第1節 東日本大震災の発生 

2 広域にわたる未曾有の被害の概要

 東日本大震災においては、巨大地震や大津波、さらには、引き続く余震等のほか、これらに伴い引き起こされた地盤沈下や液状化、土砂災害や火災等により、被害が極めて広範囲に及び、原発事故の影響も重なった未曾有の複合災害となったことから、被害状況の把握は困難を極め、現時点でもその全容は明らかとなっていない。

(まちの壊滅的な被害)
 大震災では、特に、大津波に見舞われた太平洋沿岸部の多くのまちが無残にも壊滅的な被害を受けた。
 国土交通省が実施した東日本大震災による被災状況調査(8月4日時点)によると、青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉の6県62市町村について、浸水範囲全体約535km2のうち、市街地における浸水範囲は約119km2となっている。また、建築物の多くが全壊(流失を含む)の区域は約99km2、建築物の多くが大規模半壊、半壊の区域は約58km2となっている。関東大震災の焼失面積が約35km2、阪神・淡路大震災の土地区画整理事業実施面積が約2.6km2であったことと比べると、市街地の被災状況の甚大さが際立っている。さらに、建築物の被災状況と浸水深の関係をみると、浸水深2m前後で被災状況に大きな差があり、浸水深2m以下の場合には建築物が全壊する割合は大幅に低下する傾向が確認された。
 市町村別にみると、岩手県の野田村や陸前高田市、宮城県の南三陸町や東松島市において、市街地の8割以上に浸水による被害がみられるなど、壊滅的な被害が広がっている。
 
図表17 東日本大震災前後における壊滅的な被害を受けた市街地の状況
図表17 東日本大震災前後における壊滅的な被害を受けた市街地の状況

 
図表18 東日本大震災における地域ごとに異なるまちの被害の状況
図表18 東日本大震災における地域ごとに異なるまちの被害の状況

 
図表19 東日本大震災における津波による市街地での浸水規模
図表19 東日本大震災における津波による市街地での浸水規模

 なかでも、三陸沿岸地域では、これまでにも1896年の明治三陸地震津波や1933年の昭和三陸地震津波、1960年のチリ地震津波等によって甚大な被害が繰り返され、その教訓を活かし防災訓練や防災教育が熱心に実施され、住民の間でも高い防災意識が共有されてきた地域であった。しかしながら、今般の大津波は、過去の被災の程度を上回り、家屋やビル、船舶や自動車等をのみ込んでしまった。
 まち全体が壊滅的な被害を受けたところでは、宮城県南三陸町で町役場自体が大津波により流出するなど、本来災害対策の最前線を担う地方自治体の機能が大きく被災し、被害状況の把握、迅速な救急救助活動等が困難となる状況に陥った。

(甚大な人的被害と広域にわたる避難者)
 今般の大震災では、死者数が12都道県にわたり15,690名にも及び(8月11日時点)注1、阪神・淡路大震災を大きく上回る戦後最大の犠牲者をもたらした。行方不明者も4,735名が報告されているが、依然として全容把握には至っていない。
 このうち、岩手、宮城、福島の3県の太平洋沿岸市町村で、死者・行方不明者の99%超が集中しており、大津波による被害の甚大さを物語っている。
 
図表20 東日本大震災における被災地別の死者・行方不明者数
図表20 東日本大震災における被災地別の死者・行方不明者数

 
図表21 我が国における明治以降の地震・津波被害
図表21 我が国における明治以降の地震・津波被害
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図表22 1900年以降の世界の主な地震・津波被害
図表22 1900年以降の世界の主な地震・津波被害
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図表23 大震災における犠牲者の死因割合
図表23 大震災における犠牲者の死因割合
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 また、死者のうちの54%を65歳以上の高齢者が占めており、高齢化が進む地域にあって、短時間で押し寄せてきた大津波からの避難が困難であったこともあり、災害時要援護者の犠牲が拡大した。
 
図表24 東日本大震災における主な被災地の高齢化率と被災者に占める高齢者割合
図表24 東日本大震災における主な被災地の高齢化率と被災者に占める高齢者割合
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 また、地震や津波により住宅を失った方のみならず、原発事故の影響も重なり、広範囲にわたり多数の避難者が発生した。震災後3日目(3月14日)には最大46万8千人の避難者が報告され、阪神・淡路大震災のピーク時の約1.5倍にも及んだほか、避難所数でも2倍以上に広がった。
 なかには、大津波により壊滅的な被害を受けた宮城県南三陸町では、住民の希望に応じて町外の周辺地方自治体に集団避難したり、また、原発事故による避難指示等が示された福島県双葉町では、人口の約2割に当たる約1,400人の住民が役場の機能とともに埼玉県に集団避難したりするなど、周辺の8町村で役場機能を移転し、市町村外や県外にまで広く全47都道府県に分散して避難する事態となった。
 震災から4ヶ月以上過ぎた7月28日時点においても、約5万2千名の方が避難施設等での生活を余儀なくされている注2
 
図表25 東日本大震災における避難者数の推移(発災後1ケ月間の阪神・淡路大震災との比較)
図表25 東日本大震災における避難者数の推移(発災後1ケ月間の阪神・淡路大震災との比較)
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図表26 東日本大震災における長期・広域に及ぶ避難者の状況
図表26 東日本大震災における長期・広域に及ぶ避難者の状況
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図表27 福島県における被災者の避難状況
図表27 福島県における被災者の避難状況
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(住宅・インフラ等の被害)
 大震災による物的な被害については、電気・ガス・水道・情報通信等のライフラインの途絶のほか、住宅・建築物や国土保全、交通、生活関連のインフラ等にも甚大な被害が発生した。
 以下、被害の概略を示すが、大津波により壊滅的な被害を受けた地域や住民の避難指示等が出された東電福島原発周辺地域では一部詳細な被害状況が把握できていない。

i)住宅・建築物・宅地の被害
 大震災により全壊した住家は112,975棟、半壊は145,375棟、一部破損は539,899棟となっている注3
 非住家の建築物においても、45,416戸に被害が及んでおり注4、役場や学校、病院等の公共施設も大きな被害を受けた。
 特に大津波により壊滅的な被害を受けた宮城県南三陸町では、住宅の6割以上が全壊するなどの被害が報告されている。
 また、今般の大震災では、津波による建築物の流失や崩壊のほか、各地で体育館や空港等の大規模な空間を有する建築物において天井の落下が発生した。
 なお、余震等による二次災害を防止するため、被災した建築物の倒壊の危険性や外壁の落下等の危険性を判定する被災建築物応急危険度判定が10都県149市町村において95,381件実施され、その結果、立ち入りが「危険」と判定された建築物は11,699件、「要注意」と判定された建築物は23,191件にのぼった(8月11日時点)。
 
図表28 東日本大震災における住宅の地域別の被害状況
図表28 東日本大震災における住宅の地域別の被害状況

 また、本震での強く長い揺れや頻発する余震により、大規模盛土造成地を中心に滑動崩落による被害が相次いだ。9県56市町村において実施された被災宅地危険度判定調査(6,531件)の結果、擁壁倒壊の危険があるなどにより「危険」と判定された宅地は1,456件、「要注意」と判定された宅地は2,209件に及んだ(8月7日時点)。特に、丘陵地の斜面等における比較的造成年代の古い盛土構造の宅地で滑動崩落が多発し、住民の多くが避難生活を余儀なくされた。

 さらに、東京湾岸地域を含め、東北から関東にかけての広い範囲で液状化現象が発生した注5。埋め立て地など、従来から液状化が起こりやすい地域として認識されていた地域のみならず、利根川沿いを始め、埼玉県や千葉県等の内陸部でも液状化による被害が発生した。これにより、地盤がゆるみ、住宅が傾くなどの被害が多数発生した注6
 
図表29 東日本大震災における液状化被害の状況
図表29 東日本大震災における液状化被害の状況

 
図表30 東日本大震災における液状化による被害箇所(千葉県の例)
図表30 東日本大震災における液状化による被害箇所(千葉県の例)

ii)海岸・河川の被害と土砂災害の状況
 巨大地震に伴う地殻変動により、仙台平野の海岸、平地部を始め、広範な地盤沈下が発生した注7。例えば、仙台平野では、平均海面以下の面積が16km2と5.3倍増加、大潮の満潮位以下の面積は56km2と1.8倍増加、また、既往最高潮位以下の面積が111km2と1.3倍増加した注8。これに加え、海岸堤防の損壊や海岸沿いの砂丘の侵食等により、高潮等に対する安全性が著しく低下した。
 
図表31 東日本大震災による仙台平野における地盤沈下の状況
図表31 東日本大震災による仙台平野における地盤沈下の状況

 海岸については、岩手、宮城、福島の3県の海岸(堤防護岸延長約300km)について、ヘリ空撮映像等をもとに概略調査したところ、約190kmで堤防の全壊・半壊が確認された。
 三陸沿岸地域では、過去の大津波の浸水深を基準に海岸堤防の高さが計画され、整備が進められてきた。また、仙台平野から福島県にかけての太平洋沿岸地域では、想定される高潮を基準に海岸堤防の高さが計画され、整備が進められてきた。今般の大津波では、堤防付近で測定された津波の痕跡高と比べてみると、岩手県の普代海岸等のごく一部を除くほとんどすべての海岸において、堤防の高さを大きく上回る大津波が押し寄せたとみられ、そのすさまじい外力によって堤防が損壊した。
 
図表32 東日本大震災における海岸の被害状況(仙台湾南部海岸)
図表32 東日本大震災における海岸の被害状況(仙台湾南部海岸)

 
図表33 計画堤防天端高の設定根拠と東日本大震災での津波による痕跡の高さ
図表33 計画堤防天端高の設定根拠と東日本大震災での津波による痕跡の高さ

 河川については、堤防決壊や大規模崩落等により、北上川、利根川等の直轄管理河川で2,115箇所の損傷を受けた。県・市町村管理河川では、1,360箇所の被害が報告されている。河川堤防の被災が多数発生し、広範囲にわたった要因としては、東北地方の太平洋側で今般の地震動の加速度が大きかったことに加え、東北・関東地方で地震動の継続時間が長かったことも影響している。また、被災メカニズムとして、主に想定していた基礎地盤が液状化したことによる変状に加え、これまであまり想定されてこなかった堤体が部分的に液状化したことによる変状と推測される事例も多数確認されたことから、今後、今回の知見を踏まえた耐震性能の照査及び対策工の実施について検討する必要がある。
 
図表34 東日本大震災における河川の被害状況
図表34 東日本大震災における河川の被害状況

 今般の大震災では、土砂災害が、岩手、宮城、福島等12県において136件発生(死者19名)したほか、多数の山腹崩壊が確認された。
 
図表35 東日本大震災における土砂災害の発生状況(福島県白河市葉ノ木平)
図表35 東日本大震災における土砂災害の発生状況(福島県白河市葉ノ木平)

iii)交通インフラ等の被害
 道路では、道路橋の流出や法面崩落等により、高速道路15路線、直轄国道69区間、都道府県等管理国道102区間、県道等540区間が通行止めとなった注9。特に、宮城県仙台市から三陸沿岸地域を縦走する国道45号を始め、東北地方を中心に太平洋側一帯沿岸部における道路の被災が激しく、国道、県道等多くの区間で通行不能となった。
 
図表36 東日本大震災における道路の被害状況
図表36 東日本大震災における道路の被害状況

 鉄道では、東北、秋田、山形新幹線の被災のほか、特に太平洋沿岸の路線では駅舎や線路等が流出するなど甚大な被害を受け、震災発生から48時間後の3月13日15時時点で22事業者64路線で運転休止となった。内陸部を走る東北新幹線や東北線は、4月中までに全線で運転が再開された一方、沿岸部の路線については、一部を除き依然として復旧の見通しが立っていない。
 新幹線については、阪神・淡路大震災や新潟県中越地震による被災等を踏まえ、高架橋等の土木構造物の耐震基準の強化や既存構造物の耐震補強、列車を緊急的に停車させるシステムの導入、脱線被害を軽減させる装置等の導入といった対策が講じられてきており、電化柱の折損や架線の切断があったものの、乗客等の人的被害や高架橋の崩壊等の深刻な被害は免れた。
 
図表37 東日本大震災における鉄道の被害状況
図表37 東日本大震災における鉄道の被害状況

 
図表38 大規模地震による新幹線の被害
図表38 大規模地震による新幹線の被害
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 港湾では、青森県八戸市から茨城県まで、11の国際拠点港湾及び重要港湾を含む、太平洋側のすべての港湾において、防波堤、係留施設、荷役機械等の港湾施設に甚大な被害が発生した。また、航路、泊地等の水域施設に、津波によるコンテナ、完成自動車、がれき等の浮遊・堆積又は土砂による埋塞が生じた。このため、被災地域のすべての港湾機能が停止し、応急復旧までの間、被災エリアのみならず東北一円の生活・産業に必要な物資が入ってこない状況が生じた。
 また、船舶の安全な航行を確保する灯台等の航路標識も156基が倒壊、流出等の被害を受けた(8月11日時点)。
 
図表39 東日本大震災における港湾の被害状況
図表39 東日本大震災における港湾の被害状況

 空港については、仙台、花巻、福島、茨城の4空港が被災した。このうちターミナルビルの天井が落下した花巻空港と茨城空港、管制塔のガラスが全壊した福島空港は、いずれも震災発生の当日中に運用を再開した。
 一方、仙台空港は、大津波で冠水し、滑走路、誘導路、エプロン等に車両2,000台以上が漂着したほか、土砂やがれきが広範囲に広がり、また、管制塔や旅客ターミナルビル等に設置している機械設備や発電設備等の電気機器が浸水するなど極めて甚大な被害を受けた。旅客や避難した地域住民、職員等約1,400名が一時孤立状況となり、避難・救出完了までに約2日を要した。
 また、仙台空港への主要なアクセス手段である仙台空港アクセス鉄道は、空港トンネルの冠水や運行管理設備の浸水等の激しい被害を受けた。そのため、仙台空港は4月13日に民航機の就航が再開したものの、美田園・仙台空港間では代行バスでの輸送が続いている。
 
図表40 東日本大震災における仙台空港の被害状況
図表40 東日本大震災における仙台空港の被害状況

 
図表41 東日本大震災における仙台空港アクセス鉄道の被害状況
図表41 東日本大震災における仙台空港アクセス鉄道の被害状況

 公共交通を支えるバス事業については、岩手、宮城、福島の3県の被災地の事業者において、合計219車両の滅失、流出等の被害が生じたほか、社員や社屋等が被災した。これにより路線バス、高速バスともに多数の運休が発生し、特に路線バスについては、震災から約1ヶ月半後の4月28日時点においても、岩手県沿岸地区、福島県沿岸地区でともに26%、宮城県沿岸地区で19%の路線で運休が生じた。また、震災直後の燃料不足により、被災地域以外のバス事業者においても運行本数の削減を余儀なくされた。

iv)生活インフラの被害
 ライフラインである下水道については、震災当初、東北地方の太平洋沿岸を中心とする広範囲にわたる計48箇所の下水処理場において津波の浸水等により稼働停止したほか、63箇所の下水処理場において施設損傷した。なお、東電福島第一原発周辺の9箇所の下水処理場では被災状況の確認ができない状況となっている。また、下水管についても、1都10県で550kmに及ぶ被害が発生し注10、阪神・淡路大震災における2府県162kmを大きく上回る規模となった。
 
図表42 東日本大震災における下水道施設の被害状況
図表42 東日本大震災における下水道施設の被害状況

 都市公園については、海岸沿いの樹林帯により漂流物の内陸への流入を阻止したり、高台にある場合には避難地として機能を発揮したところがある一方、津波により、都市公園として整備・管理している海岸沿いの樹林帯の多くが喪失するなどの被害が生じた。このため、今後の津波対策として、津波災害に対し減災効果を発揮する樹林帯の整備手法や、迅速に避難することのできる避難地・避難路等の効率的な配置手法等について検討が必要となっている。

(東京圏における大震災の影響)
 東日本大震災では、本震の震源から300km以上離れた東京でも震度5強を観測するなど、大きな揺れは東京圏にも少なからぬ影響を及ぼした。
 平日の午後に発生した地震により、東京圏の鉄道各線で、広範囲にわたる線路点検や復旧作業が行われたのを始めとして、公共交通機関が運行停止したことなどから、東京都心部を中心に多数の帰宅困難者が発生した。
 首都直下地震が発生した場合にも膨大な数の帰宅困難者の発生が想定されており、会社や買い物先等の外出先にいる人々が一斉に徒歩帰宅を開始した場合には、歩道が満員電車状態となり集団転倒が起こるなど、非常に危険な状況になる可能性がある。このため、むやみに移動を開始せず、まず落ち着いて正確な情報の収集を行うことが望ましい行動とされている。
 このため、今回も、政府により無理な帰宅は抑制するよう呼びかけが行われた。また、公共施設等が帰宅困難者の収容場所として開放され、毛布の提供等が行われたほか、首都直下地震による帰宅困難者対策が進められていた民間ビル等において従業者に限らず買い物客等へのスペースの提供等が行われたところもみられた。
 しかしながら、多くの事業所や商業施設等を含め、必ずしもこうした対応が徹底されていたとはいえず、鉄道の運休に伴い、都心等での通勤・通学者や買い物客等が徒歩やバス等で帰宅するために、駅周辺や道路にあふれ出した。
 また、東北地方のほか、東京等15都道県の少なくとも210台のエレベータで閉じ込めが発生し、震災翌日の3月12日正午までに全員救出された。
 首都直下地震の発生時に想定されているこうした大都市における地震対策の課題が今回改めて浮き彫りとなった。
 
図表43 東日本大震災における帰宅困難者の受入れの状況
図表43 東日本大震災における帰宅困難者の受入れの状況

 また、原発事故等による東電管内の電力供給不足は、東京圏を始めとする地域における各方面の経済社会活動に大きな影響を及ぼした。
 東電管内では、電力供給不足による大規模停電を回避するため、広く節電を呼びかけるとともに、3月14日より、地域ごとに事前に停電を行う計画を立て、需要の抑制を図る計画停電が実施された。計画停電の実施当初は、実施発表が直前となったことなどもあり、東京圏の鉄道の大半の路線で運休や相当な運行本数の削減が行われ、通勤・通学の足に大きな影響を及ぼした。このため、経済産業省、東電、鉄道会社と連携・協力しつつ、変電所の運用やダイヤ編成等の工夫を行った。その結果、多数の路線において、運行区間やダイヤの改善が図られた。

(経済活動への深刻な影響)
 東日本大震災による経済的な被害の正確な把握は困難な状況にあるが、内閣府では、建築物、ライフライン施設、社会基盤施設等のストックの被害額を約16兆9千億円と推計している注11。これは、阪神・淡路大震災における被災地の直接被害額の試算約10兆円を大きく上回っている。
 大震災では、こうした直接的な被害のみならず、工場等の損壊やサプライチェーンの途絶等による企業の生産減といった間接的な経済被害をもたらしている。また、原発事故による電力供給不足や計画停電の影響、放射性物質の外部放出による農水産物被害、さらには風評被害など、被災地以外の国内のみならず海外にまで各方面で経済活動への深刻な影響をもたらしている。
 
図表44 東日本大震災前後における各種経済指標の変化
図表44 東日本大震災前後における各種経済指標の変化
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 大震災による港湾や空港の直接的な被害に加え、原発事故による風評被害が重なり、国際交通の分野にも大きな影響が生じている。
 海運では、震災前には全国の取扱貨物量の7%、貿易額の3%を占め、東北地方の生活・産業を支える重要な基盤となっていた太平洋沿岸の港湾11港(国際拠点港湾及び重要港湾)が、被災によりその役割を担うことが困難な状況となっている。特に、企業間のサプライチェーンの被災により被災地以外の経済活動にも大きな支障が生じており、一地方のインフラの被災にとどまらない広範な影響を及ぼしている。
 こうした状況の中、東北や北関東に寄港する基幹となる外貿定期コンテナ航路や東北地方と京浜港を結ぶ内航フィーダー航路が休止した。また、風評被害の影響として、コンテナ航路において外国船社を中心に京浜港の寄港の取りやめといった事例も発生した。その一方で、日本海側の秋田港、新潟港を経由して韓国の釜山港とつながるルートへの変更がなされた。
 これにより、被災した港湾のみならず、2010年8月に国際コンテナ戦略港湾に指定されたばかりの京浜港においても、東日本地域の国際コンテナ貨物が釜山港等に流出してしまう状況に直面しており、被災した港湾の機能回復が遅れると、日本の産業・経済全体に大きな影響が及ぶこととなる。
 また、国際航空についても、一部の外国航空会社に成田・羽田便を中心とした欠航・経路変更の動きが生じた。
 阪神・淡路大震災でも当時世界有数の港湾であった神戸港が被災により国際的地位が低下し、回復が困難となった注12ことからも、大震災や風評被害に起因するこうした国際的な物流・人流の変化による我が国経済に与えるマイナスの影響が懸念される。
 
図表45 東日本大震災前後における東北・北関東地方の港湾に寄港する定期航路の状況(外貿定期コンテナ航路)
図表45 東日本大震災前後における東北・北関東地方の港湾に寄港する定期航路の状況(外貿定期コンテナ航路)

 
図表46 東日本大震災前後における成田・羽田空港での出入国者数の変動状況
図表46 東日本大震災前後における成田・羽田空港での出入国者数の変動状況
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 観光面でも、海外からの訪日旅行のキャンセルや日本人の旅行自粛が相次いでいる。2011年3月、4月の訪日外客数は前年同月比で、それぞれ約36万人減(50%減)、約49万人減(63%減)となり、2ヶ月連続で過去50年間の減少幅の記録を更新した注13
 また、観光庁が調査したところ、3月から4月にかけて、東北地方では61%、関東地方では48%、全国でも36%の宿泊予約のキャンセルが報告されており、大震災に関連した旅館やホテルの倒産・休廃業が相次ぐなど、観光関連産業にも大きな影響を及ぼしている。
 
図表47 東日本大震災前後における訪日外国人数・出国日本人数の推移
図表47 東日本大震災前後における訪日外国人数・出国日本人数の推移
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注1 余震である4月7日の宮城県沖を震源とする地震、同11日及び同12日の福島県浜通りを震源とする地震による犠牲者を含む。
注2 内閣府調べによる住宅等への入居者を除く避難者数。避難所の避難者数については、警察庁により、震災直後から参考数値が毎日発表されていたが、内閣府において、6月2日時点より2週間毎に各地方自治体の協力を得て避難者等の所在都道府県別・所在施設別の数が把握・公表されている。
注3 消防庁調べ(8月11日時点)。
注4 警察庁調べ(8月11日時点)。
注5 液状化による被害は、東北から関東にかけての1都8県(岩手県、宮城県、福島県、茨城県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)で確認されている。うち、宅地の液状化被害は、岩手県北上市、茨城県利根町・潮来市、埼玉県久喜市のほか、千葉県の10市6町において確認されている(8月8日時点)。
注6 東日本大震災では、地盤の液状化による住家被害が多数発生したため、従来の住家被害認定の基準の運用指針について、内閣府により5月2日に見直しが行われた。
注7 国土地理院が岩手県、宮城県、福島県の太平洋沿岸の一部において緊急の地盤沈下調査を実施したところ、20cmから大きいところでは80cmを超える地盤沈下が確認された(岩手県陸前高田市84cm、宮城県石巻市78cm等)。
注8 国土交通省において、航空レーザ計測等により得られたデータより仙台平野の地盤高を把握し、海面との高さの関係を整理して、4月28日に発表したもの。平均海面は東京湾平均海面(T.P.±0m)、大潮の満潮位は朔望平均満潮位(T.P.+0.7m)、既往最高潮位は仙台新港験潮所1980-2010年の統計値(T.P.+1.6m)。
注9 4月7日の宮城県沖を震源とする地震、同月11日の福島県浜通りを震源とする地震による被災を含む。
注10 テレビカメラでの調査による。
注11 内閣府において、各県及び関係府省からのストック(建築物、ライフライン施設、社会基盤施設等)の被害額に関する提供情報に基づき取りまとめ、6月24日に公表したもの。今後、被害の詳細が判明するに伴い、変動がありうる。原子力事故による被害は含んでいない。
注12 神戸港のコンテナ取扱個数は、阪神・淡路大震災前の1994年には世界第6位(日本では1位)であったが、1995年には23位に大きく低下し、2009年においても46位となっている。
注13 これまでの最大は、1971年8月の42%減。


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