(5)建設産業の振興 イ 専門工事業の将来戦略  建設業については厳しい経営環境が続いており、建設市場の構造変化の中で、専門工事業者の新たな役割が期待されるとともに、専門工事業者と総合工事業者の関係も多様化することが見込まれる状況となっている。こうした状況の中、前述の建設産業再生プログラムにおいても、専門工事業界等については今後産業のあり方について改めて議論を深める必要があるとしている。このため、建設省では、研究会を設置して実態の把握、課題の整理等を行い、専門工事業者の将来のあり方として、本年6月に「専門工事業イノベーション戦略」を提示し、今後の専門工事業者としての新たな役割、企業展開の方向などについて示した。  具体的項目としては、  ・多様な建設生産システムの形成  ・経営力・施工力の強化    新分野進出(リフォーム、メンテナンス市場への進出等)    競争力強化のための新たな組織のあり方 等  ・元請下請関係の適正化  ・労働・人材(新たな需要等に対応できる人材育成等) となっており、専門工事業界が目指していく方向を提示するとともに、先進的な取組みの事例について併せて紹介した。  また、本戦略の柱の一つである新分野進出に関し、リフォーム市場に目を向けてみると、将来大きな市場になることが期待されているにもかかわらず、課題が多く十分な市場環境の整備がなされているとは言い難い。よって、別途委員会を設置し、リフォーム工事の直接の担い手となる専門工事業等の中小建設業者について、市場環境の整備を図ることにより、消費者のニーズに応えられるものに育成するための検討を行った。  具体的には以下の項目について検討を行っていく。  ・消費者のアクセスしやすいリフォーム市場の構築〜「入口」の改善方策    施工業者に関する情報提供のあり方(データベース化や相談窓口等)    リフォームする前の診断のあり方  ・消費者が安心できる施工の確保〜「責任施工」の確立    責任施工できるシステムづくり    防水、塗装、外壁等の業種を超えた連携のあり方    リフォームにたずさわる技能者の質的向上方策  ・施工後も安心できる体制づくり〜「アフターサービス」の確保    リフォーム等の評価・保証のあり方 ロ 経営の近代化 1) 経営革新等への取組み  中小建設業等が行う経営革新への取組みに対し、指導・助言を行うとともに、建設業団体等で組織する建設産業経営革新研究会等を通じ、先進事例等の研究を行っている。また、廃止前の中小企業近代化促進法に基づいて既に構造改善事業を実施している7業種については、引き続き当該業種の近代化を推進するための支援を行う。 2) 建設業経理事務士検定試験の実施  建設業における簿記会計に関する知識の普及と会計処理能力の向上を図り、建設業の経営の合理化、近代化を推進するため、(財)建設業振興基金において建設業経理事務士検定試験を実施しており、平成11年度までの1級建設業経理事務士は8,310人、2級建設業経理事務士は158,240人となっている。 3) 経営基盤強化事業  中小建設業者の自主的な経営改善努力を促し、経営基盤の強化に資するため、構造改善戦略プログラムにおける経営基盤強化事業として、(財)建設業振興基金において中小建設業者を対象に財務診断や建設業経営後継者研修等を実施している。 ハ 施工能力の向上 1) 技術検定  建設工事に従事する者の施工技術の向上を図るため、建設業法に基づき、建設機械施工・土木施工管理・建築施工管理・電気工事施工管理・管工事施工管理及び造園施工管理の6種目について1級、2級に分けて技術検定を実施している(表2-III-3)。  これらの技術検定に合格した者は、その区分及び種目に応じ営業所の専任技術者もしくは工事現場の主任技術者・監理技術者の資格を満たす者として取り扱っている。 2) 浄化槽設備士試験  浄化槽法に基づき、浄化槽工事業を営む者は、営業所及び工事現場に浄化槽設備士を置くことが義務付けられている。このため、同法に基づく浄化槽設備士の資格認定のための試験及び講習会を実施しており、平成11年度末現在で、資格者数は61,984名となっている。 3) 施工技術者試験(高校生試験)の実施  施工技術者試験は、建設工事の施工を担う若年技術者の育成・確保及び国家資格取得へのインセンティブの供与を目的として平成5年度より開始しており、現在5種目の合同試験として実施しており、土木施工、造園施工及び管工事施工の3種目については財団法人全国建設研修センターが、建築施工、電気工事施工の2種目については財団法人建設業振興基金が担当している。当該試験の合格者は、2級施工管理技術検定を受検する場合には、それぞれの学科試験の一部が免除されることとなる。 4) 建設機械使用の適正化  建設事業における賃貸(リース・レンタル)建設機械の依存度は近年一貫して上昇を続けており、賃貸建設機械が果たす役割は飛躍的に大きくなっている。  円滑な賃貸借がなされるためには、当該建設機械に対するユーザー(建設業者等)の信頼性をより高めていくとともに個々の企業によるコスト意識の高揚が必要である。このため、適正な整備・管理水準の確保を図るとともに、品質確保に必要なコストの把握に資する資料として、賃貸用建設機械の整備状態表を作成し、(社)全国建設機械器具リース業協会の会員を中心にその普及に努めているところである。  さらに、建設コストの縮減及び建設機械器具賃貸業の活性化のために、建設機械のより一層の効率的使用が必要であり、当協会に対し、情報ネットワークの構築等により、建設機械の相互利用等を図るよう啓蒙に努めているところである。 ニ 共同企業体の活用  公共事業への依存度が高く、厳しい経営環境にある中小・中堅建設業者においては、企業連携・協業化等により経営力・技術力を強化することが必要であり、そのため、平成10年建議においては、経常建設共同企業体の活用促進について具体的方策が示されている。建設省では平成9年度以降、経常建設共同企業体について、対象企業の中堅建設業者への拡大、資格審査における客観点数・総合点数のかさ上げの措置を行うとともに、建設省直轄工事において、経常建設共同企業体に求める同種工事の施工実績等の緩和等を行い、経常建設共同企業体を積極的に活用することとしている。  また、各発注機関が共同企業体を活用する場合に準拠すべきものとして、中央建設業審議会により「共同企業体運用準則」(平成10年2月最終改定)が昭和62年に建議された。建設省では、各発注機関に対して、運用準則の趣旨に沿った運用基準を策定し、当該基準に従って共同企業体制度を適正に運用するよう、指導・助言を行っている。  さらに、共同企業体の運営方法等の明確化を図るため、共同企業体における資金管理の方法や、共同企業体の構成員が会社更生手続の申立をした際の取扱いなどについて、周知徹底しているところである。 ホ 組織化・共同化  事業協同組合等の設立及び運営の指導等により、中小建設業者等の組織化・事業の共同化を推進しており、平成11年度末現在の組織化状況は、事業協同組合4,876、協業組合40、企業組合131となっている。  平成11年度には、責任施工体制の確立、組識の充実等を促進し、その事業の活性化を図るための組合活性化マニュアルを事業協同組合等へ周知徹底するとともに、リフォーム市場における異業種提携等、その共同事業の効果的な活性化方策等を検討した。  平成12年度においても、事業協同組合等の共同事業の効率的な活性化方策等を検討し、さらに、事業協同組合等の経営革新への取組みを推進することとしている。 ヘ 下請セーフティネット債務保証事業等  (財)建設業振興基金に50億円(うち国庫補助分25億円〜平成10年度第三次補正予算で措置)の新基金を設立して、最大2,000億円程度の債務保証事業(下請セーフティネット債務保証事業)や各種助成事業等を行う建設業緊急安定化事業を創設した。その中の下請セーフティネット債務保証事業は、中小・中堅の元請建設業者が工事の途中段階で低利かつ安定的な資金調達ができるようにするとともに、併せて下請業者の保護を図るため、中小・中堅元請建設業者から事業協同組合等への未完成公共工事に係る工事請負代金債権の譲渡を公共工事の発注者が認めることとし、当該譲渡債権を担保に事業協同組合等が元請に対して融資を行う制度である。本制度では、事業協同組合等が金融機関から転貸融資資金を借り入れる際の債務保証を(財)建設業振興基金が低利(0.1%)で行う(平成12年3月末現在で、合わせて17府県・20組合等で、667億円の債務保証枠を設定済)。 ト 金融関連施策 1) 政府系中小企業金融機関  政府系中小企業金融三機関の平成11年度末における建設業に対する貸出残高は商工組合中央金庫が3,752億円(対前年度比99.7%増、総貸付残高の3.4%)、中小企業金融公庫が6,200億円(対前年度比97.8%増、総貸付残高の8.2%)、国民生活金融公庫が1兆3,504億円(対前年度比99.9%増、総貸付残高の15.8%)となっている。 2) 信用保証協会による債務保証  信用保証協会において、中小企業者の事業資金借入れについて債務保証を行っており、特に平成10年10月に創設された中小企業金融安定化特別保証(貸し渋り対応特別保証)を中心に、平成11年度の保証実績は441,720件、保証承諾額4兆6,871億円(全産業向けの25.0%)となっている。なお、保証枠が倍額となる対象業種として設備工事業等の業種が指定されている。 3) 小規模企業者等設備導入資金助成法  小規模企業者等設備導入資金助成法に基づき、相当程度の付加価値額の向上が見込まれる設備を対象として設備資金貸付事業及び設備貸与事業を推進している。 チ 専門工事業者企業力指標(ステップアップ指標)の活用の促進  技術と経営に優れた専門工事業者が自由に伸びられる環境づくりの一環として、専門工事業者が施工力・経営力等に関し自らの現状を把握し、自らの経営改善、営業活動、経営計画等の指標として活用することができる専門工事業者企業力指標(ステップアップ指標)については、平成11年度は活用状況の調査を実施したところであるが、平成12年度はさらなる活用の促進及び本格的な運用に向けた検討を行うこととしている。 リ 建設業者団体の指導・育成 1) 建設産業団体連合会の設立の促進  建設産業団体連合会は、建設産業全体の緊密なる連絡協調体制を確立する趣旨の下、総合工事業団体、専門工事業団体、資材業者等が参加した各府県単位の横断的組織である。同連合会は、平成12年4月1日現在、35府県において設立を見ている。これら団体相互の連絡調整等を図る機関として、平成元年8月に(社)全国建設産業団体連合会を設立し、具体的な基幹産業にふさわしい評価と社会的発言力の獲得、効率的な建設生産の仕組みづくり、豊かな地域づくりへの貢献等々を目標に活発な活動を展開しているところである。今後も、地域の実情を踏まえた自主的な施策を行うことにより、建設産業全体の健全な発展を図って行くこととしている。 2) 専門工事業者団体等の育成  建設工事の施工内容等が一段と専門化・高度化し、また、国民のニーズも多様化する中で、現場で直接施工を担当する専門工事業者及び調査・企画・設計等で技術力を発揮する建設関連業者の果たすべき役割が増大しており、その育成が重要な課題となっている。このため、躯体工事業者(とび、型枠大工、鉄筋等)、仕上工事業者(塗装、左官、内装等)、設備工事業者(電気、管等)及び建設関連業者(測量、地質調査、土木コンサルタント等)の各団体の指導並びに42の専門工事業者団体及び建設関連業者団体からなる建設産業専門団体協議会(建専協)と定期的に情報・意見の交換等を行っている。