第1章 地域を超えた多様な連携

第1節 国土構造の現状と課題
1 人口構造の状況
 我が国の人口は、出生数の減少により、高齢化が急速に進んでいるが、平成7年の国勢調査によっても、初めて人口が自然減少となった県がみられるなど、人口減少社会の出現が間近いことが窺われる。
 人口減少が社会に及ぼす影響については、人手不足を克服する効率化・技術開発の進展、住宅問題の緩和、通勤・通学時の交通機関の混雑の緩和などにはプラスの効果を与えると考えられるが、人口減少過程における高齢化の急速な進展による住宅、公共空間、福祉・年金、医療等への影響、生産年齢人口の減少による労働力不足等の大きな課題に直面することが見込まれる。
 人口の移動状況をみると、人口減少都道府県の数が減少するなど、5年前との比較では都道府県人口の社会減は緩和されてきている。
 圏域別に最近の人口移動の状況を見ると、三大都市圏においては、人口の流入より流出が多くなっている(図1−2)
 新規大学卒業者の就職動向をみると、出身都道府県に就職するいわゆるUターン型及び出身地にとどまるいわゆるステイ型が近年増加してきており、反面、東京都、大阪府に就職する者の割合は減少してきている(図1−3)
 このような大都市圏転出傾向の原因を推測してみると、因果関係は必ずしも明確ではないが、これまでは日本全体の経済成長率が高いと東京に集中する傾向があった。この経験則からすると経済成長率が低い現在の人口移動状況が定着するかどうかは、基本的に経済状況に左右されると考えられる。
 しかしながら、経済状況だけでなく、人口移動をもたらす構造的な変化が今後生じるかどうかにも着目する必要があろう。
 大都市圏からの転出が増加し、東京一極集中に変化が見られる一方で、道県内においては、県庁所在都市が占める人口の割合が増大してきており、いわば地域版一極集中が見られる(図1−5)
 日本全体の人口増加率が低下する中で、都市規模別に見てみると、唯一、三大都市圏外の地域の人口5万未満の都市においては、全国平均人口増加率(約1.6%)を下回っているものが特に多い。その他の都市規模においては、人口増減率にはバラツキが見られ、地域、都市規模だけでは傾向は明確ではない(図1−6)

2 地域社会の現状
(1) 地方中枢・中核都市の機能集中
 中枢・中核都市の持つ各種機能の対全国シェアは、人口の占める対全国シェアより高い水準にあると同時に、最近着実に伸びている。特に、情報サービス・調査・広告業従業者数、企業新規設立件数については、東京圏とのシェアの格差が縮小している(図1−7)
 地方中小都市では、先に見たように人口増減が都市によりバラツキが出ている。これは、日本全体の人口増加が減速している中で、人口増加のみを目的とした都市の発展政策はマクロ的に見れば限界がきていること、同じ人口規模でも個々の都市の産業、各種機能に差が生じてきていることなどが原因と考えられる。具体的には、昨年の白書でも見たような中心商店街の衰退、加工組立型製造業を中心とする産業の衰退、空洞化の進展が一部の地方都市の地盤沈下をもたらしている図1−8図1−9)。

(2) 都市の構造的格差の縮小
(経済的格差)

 地域経済の側面をみると、バブル期にいったん拡大した、東京をはじめとする大都市圏と地方中小都市との経済力の格差は、全体としては最近再び縮小しつつあるものと考えられる(図1−11)。
(都市化の広がり)
 これまで急速に進んできた大都市圏、さらには地方中枢・中核都市への人口集中の中で、人口30万未満の地方都市が占める人口はそれほど増えていないが、当該規模の都市の内部においては、全般的にみると人口集中地区面積の割合の拡大等、都市化の進展が見られる(図1−13)
 地域社会の都市化の側面として、地方都市においても個人の生活パターンの深夜化等が進んでいるとともに、地方中小都市の生活活動パターンが大都市のそれと差がなくなってきている(図1−15)

(3) 国民の価値観・行動の変化、多様化
 年齢、地域の別、時代の変化とともに社会サービスに対する国民のニーズが変化、多様化してきている。
(ニーズの多様化(価値観、行動))
 従来は家族団らんの時や仕事にうちこんでいる時に人々が充実感を感じる割合が高かったが、最近ではこれらに加えて、休養している時、趣味やスポーツに熱中している時、さらには友人や知人と会合、雑談している時、などが着実に増加してきており、価値観、行動が多様化している。
(ニーズの多様化(地域差))
 身近な生活環境で今後よくなってほしいものについての人々の意向を見ると、医療・福祉は全国的に5割以上の人が挙げている。他方、生活環境施設(道路、下水道、公園など)は小都市では大都市の約2倍の割合の人が求めており、医療・福祉をしのいでいる。
(ニーズの高度化)
 例えば、単純な例では、住宅周辺の道路に対する不満の内容については、道が悪いという不満は減少し続けている反面、道幅が狭いことに対する不満が多く、歩道と車道が分離していないことに対する不満等は一貫して増加している(図1−18)
 これは、歩行、自動車運転、車椅子での通行等に際して従来より道路の幅や歩車分離等に対する要求水準が高くなっていることを表していると考えられる。

第2節 多元的・多層型連携社会の構築
 第1節で国土構造等の現状と課題を見てきたが、これらの課題に対してどのように取り組んでいくべきなのか。

1 地域の魅力、個性
 大競争時代には、各地域の魅力、個性がないと生き残れないと考えられる。ところで、地域の魅力とは、それを発揮させる条件とはどのようなものであろうか。
 前節で見たような地域社会における都市化の進展、ニーズの多様化が進んでいる割に、一部の地方都市ではサービス経済化、都市型社会化に対応しきれず、高次都市機能、若者が期待するような機能が不足しており、それが地方中枢・中核都市への機能集中を促進している面があると考えられる(図1−19)
 地域外に目を転じると、地方への転職希望者のうち、Uターン希望者は中核都市を希望する者が最も多いが、血縁等に縛られないIターン希望者は一般的には中小都市を希望している者が多い。
 一方、様々な都市機能へのアクセス時間の条件を見てみると、百貨店、文化ホール、社会教育施設等の分野については、グレードの高いもの、必ずしも頻繁に使わないものであれば1時間程度かかってもよいとする傾向が出ている
(図1−21)
 人口規模10万から20万程度の都市の中で、最近10年間で人口が増加しているものについていくつか機能の状況を見ると、人を受け入れるための賃貸住宅の戸数、全国的に伸びている産業の従業者数といった職・住に関わる指標の伸びが人口減少都市に比べ目立つほか、高次都市機能ともいえるグレードの高いホテル、商業施設、美術館・博物館等が備わり、利用されているといった「遊」に関わる機能も平均して高い傾向が見られる。これが都市の活性化をもたらす大きな要因の1つとなっているものと考えられる(図1−22)
 このように見てくると、Iターンが実現していない理由には様々な要因が絡んでいるが、中小都市を希望し、機能・施設によってはグレードの高いものが少々時間がかかっても一定の範囲内に用意されていればいいということを希望しているのに、具体の都市選びの段階になると、地方都市(地域)が必ずしも満足できる機能を備えていないので実際の行動に至らない面があると考えられる。
 また、地域ごとの個性、特性が異なれば、地域によってインフラ整備の課題も異なるはずである。例えば、北陸地域においては、全国調査と比べると、特に交通・通信施設の整備が重点的に求められている(図1−23)
 以上のように、全国的、世界的大競争時代においては、地域の特性に応じた魅力を高め、質の高い生活を実現できるようにすることが必要であろう。
 このような観点から、建設省においては、地域の実情に応じた道路整備を進めるため、地元が要望する地域振興プロジェクトを都道府県等が選定し、これを進める上で不可欠な交通ネットワークを確保するため、バイパス、拡幅、新設などの道路事業について重点的に整備を行う地域活性化促進道路事業を平成8年度から実施しているところである。

2 多元的・多層型連携社会の構築
 これまで見たように、従来のような右肩上がりの経済・人口成長を前提に、大都市へのキャッチアップや単独の地域で住民の全てのニーズを満足させることを目指した地域整備はもはや限界に達している。また、ボーダーレス社会の中で各地域が世界の中で果たす役割を考えることなしには地域を構想することができなくなっており、インフラ整備に当たっても国際競争、国際連携を前提とした整備水準の確保が必要となっている。
 このような状況の中で、従来の行政界等の圏域観念にとらわれない生活、産業・経済、文化面等広域的、多元的な取り組みが進められている。
(1) 地方拠点都市地域
 東京圏への機能の一極集中が問題となっている中で、平成4年に、地方の自立的成長の促進及び国土の均衡ある発展に資することを目的として「地方拠点都市地域の整備及び産業業務施設の再配置の促進に関する法律(略称、地方拠点法)」が公布・施行された。これに基づいて、平成8年3月末現在85地域が指定され、そのうち、32地域でアクションプログラムが策定されている。
(長岡地方拠点都市地域の例)
 本地域は、高速交通網の整備により、地域外と結ぶ利便性は向上したが、地域を担う若者にとって魅力のある都市形成が遅れるなど地域内部の利便性の停滞が課題となっている。
 本地域は、首都圏とは上越新幹線で約80分、関越自動車道で約3時間で結ばれるなど、高速交通体系が整備され、交通条件に恵まれている。このような特性及び地域内の13市町村のそれぞれの特性を生かした機能の分担を行い、市町村間の連携をさらに強め、地域全体の拠点性と魅力を高めることを目指している。
 拠点性については、拠点地区の一つである千秋が原地区においては、既に存在する産業交流会館の他、業務機能の集積及び快適で質の高い居住環境の整備のために土地区画整理事業を行うとともに、新たに文化・健康・交流施設を整備することにより拠点性を高めようとしている。
 このような取組みの中、これまでに県立近代美術館及び大学(長岡造形大学)がオープンし、芸術文化ホールが近々開館される予定であり、産業と文化の出会いの場の創出を目的とする拠点地区が着々と形成されつつある。これに伴って、大学を中心とした若者の動きが活発化しつつある。
 これに併せて、中心都市と構成市町村の連携の強化と交流の促進のため、地域内において、中心都市と副次都市を結ぶ国道のバイパスの整備、橋りょう整備、トンネル整備等を行うことにより、拠点地区が構成市町村と幹線道路で結ばれ、拠点地区へ30分以内で到達できる交通アクセス性を確保する予定である。
(丹南地方拠点都市地域の例)
 本地域は、以下のような課題を抱えている。
  1. 工業集積については、福井県をリードする先進地域であるが、これらの製品を販売する商業集積が貧弱であること、
  2. 中心商業地は自動車の来客に対応した構造になっていない上、快適な歩行空間も十分ではないため、商業機能が郊外に分散流出しつつあること
  3. 工業都市でありながら地元女子短大に比べ高専卒業者の地元就職が十分でないこと
 拠点性については、産業業務拠点地区として、大規模イベント・コンベンション施設「サンドーム福井」を産業振興の核とし、複合的な都市機能を持つ新市街地を形成し、宅地の供給及び都市基盤の整備を進めている。
 高次商業機能の集積という課題に対しては、再開発や街路整備等により、自動車・公共交通のための基盤整備とともに、歩道・広場等の歩行・滞留空間整備が進められている(にぎわい拠点地区)。また、健康福祉センターをはじめ、世代間を越えて利用される公共公益施設の集中立地により、医療・福祉・教養文化等に係る都市機能の集積が図られている(世代間交流拠点地区)。これら拠点地区整備の効果を地域全体に波及させるため、周辺部での滞在・交流施設の充実(越前陶芸村)、各拠点地区相互及び圏域内都市部、隣接地域へより早く安全快適に結ぶ道路整備、などが今後予定されている。
 この結果、既に稼働しているサンドーム福井のイベントホールを利用した主催者のうち鯖江・武生両市以外の者が約5割弱を占め、拠点性を軸に地域内外の交流と連携に効果を発揮している。また、施設整備だけでなく、世界体操競技選手権大会を契機とした国際化対応、丹南地域の個性を特産品、伝統工芸品、地域の景観整備などで表すCI運動の推進、道路利用者への情報提供の強化など、地域全体での取組みとして各種のソフト事業での工夫が図られつつある。
(2) 施設整備・運営等の連携事例
 人々の生活は市町村レベルを超えてその活動範囲を広げ、広域化している。住民意識においては、今後交通機関が充分に整備され、近隣市町村に容易に行けるとした場合、各種社会施設は自らの住んでいる市町村にすべての施設が整備される必要があると考えている者は、約半数であり、必ずしも必要ないと考えている層の中で、他の市町村に整備されていれば全ての施設を整備する必要はないとする者は、都市規模が小さいほど高いことから、施設整備の効率性と連携の必要性がかなり認識されていることが窺える(図1−28)
 人口減少、持続的・安定的な経済成長へ移行する中で、フルセット型施設整備から脱却し、地域を超えて連携する施設整備、活動の重要性が高まっている。
 実際には、連携した事例はこれまでは多くはないようであるが、上記の地方拠点都市地域のような広域的な取組みのほか、必要に応じて個々の施設整備においてもこれらの意識とも対応した形でいくつか事例が出てきている。
(施設整備と地域交流・連携の具体例)
 栃木県の大田原市においては、それまであった設備規模の小さい文化会館を建て替えるに際して、住民の要望を叶える形での文化施設(大ホールのある市民ホール)の建設については財政面で必ずしも満足のいくような計画にならないことなどから、資金面・運営面での効率化を図るために、独自に市民ホールを建設しようとしていた隣接の西那須野町と共同で、市町境に市民ホールを建設した。
 この結果、当初の計画では事業費として35億円程度を予定していたものが、最終的に総事業費91億円強となり、連携することによるスケールメリットが発揮され、グレードの高いものができた(1,277席の大ホール、397席の小ホール、交流ホール、ギャラリーなどから成る地下一階、地上三階建て)。
 また、ホールの行う自主事業については、年間2,500万円ずつ、計5,000万円の両市町の負担金に、事業収益を加えた資金が充当される。このため、栃木県内では、栃木県総合文化センター、宇都宮市文化センターに次ぐ事業費が確保できることから、良質のイベントを提供できることが期待される。今後、アクセス道路や周辺の幹線道路の整備を促進していくこととしている。
 さらに、大田原市、西那須野町等4市町村が地方拠点都市に指定され、その中で、圏域全体の中での文化施設として当該ホールの位置づけがなされた。
(書籍・雑誌取次会社の例)
 出版取次最大手T社では、平成8年4月、埼玉県加須市に「東京ロジスティックスセンター」を完成させ稼働した。同センターは、1日180万冊の返品雑誌を受品から再生紙プレス処理まで、一貫処理するシステムになっている。延べ床面積9,300坪の施設で、東北自動車道加須インターから近く、全国からのアクセスにも最適な立地条件を備えている。
 T社ではこれまで4カ所あった作業所をこのセンターに集約するなど、運搬車両の減少や資源のリサイクル率の向上にも大きな貢献を果たすことになる。書籍の流通においても、支店の在庫をエリアごとに統合したロジスティックス拠点を建設し、支店は販売促進に主力をおいた。これにより、注文の充足率向上とクイックリスポンス化を推進し、注文から配達までの時間の短縮等、地域の読者や書店へのサービス向上が実現しつつある。
(3)広域的な連携による水資源開発
 平成6年の全国的な渇水、平成7年末から平成8年にかけての冬期渇水など渇水は頻発していることから、水資源の確保は緊急的な課題であるが、流域を越えた河川と河川とを直結し、広域的に連携することにより効率的に水資源開発を行うことができる。
 例えば、霞ヶ浦導水事業では、利根川と那珂川を連結して河川間の流況を調整することにより、新規の水資源開発及び流水の正常な機能の維持を図ることとしている。また、小流域で流入量が少なく容量の大きいダムと大流域で流入量が多く容量の小さいダムを連絡水路で連結することにより、既存ダムを有効に活用して水資源開発を行うダム群連携事業を栃木県の鬼怒川上流や香川県の綾川などで実施している。

 このように、限られた資源、財源の中で、施設の稼働率、運営等の効果、効率を考えて連携する必要性を適切に検討していく必要があろう。この場合、先の住民意識の前提にもあるように、交通機関が整備され、近隣市町村に容易に行けることが必要である。
 また、地域の個性、特性を生かすとともに、周辺地域との連携の中で自分の地域を客観的に評価できる力を持つことが大切である。
 他方、現状では、連携を阻害するものとしては、市町村担当者からは「必要性に対する意識の欠如」、「ポテンシャル(資源・人材等)不足」、「交通・情報基盤整備の遅れ」が挙げられており、今後、これらの打破が必要である(図1−31)
 このような、それぞれの個性を活かして役割分担する都市群や地域を超えた多様な連携が、個々の持ち味を活かした地域の魅力、活力を高めることになろう。