第3節 利便性の高い交通の実現 (1)都市・地域における総合交通戦略の推進  安全で円滑な交通が確保されて集約型のまちづくりを実現するためには、自転車、鉄道、バス等の輸送モード別、事業者別ではなく、利用者の立場でモードを横断的にとらえる必要がある。このため、地方公共団体が公共交通事業者等の関係者からなる協議会を設立し、協議会において目指すべき都市・地域の将来像と提供すべき交通サービス等を明確にした上で、必要となる交通施策や実施プログラム等を内容とする「都市・地域総合交通戦略」を策定し、関係者がそれぞれの責任の下、施策・事業を実行する仕組みを構築することが必要である。国は、同戦略に基づき実施されるLRT等の整備等、交通事業とまちづくりが連携した総合的かつ戦略的な交通施策の推進を支援することとしている。 (2)渋滞緩和に向けたTDM等の推進  自動車交通の状況や道路交通の混雑を解決する処方せんは都市ごとに異なるものであるが、TDM(注1)は都市の特性に応じて措置ができる施策であり、総合的かつ効果的なTDMの普及を推進している。  朝夕のラッシュ時等に発生している渋滞を緩和するために、交通容量拡大策に加え、バス・鉄道共通ICカードやバスロケーションシステムの導入等の公共交通機関の利用促進策や、パークアンドライド(注2)、時差通勤等のTDM施策を実施している。また、地域によっては、バス路線マップや個別冊子を住民に配布することで、自動車の使い方の見直しを促し、公共交通を有効に使うモビリティマネジメント(注3)を実施している。 (3)公共交通の活性化に向けた取組み  公共交通の活性化は、地域再生、都市再生、少子高齢化対策、環境対策といった、我が国の抱える主要な課題を解決し得る有効な手段である一方で、関係者の考え方や利害が複雑に絡み合うこと等により、なかなか進まない状況にある。こうした状況を打破するため、地方運輸局が中心となって、地方公共団体、交通事業者、地域住民等と共に検討を行い、具体的方策とその実施のための役割分担等について定める「公共交通活性化総合プログラム」の策定を推進し、公共交通の活性化の取組みを後押ししている。例えば、ターミナル駅の乗継利便性向上策の一体的推進や鉄道、バス、旅客船等の利用促進施策の展開をはじめ、各地において様々なプログラムを策定している。 (4)都市鉄道ネットワークの充実  都市鉄道ネットワークは、輸送力増強や混雑緩和を主眼とした整備により相当程度拡充され、大都市圏における鉄道の通勤・通学時の混雑は少子高齢化の進展等と相まって低下傾向にあるが、一部の路線では依然として混雑率が高く、引き続き混雑緩和に取り組む必要がある。なお、平成20年6月に東京地下鉄副都心線(池袋〜渋谷)、同年10月に京阪電鉄中之島線(中之島〜天満橋)、21年3月に阪神電鉄阪神なんば線(西九条〜近鉄難波)が開業し、都市鉄道ネットワークの拡大が図られている。また、路線間の接続の不備、駅と周辺との一体的な整備の欠如等、「質」の面における課題がなお見られることから、既存施設を有効活用しつつ、速達性向上や交通結節機能の高度化を図る「都市鉄道等利便増進法」の活用により利用者の利便を増進するなど、都市鉄道ネットワークの一層の充実を図っている。 図表II-4-3-1 整備中の主な都市鉄道新線 (5)都市モノレール・新交通システム・LRTの整備  少子高齢化に対応した交通弱者のモビリティの確保を図るとともに、都市内交通の円滑化、環境負荷の軽減、中心市街地の活性化の観点から公共交通機関への利用転換を促進するため、LRT等の整備を支援している。平成20年度は、上下分離方式によるLRTの整備・運行が予定されている富山都心線の整備等に対し支援を行った。 富山都心線イメージ (6)バス・タクシーの利便性の向上  バスについては、バスを中心としたまちづくりを目指すオムニバスタウンの整備、GPSバスロケーションシステムの整備及び公共車両優先システム(PTPS)と連節ノンステップバス等を一体的に整備し、バスの定時性・高速性の確保を図る日本型BRTの導入に対し引き続き支援を行っていくこととしている。  タクシーについては、平成18年度から、利用者の呼び出し地点から最短距離にあるタクシーの配車を行うデジタル式GPS-AVMシステムや、タクシー乗場の車両待機情報を一元的に集約・管理し、運転者に情報提供を行うタクシー乗場情報提供システム(TIS)の導入を支援することにより、利便性の向上を図っている。 (7)既存高速道路ネットワークの有効活用・機能強化 1)多様で弾力的な料金施策の実施  「安心実現のための緊急総合対策」(注4)を踏まえ、物流の効率化や地域の観光振興を図るため、平日夜間・深夜割引の拡充、休日昼間時間帯の割引を導入している。また、「生活対策」(注5)として、平日の全時間帯に3割引以上や、土日祝日に普通車以下を対象に終日5割引(上限料金1,000円)等を導入している。 図表II-4-3-2 「生活対策」における高速道路料金の引下げ概要 2)スマートインターチェンジの整備等の促進  高速道路までのアクセス時間の短縮、利便性の向上による地域経済の活性化や生活の充実、安全・安心の向上に向けて、スマートインターチェンジの整備等を促進している。 図表II-4-3-3 スマートインターチェンジ周辺地域の開発誘発の例(静岡県・遠州豊田スマートIC) (注1)都市又は地域レベルの道路交通混雑を緩和するため、道路利用者の時間の変更、経路の変更、手段の変更、自動車の効率的利用、発生源の調整等により、交通需要量を調整(=交通行動の調整)する手法 (注2)交通混雑緩和のため自動車を都市郊外の駐車場に駐車し(パーク)、鉄道、バス等の公共交通機関に乗り換え(ライド)、目的地に入るシステム (注3)一人ひとりのモビリティ(移動)が、個人的にも社会的にも望ましい方向(過度な自動車利用から公共交通・自転車等を適切に利用する方向)へ自発的に変化することを促す、コミュニケーション施策を中心とした交通政策 (注4)平成20年8月29日:「安心実現のための緊急総合対策」に関する政府・与党会議、経済対策閣僚会議合同会議決定 (注5)平成20年10月30日: 新たな経済対策に関する政府・与党会議、経済対策閣僚会議合同会議決定