第I部 安全・安心社会の確立に向けた国土交通行政の展開 

第7節 有害物質の使用に伴う課題

 これまで様々な産業活動や日常生活の中で数万種に上ると言われる多種多様な化学物質や天然鉱物等が使用され、生活に利便を提供してきた。しかし、これらの物質の中には利便性が高い反面、人体や環境に悪影響を及ぼす危険性を有するものもある。実際に、1960年代から1970年代の高度経済成長期においては、経済活動において使用・排出されていた水銀やカドミウム等の有害化学物質によって四大公害を始めとする公害問題が発生し、国民の健康や生活環境に多大な害を及ぼした。また、1970年代から1980年代には、冷媒等として長期間使用されてきたフロン類によるオゾン層の破壊が確認され、有害な紫外線の増加による人の健康や生態系への影響が懸念された。こうした事例は、有害物質による悪影響が顕在化した事例といえ、関係化学物質の使用禁止等により社会全体で対策を講じてきた。
 しかし、アスベストのように、各時点においてその当時の科学的知見に基づき対応を行ってきたが、完全な科学的確実性が無くても深刻な被害をもたらすおそれがある場合には対策を遅らせてはならないという、国際的にも認知されている「予防的アプローチ」の考え方が浸透していなかったため、これに基づく対応が講じられなかった事例が見受けられる。

 アスベスト問題等有害物質による人の健康や地球環境への悪影響を未然に防止するためには、環境リスクについての評価を行い、適切な環境リスク対策を行う必要がある。また、経済協力開発機構(OECD)、世界保健機構(WHO)、国連環境計画(UNEP)等の国際機関の活動に日本も積極的に参加することが求められている。

 

テキスト形式のファイルはこちら

前の項目に戻る     次の項目に進む