2 外の人を惹きつける魅力をつくる (人が訪れることの意義)  地域に根ざした魅力は、そこに住む人だけではなく、その魅力を外へ発信することによって、外の人々を惹きつけることができる。  地域の定住人口が減少する中で人の行き来の拡大は地域経済の起爆剤であり、人を呼び込むことで人口減少・少子高齢化が進む地域・社会においても活力を得る効果がある。例えば、宿泊旅行者数は都市から地方への転出が上回っており、これは地方への所得移転効果が期待される。  観光に期待される効果については、観光をすることで健康でゆとりある生活を実現するだけではなく、訪れられる地域の人にとっても、誇りや愛着を持つことができるような活力ある地域づくりや、新たな就業機会の提供などの効果が期待されていることがわかる。 図表118 観光に期待する効果  以下、他の地域から人を呼び込むこと、さらに、特に海外から人を呼び込むことについて、必要な地域づくりや環境整備等について考える。 (1)他の地域から人を呼び込む (地域の魅力を最大限引き出す取組み)  国土交通省の調査では、地域が将来にわたって活力を得ていくためには、地域の持ち前の良さや既存ストックを活かしたり、芸術祭の開催など地域参画型の取組みを行ったりすることにより、人を呼び込むことが有効だと考えていることがうかがえる。また、行政に対しては、官民が連携したり、人材の育成や地域資源の発掘・創出を支援したりすることへの期待がある。 図表119 地域が活力を得るために有効な地域・行政の取組み  一方で、人々が他の地域を訪れる目的は多様化しており、従来の物見遊山的な観光のみならず、地域の様々な観光資源を活かし、体験型・交流型の要素を取り入れた新たな旅行形態へのニーズが高まっている。 図表120 新たな旅行形態  訪れる人を呼び込む地域づくりには、地域の特性を活かす視点はもちろん、訪れたいとの思いを誘発する観点からも、地域の魅力を最大限引き出していくことが求められる。地域の観光魅力を熟知した地元の観光関係者はもちろん、地場産業など他産業や地元住民、さらに地域外からの人材など多様な主体が連携・協働し、創意工夫に満ちたその地域ならではの新たな観光資源を発掘し、着地型観光をつくりだすこと等によって地域が活気づくことが期待される(注1)。  また、インターネットを通じて、旅行先等に関する情報を収集したり価値観を同じくする人々との情報を交換したりすることを契機に、訪れてみたいとの思いが形成されることも考えられ、地域の魅力を効果的に発信することも大切である(注2)。 (訪れる側の課題)  日本人の自由時間の過ごし方として、旅行への意向は高い(注3)。他方で、時間的余裕がなく旅行ができないと答えている人も多い。また、旅行の時期的集中度の高さは混雑やかかる費用の増大につながっている。年間を通してバランスよく旅行ができる環境づくりが求められ、例えば、休暇の時期について地域差をもたせるなど、今後は柔軟な取組みによるゆとりある滞在の創出が期待される。 図表121 休日の分散化  また、一過性の観光旅行にとどまらず、中長期的・反復的に一定の地域に訪れるといったスタイルを実践している人々がおり、休暇等の環境が整えばゆとりある滞在への気運も高まることが予想される(注4)。一方、長期滞在をサポートするため、滞在コストを低下する取組みも求められる(注5)。 (2)海外から人を呼び込む (海外から人を呼び込むことへの期待、海外から来る人の期待)  海外からの人の呼込みは、一人あたりの旅行消費額の大きさを考えると、地域活性化への期待が大きい。さらに、日本人自身が外国人との交流によって新たな価値・機会を得て、日本や地域の良さを再認識するなど、多面的な効果が期待される。  一方、海外の人が抱く日本への期待は様々である。他国からみて、日本を訪れてみたいと思う動機は、国によって差異がある。アジアを中心に全体として、ショッピング、日本食、温泉が上位を占めており、欧米については、歴史的建造物の見学、日本食、伝統文化・工芸の体験となっている。他方で、訪日後に感じた日本の魅力は、アジア・欧米ともに、日本の人々の親切・礼儀正しさの割合が高くなっている。 図表122 国・地域別訪日動機 図表123 国・地域別他国と比べた日本の魅力 (ニーズを踏まえた戦略的な人の呼込み)  日本人が誇りに思うものには自然、文化・歴史などがあるが(注6)、これら日本の魅力、さらには日本人にとってその価値が気づきにくい親切・礼儀正しさも含めた日本人の普段の生活そのものの魅力などを新たな価値・機会として再認識し、他国の人が訪れてみたいと思うような地域づくりに取り組むことが重要である。その際には、相手ごとに日本に求めるものは異なり、また、リピーター比率が違うなど行動パターンにも差異がある中で、マーケティング的な視点にたって、呼び込む国のニーズを踏まえ、地域観光のコンテンツづくり・人材育成に戦略的に取り組むことが求められる。 図表124 観光客比率とリピーター比率  また、地域の魅力は、より効果的に発信することが重要である。  これまでの外国語表記のパンフレット作成等の取組みに加えて、例えば、日本と外国の共同製作映画に対する国内ロケ地探しの支援や、日本文化に関する海外テレビ番組への協力、地域情報をインターネットで発信する取組みなど、日本に興味のない人でも「日本を訪れたい」という思いが生まれるような取組みが重要である(注7)。日本全体のブランドイメージを形づくりつつ魅力を発信することで、より多くの人を呼び込むことが求められる。 図表125 映画の舞台となったことによる外国人観光客の増加(網走市の例(注8))  一方で、その受入れについては、地域に他国から旅行者を呼び込む魅力が地域にあるとの認識や訪日旅行者が増えているとの実感はあるものの、受入れ促進に関する重要性への認識は事業者等において温度差がある状況にある。  また、他国の人からみた訪日の課題として、物価が高いことや言語障壁の問題がある。実際、外国語による案内や情報提供等の対応についても道半ばであり、宿泊施設の外国人の受入れ体制の整備や案内表示の整備、接客等を行う人材の育成などが求められる(注9)。 図表126 訪日外国人旅行者に関する認識 図表127 訪日後の否定的なイメージ  他国からの人の呼込みには、地域活性化の面や、地域資源をグローバルな視点から再発見するきっかけになるなど、多様な意義を見出すことができる。国全体で、他国からの人を“おもてなし”の心で迎える取組みが期待される。 (注1)訪れる人の様々なニーズを背景に、知恵と工夫により、観光資源(自然、歴史、産業、街並み、文化等々)を活かし、また、各地域での体験・学習等の活動を重視して企画・立案・実施される多彩な旅行形態がある。 (注2)国土交通省の調査では、外出先・旅行先の情報の収集に当たってのインターネットの利用について、「インターネットを主な手段とする(54.4%)」人々が最も多く、以下「インターネットもひとつの手段として活用する(36.0%)」、「インターネット以外の手段を活用する(2.7%)」、「該当する行動をしない(6.9%)」となっている。また、インターネットにより、あまり知られていない観光地や、これまで人を呼び込むとは一般に考えられていなかったスポットにも、個人の千差万別な興味に基づき人が集まる場合がある。例えば、アニメやアートに関連するスポットや、さらには、地域の団地、道路、坂、郵便局等の日常の施設等に至るまで、これまで観光の対象として一般的でなかったものも、価値観によっては魅力的なものとなり、人々が訪れることもある。 (注3)自由時間の過ごし方として、参加率(ある活動を1年間に1回以上行った人の割合)については、国内観光旅行が54.5%と高く、また、潜在需要(参加希望率から参加率を引いたもの)については、海外旅行が30.8%と高く、国内観光旅行も20.0%となっている(社会経済生産性本部「レジャー白書2009」)。 (注4)国土交通省の調査では、都市に住んでいる人々は、中長期的・反復的な滞在を実践するとき経験してみたいこととして、のんびりした時間をもつ、豊かな自然の中で過ごすことに関心が高いことがわかっている。 (注5)国土交通省の調査では、課題・障害として最も高かったのは、「滞在施設等、滞在コストがかかる(47.8%)」であることがわかっているが、例えば、地方の空き家を活用して田舎暮らしの場を提供するなどの対応策が考えられる。 (注6)第1章第1節図表20「日本について誇りに思うものの変化」参照。 (注7)フィルムコミッション(ロケ地の提供)、ショートショートフィルムフェスティバルの活用(地域の魅力をショートフィルムで表現し、国内外に発信する)、インターネットの活用などの取組みもみられる。また、ファッションやアニメなどのポップカルチャーについても、日本への興味を引き出すきっかけとなりうる。 (注8)第3章1.(3)3)参照。 (注9)日本文化を理解してもらうという意味では、日本旅館に宿泊してもらう機会を増やす必要もある。外国人観光客は、閑散期や平日における宿泊や、連泊によるチェックイン回数の少なさによるコストの低さなどのプラスの効果も期待されうる。