第5節 危機管理・安全保障対策 

3 海上保安体制の強化

(1)業務体制の充実強化
 老朽・旧式化が進んだ巡視船艇・航空機を緊急かつ計画的に代替整備し、併せて高性能化を図るとともに、しょう戒等により得た情報を一元的に集約し分析・評価等を行うシステムの構築等を進め、巡視勢力の効率的・機動的な運用を図ることとしている。また、沿岸部の365日24時間即応体制を確保するため、「空き巡視艇ゼロ」を目指して、平成19年度に導入した34部署に加え、20年度は全国29部署に複数クルー制を導入した。

(2)テロ対策の推進
 テロの未然防止措置として、臨海部の米軍施設、原子力発電所、石油備蓄基地等の重点警備対象施設に対する巡視船艇・航空機による所要の警備を行っている。特に原子力発電所の警備においては、関係事業者、警察等との情報交換や共同訓練等を実施している。また、国内の主要航路を航行する旅客船等への海上保安官による警乗等を実施するとともに、海賊対策のため東南アジア周辺海域に派遣している巡視船・航空機によりテロにも備えたしょう戒を実施し、我が国関係船舶の安全確保を図っている。さらに、高性能化により対応能力の強化を図った巡視船艇・航空機の整備を推進するとともに、関係機関との連携を強化し、海上テロ対策に取り組んでいる。

(3)不審船・工作船対策の推進
 不審船・工作船は、我が国領域内における重大凶悪な犯罪に関与している疑いがあり、その目的や活動内容を明らかにするためには、確実に不審船を停船させて立入検査を実施し、犯罪がある場合の犯人逮捕等適切な犯罪捜査を行う必要がある。このため、不審船・工作船への対応は、関係省庁と連携しつつ、警察機関である海上保安庁が第一に対処することとなっている。
 海上保安庁では、これまでの不審船・工作船事案を踏まえ、立入検査を目的として不審船を停止させる際に行う射撃について、人に危害を与えたとしても違法性が阻却されるよう「海上保安庁法」を改正し、巡視船艇・航空機の防弾化や武器の整備、高速・高機能の巡視船の整備を図っている。また、防衛省との共同対処マニュアルに基づき、早期の情報共有や、不審船対処に係る自衛隊との共同訓練を実施している。

(4)海上犯罪対策の推進
 最近の海上犯罪の特色として、薬物・銃器事犯の増加、潜水器を使用して地元漁業者が保護・育成してきた魚介類を根こそぎ捕獲するもの等、悪質・巧妙化の一途をたどる密漁事犯の増加、臨海工場からの汚水の不法排出等の海上環境事犯の増加、小型船舶の無検査航行等の海事関係法令違反の増加が挙げられる。このように、海上における各種犯罪の発生は依然予断を許さない状況にあることから、海上保安庁では、巡視船艇・航空機等現有勢力の効率的かつ効果的な運用、関係機関との緊密な連携等により監視取締りの強化を図っている。また、国内における薬物・銃器犯罪、来日外国人による凶悪犯罪の多くは、国際犯罪組織が関与する密輸・密航事犯に端を発していると考えられるため、これらの事犯を水際で阻止すべく、犯罪情報の収集・分析、監視取締りの強化等により、摘発水準の向上を図るとともに、警察、税関等の国内関係機関や中国、フィリピン、ロシア等の国外関係機関との情報交換等、効果的な密輸・密航対策を講じている。

 

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