4 下水道整備の推進による快適な生活の実現  下水道は快適な生活に不可欠な社会資本であり、汚水処理の普及、公共用水域の水環境保全、都市の浸水対策といった役割に加え、地球温暖化対策や循環型社会の構築に貢献するための集中豪雨や局地的な大雨の対策や再生水利用、下水汚泥の資源・エネルギー利用等の新たな役割が求められている。 (1)下水道による汚水処理の普及  下水道の普及率は平成19年度末において、全国平均で約72%(汚水処理施設全体の普及率は約84%)にまで達したものの、地域別には大きな格差がある。特に人口5万人未満の中小市町村における下水道の普及率は約43%と低い水準にとどまっている。  今後の下水道整備においては、人口の集中した地区等において重点的な整備を行うとともに、地域の実状を踏まえた効率的な整備を推進し、普及格差の是正を図ることが肝要である。 図表II-7-4-4 都市規模別下水道処理人口普及率(平成19年度末) 1)効率的な汚水処理施設整備のための事業連携  汚水処理施設の整備については、一般的に人家のまばらな地区では個別処理である浄化槽が経済的であり、人口密度が高くなるにつれて、集合処理である下水道や農業集落排水施設等が経済的となるなどの特徴がある。このため、整備を進めるに当たっては、近年の人口減少傾向も踏まえた経済性や水質保全上の重要性などの地域特性を十分に反映した汚水処理に係る総合的な整備計画である「都道府県構想」が各都道府県において策定されている。平成19年に、環境省、国土交通省、農林水産省連名により、「人口減少等の社会情勢の変化を踏まえた都道府県構想の見直しの推進について」を発出し、20年9月には「効率的な汚水処理施設整備のための都道府県構想マニュアル(案)」について改訂し、都道府県構想の早急な見直しを推進している。また、広域的な汚泥処理など他の汚水処理施設との連携施策の導入による効率的な整備についても積極的に推進している。 図表II-7-4-5 下水道計画の見直しと重点的な整備 2)下水道未普及解消クイックプロジェクト社会実験  本社会実験(平成19年度創設)は、人口減少傾向や厳しい財政事情を踏まえ、従来の技術基準にとらわれず地域の実状に応じた低コスト、早期かつ機動的な整備が可能な新たな整備手法を、地域住民協力のもと、性能等の検証を行いながら広く導入を図るものであり、20年度までに11市町を採択し、7の手法を実施中である。また、「管きょの露出配管」などを対象技術とし、20年4月までに4市町において施工が一部完了しており、大幅なコスト縮減や工期短縮などの効果を実現している。施工が完了した市町では、今後性能等の評価を行うこととなる。 図表II-7-4-6 社会実験実施事例(管きょの露出配管:熊本県益城町) (2)下水道事業の持続性の確保 1)適正なストック管理  下水道整備の進展に伴い増大している下水道施設(管路延長約40万km、処理場約2,000箇所)の適正な維持管理・改築更新が重要である。老朽化を放置すれば、下水処理機能の停止により日常生活や社会経済活動に重大な影響を及ぼすおそれがある。また、管路施設の老朽化や硫化水素による腐食等に起因する道路陥没は平成19年度には約4,700箇所で発生しており、増加傾向にある。下水道の機能を将来にわたって維持・向上し、また、必要となる費用の最小化あるいは平準化を図るため、ストックマネジメントの考え方を公表するとともに、20年度に創設した下水道長寿命化支援制度により、「事故の未然防止」及び「ライフサイクルコストの最小化」の観点から、耐震化等の機能向上も考慮し、長寿命化対策を含めた計画的な改築を推進している。 2)経営基盤の強化  下水道事業の経営は、汚水処理費(公費で負担すべき部分を除く)を使用料収入で賄うことが原則であるが、事業の初期段階でまとまった費用が必要であり、面整備の進展とともに収入が安定する事業の性格上、構造的に資金不足が生じる場合もある。従って、個々の事業においては、短期的な視点ではなく、施設の耐用年数を考慮した長期的な視点で収支状況を見ることが必要である。  このため、下水道事業に係る経営問題検討会において、長期的収支見通し等の策定に関するガイドラインである「下水道経営の健全化のための手引」(平成20年8月)を作成し、各市町村における下水道経営健全化に向けた取組みを推進している。 3)民間委託の推進と技術力の確保  平成15年「規制改革推進3ヵ年計画」再改定の閣議決定を受け、下水処理場等の維持管理業務について、包括的民間委託(注)の導入に向けた環境整備を実施している。さらに、19年「公共サービス改革基本方針」の改定が閣議決定され、包括的民間委託の更なる推進に向けた取組みを実施している。  一方、日本下水道事業団は、地方公共団体の要請に基づき、下水道施設の建設・維持管理、事業の効率化・合理化のための技術的支援、地方公共団体の技術者養成、技術開発等を行っており、下水道管理者の技術確保のために大きな役割を果たしている。 図表II-7-4-7 下水道の普及による水環境の改善とホタルの復活(長野県上田市) (3)下水道による地域の活性化  下水道の役割が多様化かつ高度化する中で、「地域活性化」は重要な役割の1つである。下水道の整備に伴う適切な汚水処理の確保により地域の定住促進や産業振興が図られるほか、河川や湖沼などの良好な水環境の保全・創出により観光振興が図られる。さらに、下水再生水を活用したせせらぎなどの水辺空間の創出、下水処理場の上部空間の高度利用、下水熱による地域冷暖房など、下水道資源の有効利用により、多面的に地域活性化に貢献している。 (注)施設管理について一定の性能の確保を条件として課しつつ、運転方法等の詳細については民間事業者に任せることにより、民間事業者の創意工夫を反映し、業務の効率化を図る発注方式