第3節 地域の将来展望  前節で見たとおり我が国の人口は既に減少局面を迎えているが、今後、さらに人口減少・高齢化が進行していくことが見込まれており、このことは地域に大きな影響を及ぼしていく。また、急速な経済成長を遂げてきている東アジア地域の存在は、経済のグローバル化が進む中で、地域経済のあり方を考える上で重要性を増してきている。 (将来における我が国の人口動向)  我が国の総人口は、2004年(平成16年)12月の1億2,784万人でピークを迎えたとされている(注1)。今後の人口の推移については、国立社会保障・人口問題研究所の推計(注2)によると、2046年(平成58年)には1億人を割って9,938万人となり、2055年(平成67年)には8,993万人になると見込まれている。  年齢層別に見ると、生産年齢(15〜64歳)人口は、2005年(平成17年)の国勢調査では8,409万人であったが、2012年(平成24年)には8,000万人を割り、2055年(平成67年)には4,595万人にまで減少する。その一方で、老年(65歳以上)人口は、2005年(平成17年)には2,567万人であったが、団塊の世代がこの年齢に達する2012年(平成24年)から2014年(平成26年)にかけては毎年100万人以上ずつ増加して3,293万人に達し、第二次ベビーブーム世代が老年人口に入った後の2042年(平成54年)の3,863万人でピークに達し、その後は減少を始める。老年人口の割合で見ると、2013年(平成25年)には25.2%で4人に1人、2035年(平成47年)には33.7%で3人に1人を上回り、2055年(平成67年)の40.5%まで上昇を続ける。 図表I-1-3-1 我が国の将来人口推計  このような我が国の人口減少や急速な高齢化の進行は、他の主要先進諸国では例を見ないものである。  既に2004年(平成16年)に総人口のピークを迎えた我が国に続き、ドイツやイタリアでは2010年(平成22年)頃を境に人口減少過程に入ることが予測されているが、その減少のペースは日本より緩やかである。また、2035年(平成47年)頃から人口減少に転じると予測されているフランスでも、2050年(平成62年)の人口は2005年(平成17年)より高い水準を保っており、さらに、英国、米国においては今後とも人口の増加が続くものと見込まれている。なお、東アジア地域の例として韓国について見ると、2025年(平成37年)頃に人口のピークを迎えた後、日本と同じく人口減少過程に入ることが予測されている。 図表I-1-3-2 人口の推移の国際比較  また、老年人口割合について見ると、我が国は2005年(平成17年)に既に20%を超える高い水準にある。2005年(平成17年)から2025年(平成37年)までの20年間における老年人口割合の増加の幅を見ても、イタリアで6.4ポイント、最も低い英国では3.8ポイントにとどまるが、日本は20.1%から30.5%へ10.4ポイントも上昇することが予測されており、日本の高齢化は、その水準が高いだけではなく、進行のスピードも極めて速いものであることが分かる。なお、2005年(平成17年)には老年人口割合が9.4%と低い韓国では、2025年(平成37年)までの20年間に老年人口割合が10.2ポイント増加することが予測されており、その後も急ピッチで上昇を続けることが見込まれている。 図表I-1-3-3 65歳以上人口割合の推移の国際比較  このような我が国における将来の人口動向について地域ごとに見てみると、その状況は大きく異なる。  経済産業省の地域経済研究会の試算(平成17年)によると、2000年(平成12年)からの30年間で、東京都市雇用圏(注3)においては人口の微増が予測されるものの、その他すべての都市雇用圏では人口の減少が見込まれており、人口規模の小さな都市雇用圏ほど減少割合は大きいとされている。また、人口微増が予測される東京都市雇用圏でも高齢化が進み、就業者数は大きく減少するものと見られている。 図表I-1-3-4 各都市雇用圏の推計人口 (成長する東アジア地域)  我が国にとって、急速な経済成長を遂げてきている東アジア地域の存在は、前節で見たとおり我が国における産業立地の動向に影響を及ぼしているばかりでなく、グローバル化が進展する中で、経済全体にとって極めて重要なものとなっており、人口動向と並んで、地域の将来を考える上で重要な要素となっている。  東アジア地域(注4)は、これまで高い成長を維持してきており、1980年(昭和55年)には名目GDPのシェアが、世界全体の5.7%であったものが、2005年(平成17年)には10.0%を占めるに至っている。 図表I-1-3-5 各国・地域の名目GDPとシェアの推移  このような高い経済成長を背景に、我が国と東アジア地域との経済関係は拡大を続けている。貿易額で見ると、日本の東アジア地域への輸出額は、2005年(平成17年)には31兆1,009億円となっており、1980年(昭和55年)の4倍強に達し、日本の輸出額全体に占める東アジア地域のシェアも47.4%を占めている(1980年には26.1%)。また、日本の東アジア地域からの輸入額は24兆8,517億円となっており、1980年(昭和55年)の3倍強に達し、日本の輸入額全体に占める東アジア地域のシェアも43.6%を占めている(1980年には24.8%)。このように、輸出、輸入ともに大幅に拡大しているのは、近年、我が国の産業の生産拠点、流通拠点、販売拠点等が東アジア地域に進出しており、我が国とこれら海外の拠点との間で、我が国国内で主要な部品等を生産し、東アジア地域で最終製品にして、我が国や欧米で販売するというように、水平分業が進展していることによるものである。 図表I-1-3-6 日本の輸出入額(方面別)の推移  「2007年東アジアの経済見通し」(アジア経済研究所)によると、東アジア(注5)の経済成長率は、2006年(平成18年)には7.9%、2007年(平成19年)には7.4%と、依然好調に成長を続けると予測されており、人的・経済的な交流・連携を通じて成長する東アジア地域の成長と活力を地域に取り込んでいくことが、今後の我が国の地域の自立的発展にとって重要になると考えられる。 (社会・経済構造の変化)  以上のように、我が国は、人口減少・高齢化の進展という人口構造の変化や、経済のグローバル化が進展する中での東アジア地域の急速な経済成長という国際的な経済環境の変化に直面しており、これらは、地域のあり方に大きな影響を及ぼすものである。  このような中にあって、地域の活力をいかにして維持・向上させていくかということは、国土交通行政にとって重要な課題である。次章では、こうした問題意識に基づき、社会・経済構造の変化に伴い地域において生じている国土交通行政に関わる課題について整理し、分析を行う。 (注1)平成12年及び17年国勢調査の結果による推計人口の補間補正(平成18年12月総務省統計局) (注2)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成18年12月推計)出生中位(死亡中位)」 (注3)中心市と、中心市へ就業者数の10%が通勤する周辺市町村を合わせた圏域。推計は全国269の都市雇用圏データを用いて行われている。 (注4)特記しない限り、中国、韓国、台湾、香港、ASEAN各国(インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア、ブルネイ、ベトナム、ミャンマー、ラオス、カンボジア)を指す。 (注5)ここでは、中国、韓国、台湾、香港、シンガポール、インドネシア、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナムの10国・地域