1 「移動する」の実態と利用者ニーズ等の把握  意識調査では、「公共交通(鉄道、バス等)の利便性」や「生活道路や幹線道路の整備の状況」の重要度は約7割と高い。一方、満足度は約4割と比較的低くなっている(第1章第1節図表I-1-1-2、3参照)。こうしたことから、それぞれ向上や整備が求められていることがうかがえるが、以下では、それぞれをもう少し深くみていくこととする。 (1)都市と地方の比較  市街地において、人口密度が低い地域ほど自動車利用率が高いことから、モータリゼーションが進展していること、また経年的にも高くなっていることから、その進展スピードが速いことがわかる。他方、人口密度が低い地域ほど公共交通利用率が低くなっている。 図表I-1-3-1 人口密度と公共交通利用率・自動車利用率の相関  都市規模別でみると、三大都市圏(注1)の中心都市(注2)における鉄道又はバスの利用率(本節において、「公共交通利用率」という。)が32.6%であるのに対し、地方中核都市圏(中心都市の人口が40万人未満)(注3)の中心都市では3.5%と低くなっている。  また、三大都市圏の中において、中心都市の公共交通利用率は32.6%であるのに対し、周辺都市1(注4)では25.1%、周辺都市2(注5)では13.1%とその割合は低くなっている。  このことから、都市の人口規模が大きくなるほど公共交通利用率が高くなっており、同じ人口規模圏においても中心部の方が、公共交通利用率が高くなっていることがわかる。 図表I-1-3-2 都市規模別の移動手段分担率(平日) (公共交通に対する意識の動向)  意識調査では、三大都市圏(注6)において「公共交通(鉄道、バス等)の利便性」の重要度は81.9%と高く、また満足度も54.6%と高くなっている。一方で、地方圏(注7)では、重要度が67.8%の中で、満足度は23.2%と非常に低く、「どちらかといえば不満である」又は「不満である」と回答した人の割合(以下、「不満度」という。)は52.6%と、満足度の2倍以上になっている。こうした傾向は、町村部では特に顕著である。 図表I-1-3-3 公共交通(鉄道、バス等)の利便性に関する重要度と満足度  さらに、「公共交通が整備されていること」について、三大都市圏では、重要度が86.8%、満足度が63.0%とともに高い一方で、地方圏では、重要度が77.1%であるのに対し、満足度は30.0%と低く、不満度は46.8%と、満足度の1.5倍以上となっている。こうしたことから、地方圏ほど強く公共交通の整備や利便性の向上が求められていることがうかがえる。 図表I-1-3-4 公共交通が整備されていることに関する重要度と満足度  また、「公共交通が整備されていること」の重要度については、公共交通を週1回以上利用する人では90.8%、また、さらに、週1回未満の利用者では76.3%と、ともに高くなっている。このことから、人々の認識の中で、利用頻度とは別に、いざというときのためのセーフティネットとして公共交通が強く位置づけられていることがうかがわれる。 (道路交通に対する意識の動向)  意識調査では、三大都市圏において「生活道路や幹線道路の整備の状況」の重要度は71.8%と高い一方、満足度は44.9%と低い。地方圏でも、重要度は72.0%と高いが、満足度は35.0%と三大都市圏以上に低くなっている。 図表I-1-3-5 生活道路や幹線道路の整備に関する重要度と満足度  また、意識調査では、三大都市圏において「安全に歩ける歩行空間や自転車空間の整備の状況」に対する重要度は73.2%と高いが、満足度は27.8%と非常に低い。地方圏においても、重要度は66.9%と高い一方、満足度は24.4%と非常に低くなっている。 図表I-1-3-6 安全に歩ける歩行空間や自転車空間の整備に関する重要度と満足度  こうしたことから、生活道路や幹線道路、また安全に歩ける歩行空間や自転車空間の整備が求められていることがうかがえる。 (2)高齢者の移動特性と傾向  前述のとおり、高齢者の外出頻度は上昇傾向にあるが、特に三大都市圏の高齢者は、地方都市圏(注8)の高齢者よりも外出頻度は高くなっている。 図表I-1-3-7 高齢者の交通特性  また、高齢者の自動車による外出頻度の伸び率は、非高齢者に比べ高くなっている。特に地方都市圏の高齢者は三大都市圏の高齢者に比べ、自動車による外出頻度及び自動車運転免許保有の割合が高くなっている。 図表I-1-3-8 高齢者の免許保有と運転状況  運転しなくなってからの移動手段として、三大都市圏では「公共交通機関を利用している」が圧倒的に多く、地方都市圏では、三大都市圏に比べ、「家族に自動車で送迎してもらうようになった」が多くなっている(注9)。 図表I-1-3-9 運転しなくなってからの移動手段の変化  また、意識調査では、「公共交通(鉄道、バス等)の利便性」の重要度について、非高齢者が74.6%であるのに対し、高齢者は82.6%と高くなっており、「公共交通が整備されていること」の重要度についても、非高齢者が81.8%であるのに対し、高齢者は89.7%と高くなっている。こうしたことから、高齢者にとっては公共交通がより重要であることがうかがわれる。 (注1)全国都市交通特性調査が出典の資料及び同資料に基づく記述において、同調査と同様に、三大都市圏とは、東京圏、名古屋圏、大阪圏において、定常的な都市圏内居住者の交通がおおむね完結する範囲のこと(東京圏:東京都区部への通勤通学依存率3%以上かつ通勤通学者数1,000人以上、名古屋圏:おおむね名古屋市への通勤通学依存率5%以上、大阪圏:おおむね大阪市への通勤通学依存率5%以上かつ通勤通学者数1,000人以上) (注2)三大都市圏のうち、東京都区部及び政令市のこと (注3)人口が10万人以上40万人未満の都市(中心都市)と、当該中心都市への通勤通学依存率が5%以上の都市圏であって、その人口が30万人以上のもの (注4)東京圏、大阪圏において、中心都市以外の範囲であって、東京圏では中心都市から40km未満、大阪圏では中心都市から30km未満の範囲のこと (注5)三大都市圏のうち、中心都市と周辺都市1以外の範囲のこと (注6)東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)、名古屋圏(岐阜県、愛知県、三重県)、大阪圏(京都府、大阪府、兵庫県、奈良県)のこと。以下、意識調査及び本節において同じ。 (注7)三大都市圏以外の道県のこと。以下、意識調査及び本節において同じ。 (注8)全国都市交通特性調査範囲のうち、三大都市圏以外の範囲のこと (注9)申請による運転免許取消し制度が設けられているが、免許返納後の移動手段の確保も重要となっており、地域の実情に応じて、免許返納者に対してコミュニティバスやタクシー運賃の割引サービス等の取組みが行われている。