1 「地域に住まう」に関する居住者ニーズ等の把握 (生活全体の中での「住まう」の位置づけ)  人の全体の生活の中で「住まう」についてみると、国民生活に関する世論調査によれば、「住生活」について満足とする者は75.3%であり、「食生活」(79.5%)とともに、生活の他の面(「所得・収入」、「資産・貯蓄」、「レジャー・余暇生活」等)よりも高くなっている。また、時系列でみると上昇傾向にあり、全体として住環境の改善が進んでいることがわかる。 図表I-1-1-1 現在の生活の各面での満足  しかし一方で、常に4分の1程度の人は不満と答えている。また、満足とする人の割合は、住む場所(大都市72.3%、町村78.0%)や世代(20歳代83.1%、40歳代69.5%、60歳代77.4%)、さらに持家か賃貸か(持家79.9%、賃貸住宅55.7%)などによって異なる。 (「住まう」を取り巻く環境)  意識調査では、「住まう」を支える様々な要素について、「重要度が高いか」と「満足しているか」の2つの視点から、人の認識を尋ねた。  重要度(「重要度が高い」と答えた人の割合)については、まずは自分の生活の器である「住宅」の状況とともに、「自然の豊かさや環境保全」、「まちなみや景観の整備」といった器を取り巻く基礎的な環境や、「治安のよさや防犯対策」、「自然災害等に対する防災体制」といった安全・安心に関することが高くなっている。また、「日常の買い物の利便性」、「病院や診療所などの施設や医療サービス」など日々の生活に必要な事項、さらにそれを結ぶ「公共交通の利便性」、「生活道路や幹線道路の整備」、「歩行空間や自転車空間の整備」も高い。 図表I-1-1-2 「住まう」を取り巻く各環境要素に対する重要度  一方で満足度については、大部分の事項で、満足と答えた人が5割を下回った。前述の世論調査では住生活の満足度は高かったが、個別の要素について意識調査で尋ねると、未だ十分な状況とはいえないことがうかがえる。重要度が高かった事項では、特に、「自然災害等に対する防災体制」や「歩行空間や自転車空間の整備」に関する満足度が低くなっている。 図表I-1-1-3 「住まう」を取り巻く各環境要素に対する満足度 (都市の規模別にみた重要度と満足度)  いくつかの事項について、都市の規模別に重要度と満足度をみると、多くは都市部と地方部で重要度に同じ傾向がある一方で、満足度は、地域によって各事項の充実度合の差を反映して異なっている状況が浮かび上がる。  「自然の豊かさや環境保全」は、都市の規模を問わず重要度が高いが、現状に対する満足度は地方部ほど高い。他方、「まちなみや景観の整備」は、都市の規模による大きな差異はない。「自然災害等に対する防災体制」や「治安のよさや防犯体制」は、都市の規模によらず重要度が高いが、満足度は特に前者が全体的に低くなっている。「日常の買い物の利便性」や「病院や診療所などの施設や医療サービス」など日々の生活に関するサービスについては、都市の規模によらず重要度は高い一方で、満足度は地方部で大幅に低くなる。「ショッピングを楽しめるような多様な商店等の集積」といったプラスアルファ的な面についても、重要度にはあまり差はないが、満足度は都市部と地方部で差が生じている。 図表I-1-1-4 都市の規模別にみた重要度と満足度の分布 (高齢者や子育て世帯からみた重要度と満足度)  個人の年齢や子育て中であるかどうかなど、おかれた状況によって、何を重要と考えるかは異なる(注)。  急速に高齢化が進む中で、何を重要と考えるか高齢者の視点からみると、「病院や診療所などの施設や医療サービス」、「地域のバリアフリー」、「介護・福祉のための施設やサービス」など、高齢化に伴い必要となる事項が高くなっている。また、「自然災害等に対する防災体制」、「治安のよさや防犯体制」など、安全・安心に関する事項についても、他の世代よりも一段高くなっており関心は強い。  さらに、生活行動の変化(自宅近くの身近なところで過ごす時間が多くなること、第1章第2節参照)を反映して、住環境の中で「自然の豊かさや環境保全」、「日常の買い物の利便性」、「公園や水辺・親水空間の整備」、「公共交通の利便性」さらに「地域の人々のつながりや地域のコミュニティ」等を重視する傾向もみられる。  また、子育て世帯(就学前の子供がいる家庭)の視点からみると、「子供の遊び場や保育所など子育てのための施設やサービス」、「居住地域内での学校教育の機会」といった子育てに欠かせない事項が特に高くなるとともに、「公園や水辺・親水空間の整備」等も重要度が高くなる。「治安のよさや防犯体制」、「病院や診療所などの施設や医療サービス」も、他と比べて重要度は一段高い。  なお、バリアフリー、介護、子育てのための施設やサービスといった高齢者や子育て世帯に特化した事項について、都市部と地方部で重要度はほとんど変わらない。満足度は都市部・地方部を通じて低くなっている。  このように、年齢や属性により、「住まう」に関して求めることは異なる。ともすれば不便を感じやすい状況におかれた人のニーズもしっかり押さえることが重要となる。 (住居に対する認識)  住宅本体に関して、性能や機能別にみると、「台所など水まわりの快適さ・トイレの水洗化」については、7割近い人が確保されている(「確保されている」又は「どちらかといえば確保されている」)と感じている。  しかし、社会全般で安全・安心に対する意識が高まる中で、住宅に関しては、「地震」、「台風・洪水等」、「犯罪」といった事項に対して、安全性が確保されていると感じる人は2〜3割台となっており低い。また、高齢化の進展で重要度が増す「バリアフリーなど高齢化対応」については、確保されていると答えた人は全体で2割強、年齢別で高齢者をみてもあまり変わらず、高齢化対応が不十分であることがわかる。さらに、「省エネルギー対応」や「防音・遮音性」といった環境性能についても1〜2割台であり、評価が低くなっている。 図表I-1-1-5 性能・機能別にみた住宅 (「住まう」に対する姿勢)  以上、おかれている環境に対してどのように感じているかをみたが、意識調査では、人はどのような時に「住まう」を替えるかについても尋ねている。住まいを替えるきっかけとして、「高齢期にも住みやすい住宅・環境にする」、「住宅の質をよくする」、「生活の利便性を確保する」が上位にきており、「転勤や転職に対応する」、「自分が結婚する」といったライフイベントで付随的に発生する理由を上回った。言い換えれば、必要な時がきたら、というよりも、積極的に「住まう」の環境をステップアップしていきたい、という意向が感じられる。 図表I-1-1-6 住まいを替えるきっかけ  また、「住まう」に関する選択肢を新たに広げるような考え方も出現している。最近では、現在の生活拠点以外にも拠点をもっていろいろな生活スタイルを楽しむ“二地域居住”という考え方が提唱されている。定住より柔軟性が高い分ハードルが低く、やってみたいとする希望や意欲は高くなっている。 図表I-1-1-7 「二地域居住」に関する認知度と意欲等 (注)ここでは、図表I-1-1-2の各事項について、年齢や子育て中であるかどうかで集計をした場合、重要度が80%を超える事項、又は、図表I-1-1-2と比較し重要度に10%以上の差が生じている(高くなっている)事項の中から選び出している。