(1)国土基盤の形成とその成果 1)目的別にみた基盤整備の展開 図表I-2-2 事業目的別行政投資額の構成比の推移 図表I-2-3 住宅・社会資本整備の推移  戦後の国土交通行政は、戦災により荒廃した国土を復興することから始まった。しかし社会資本整備、住宅整備等いずれも昭和20年代後半以降に本格的な取組み体制が確立されるまでは、応急的・緊急的対応が中心であった。こうした中、30年前後の大規模な自然災害の発生を受けて国土保全のための社会資本整備が積極的に推進され、高度経済成長への基礎固めがなされた。  30年代以降の高度経済成長期における事業目的別投資額の構成比をみると、経済成長を支える道路、港湾等の産業基盤への投資が比較的高かったことがわかる。高度経済成長期においては、高速道路や新幹線の整備による交通ネットワークの充実、住宅の量的な充足等により国民生活の利便性は大幅に向上したが、一方で、公害、交通戦争などの新たな問題が発生し、社会資本整備に対し新たな課題を投げかけた。  48年の石油ショックの前後に我が国経済は大きな構造転換を迎え、安定成長の時代に入った。この時期は、高度経済成長により生じたひずみを修正する時期であり、国土交通行政の方向も、国民生活の量的充足から質的充足へと転換していった。行政投資の内容も、生活関連基盤に対するものが拡大し、国民生活の質の向上が図られた。  その後、いわゆるバブル経済の時期から今日にかけても、平成2年に閣議了解された公共投資基本計画において「生活環境・文化機能」への重点配分が目標とされるなど、国民生活の質の向上が重要な課題であったが、同時に地球環境問題、少子・高齢社会の到来、IT革命の展開など、新たな課題への対応の必要性も高まってきた。  このように、戦後の国土基盤の形成は、時代ごとの政策課題に応じてその整備の重点を移しつつ、分野別の長期計画などに基づきながら、計画的かつ着実に進展してきた。  その結果、各分野で以下のような成果があった。 (ア)安全分野  河川、砂防、海岸等の施設が長期計画等に基づき整備された結果、例えば氾濫防御率等の河川整備水準は着実に上昇している。その結果、災害による死者・行方不明者数は昭和30年代半ば以降大幅に減少しており、治水等の事業が人々の生命の確保に大きく貢献していることが分かる。一方、水害による被害額については、都市化が進展したことなどにより、依然大きな水準で推移している。 図表I-2-4 自然災害による死者・行方不明者数 図表I-2-5 水害被害額(実質)の推移(昭和36年〜平成12年) (イ)交通分野  道路、鉄道、空港、港湾等の交通基盤は、各種の長期計画等に基づいて着実に整備された。これらの整備水準の推移と各輸送機関の輸送量等の推移を比較すると、いずれも輸送量等の伸びが交通基盤整備の伸びを大きく上回っている。このことから、交通基盤への投資が産業の発展や国民の移動の円滑化に多大な貢献をしてきた様子が読み取れる。 図表I-2-6 各交通基盤の整備と輸送量等の関係 道路延長と道路交通量の推移(昭和40年度を100とする) 新幹線営業キロ数と新幹線輸送人員の推移(昭和39年度を100とする) コンテナバース岸壁延長とコンテナ貨物量の推移(昭和58年を100とする) 空港滑走路延長と旅客数の推移(昭和44年度を100とする) (ウ)生活関連分野  住宅、下水道、都市公園等の生活基盤についても、長期計画等の各種制度を活用して着実に整備した結果、一定の整備水準を達成しつつある。身の回りの社会資本について、昭和47年時点と平成10年時点での国民の評価を比較すると、いまだ不満の残るものの、特に住宅やレクリエーション施設等についてその水準は改善しており、生活環境が向上しつつある状況を読み取ることができる。 図表I-2-7 身の回りの社会資本の整備状況に対する評価(不満率)  このように、戦後復興期から高度経済成長期を経て、我が国の国土基盤は着実に整備され、安全、交通、生活等国民生活や産業基盤全般にわたりその利便性や質の向上に貢献してきたといえる。しかしながら、歴史的背景や社会経済情勢、地勢的、自然的差異のある諸外国と単純に比較することはできないものの、国際的にみていまだ整備水準が低い分野もあるため、今後ともさらなる整備を推進していく必要がある。  その際、近年の厳しい財政制約と投資余力の減少や既存ストックの維持・更新コストの増大などの経済社会をめぐる環境の変化や、情報化、バリアフリー化等新たなニーズにも対応する必要がある。また、社会資本整備の効率性の向上や透明性の向上に向けた取組みがこれまで以上に求められることとなる。  とりわけ、新規の整備は極力重点化するとともに、既存ストックを適正に維持・管理し、有効に活用していくことが大きな課題となっている。   図表I-2-8 住宅・社会資本の整備水準・目標、国際比較 2)地域別にみた基盤整備の展開  高度経済成長期は、都市化とそれに伴う都市への人口集中が著しく進んだ。行政投資額についても、大都市圏への投資比率が高水準で推移しており、都市化の進展に対応してきたことが分かる。都市への人口集中と行政投資の都市への重点化は、我が国の工業化と経済成長を進める原動力となったが、その一方で、大規模な人口移動による過疎・過密問題に象徴される国土形成・国土利用のひずみを生み出した。  これに対し、安定成長期においては、大都市圏への人口や産業の集中を抑制し、国土の均衡ある発展を目指した定住構想の下、行政投資額の構成比も、昭和45年頃から55年頃にかけて地方圏への比率が増大し、地方と都市との社会資本整備状況や所得の格差が縮小していった。  しかしながら、経済の国際化、サービス化等が進展する中で、50年代中頃から、再び地方圏からの人口流出が拡大し、東京圏への人口の一極集中傾向が現れた。また、バブル期においては、三大都市圏を中心とした異常な地価高騰による用地取得の困難さなどから、都市を中心に社会資本整備の遅れや深刻な住宅価格の高騰が引き起こされた。こうした中、大都市圏への行政投資の比率も再び拡大していった。  バブル崩壊後は、大都市圏への投資比率は減少し、県民所得格差も1991年以降、縮小してきている。  以上のように、大都市圏と地方圏への行政投資の絶対額の比率を長期的に概観すると、変動はあるものの、総じていえば大都市圏への投資が地方を上回って行われてきたといえる。しかし、我が国の都市は、第2節で述べるような高度経済成長のひずみともいうべき様々な問題を今なお多く抱えているとともに、第3節でみるような近年の経済社会の変化に起因する諸課題にも直面している。今後の国土基盤の形成においては、これらの課題に的確に対応し、我が国活力の源泉ともいえる都市の再生を図ることが緊急の課題となっている。  一方、地方においても、都市との所得格差などは縮まりつつあり、地域間格差は縮小傾向にあるものの、いまだ存在しており、その活力の向上は今なお重要な政策課題である。したがって、今後とも自立した地域の創意工夫と地域間連携を促進するなどの観点から地方の基盤整備を進め、社会資本の有する生産力効果を十分に発揮させながら、個性ある地域の発展を図ることが大きな課題となっている。 図表I-2-9 大都市圏・地方圏の行政投資額(構成比)の推移 図表I-2-10 人口の社会移動の推移