第I部 地域の活力向上に資する国土交通行政の展開 

第3節 地域の活力を支える公共交通

(公共交通機関利用者の減少)
 公共交通は通勤、通学や買い物、高齢者の通院等における地域の足として、重要な役割を果たしている。しかしながら、特に地方圏において、自家用車の普及等により公共交通の輸送人員が減少している。
 三大都市圏(注1)と地方圏(注2)における鉄道(注3)の輸送人員を見ると、三大都市圏では堅調な推移を示しているものの、地方圏では、落ち込んでいる。また、バスの輸送人員は、三大都市圏、地方圏共に減少しているが、特に地方圏では、三大都市圏以上に落ち込みが激しい。
 
図表I-2-3-1 鉄道・バスの輸送人員の推移

鉄道の輸送人員について、昭和50年から平成15年までの推移をみると、三大都市圏は昭和50年から平成10年にかけて、輸送人員は約3割増加し、平成10年以降はほぼ横ばいで推移している。地方圏は昭和50年から60年にかけて、輸送人員は約1割5ぶ減少し、その後平成10年にかけて増加したものの、平成10年以降しだいに減少している。なお、昭和50年の輸送人員を100とした場合、平成15年は、三大都市圏が131であるのに対し、地方圏は87である。また、バスの輸送人員は、昭和50年の輸送人員を100とした場合、平成15年は、三大都市圏が62であるのに対し、地方圏は42である。
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 このような公共交通の利用者の減少は、地方圏を中心に、公共交通事業者の経営を圧迫しており、全国的に見ても鉄道路線の廃止が続いているほか、バス系統数も近年まで減少してきた。
 
図表I-2-3-2 平成12年以降の地方部の鉄道路線の廃止路線(予定も含む)

全国的に見ても鉄道路線の廃止が続いており、平成18年には北海道ちほく高原鉄道などが廃止された。
 
図表I-2-3-3 バスの系統数の推移

バスの系統数について、平成元年度から平成16年度までの推移をみると、平成元年度には45,000を超えていたが、平成12年頃まで減少しており、平成12年以降は41,000前後にて、ほぼ横ばいで推移している。
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(地方圏を中心とした自家用車の普及とその影響)
 公共交通利用者数の落ち込んでいる地方圏の各交通機関の輸送分担率の推移を見ると、昭和50年から平成15年までの間に、自動車の分担率が50%から84%にまで大きく増加しており、自家用車への依存が相当程度進んでいる。
 
図表I-2-3-4 地方圏における交通機関分担率の推移

地方圏の交通機関分担率について昭和50年から平成15年までの推移を見ると、自動車の分担率が昭和50年の50%から平成15年は84%と大きく増加し、バスの分担率は昭和50年の32%から平成15年は8%と大きく減少している。
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 こうした交通機関分担率の変化に歩調を合わせ、自家用車の普及が進んでいる。自家用車の保有状況を見ると、平成17年3月現在、1世帯当たりの自家用車保有台数は42道県において1台を超えている。また、平成7年時点との比較では、ほとんどの県で増加しており、とりわけ地方圏では、その増加幅が大きい。
 
図表I-2-3-5 都道府県別一世帯当たり自家用車保有台数の推移

平成17年の都道府県別一世帯当たり自家用車保有台数は、42道県にて1台を超えている。また、地方圏では三大都市圏よりも、その間の増加幅が大きい。
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 また、大規模商業施設や公共・公益施設については、前節で見たように、都市周辺部や郊外への立地が進んでいるが、このような動きがモータリゼーションの進展を加速させてきた面がある。
 内閣府の「小売店等に関する世論調査」によれば、買い物で自家用車を使用する割合は、規模の小さい都市や町村部で高くなっており、日常生活での自家用車依存が進んでいる状況がうかがわれる。
 
図表I-2-3-6 買い物での自家用車利用状況

平成9年と平成17年の買い物で自家用車を利用する割合について、東京にじゅうさん区、政令指定市、中都市、小都市、町村といずれの都市も増加しており、特に小都市、町村では80%を超えている。
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 一方、内閣府の「高齢者の日常生活に関する意識調査」によれば、外出の障害となる事項として「バスや電車等公共の交通機関が利用しにくい」を挙げる回答(複数回答)の割合は、都市規模が小さくなるほど高くなっており、こうした地域においては高齢者等の足の確保が大きな問題となっている。
 
図表I-2-3-7 外出時の障害(複数回答)

高齢者が外出時の障害としてあげているのは、道路に階段、段差、傾斜があったり歩道が狭いこと、バスや電車等公共の交通機関が利用しにくいことなどがあげられているが、公共の交通機関が利用しにくいと回答している割合は、都市規模が小さくなるほど高くなっており、大都市では6.7%であるのに対して、町村では12.8%に達している。
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(公共交通をめぐる新たな動き)
 公共交通を取り巻く状況は、特に地方圏において、輸送人員が減少する中で、厳しさを増している。その一方で、中心市街地へのアクセスを向上させ、まちなかのにぎわいを取り戻すこと等を目指し、地域の需要や実情に応じた新たな交通体系の整備に取り組んでいる地域も見られる。
 鉄道に関しては、自家用車の普及等に伴い、利用者数の減少が進行していた既存の路線に対し、次世代型路面電車システム(LRT)を導入し、高頻度の運行を行うこと等でサービスの向上を図っている地域もあり、利用者数の増加や沿線地域の活性化といった成果が上がっている。
 
LRTの例(富山ライトレール)


 また、バスに関しては、地域の多様な主体による支援等により日本型BRT(注4)の整備が行われた事例があり、混雑緩和やバスの定時性・速達性の確保が実現し、利用者利便の向上がもたらされている。
 
日本型BRTの例(神奈川県藤沢市「ツインライナー」)


 こうした取組みに加え、地方公共団体、地元関係者等が中心となって、交通空白地帯の解消や市街地の活性化等を目的とした、新たな輸送を行う動きも広がっており、コミュニティバス(注5)については、全国の市町村の約4割で導入されている。
 
コミュニティバスの例(東京都武蔵野市「ムーバス」)

 
プティバスの例(乗合タクシー(福島県南相馬市))


 また、本格的な高齢化社会の到来を迎え、スペシャルトランスポートサービス(STS)(注6)の需要も増大しており、福祉タクシー(注7)を始めとする既存の交通事業者による運送に加え、NPO等による福祉有償運送も見られるようになっている。
 
福祉タクシーの例


 さらに、公共交通の利便性を高め、活性化・再生を実現するため、一つの車両で鉄道や自動車といった複数のモードについて一貫輸送を行う新しい輸送サービスも研究されており、一部の地域で実用化に向けた取組みも行われている。

(地域の活力向上のための公共交通)
 地域の公共交通は、地域住民の自立した生活を支えるとともに、活力ある都市活動の実現、観光を始めとする地域間の交流の促進、環境負荷の低減等を通じ、それぞれの地域における暮らしの質を確保し充実させる大きな役割を果たしてきている。公共交通は、いわば地域の経済社会活動の基盤であり、その活性化・再生により人々の円滑な移動を確保することは、地域の活力を向上させるための重要課題となっている。
 とりわけ、今後、少子高齢化社会を迎える中で、前節で見たように、自家用車に依存する拡散した市街地からコンパクトなまちづくりへの転換が求められており、その実現のためには、市街地の集約等の取組みと合わせて、市街地へのアクセスを向上させることが必要なことから、公共交通の活性化・再生は急務となっている。
 また、自家用車に大きく依存している中山間地を始めとする地域においても、高齢者等の移動制約者の移動手段を確保するため、運転の容易な車両の開発や走行環境の整備等に取り組むとともに、コミュニティバスやNPOによる福祉有償輸送等の新たな手段を活用していくことが必要となっている。
 実際に、前述のとおり、地域が一丸となって、従来とは違う新たな形態で、地域の実情に応じた輸送サービスが行われている事例も見られ、こうした地域公共交通の新たな芽を育て、普及させていくことが必要である。
 その際、鉄道、バスといった個別輸送モードごとにではなく地域総合的に、また、ハードとソフトの両面から、交通事業者だけでなく、地方公共団体を中心に、交通事業者、公安委員会、道路管理者、NPO、地域の住民等が一丸となって、真に地域が求める公共交通について検討し、着実に取り組んでいくことが求められる。


(注1)本節においては、東京圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)、大阪圏(京都府、大阪府、兵庫県、奈良県)及び中京圏(愛知県、岐阜県)
(注2)三大都市圏以外の道県
(注3)本節においては、軌道を含む。
(注4)BRT:バスの定時性、速達性の確保のため、輸送力を向上させた高度なバスサービス
(注5)地域住民の多様なニーズにきめ細かに対応する地域密着型バス
(注6)単独では公共交通機関を利用することが困難な移動制約者に、ドア・トゥ・ドアの移動を提供する輸送サービス
(注7)車いすや寝台(ストレッチャー)のまま乗降できるリフト等を備えた専用のタクシー車両

 

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