわゆるバブル期には、過剰流動性により、大都市だけにとどまらず、全国的に地価が高騰した。  その後のバブルの崩壊により地価は大幅に下落し、現在でも下落傾向が続いている。 2) 地価下落の影響  こうした地価の下落は、土地の値段は必ず上がるといういわゆる土地神話を崩壊させる一方、バブル期に土地を購入した企業や個人に大きな含み損を発生させるなど経済に大きな影響を与えている。  マンション価格、オフィス賃料についても下落傾向にある。 ホ 国民の意識の変化 1) 国民の多様な価値観  国民の生活の質的向上に対する要求水準が高まり、単なる物的充足、施設面の充実だけではなく、それによって得られるサービス水準そのものの向上が求められる時代となっている。 2) 余暇・環境志向  余暇志向・環境志向も高まっており、これに街づくりの中でどのように応えていくかも課題である。 ヘ 環境問題の高まり 1) 環境問題への関心の高まり  国民の環境問題に対する関心は高まり、関心の対象も身近な生活空間としての都市環境から地球環境にいたるまで、極めて広範なものとなってきている。 2) 自然環境の保護に関する意識の高まり  都市における人口増加圧力が低下していることから、とりわけ市街地の周辺部、郊外部において新たな開発を抑制し、より積極的に自然環境の保全を図ることへの要請が高まる傾向にある。 3) 廃棄物問題の深刻化  廃棄物の処理問題は深刻化しており、今後の都市のあり方も規定する重要な課題である。 ト 情報化の進展  近年の情報化の進展は、産業から社会・生活のあらゆる分野に大きなインパクトを与えている。 1) インターネットの急速な普及  インターネットは社会の様々な局面で、急速な勢いで浸透しつつある。 2) インターネット関連産業の成長  インターネット関連産業の成長は目覚しく、平成10年は、インターネットを利用して最終消費財やサービスの取引を行うインターネットコマースの最終消費財市場が前年の約2倍、インターネット・サービス・プロバイダ(ISP)等によるインターネット接続ビジネスが前年の約2.6倍、インターネット接続端末、関連ソフトウェア、決済サービス、インターネット広告等のインターネット関連ビジネスが前年の約1.4倍に成長した。 3) 情報通信ネットワークの広がり  国内における情報通信ネットワーク基幹網は、通信トラフィックの増加等に対応するため年々増加している。  これらのインターネットの普及やインフラの整備により産業立地の自由度は増大するため、場合によっては地方都市が大都市と同等に競争できるようになる可能性も生じる。 チ 都市の脆弱性の顕在化  元来、我が国は、自然災害の生じやすい国土であるが、自然災害の脅威に対して都市の防災性は不十分である。  阪神淡路大震災、台湾大震災の例からみても、大災害による都市の被災は、地域経済のみならず、国民経済にも大きな影響を与える。  また、依然として、水害や土砂災害などが頻発していることに加え、最近では地下街の浸水被害など新しいタイプの都市災害も発生している。  災害に対する安全性は、都市が備えるべき基本的機能であり、水害によるハイテク施設の被災の例をみるまでもなく、災害の発生は、住民の生命・財産を脅かすだけではなく、フットルース化した企業の立地にも影響し、都市の将来の発展にまでマイナスとなる。 リ 地方財政の悪化  バブル崩壊後の長期間の経済の低迷により、国の財政と同様に地方財政も急速に悪化している。