2 地域交通の現状と課題 (1)地方圏における地域の足の確保の現状と課題(→第2章第2節2) 1)公共交通の現状と課題 (公共交通の現状)  地方圏においては、公共交通事業者が不採算路線から撤退(注1)することなどにより、公共交通のサービスレベルが低下している。  公共交通機関による輸送人員について、平成以降の約20年でみると、地方鉄道は平成元年の約79%に、バスは約54%に、国内旅客船は約62%にまで減少しており、減少傾向にある。こうした輸送人員の減少は路線等の採算性にも影響し、一層のサービス低下と、負の連鎖をもたらしている。 図表I-1-3-10 地方圏の旅客輸送人員と人口の推移 (地方圏を取り巻く環境)  人口密度が低い地域ほど、モータリゼーションが進展していることは、前述のとおりであるが、三大都市圏、地方圏それぞれで一世帯当たりの自家用乗用車保有台数を比較してみると、平成元年はそれぞれ0.69、0.82だったのに対し、平成20年では、0.89、1.32と、地方圏ほど、一世帯当たりの自家用乗用車保有台数が多く、経年的にも伸びが大きくなっていることがわかる。 図表I-1-3-11 三大都市圏と地方圏の1世帯当たりの自家用乗用車保有台数の推移  一方、地方圏の高齢化率は23.3%であり、三大都市圏の高齢化率19.9%に比べ高くなっている(注2)。前述のとおり、高齢者の外出頻度は従前と比べて高くなっており、特に自動車による外出頻度が高くなっている。  そうした中、高齢者の交通事故件数は平成以降の約20年間で5.5倍へと増えており、これは、非高齢者の交通事故件数がほぼ横ばいであるのに比べて際立っており、高齢者の運転免許保有人口の変化(平成以降の約20年間で4.4倍)と比べてみても多くなっている。 図表I-1-3-12 交通事故件数と運転免許保有者数の推移  こうした現状から、自動車等での外出で事故に遭遇するリスクを減らすという観点からも、公共交通の利用環境を整えていくことが必要である。  さらに、第2節で触れたように、地方圏では、商業機能や公共施設等の郊外への移転が進んでいることも相俟って、そこへのアクセスなど新たな移動ニーズも出てきている。 (公共交通に対するニーズ)  意識調査では、地方圏において、「公共交通が整備されていること」の重要度が77.1%と最も高く、次いで「駅や停留所までの距離や立地」(75.3%)、「安全性」(75.2%)、「本数」(73.7%)、「路線」(71.6%)となっている。  一方、前述のとおり、地方圏では「公共交通(鉄道、バス等)の利便性」の満足度が23.2%、不満度が52.6%と、不満度の方が高いが、特に不満度として高いのは、「本数」(54.4%)、「公共交通が整備されていること」(46.8%)、「運賃」(44.7%)である。 図表I-1-3-13 地方圏における公共交通機関に関する重要度と満足度 (移動に求められること)  意識調査では、日々の外出・移動を便利にしたりするのに有効だと思う方策として、「鉄道やバスの増便や路線の工夫などで今ある公共交通サービスの利便性を向上させる」と回答した人の割合が50.8%で最も高かった。次いで「中心市街地に様々な施設を集めると共に、そこへのアクセスを向上させる」(42.2%)、「福祉タクシー、乗合タクシー、コミュニティバスなど、小回りの利く自由度の高い交通サービスを実現させる」(38.7%)、「少ない移動で済む場所に、役所の出先施設や商店等を配置させる」(28.8%)となっている。 図表I-1-3-14 地方圏における日々の移動を便利にするための方策 (日々の移動手段の確保)  地方圏における日々の移動手段の確保のため、まずは、住民、事業者、行政等の関係者間で、地域住民のニーズや現在の公共交通の実情などを確認し、地域住民の移動手段を持続的に確保するための手法について、地域公共交通の必要性や観光振興との関わりなども含めて、十分に検討していくことが必要である。そのために国は必要な支援、助言等を引き続き行っていく必要がある。 2)道路交通の現状と課題  地方圏で日常生活における移動の中心となる道路については、意識調査では、都市規模別に見ると、「雨や雪などの自然条件により、運転に危険や困難を感じることがある」とした人が町村で40.7%と高くなっている。また、「道路幅が狭い、急カーブが多いなどにより運転に危険や困難を感じることがある」とした人も、地方部を中心に高くなっている。「歩行者や自転車と接触しそうになるなど運転に危険を感じることがある」とする人は、都市部でより高いが地方部でも高くなっている。  こうしたことより、地方部では、雨や雪などの自然条件や、道路幅の狭さや急カーブの多さなどにより、車やオートバイなどを安心して利用することができないと感じる人が多いことがうかがえる。  また、このほか、救急車等の緊急車両がスムーズに走行できない区間や、路線バス等の安全な運行に支障がある区間が存在することも課題である。 図表I-1-3-15 都市規模別の道路に関する問題や不安なこと 3)過疎地域や離島地域における現状と課題 (過疎地域等を取り巻く状況)  我が国の人口が減少局面に入った中、既に過疎が進んできた地域の状況は、厳しさを増している。現在、国土の半分強(注3)の面積を占める過疎地域や離島地域(注4)では、他地域に比べ生産年齢人口比率の低下が激しく、高齢化が深刻である。  そうした過疎地域や離島地域における公共交通での移動は、より厳しさを増している。公共交通で日々の移動を行いづらいため、高齢者は自動車の運転などを余儀なくされ、結果として事故に遭う可能性が高くなる(本節2(1)1)参照)。また、離島地域では、高次医療施設への搬送等にも不便をきたしている。こうした状況等も踏まえ、日々の移動手段の確保が求められる。 図表I-1-3-16 地域別生産年齢人口比率の推移 (過疎地域等における移動ニーズ)  意識調査では、過疎地域において、「公共交通(鉄道、バス等)の利便性」の満足度は6.2%と非常に低く、非過疎地域で45.2%となっているのに比べ大きな開きがある。また、「公共交通が整備されていること」に対する不満度は70.7%と満足度9.7%に比べ非常に高くなっている。 図表I-1-3-17 地域別公共交通(鉄道、バス等)の利便性に関する満足度 図表I-1-3-18 地域別公共交通が整備されていることに関する満足度  また、離島地域では、暮らしの中でよくなっていない点の上位に公共交通サービスが挙がっているとおり、「移動」の状況は改善していない、あるいはますます悪くなっていることがわかる。 図表I-1-3-19 離島の暮らしでよくなっていない点(上位10位)  このように、過疎地域や離島地域においては日々の足である公共交通の整備が強く求められていることがわかる。これを受け、国として過疎地域や離島地域における暮らしに必要な公共交通の確保等の取組みを引き続き支援していく必要がある。 (2)大都市圏における日々の移動の現状と課題(→第2章第3節1、2) (公共交通の現状)  前述のとおり、三大都市圏では公共交通利用率が高い中で、公共交通機関のうち最もよく利用されている鉄道(注5)についてみると、その主な目的は、帰宅目的を除くと、6割以上が通勤・通学となっている。 図表I-1-3-20 三大都市圏における鉄道の利用目的別構成比  鉄道を利用した通勤・通学全体の平均所要時間(定期券利用者)は、三大都市圏(注6)ともに1時間を超えている。居住場所や通勤・通学先の選択に起因するところはあるものの、依然として通勤・通学時間は長いままである。 図表I-1-3-21 鉄道を利用した通勤・通学全体の平均所要時間の推移(定期券利用者)  平成元年以降の約20年間で、鉄道の輸送力をみると、東京圏では14%、名古屋圏では14%、大阪圏では6%増強されている。また、混雑率(注7)をみると、東京圏では31%、名古屋圏では29%、大阪圏では35%も低下しており、これは輸送力増強が進んだことが大きな効果となっている。  しかしながら、東京圏では依然として高い混雑率(混雑率171%)を維持しており、今後も混雑緩和の取組みが必要とされている。 図表I-1-3-22 三大都市圏における混雑率の推移  こうした混雑緩和の取組みが行われている中、例えば東京圏では相互直通運転も広がっており、利用者の乗換えの利便性向上等も図られているところである。 図表I-1-3-23 相互直通運転の広がり  次に、バスについても、優先レーンや専用レーンの延キロ程が延長されるとともに、PTPS(注8)の導入も進み、また、これらバスの走行空間の改善と連節ノンステップバス等を一体的に整備するBRT(注9)や、バスロケーションシステムの導入により、バスの定時性及び利便性の向上が図られているところである。 図表I-1-3-24 バスレーンの設置状況 図表I-1-3-25 PTPSの導入状況 (公共交通に対するニーズ)  意識調査では、三大都市圏において、「公共交通が整備されていること」の重要度が86.8%と最も高く、次いで「駅や停留所までの距離や立地」(84.5%)、「安全性」(83.0%)となっている。これらの項目についての満足度は、それぞれ63.0%、61.0%、63.7%と他と比べて高くなっている。逆に、不満度は、高かったものから、「混雑の度合い」(31.3%)、「運賃」(30.6%)「本数」(23.9%)となっている。 図表I-1-3-26 三大都市圏における公共交通機関に関する重要度と満足度  また、通勤ラッシュ時にも高齢者や妊婦、学童等も少なからず乗車しているが、彼らにとって満員電車等は大変過酷な状況を強いるものである。こうしたことも念頭に、今後とも着実に混雑の緩和、速達性の向上等の促進をしていく必要がある。 (道路交通の現状と課題)  道路に関して感じる問題や不安について、意識調査によれば、都市部では、「渋滞が発生することにより、円滑な運転ができないことがある」と答える人が最も高い(図表I-1-3-15参照)。  道路渋滞について、渋滞による損失時間をみると、近年減少傾向にあるものの、三大都市圏を中心に依然として深刻な状況にある。また、踏切についても、全国の踏切のうち、電車の運行本数が多い時間帯において遮断時間が40分以上/時となる「開かずの踏切」は、約600箇所存在している。踏切の数については、東京23区にはパリの約50倍の踏切があるなど、世界の主要都市に比べて相対的に多くなっている。こうしたことによる渋滞は、バスの遅延等の原因ともなっている。  円滑な運転の確保、損失時間の減少、バス等の公共交通機関の遅延防止等のために、渋滞緩和に向けた取組みが必要である。 図表I-1-3-27 道路渋滞の状況 (3)安全・安心の確保やバリアフリー化などの現状と課題 1)安全・安心の確保の現状と課題(→第2章第1節2) (公共交通)  各公共交通機関における事故による死傷者数は以下のとおりであり、鉄道と自動車については、長期的にみて減少傾向にある。 図表I-1-3-28 公共交通機関における事故による死傷者数  一方で、昨今のリスク意識の高まりもあり、意識調査では、公共交通機関の安全性の重要度は80.1%であり、他の項目に比べて高くなっている。一方で、公共交通機関の安全性について5年程度前に比べ「向上した」又は「どちらかといえば向上した」と回答した人の割合(以下、「向上度」という。)は26.1%と低くとどまっており、「どちらとも言えない」と回答した人の割合は47.0%と最も高くなっている。 図表I-1-3-29 公共交通機関に関する重要度 図表I-1-3-30 公共交通機関の安全性に関する向上度  また、内閣府の「公共交通機関の安全に関する世論調査」によれば、「あなたは、公共交通機関の安全を確保するために、国はどのような取組みを強化すべきだと思いますか」という質問に対し、「事故原因の究明」を挙げた人の割合が52.7%と最も高く、次いで「事業者の安全管理体制や技術基準の遵守などの国によるチェック」(49.8%)、「事故を防止するための技術開発の促進」(43.5%)となっている。 図表I-1-3-31 安全確保のための国への要望  国民の日常生活や我が国の経済を支える公共交通機関については、ひとたび事故が発生した場合には多大な被害が生じるおそれがあるとともに、社会的影響も大きいことから、今後とも事故を起こさないよう一層の対策を講じていくとともに、万一事故が起こった場合には、早急に事故原因を究明し、再発防止に努めていく必要がある。 (道路交通)  道路交通事故による死者数は長期的にみて減少傾向にある。特に、自動車乗車中の交通事故の減少は顕著である。道路交通の死傷事故率を道路種類別にみると、生活道路は幹線道路の約2倍となっている。 図表I-1-3-32 状態別交通事故死者数の推移 図表I-1-3-33 道路種類別の死傷事故率の比較(平成19年)  さらに、年齢別に交通事故死者数をみると、歩行中の高齢者の死者数が高くなっている。意識調査においても、「安全に歩ける歩行空間や自転車空間の整備の状況」については、重要度は70.6%と高い一方で満足度は26.6%となっており、人々のニーズも高いことがうかがえる。  このため、身近な道路から通過交通を排除したり、歩道を整備したりするなどにより、歩行者、特に高齢者の安全性を確保することが重要な課題となっている。 図表I-1-3-34 年齢層別・状態別交通事故死者数(平成20年) 身近な道路に通過交通が入り込んでいる例 2)バリアフリー化の現状と課題(→第2章第2節3) (公共交通機関におけるバリアフリー化の現状)  公共交通機関のバリアフリー化については、平成12年11月に「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律」が施行されて以来、整備が進んできたところである。しかしながら、例えば、ノンステップバスについてみると、三大都市圏で毎年約5%ずつ導入が進む一方、地方圏では毎年約1%ずつしか導入が進んでいない結果、平成19年度では、三大都市圏と地方圏での導入率の差は27.4%となっており、地方圏ではなかなかバリアフリー化が進まない状況がうかがわれる。 図表I-1-3-35 旅客施設におけるバリアフリー化の推移 図表I-1-3-36 車両等におけるバリアフリー化の推移 図表I-1-3-37 ノンステップバスの導入率の推移 (人々の認識及びニーズ)  意識調査では、自宅外のバリアフリー化について、鉄道のホームドアや歩道のガードレールなどの「安全・安心の確保」の重要度は69.8%と最も高く、次いで「通路・出入り口における幅の確保」(64.4%)、「段差がないこと」(62.8%)となっている。また、それぞれの項目で満足度の方が不満度よりも高いが、その差はいずれも10%未満であり、不満度がほぼ同程度となっており、不満度でみると、重要度の高かった上記3つがそれぞれ、27.5%、31.0%、25.8%と不満度の高い上位3つとなっている。 図表I-1-3-38 自宅外のバリアフリー化に関する重要度と満足度  また、公共交通機関におけるバリアフリー化についてみると、向上度が49.2%となっている一方で、「どちらともいえない」と回答した人の割合が30.9%と高くなっている。 図表I-1-3-39 公共交通機関のバリアフリー化に関する向上度  公共交通機関のバリアフリー化の重要度を年齢別で比較すると、非高齢者が42.7%であるのに対し、高齢者は68.7%と大幅に高くなっており、高齢者はバリアフリー化に対してより重要視していることがわかる。  こうしたことからも、今後とも一層のバリアフリー化を推進していく必要があるが、当面の目標として、旅客施設(注10)については平成22年までに原則としてすべてのバリアフリー化に向け、車両等についてもそれぞれ目標の実現に向けて着実に整備を促進していく必要がある。 3)その他の利便性等の現状と課題(→第2章第3節2)  意識調査では、公共交通の運賃や路線、混雑状況といった基本的な条件に加え、「駅や停留所等でのサービス」や「ICカードなどの支払いや切符購入の利便性」、「特色ある車両や車窓からの風景などの楽しみ」、「情報の表示・提供」といった様々なサービスや楽しみを「重要度が高い」と回答した人が一定程度いることから(図表I-1-3-29参照)、ニーズが高度化したり、また、単に移動することだけではなく、移動に楽しみを求めたりしていることがうかがえる。  「駅や停留所等でのサービス」に関しては、駅の交流拠点の機能に着目して、商業施設や図書館・出張所などの公共公益施設などを併設したりなど、利用者の利便性を高める取組みが進んできている。また、地方部では、鉄道の駅に温泉を併設したりなど、交通結節点機能を強化し、ひいては鉄道利用の促進をはかろうとする例がある。 図表I-1-3-40 鉄道以外の用途への駅の活用事例  「ICカードなどの支払いや切符購入の利便性」に関しては、バスカードの導入や、地下鉄とJR、鉄道とバスの間のICカードの相互利用などが進んでいる。 図表I-1-3-41 ICカード乗車券の共通化・相互利用の状況 図表I-1-3-42 バスICカードの導入車両数の推移(累計)  「情報の表示・提供」に関しては、バスロケーションシステムの導入等が進んでいるところであるが、こうしたニーズの高度化・多様化を受け、今後とも更に利便性を向上させていく必要がある。 図表I-1-3-43 バスロケーションシステムの導入推移(累計) (注1)例えば、鉄道事業について、廃止が許可制から事前届出制に緩和された平成12年以降でみると、地方路線を中心とした路線廃止により、鉄軌道廃止延長は平成20年12月までで約633kmにのぼる。 (注2)平成20年3月31日現在の住民基本台帳より算出 (注3)過疎地域自立促進特別措置法第2条及び第33条に該当する区域の面積は、国土の54.1%を占める(平成17年国勢調査より算出)。 (注4)離島振興法(昭和28年法律第72号)第2条第1項に基づき指定された離島振興対策実施地域、奄美群島振興開発特別措置法(昭和29年法律第189号)による奄美群島及び小笠原諸島振興開発特別措置法(昭和44年法律第79号)による小笠原諸島のこと (注5)本節1(1)において、三大都市圏(中心都市)では、鉄道の利用率は29.3%、バスは3.3%となっている。 (注6)大都市交通センサスが出典の資料及び同資料に基づく記述において、同センサスと同様に、三大都市圏とは、首都圏は東京駅、中京圏は名古屋駅、近畿圏は大阪駅までの鉄道所要時間が2時間以内(中京圏は1時間30分)の地域であり、かつ、首都圏は東京都23区、中京圏は名古屋市、近畿圏は大阪市への通勤・通学者比率が3%以上かつ500人以上を満たすような市町村(これらの行政区と連担する行政区を含む。)である。 (注7)混雑率は、最混雑時間帯1時間の平均。なお、混雑率200%は、体がふれあい相当圧迫感があるが、週刊誌程度なら何とか読める状況。180%は、折りたたむなど無理をしなければ新聞を読めない状況。150%は、広げて楽に新聞が読める状況。 (注8)Public Transportation Priority Systems:公共車両優先システム (注9)Bus Rapid Transit:専用レーン等を活用した高速輸送バスシステム (注10)1日の利用者数が5,000人以上の旅客施設