1 災害に強い安全な国土づくり (1)地震対策 1)住宅・建築物の耐震・安全性の向上  阪神・淡路大震災や平成16年新潟県中越地震においては、建築物に多数の被害が生じ、特に昭和56年以前に建築された現行の耐震基準を満たさない建築物の被害が顕著に見られた。近年福岡県西方沖を震源とする地震等の大規模地震が頻発しており、大規模地震はいつどこで発生してもおかしくない状況にあるとの認識が広まっている。そこで、「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」に基づき、補助制度の拡充等により耐震診断・改修を促進している。  平成17年3月の中央防災会議において、今後10年間で地震による死者数を半減させることを目標とする「地震防災戦略」が決定され、同年6月の「住宅・建築物の地震防災推進会議」において、現在の住宅や特定建築物の耐震化率75%を少なくとも90%とすることが必要であるなどの提言が取りまとめられた。これを受けて、同年10月には、「耐震改修促進法」を一部改正し、計画的な耐震化の推進、建築物に対する指導等の強化、支援措置の拡充等を図っている。  また、平成18年度税制改正において、住宅及び事業用建築物に係る耐震改修促進税制を創設することとしている。 2)密集市街地の緊急整備  防災・居住環境上の課題を抱えている密集市街地の早急な整備改善が喫緊の課題となっている。都市再生プロジェクト第三次決定においては、「地震時等において大規模な火災の可能性があり重点的に改善すべき密集市街地(重点密集市街地)」(東京・大阪各約2,300ha(「図表I-2-3-3『地震時等において大規模な火災の可能性があり重点的に改善すべき密集市街地』の分布状況(東京都、大阪府)」を参照)、全国約8,000ha)を対象に重点整備し、今後10年間で最低限の安全性を確保することとされている。また、第八期住宅建設五箇年計画においても、「緊急に改善すべき密集住宅市街地等の整備を強力に進める」旨位置付けられている。  国土交通省では、社会資本整備重点計画において、平成19年度までに重点密集市街地のうち3割について最低限の安全性を確保することを、重点目標の一つとして位置付け、1)幹線道路沿道建築物の不燃化による延焼遮断機能と避難路機能が一体となった都市の骨格防災軸(防災環境軸)や避難地となる防災公園の整備、2)防災街区整備事業、住宅市街地総合整備事業等による老朽建築物の除却と合わせた耐火建築物等への共同建替え等による、密集市街地の防災性の向上と居住環境の整備を推進している。 図表II-6-1-2 防災環境軸 図表II-6-1-3 密集市街地に関する事業 3)オープンスペースの確保  都市の防災機能の向上により安全・安心な都市づくりを図るため、地震災害時の復旧・復興拠点や生活物資等の輸送中継基地等となる広域防災拠点、周辺地区からの避難者の収容や市街地火災等から避難者の生命を保護する広域避難地、地域周辺の集結場所や消防救護活動の拠点等として機能する一次避難地となる防災公園等の整備を推進している。  また、大都市圏等において、先行取得した防災公園予定地に防災施設を機動的に整備する防災緑地緊急整備事業をさやか公園(大阪府)等4地域で実施するとともに、防災公園と周辺市街地の整備改善を一体的に実施する防災公園街区整備事業を鳳公園(千葉県)等11地域で実施している。 4)総合的な耐震安全性を確保した防災拠点施設の整備の推進  「官庁施設の総合耐震計画基準」等に基づき、総合的な耐震安全性を確保した防災拠点となる官庁施設の新営及び既存施設の耐震改修を推進しており、特に政府の防災拠点の中枢機能を担う施設について重点的に取り組んでいる。平成17年度は経済産業省別館(霞が関地区)の耐震対策に着手した。 5)構造物の耐震性向上 (ア)河川事業における耐震対策  河川堤防耐震点検マニュアル等に基づき点検を行い、河川堤防等が被災した場合に浸水被害が生じないよう、平成16年度は約8kmの耐震対策を実施した。 (イ)道路事業における耐震対策  被災時の円滑な救急・救援活動、緊急物資の輸送・復旧活動に不可欠な緊急輸送道路を確保するため、緊急輸送道路の橋梁耐震補強3箇年プログラム(平成17〜19年度)に基づき、橋梁の耐震補強を実施している。また、新幹線や高速道路をまたぐ橋梁の落橋等による甚大な二次被害を防止するため、新幹線や高速道路をまたぐ橋梁耐震補強3箇年プログラム(平成17〜19年度)に基づき、橋梁の耐震補強を実施している。 (ウ)港湾事業における耐震対策  大規模災害時に、発災直後から復旧完了に至るまで、一定の幹線貨物輸送(国際コンテナ貨物、幹線フェリー等)を確保するとともに、臨海部防災拠点として避難者や緊急救援物資用の輸送拠点となる耐震強化岸壁(平成17年4月末現在147バース供用)や、緑地等のオープンスペースの整備を推進している。さらに、地域の実情に応じて、被災地にえい航し、救急・救援活動の拠点となる浮体式防災基地を東京湾、伊勢湾、大阪湾及び室蘭港に配備している。 図表II-6-1-4 港湾事業における耐震対策 (エ)空港事業における耐震対策  平成17年に東京国際空港(羽田)の誘導路の一部を耐震化したほか、大規模地震発生時の円滑な緊急救命活動、緊急物資輸送、航空ネットワーク維持等について対応方針を取りまとめた。 6)総合的な宅地防災対策の推進  平成16年新潟県中越地震を始め、近年の地震災害により宅地等の滑動崩落被害が数多く発生している。このため、有識者からなる「総合的な宅地防災対策に関する検討会」の報告(18年1月)を踏まえ、既存の造成地に係る「宅地ハザードマップ」の作成や耐震補強対策を促進することにより、宅地の安全性を確保する総合的宅地防災対策を推進することとし、併せて既に造成された宅地等の安全性確保を目的とする「宅地造成等規制法等の一部を改正する法律案」を第164回国会に提出した。 7)大規模地震に対応する土砂災害対策  東海、東南海・南海地震により土砂災害が発生する可能性のある箇所のうち、津波等からの避難路(注)を含む箇所について、平成20年度末をめどに整備することとしている。 8)被災建築物の応急危険度判定の実施  地震により被災した建築物の余震等による倒壊等から生じる二次災害を防止するため、被災後速やかに応急危険度判定を実施できるよう、業務マニュアルの整備や全国連絡訓練等により都道府県と協力して体制整備を図っている。平成16年新潟県中越地震では、36,143件について応急危険度判定を実施した。 (注)市町村地域防災計画上の避難路