第II部 国土交通行政の動向 

3.建設産業の再生

(1)建設産業の再編とセーフティネットの確立の促進

 我が国の建設産業は、国内総生産の約10.8%に相当する約54兆円の建設投資を担うとともに、全産業就業人口の約10%を占める604万人の就業者を擁する我が国の基幹産業である。
 建設産業は建設投資の低迷、建設業者数と建設投資のバランスの崩壊など市場の大きな構造変化の中で、厳しい経営環境に直面している。
 建設投資を見ると、平成15年度の見通しは約54.0兆円で、建設投資のピークであった4年度(約84.0兆円)と比べると35.7%減少している。これらのうち政府投資は、景気対策による事業費追加もあって、4年度に32.3兆円、12年度は30.0兆円と横這いないし微減にとどまっていたが、14年度は25.0兆円、15年度は22.9兆円と大きく減少することが見込まれている。
 一方、建設業者数を見ると、平成15年3月末は552,210社で、4年3月末(530,655社)と比べると4.1%増加している。

 
図表II-6-6-8 建設投資(名目値)、許可業者数および就業者数の推移

平成15年の建設投資見通しの名目値は、民間投資額が前年より0.5兆円減少し、31.1兆円、政府投資額は前年より2.1兆円減少し、22.9兆円となった。また、平成14年度末の許可業者数は55万2千社、平成15年平均の就業者数は604万人となり、許可業者数は3年連続、就業者数は6年連続の減少となった。
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 こうした過剰供給構造の中、建設産業の利益率は大きく低下しており、平成14年度の営業利益率、経常利益率はともに1.3%で、ともに4年度(3.8%、3.2%)の半分となっており、また、全産業の平均(2.4%、2.3%)を下回っている。また、15年の倒産件数を見ると5,067件で、4年(2,845件)と比べると1,78倍となっている。
 このように、建設投資の減少が続く中、建設産業は今後とも厳しい状況が続くものと考えられる。

 
図表II-6-6-9 建設業者の倒産件数と負債総額の推移

平成15年の建設業者倒産件数は、前年より796件減少し5,067件、負債総額は8,258億円減少し、1兆6,255億円となった。
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 こうした中、政府は、金融機関の不良債権処理の加速化に併せ、産業・金融一体となった対応を進めるべく、「改革加速のための総合対策」に基づき設置された「産業再生・雇用対策戦略本部」において、平成14年12月末に「企業・産業再生に関する基本指針」を策定したほか、15年4月には産業活力再生特別措置法の改正が行われ、個別企業ごとの再生を担う産業再生機構を設立した。
 建設産業の再生は、基本的には市場を通じて行われるべきものであるが、国土交通省においては、市場原理の徹底による淘汰の促進を図りつつ、各企業の経営基盤強化に向けた組織再編が的確に行われるよう環境整備を推進してきたところである。「企業・産業再生に関する基本指針」を踏まえ、全国展開する大手・準大手ゼネコン等を対象に、「建設業の再生に向けた基本指針」を平成14年12月に策定し、企業の事業再生に対する支援は、安易な企業救済とならないよう事業基盤と財務基盤から再生可能な企業について、過剰供給構造の是正に資するように実施するとの基本的な方向性を提示した。
 基本指針策定後、大手ゼネコン等においては、過剰債務を抱えた企業が法的整理へ移行するなど淘汰が進む一方で、合併や持株会社の設立による経営統合、会社分割による不採算事業の分離や他社への資本参加など、各企業の生き残りをかけた再編の動きが進行している。
 また、公共投資が減少する中で、比較的公共事業への依存度の高い地方の中小・中堅建設業も、再編・淘汰が避けられない状況となっている。
 建設産業は、個々の工事ごとに、必要となる技術力や施行能力に応じて元請業者と下請業者が重層的・多段階に組み合わせを変える生産システムとなっており、元請・下請、専門工事業者などそれぞれの間で構成されるネットワークとして機能するものである。
 深刻な過剰供給構造にある中小・中堅建設業の現状を放置した場合には、良質な建設生産物を効率的に供給するという産業としての基本的な機能すら十分に果たせなくなるおそれがあり、技術と経営に優れた企業が生き残り、伸びていくことができる環境整備が必要である。
 こうした考えのもと、国土交通省においては、「公共工事の入札及び契約の適性化の促進に関する法律」(入札契約適正化法)の徹底等を通じた不良・不適格業者の排除の徹底を図るとともに、1)コスト管理の徹底や分業・外注の徹底による経営の効率化、資機材調達・配送や積算・設計の協業化など企業間連携の促進2)これまで培った技術・ノウハウを活かした、環境・福祉・都市再生等への事業転換等の促進、など経営革新を推進している。
 また、こうした再編・再生促進施策とあわせて、中小・中堅建設業の資金繰り悪化の防止等を図るとともに、今後成長が期待されるリフォーム等の新分野への進出や労働移動の円滑化の促進について、厚生労働省、建設業団体と建設業雇用問題協議会等を通じて連携し、セーフティネット(安全網)の確立に向けて取り組んでいる。

 
図表II-6-6-10 中小・中堅建設業による事業転換の事例

中小・中堅建設業による事業転換の例としては、ヘリコプター撮影による動画を連続静止画にする画像処理技術の実用化や、住宅介護サービス会社の設立、構造改革特区を活用した農業への参入など、様々な分野に進出している。

 

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