第1 総説
地域毎に特性や課題が異なることから、すべての地域でフルセットで各種施設を整備することは非効率であり、質の高い生活の実現に結びつかないおそれ。
また、これ以上の県庁所在都市等への集中は、東京一極集中と同様の弊害を地域社会においても生じさせる。
今後は、特に中小都市においては、地域を超えた多様な連携を図り、各地域がその個性、資源を活かし、役割分担しつつ、活力を高める取組みが必要であることを示す。
【人口移動の変化】 ○人口の自然減となった県が、初めて出現。 ○大都市圏への人口流入の反転傾向と地方版の一極集中現象。 【地方都市の構造変化】 ○地方中枢・中核都市への人口・機能集中と地方中小都市の人口増加率の 二極分化(バラツキ)。 ○地域社会においても都市化の進展、生活パターンが大都市類似へ。 |
【国民ニーズの多様化、高度化】 ○地域、年齢、時代の変化とともに、社会サービスに対する要求水準など が多様化、高度化。例えば、道路・公園・下水道などの施設整備に対す る要望は小都市では大都市の2倍の割合。 |
【地域の魅力、個性を発揮するための条件】 ○人口減少社会に向けて、すべての地域で人口増加を求めることは無理。 すべての地域でフルセットで各種施設を整備することは非効率。また、 それだけの投資余力も見込めない。 ○地域の若者や地域外の住民が魅力と感じる都市機能と地方中小都市の持 つ機能のグレードとのギャップが一部存在する。 ○地域の個性が異なるように、社会資本整備の課題も異なる。 |
【多元的・多層型連携社会の構築の必要性】 ○それぞれの個性を活かして役割分担する都市群や都市と周辺地域の連携 などが地域の魅力、活力を高める。 ○平成4年に成立した地方拠点法に基づいて、地方拠点都市地域に85地 域が指定され、現在32地域でアクションプログラムが策定されており 地域の自立的成長の促進が図られている。 ○地域を超えた交流・連携の効果の例 サンドーム福井を中心とする集積は、武生市、鯖江市以外の圏域外との 新しい交流・連携を生み出している。 |
住宅ストックの戸数も足り、新規建設も戸数的には好調であるのに大都市圏を中心に住生活に対する不満が根強いのは質の低さのため。良好なストック形成がなされていないこと及び住み替え、既存住宅の流通・リフォーム市場の不十分さが課題。
今後、高齢社会に向けた住宅の長寿化と円滑な住宅流通の確保と併せ、住宅・宅地の広さ、質の向上だけにとどまらず、生活環境の充実の必要性を示す。
【経済状況の変化】 ○ここ数年の地価、家賃、建築費、金利等の急激な変化とその影響は大き い。特に1次取得者向けの分譲住宅の供給は活発。 【社会状況の変化】 ○単身世帯増、世帯分離の進行等により世帯数が増加傾向。急速な高齢化 と高齢者世帯の増加。また、第2次ベビーブーム世代が世帯構成期に入 ってくる。 【住宅、住生活に対する意識の変化】 ○住宅、住環境に対する要望は、当然ながら時代や地域によって異なる。 借家では不満率が高い。住宅選択の際にも、単に広いとか住居費が低い ことだけを求めているわけではない。 |
【最近の住宅・宅地の新規供給の課題】 ○最近の新規供給は、床面積、敷地面積でみても、地価・建築費・金利の 低下といった状況変化が生かされていない懸念。 ○1次取得者層については、バブル期の厳しい状況が緩和されたが、現状 では2次取得者層には厳しい状況。しかし、長期的には建設コスト等の 低下は、良質な新規住宅の供給及び取得を促す効果が期待できる。 |
【住宅金融の役割と今後の課題】 ○住宅金融公庫などによる公的融資は、国民の住宅取得を支援し、住宅の 質、居住水準の向上を誘導すると共に、景気対策などに寄与してきた。 今後は、住宅の質向上といった政策誘導機能の強化に重点を置く方向。 |
【良好なストック形成、活用への課題】 ○成熟社会になる前に(又は豊かな成熟社会となるために)は、住宅スト ックの充実及び活用が必要。 ○一般的には、住み替えにより居住水準の向上効果、住宅需給のミスマッ チの解消が期待できる。 ○英米と比べ、建て替えが頻繁で日本の住宅の寿命は短い。十分な既存住 宅流通量もない。従って住み替えも少ない。 ○リフォーム市場も未だ充実していない。 ○今後、適切な住み替えの前提となるストックの充実を基本とし、併せて 住み替えを円滑化する仕組みの整備が必要。 |
【ゆとりへの対応】 ○ゆとり実現に向けて、都心共同住宅供給事業等による都心居住施策、定 期借地権付住宅等による近郊居住施策を推進。 ○都市地域において住宅系用途に対する容積率の特例等の制度を活用。 |
【質の高さへの対応】 ○公庫融資による質の高い住宅建設へのインセンティブの付与等により、 高耐久性、高性能住宅の供給を促進。 ○宅地供給についても、資産価値だけで判断される時代は終わり、利用価 値で判断される時代へと向っていくことを基本として、公的主体による 先行的な基盤整備等、良質なものの供給の促進策を検討。 |
【社会の変化への対応】 ○急速な高齢化、少子化への対応として、長寿社会対応住宅設計指針の策 定、シルバーハウジング住宅、シニア住宅等の整備を促進。 ○多様性、ライフスタイルの変化への対応として、耐久性が高く、かつ、 間取りや仕様の可変性に富んだ“プラス・YOU”住宅等の普及を促進。 |
【コスト低減と品質の確保への対応】 ○住宅・宅地に係る規制緩和への取組みとして、住宅建設におけるコスト 低減を推進。平成12年までに建設コストを2/3程度に低減。 ○平成8年3月には、コスト低減に向け8年度に重点的に取り組む事項を 中心に建設、法務、厚生、通商産業の4省から、「住宅建設コスト低減 のための緊急重点計画」を発表。 ○コスト低減により生じる余力を質の高さに振り向け、良好なストックと すること、かつ、グレードは個人が選択できることが必要。 |
【構造改革を促すもの】 ○これまでの我が国はキャッチアップ型の経済・社会構造によって経済成 長を遂げたが、欧米という目標の消失、バブル経済の後遺症等により構 造改革が必要。この中で、公共事業の進め方、目標等について必ずしも 経済・社会構造の変化に対応しきれていないとの批判。 ○価値観の変化、都市化、都市型生活の定着といった生活の変化。 ○日本経済の産業の空洞化、サービス経済化等の変化。この中で、公共投 資の経済効果に対し様々な議論。 |
【環境重視】 ○国土建設は、洪水防御など、自然の脅威から人命等を守り、快適性を向 上させる等、人間活動の基盤としての環境づくりのプロセス。同時に事 業実施の過程で自然に手を加えることが不可避。 ○建設省は平成6年に策定した「環境政策大綱」に基づき、広い意味での 環境を内部目的化し、諸施策を実施。 |
【高齢化、少子化、健康】 ○高齢化、少子化が急速に進む中で、年齢、性別にかかわらず、人々がお 互いの立場や能力等を認め合いながら心を通わせ合うという共生社会を 創造する必要。 ○「ノーマライゼーション」の理念を実現するため、バリアフリーの生活 空間づくり、駅・病院等の周辺において、幅の広い歩道の整備、昇降装 置付き立体横断施設等を整備。 ○家庭や地域社会を取り巻く環境の変化やライフスタイルの変化が見られ る中で、健康、ふれあいといった関心に対応し、安全かつ気軽に散策等 を行える歩行者ネットワークとして、ウォーキング・トレイルを整備。 |
【文化、歴史】 ○これまでも、新たな文化を創出する都市整備、住宅・橋等の整備、地域 の歴史・文化の息吹を伝え新たな調和を生み出す歴史公園整備、史跡の 保存への配慮、伝統的街並みの保全・再生などを実施。 ○従来ややもすると、機能性や効率性を重視して進められてきた住宅・社 会資本整備の視点を、地域の歴史・文化の尊重や新たな文化の醸成・創 造へと転換することが必要。 |
【情報化対応】 ○高度な情報通信技術を、我々の生活の利便性を高めるように活用。 ○道路、河川などの全国的な情報網とともに、地域、都市における情報ネ ットワーク形成が重要。地域・都市内の下水道内光ファイバー網の有効 活用のため、下水道法を改正。 ○情報インフラとしてのGIS(地理情報システム)の標準化を促進し、 空間データ基盤(社会・統計データと統合可能な地図データ)を整備し、 防災、環境、まちづくり等の分野での活用を促進。 |
【国際化】 ○アジア太平洋地域におけるインフラ整備を行っていく上での共通の課題 について、相互の支援と連携により対処するため、「アジア太平洋地域 トップフォーラム」を開催(平成7年9月)。 ○東アジア各国の建設経済分野の調査・予測を専門とする研究機関同士の 情報交換・交流の場として、第一回アジアコンストラクト会議が開催さ れた。 |
【土地の有効利用】 ○地価の下落等の経済状況の変化の中で、良質な住宅・宅地の供給、良好 なまちづくりを進めるという観点などから、土地の有効利用を進める必 要。 ○都市計画道路、都市公園の事業計画の早期策定、遊休地の有効利用・早 期取得など、都市計画道路用地、都市公園用地の取得を促進。 ○都心の低未利用地活用のための土地区画整理事業、市街地再開発事業を 推進。 ○民間都市開発推進機構による土地取得を推進。 ○街並み誘導型地区計画制度の活用等の住宅・土地に係る規制緩和の推進。 ○都心地域におけるファミリー向け賃貸住宅を中心とした共同住宅の供給 と市街地の整備の一体的な推進。 |
【施策の連携、総合化】 ○事業間の連携の例 親水性のある緑豊かな水辺空間等を整備し、市民生活に身近な水域であ る都市内河川の水質浄化等を図るため、下水道・河川事業との連携によ り、水と緑のネットワークを整備。 ○他省庁との連携の例 ・地域の発展の核となる拠点の整備構想の推進のため、関係機関、特に通 産省の産業政策との連携により、21世紀活力圏創造事業を推進。 ・住宅建設コスト低減のための緊急重点計画を法務、厚生、通商産業の各 省と共同で策定。 |
経済・社会構造の変化に対応した社会資本整備の進め方についての変化の5つの側面をA,B,C,D,Eの5つの頭文字でまとめて整理してみた。
すなわち、@妥当な負担で(Affordable)、
A国際的に調和をとって(Borderless)、
B透明性、公平性を高め(Clear)、
C住民参加、情報公開などの手続を経て(Disclosure,Discussion)、
Dより効率的、重点的に(Effective, Efficient)、
という観点から、事業を推進している。
【妥当な負担で(Affordable)】 ○公共施設等の利用について、限られた資源・財源の中で誰がどのように 負担をするか(或いはしないのか)ということが改めて問われていると いう側面。 ○民間住宅で高い家賃を払っている真に住宅に困窮する者が的確に公営住 宅に入居できるようにするという観点から、公営住宅制度を見直し。 ○有料道路制度については、世代を超えた国民の共有財産であるという基 本的な視点に立って、経済・社会・生活等の変化に対応し、その整備方 法、負担のあり方について検討を実施。 |
【国際的に調和をとって(Borderless)】 ○歴史、風土等の条件下にある公共事業において、どのように国際基準と 整合性を取り、異なる制度が共存していけるのかという側面。 ○政府調達に係るWTO協定が発効し、公共工事、物品調達に係る一般競 争入札等を内容とする事項が、政府、政府関係機関、都道府県及び政令 指定市に適用され、協定加盟国から我が国建設市場への参入が容易に。 ○JISの国際規格(ISO等)への一層の整合化を促進するとともに、 品質システムの国際規格であるISO9000シリーズの公共工事への適用 について検討中。 |
【透明性、公平性を高め(Clear)】 ○国民や外国からみて、時間がかかっても、これまで以上に透明度が高く 分かりやすいこと、公平であることが求められているという側面。 ○一連の明確な基準による入札・契約制度の改革を引き続き実施中。 |
【住民参加、情報公開などの手続を経て(Disclosure, Discussion)】 ○地域に密着したきめ細かい行政、開かれた分かりやすい行政が求められ ているという側面。 ○荒川下流部を将来に向けどう管理していくかを描く荒川将来像計画を策 定するに際し、河川を管理する工事事務所と沿川2市7区の自治体が協 議会を設立。計画案等を一般公開し、流域住民の意見を反映。 ○大規模公共事業について、当初計画を策定する際に地域住民等の意見を 反映する事業実施システムの充実等を内容とする「大規模公共事業に関 する総合的な評価方策検討委員会報告」をとりまとめ。 ○住民が協力して魅力ある生活空間をつくることができる「建築協定」や 「緑地協定」を活用し、地方公共団体と住民による地域の実情に応じた 個性的なまちづくりを推進することが大切。 |
【より効率的、重点的に(Effective, Efficient)】 ○今後急速に高齢化が進み投資余力が減少することが見込まれる中で、限 られた資金、期間の下でこれまでにも増して効果的、効率的に事業を行 っていく必要があるという側面。 ○建設省関係の規制は、安全の確保、環境の保全や良好な街並みの形成等 を目的とするいわゆる社会的規制が中心。 しかしながら、これらの規制についても絶えず的確に見直しを行うこと が必要。建設省では、平成7年に策定された「規制緩和推進計画」を着 実に実施してきたが、平成8年3月には以下のような新たな項目を追加 し、さらなる規制緩和を推進。 @ 建築基準法の規制体系を、「仕様規定」中心の現行規定から「性能 規定」化すること A 外国の建築資材等の受け入れ、基準の相互認証を促進すること B 情報化の促進のためCATVに係る道路占用許可手続を簡素化する こと 等 ○国と地方の適切な役割と責任の分担の下で、事業を効果的に実施するた め、地方公共団体が主体となる地域づくりの計画策定、事業実施に対す る支援、国庫補助制度の統合・メニュー化等の簡素合理化、重点化を積 極的に推進。この場合、地域のニーズに応え、地域の主体性・自主性を 最大限尊重。 ○公共施設の整備についても、平成6年12月に策定された「公共事業の建 設費の縮減に関する行動計画」に基づき、質の確保と同時に、資材費の 低減、生産性の向上、技術開発を柱とした建設費の縮減を推進。 |
真に豊かな生活の実現の基本は安全・安心にあるが、昨年の阪神・淡路大震災等をきっかけとして、日常生活の中でも「安全・安心」に関する意識に変化。
また、「安全・安心」は人間の生命を守ることだけでなく、まちの活力、にぎわい、ひいては雇用を支える基礎となるものである。このような観点から、建設行政においては、「安全・安心」実現のためにソフト、ハード両面から対策を講じている。
○建設省としては、兵庫県・神戸市の復興10カ年計画等を踏まえつつ、 平成7年7月の阪神・淡路復興対策本部において定められた「阪神・淡 路地域の復興に向けての取組方針」に基づき、地元の要望を踏まえ、復 興に向けた事業を推進中。 ・被災者の居住の安定のための住宅対策 ・二次災害防止のための土砂災害対策 ・被災地域再生のための土地区画整理、都市再開発 ・防災性向上のための道路、公園等の公共施設整備 等 |
○今回の大震災の貴重な教訓の一つとして、初動期の情報収集体制の重要 性、総合的な防災情報ネットワークの整備の重要性、想定を超える災害 に対する施設整備のあり方の転換の必要性などを改めて認識。 ○国の防災基本計画の全面修正を受け、建設省の防災業務計画を修正し、 情報の迅速な収集及び伝達体制、初動期の迅速な対応体制、防災等に対 する研究、観測の推進などを位置づけ。 ○災害時の行政機関等の情報収集・伝達を強化するため、中央防災機関と 都道府県・公団等とを結ぶ通信回線の総合ネットワーク化、マイクロ回 線のデジタル化・2ルート化を図る。併せて、河川情報システム、道路 災害情報ネットワークシステムの強化・連携等により、総合的な災害情 報システムを構築。 ○防災に関するボランティア活動を位置づけ、被災した公共土木施設等の 情報収集、災害復旧等の査定事務について行政機関を支援する防災エキ スパート制度を創設。 ○一般国道229号豊浜トンネル崩落事故を契機とし、緊急点検、緊急対 策を進めている。また、大規模事故災害等が発生した場合の危機管理体 制の充実に向け検討中。 |
○平成7年4月に策定した「震災に強いまちづくり構想」に基づき、被害 を最小限にするまちづくり、災害弱者の安全の確保、地域特性に対応し、 生活、都市活動の広がりに応じた安全性の確保、ハード・ソフトの連携 による総合的な安全の確保、リダンダンシー(余裕)の確保へ向け施策 を実施。 ○都市基盤の整備水準が低く、地震、火災等に対し危険な木造密集市街地 等を解消し、防災性の高い市街地を形成するため、安全市街地形成土地 区画整理事業等を創設。 ○大都市部を中心に広がるゼロメートル地帯における堤防の耐震性の向上 と市街地整備、公園、街路等を組み合わせた総合的な事業(リバーサイ ドエリア緊急総合防災事業)を実施。 ○都市における土地利用、道路・下水道・河川管理等に関する空間情報デ ータを活用し、防災に役立てる観点からも、GISの標準化等による空 間データ基盤整備を促進。 |
平成8年白書INDEX