コラム・事例 人口転換理論  人口動態の変化は、経済社会の発展に伴い、多産多死から多産少死を経て、やがて少産少死に至る過程を示す。このような3段階からなる人口変動のパターンは、人口転換(demographic transition)理論と呼ばれている。  その第1段階は、出生率も死亡率も高水準にある低発展段階である。伝統的農業社会では死亡率が高く、また飢饉、疫病、戦争等のために人口の動向は不安定である。この状態で農業社会を支えていくためには、大家族を必要とし高い出生率が維持される。また、宗教や社会制度などによって高出生率が維持されることもある。その結果、近代化前の社会では、変動する高死亡率と普遍的な高水準の出生率により、人口増加の変動は大きいものの、平均的には人口増加率は低い状態にある。  第2段階は、出生率は依然として高水準にあるが死亡率が急速に低下する段階である。都市化・工業化が進展し、さらに公衆衛生及び医療水準も発展することによって、高い死亡率が徐々に低下を始める。しかし、出生率は、死亡率と違って、外的変化によって直ちに反応するメカニズムを持っていないため、高水準のまま維持され、死亡率低下に伴って、それまで経験したことのない人口増加がもたらされる。  第3段階に入ると、出生率も死亡率を追随して急速に低下し、出生率、死亡率とも低水準に達して安定化する。出生率が低下する理由として、乳幼児死亡率の低下により出生数を減らしても家族・社会の存続が可能となること、子供の養育コストの増大、女性の自立化などが挙げられる。  日本では、明治維新以前が多産多死、明治から昭和30年代半ばまでが多産少死、昭和30年代半ば以降が少産少死の段階であると考えられている。 人口転換モデル