1 「社会で活動する」に関する生活者ニーズ等の把握  人の日々の様々な活動を、「用事を済ます」(注1)、「働く」、「余暇を愉しむ」の3つの局面から考える。 (1)活動に関する人々の意識と不満 1)用事を済ます (日常生活の営みに関して求めるもの)  人は、日々、買い物をしたり、役場や郵便局、銀行に行ったり、また病院にかかったりするなど、家の外に出て様々な用事を済ませている。意識調査では、この、何気ないが日常の生活を営む上で欠かせない活動である「用事を済ます」ことに関する意識を尋ねた。  多くの人の回答からうかがわれる理想像は、日常の生活活動では、「できる限り身近なところ」又は「大型のショッピングセンター」を利用したい、また「買い物とともに一度に用事を済ませたい」となり、「用事を済ます」ことに特に利便性を強く求めているのがわかる。この傾向は、都市部と地方部でかわらない。  また、用事を「済ます」ことについて、買い物や生活サービスを利用するための外出は「ストレスや体力的な負担」を感じるというよりは「楽しみ」であり、「買い物以外の楽しみも求めたい」とするなど、単に“必要だから”だけではない、プラスアルファを求めていることがわかる。高齢者であっても、特段外出に「ストレスや体力的な負担」を強く感じることはなく、他の世代と同様に「楽しみ」と答える人が6割近い。 図表I-1-2-1 「用事を済ます」ことに関する意識(1) 図表I-1-2-2 「用事を済ます」ことに関する意識(2) (日常生活の営みに関する不満)  他方で、日々の「用事を済ます」ことに関する不満については、地方部を中心に、「一箇所で買い物を済ませられない」、「一度に用事を済ませられない」、「品揃えがよくない」等の利便性や多様性の問題、「遠い」、「公共交通機関で行きづらい」等のアクセスの問題など、様々なものがある。また、「楽しみ」というプラスアルファを求めるという点についても、「賑わいや活気がない」、「買い物以外の楽しみが少ない」といった不満が地方部では強い。一方で、「休憩できるスポットがない」、「人とのコミュニケーションが少ない」は、都市部・地方部にかかわらず共通する不満となっている。  年齢別でみれば、高齢者は、「高齢者等に配慮されておらず高齢者等が過ごしにくい」と3割強の人が感じている。また、子育て世帯(就学前の子どもがいる家庭)では、「子ども連れに配慮されておらず、子どもを連れて行きづらい」と3分の1以上の人が答えている。 図表I-1-2-3 「用事を済ます」ことに関する不満 2)働く (働くことに関して求めるもの)  就業者にとって、働くという活動は、日々の生活の中で大きなウェイトを占める。「働く」ことに関する意識を尋ねた。  仕事とそれ以外の活動を比較すると、仕事に対して「自分の時間」、「育児・介護・家族のこと」、「住環境や生活環境」を優先したいと答える人の割合は、「仕事を何より優先」したいと答える人の割合よりも大きい。この傾向は、年齢により異なり若い世代ほど強くなる。  望ましい環境に関しては、「落ち着いていて自分のペースを保てるような環境で働きたい」に対して約7割の人が当てはまるとしている。他方で、「人・物・情報が集まるなど活気があって刺激を受けるような環境で働きたい」に対しては、当てはまるとする人は約4割となっており必ずしも多数を占めていない。都市部と地方部でこの傾向はかわらない。なお、就業の前後でみると、学生は「活気があって刺激を受けるような環境」に対しても6割以上が当てはまるとしており、就業前の積極的な志向がうかがえる。 図表I-1-2-4 「働く」ことに関する意識(1) 図表I-1-2-5 「働く」ことに関する意識(2) (働くことに関する不満)  他方、「働く」に関する不満については、自分の住む地域の周辺に「そもそも就業機会が少ない」、「希望にそった仕事・職場につくための選択肢が少ない」とする人が多くなっている。特に町村部では4割を超えるなど、まずは雇用そのものの問題が大きい。年齢別にみても、20歳代から50歳代前半までの間で一様に高くなっている(注2)。  一方で、「働く」こととそれ以外の活動の関係では、都市部・地方部ともに「仕事のために、自分や家族に対する時間が不十分」であることが不満となっている。30歳代、40歳代を中心に高くなっており、自分の時間等を優先したいという希望とは逆に、仕事により他の活動時間が削られていることがうかがえる。 図表I-1-2-6 「働く」ことに関する不満 3)余暇を愉しむ (余暇に関して求めるもの)  「余暇」の時間は、暮らしにゆとりをもたらす欠かせないものである。意識調査では余暇の過ごし方に関する意識も尋ねている。  余暇を過ごしたい場所については、「自宅」と答える人は約6割、「自宅近辺」、「遠出」は5割弱となっている。都市規模別でみると、「自宅」、「遠出」はあまり差がないが、「自宅近辺」は地方部で少し低くなる傾向があり、自宅近辺に余暇を過ごす魅力ある場所が少ないと感じていることが推測される。  年齢別でみると、「遠出」は50歳代以降に低くなり、「自宅近辺」は65歳以上で高くなる。「自宅」には年齢が上がることによる特段の傾向はない。年齢が上がるにつれて行動範囲は狭くなるが、それは必ずしも自宅にとどまることではないことがうかがえる。  どのように過ごしたいかについては、「休息をとって疲労を回復したり、心地よいところでくつろいだりしたい」、「健康によいことや気分転換になることを行い、リフレッシュしたり活力を得たりしたい」といった、まずは日々の生活の負荷を解消することが上位に挙がっている。「自己啓発」や「創造的なこと」は低めとなっている。高齢者では、「居住地域や社会全体への貢献」が4割以上と高くなっている。 図表I-1-2-7 「余暇」に関する意識(1) 図表I-1-2-8 「余暇」に関する意識(2) (余暇に関する不満)  他方で、余暇に関する不満については、「十分な経済的余裕がない」と答えた人が5割を超える。特に、住宅ローンや子供の教育費を抱えることが多い40歳代から50歳代を中心に全般的に高くなる。「十分な時間がとれない」と答えた人も多いが、これは、20歳代から50歳代前半で高い。  「自宅の近く」や「気軽に出かけられる範囲」に余暇を過ごすのに適する場所や施設、環境が整っていないとする回答も多い。これは、都市規模により差異があり、地方部で高くなっている。  まずは日常の疲れをいやすことが第一で、時間やお金の制約もあり近場で済ませたいが、一方で、適当な場所や環境が少ない様子が見えてくる。 図表I-1-2-9 「余暇」に関する不満 (2)高齢者特有の課題  高齢者についてみると、「ほとんど毎日外出する」と答える割合が増加するなど、積極的に外出する傾向が強まっており、高齢人口の増加とあいまって、平日昼間などでまちにおいて高齢者の存在感は大きくなる。一方で、例えば徒歩移動可能な距離が小さくなるなど、高齢者は活動を行う上で不利な制約がある。さらに最近では、高齢者単独世帯等の増加などこれまで高齢者を支えていた家族という体制が変化しつつある(注3)。これらを踏まえて、高齢者に対応した、まち全体でその活動をサポートするような仕組みが求められる。 図表I-1-2-10 高齢者の外出状況 図表I-1-2-11 加齢による徒歩行動圏の縮小 (注1)「用事を済ます」とは、家の内外で行う様々な生活の営みであって仕事や余暇を除いた活動であるが、本節では特に家の外で行う、例えば、買い物や各種生活サービスの利用(役場に行く、銀行に行く等)などを指す。 (注2)なお、意識調査実施時(平成20年11月〜12月)よりも経済情勢はさらに悪化しており、雇用に関してもより厳しい状況になっていることが考えられる。 (注3)厚生労働省「国民生活基礎調査」(平成19年)によれば、平成元年と19年を比較すると、65歳以上の者がいる世帯のうち、「単独世帯」の割合は14.8%から22.5%へ、「夫婦のみの世帯」の割合は20.9%から29.8%へ、それぞれ増加している。また、「三世代世帯」の割合は40.7%から18.3%へ減少している。