はじめに 〜厳しい経済情勢の中で〜 (私たちの暮らしと国土交通行政の取組み)  私たちは、日々の営みを積み重ねて生活している。住居を生活の本拠として地域に住まい、働いたり買い物をしたり自由に余暇を過ごしたりして社会で活動し、これらの場所の間を移動している。こうした私たちの暮らしは、グローバルな経済社会、地球環境の動きの中で、国や地域社会の情勢や生活環境等に影響されながら、家族、友人等の人と人との関わり合いの中で、成立している。  このような暮らしと生活環境に行政が影響するところも大きい。国土交通省は、陸海空にわたる諸活動の基盤に関して、国土の総合的な利用と保全、社会資本の整合的な整備、交通政策の推進、観光立国の推進、気象業務、海上の安全の確保などを任務としている。これらの多岐にわたる取組みが目指すところは、美しい国土で、安全・安心で豊かな、自立し活力ある暮らしを可能にすることであり、一言で言えば、私たちの暮らしを支えることと言える。 (厳しい経済情勢など暮らしを取り巻く環境)  近年、本格的な少子化・高齢化の進展、価値観・ライフスタイル・ニーズの多様化と高度化、安全・安心への意識の高まり、グローバルな繋がりの進展など、暮らしを取り巻く環境は大きく変化しつつある。  そうした中で、昨年来、世界的な金融危機の影響による世界景気の減速を背景に、我が国の経済社会情勢は急速に厳しくなっている。現在、それが雇用不安など日々の生活を直接脅かし、将来の暮らしへの不安を増大させている。  暮らしと向き合う行政は、長期的な経済社会の変化に対して着実に取り組みつつ、直近の深刻な問題に対して迅速に対応するなど、暮らしがおかれた状態を的確に把握し、それを支えていくことが求められている。 (白書のテーマと構成)  そこで、本書の第I部では、「私たちの暮らしを支える国土交通行政の展開」をテーマとして取り上げ、国土交通行政と深い関わりを持つ暮らしと生活環境について現状と課題を分析し暮らしに関わるニーズを把握した上で、国土交通行政の展開について今後の方向性と主要な施策を紹介する。分析にあたっては、価値観等の多様性や環境変化に留意するとともに、できる限り、一人ひとりの暮らしの視点に立つよう意を用いた。  第I部では、まず「序章」で、私たちの暮らしにおける課題等の例を、仮想の人物の声を借りてかいま見る。「第1章」では、生活する人の視点から、1)地域に住まう、2)社会で活動する、3)場所を移動する、の3つの局面で現状分析し、課題を抽出する。「第2章」では、国土交通行政としての今後の取組みの方向性と主要な施策を、1)暮らしにおける安全・安心の確保、2)暮らしにおけるセーフティネット機能の充実、3)日々の生活の心地良さ向上、4)多様なライフスタイルを支える基盤の形成、5)広域的・グローバルな展開への対応をサポート、の5つの視点で提示する。  また、第II部では、国土交通行政の動向を政策分野ごとに報告している。