1 災害に強い安全な国土づくり・危機管理に備えた体制の充実強化
(1)水害対策
我が国の大都市は洪水時の河川水位より低い低平地に位置しており、洪水氾濫に対する潜在的な危険性が極めて高い。これまでに洪水を安全に流下させるための河道の拡幅、築堤、放水路の整備や、洪水を一時的に貯留するダムや遊水地等の治水対策を進めてきたことにより、治水安全度は着実に向上してきているが、海外の先進国と比較すると、目標とする安全度や施設等の整備率は、依然として低い状況にある。
また、過去30年では、1時間降水量50ミリを超えるような大雨の発生回数が増えており、平成22年には、7月の梅雨前線による大雨や10月の前線による奄美地方の大雨等において1時間降水量80ミリを超える猛烈な雨が降り、各地で甚大な被害が生じた。このため、災害を未然に防ぐための治水施設の整備と併せて、万が一災害が発生した場合にも被害を最小にとどめるための減災対策を進めている。
図表II-6-2-1 平成12年〜21年 水害・土砂災害の発生件数
図表II-6-2-2 1時間降水量50mm以上の年間発生回数(1,000地点あたり)
図表II-6-2-3 首都圏の土地利用の状況
図表II-6-2-4 治水安全度等の国際比較
1)予防的な治水対策
水害が発生すると、多くの人命・財産が失われ、地域の経済活動に甚大な影響を与えるだけでなく、被災地の復旧・復興にも多大な時間と費用を要する。このため、水害を未然に防ぐために河川整備基本方針及び河川整備計画に基づき、築堤、河道掘削、放水路等の治水施設の整備を計画的に実施している。また、既存ダムの再開発や複数ダムにおける容量再編等により既存施設の有効活用にも取り組んでいる。さらに、既設の堤防については、洪水時における浸透破壊や侵食に対して安全性が不十分なものについては、強化対策を推進している。
堤防、洪水調節施設等の整備
2)水害の再発防止対策
近年、甚大な水害を受けた地域においては、同規模の洪水で再び被災することがないよう、河川の流下能力を向上させるための河道掘削や築堤等の実施、内水氾濫を防ぐための排水機場の整備等の対策を短期集中的に実施し、洪水への不安解消に努めている。
3)洪水氾濫が発生した場合の減災対策
治水施設の整備は長時間を要し、整備途中で災害が発生する危険性がある。そのため、河川が氾濫した場合にも被害を最小限にする減災対策を推進するために、輪中堤や二線堤等の整備、ハザードマップの整備、水位・雨量情報、洪水予測等の防災情報の高度化を図るなど、ハード・ソフト一体となった対策を地方公共団体等と協力して推進している。
4)内水対策
内水氾濫による浸水を排除し、都市の健全な発達を図るため、下水管や排水機場等の整備を進めている。しかしながら、近年の計画規模を大きく上回る集中豪雨の多発、都市化の進展による雨水流出量の増大、人口・資産の集中や地下空間利用の拡大等による都市構造の高度化等により都市部における内水氾濫の被害リスクが増大している。このため、「下水道浸水被害軽減総合事業」や「総合内水対策緊急事業」等を活用し、地方公共団体・関係住民等が一体となって、雨水流出抑制施設を積極的に取り入れるなどの効率的なハード対策に加え、降雨情報の提供、土地利用規制や内水ハザードマップの作成等のソフト対策、止水版や土のう等の設置や避難活動といった自助の取組みを組み合わせた総合的な浸水対策を推進している。
5)流域一体となった総合的な治水対策の推進
地域全体で雨水の流出抑制を目的とした、貯留・浸透に取り組むことが重要であり、「流域貯留浸透事業」等により、地域の関係主体が一体となって、雨水の流出抑制や民間による被害軽減対策を推進している。さらに、都市部において浸水による都市機能の麻痺や地下街の浸水被害を防ぐため、河川管理者、下水道管理者及び地方公共団体が協働し、「特定都市河川浸水被害対策法」に基づく流域水害対策を推進している。
6)計画規模を上回る集中豪雨等への対応
1時間に50ミリ、100ミリを超えるような局地的な大雨に対して、国民が安心して暮らせるよう、河川管理者が実施する河川整備や調節池等の対策、下水道の整備、道路等の関係者及び住民が行うべき住宅敷地内への貯留浸透施設の設置等地域ごとの集中的な対策と役割分担を定めた「100ミリ/h安心プラン(仮称)」を策定し、地域における総合的な豪雨対策を推進している。
図表II-6-2-5 100ミリ/h安心プラン(仮称)概念図
7)大都市の壊滅的被害の防止
流域に人口・資産等が高密度に集積している荒川、淀川等の大河川において、堤防拡幅等による堤防強化対策を推進している。
8)河川の適切な維持管理
整備された河川管理施設等が洪水時等に本来の機能を発揮することができるよう、河川や施設等の状況を把握し、その変化に応じた適切な維持管理を実施している。また、今後、老朽化した堰や水門、排水機場等の河川管理施設数が増加することから、河川維持管理計画に基づく計画的な維持を推進するとともに、施設の長寿命化を図っていく。
9)河川情報の提供
洪水等による被害を軽減するために、「川の防災情報」において、国民向けに水位・雨量、洪水予報、水防警報等の河川情報をリアルタイムで堤供している。大河川では、洪水予報河川を指定し、洪水予報(はん濫注意情報・はん濫警戒情報等)の周知等を行っており、主要な中小河川は、避難勧告発令の目安となる避難判断水位(特別警戒水位)への到達情報の周知等を行う水位周知河川(水位情報周知河川)として指定している。平成22年12月末現在、洪水予報河川は405河川、水位周知河川は1,503河川が指定されている。また、22年3月末までに3大都市圏等(関東、北陸、中部、近畿)に、XバンドMP(マルチパラメータ)レーダ注1を設置し、同年7月にはインターネットを通じて、従来より詳細かつリアルタイムの降雨観測情報の提供を開始したほか、九州全域において地上デジタル放送による水位・雨量情報の提供が開始されるなど、きめ細やかな河川情報の提供を推進している。
さらに、「水防法」に基づき、市町村が災害時要援護者関連施設への洪水予報等の伝達方法を策定するに当たり、都道府県と連携して支援を行っている。23年3月現在、549市区町村において対象となる災害時要援護者施設を市町村地域防災計画に定めている。
図表II-6-2-6 わかりやすい防災情報の提供
10)水防体制の強化
水防団等の技術力の向上を図るため、市町村等の要請を受けて水防訓練・講習会等に水防専門家を派遣する「水防専門家派遣制度」に基づき、水防技術の指導者が不足する市町村等においても、専門的な技術指導を受けることができるよう支援しており、平成22年度は、全国25箇所に50名を派遣している。
(2)ダム事業の検証
平成22年9月に、全国の83のダム事業(84施設)を対象として、国土交通大臣から検討主体(関係各地方整備局等、(独)水資源機構、関係各道府県)に対し、ダム事業の検証に係る検討を行うよう、指示又は要請を行った。これは、「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」における討議を経て、取りまとめた「中間とりまとめ」を踏まえて、指示又は要請を行ったものであり、あわせて、検討の手順や手法を定めた「ダム事業の検証に係る検討に関する再評価実施要領細目」を通知した。これらに基づき、各検討主体において、「関係地方公共団体からなる検討の場」の設置、複数の治水対策案の立案、各評価軸による評価等が進められている。
(3)土砂災害対策
我が国では、集中豪雨や地震等に伴う土石流、地すべり、がけ崩れ等の土砂災害が、過去10年(平成13年〜22年)の年平均で約1,000件以上発生しており、多大な被害が発生している。このため、特に対策の必要な重点箇所に対する砂防施設整備や、自助、共助、公助による安全かつ的確な警戒避難体制の整備等、土砂災害による犠牲者を減らすための、ハード・ソフト一体となった効率的な土砂災害対策を推進している。
1)根幹的な土砂災害対策
荒廃した山地を源流域に持つ河川は、そこから流れ出す土砂により、流域全体にわたり甚大な被害をもたらすおそれがある。このような土砂災害から国土を保全し人命保護を図るため、砂防関係施設の整備を推進している。
2)土砂災害発生地域の緊急防災対策
土砂災害発生箇所及び周辺地域を含めた集中的な砂防関係施設の整備により、近年、甚大な土砂災害が発生した地域の再度災害防止対策を推進している。
3)災害時要援護者を守る土砂災害対策
病院、老人ホーム、幼稚園等の災害時要援護者関連施設が存在する危険箇所について、砂防堰堤等の土砂災害防止施設を重点的に整備している。
また、「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律(土砂災害防止法)」に基づき、土砂災害特別警戒区域等内への災害時要援護者関連施設等に係る開発行為の制限等を実施している。
図表II-6-2-7 土砂災害による死亡・行方不明者に占める災害時要援護者の割合(平成18〜22年)
4)都市山麓における土砂災害対策
都市域における土砂災害に対する安全性を高め、緑豊かな都市環境を創出するため、市街地に隣接する山麓斜面に一連の樹林帯(グリーンベルト)を形成することを推進している。平成22年度は、六甲地区(兵庫県)等13地区において実施している。
5)里地里山地域における土砂災害対策
里地里山地域においては、荒廃流域を復元するとともに、斜面からの土砂流出を抑制するための対策を推進し、自然環境や生物多様性の保全を図っている。
6)土砂災害防止法の推進
(ア)土砂災害警戒区域等の指定の推進
「土砂災害防止法」に基づき、土砂災害が発生するおそれのある土砂災害警戒区域を指定し、当該区域における警戒避難体制の整備を図るとともに、著しい土砂災害が発生するおそれのある土砂災害特別警戒区域において、特定の開発行為の制限、建築物の構造規制等のソフト対策を講じている。また、警戒避難体制の構築やハザードマップの作成のためのガイドラインや事例集を示し、市町村の土砂災害に対する警戒避難体制やハザードマップの整備を促進している。
(イ)危険住宅の移転の促進
崩壊の危険があるがけ地に近接した危険住宅については、がけ地近接等危険住宅移転事業の活用等により移転が促進されている。平成22年度は、この制度により危険住宅35戸が除却され、危険住宅に代わる住宅15戸が建設された。
7)大規模な土砂災害への対応
河道閉塞(天然ダム)、火山噴火に伴う土石流、地すべり等といった大規模な土砂災害が急迫している状況において、市町村が適切に住民の避難指示の判断等を行えるよう、平成23年5月から改正「土砂災害防止法」を施行し、国及び都道府県が緊急調査を行い、その結果に基づき、土砂災害が想定される土地の区域及び時期の情報を市町村に提供することなどにより、土砂災害から国民の生命・身体の保護を図ることとしている。
8)土砂災害警戒情報の発表
大雨による土砂災害のおそれがある時に、市町村長が避難勧告等を発令する際の判断や住民の自主避難の参考となるよう、土砂災害警戒情報を都道府県と気象庁が共同で発表し、都道府県消防防災部局等を通じて市町村等に提供している。
図表II-6-2-8 土砂災害警戒情報
(4)火山砂防対策
1)活発な火山活動に伴う土砂災害への対策
噴火等の活発な火山活動に伴う火山泥流や土石流等の広域的かつ大規模な土砂災害への対策として、砂防堰堤等の整備を実施している。桜島では、平成21年より活発な噴火活動が続いており、弱い降雨強度及び少ない連続雨量でも土石流が発生する傾向があるため、継続的に監視・観測及び砂防堰堤の除石等を実施している。また、浅間山では中規模噴火がいつ発生してもおかしくない状況であり、今後、噴火活動が活発化した場合に必要な緊急対策を円滑に行うための調査を22年度から実施している。さらに、火山ハザードマップについては、火山活動による社会的影響の大きい36火山を公表している。
桜島の噴火状況(平成21年10月)
2)火山噴火緊急減災対策砂防計画の策定
火山噴火時の土砂災害による被害を軽減するため、関連機関と連携して火山ごとに、緊急ハード対策の施工やリアルタイムハザードマップによる危険区域の設定等の緊急対応等、ハード・ソフト対策からなる火山噴火緊急減災対策砂防計画の策定を推進している。
3)気象庁における取組み
火山噴火災害の防止と軽減のため、全国4箇所の火山監視・情報センターで全国の火山活動を24時間体制で監視し、噴火警報等の迅速かつ的確な発表に努めている。平成22年度末には、火山噴火予知連絡会で監視・観測体制の充実等が必要とされた47火山について常時観測体制を整備するとともに、噴火警戒レベルを新たに新潟焼山、焼岳、伊豆東部火山群の3火山に導入し、計29火山の噴火警戒レベルを発表している。
4)海上保安庁における取組み
海底火山の噴火の前兆として、周辺海域に認められる変色水等の現象を観測し、航行船舶に情報を提供している。また、海底火山噴火予知の基礎資料とするため、総合的な調査を実施し、海域火山基礎情報の整備を行っている。さらに、火山噴火の予知に資するため、南関東の離島において、GPSにより島しょ等の動きを監視している。
5)国土地理院における取組み
(ア)火山活動観測・監視体制の強化
全国の活動的な火山において、電子基準点(GPS連続観測施設)、光波測距連続観測装置(APS)等の火山変動測量やGPS火山変動リモート観測装置(REGMOS)等による機動観測を実施し、地殻の三次元的な連続監視を行っている。平成23年1月から本格的なマグマ噴火が始まった霧島山(新燃岳)においても火山活動の監視を行っている。また、陸域観測技術衛星「だいち」を用いて火山活動、地すべり及び地盤沈下に伴う地殻変動を面的に把握している。
(イ)火山噴火等に伴う自然災害に関する研究等
GPS、干渉SAR注2による地殻変動観測により火山活動の発生メカニズムを解明するとともに、観測と解析の精度を向上する研究を行っている。
図表II-6-2-9 GPS連続観測が捉えた日本列島の動き
(5)津波・高潮・侵食等対策
1)津波・高潮対策の推進
インド洋大津波や米国のハリケーン・カトリーナによる大規模な被害を受けて、海岸堤防整備等のハード対策や津波警報等の迅速かつ的確な発表等のソフト対策を合わせた総合的な津波・高潮対策を推進している。また、一部の津波・高潮対策や海岸保全施設の老朽化対策について、平成22年度においては、社会資本整備総合交付金により整備されている。さらに、全国の「港則法」の特定港(84港)を中心に「船舶津波対策協議会」を設置しており、関係機関の協力の下、各港において船舶津波対策の充実を図っている。
2)高波災害への対応
平成20年2月の富山県等における激しい高波による浸水被害等の発生を受け、災害発生のメカニズムの検証や今後の対策のあり方等の検討を行い、ハード・ソフト両面にわたる高波災害対策に係る考え方を踏まえ、離岸堤等の設置や水防警報海岸の指定の促進等、関連施策を推進している。
3)海岸侵食対策の推進
土砂供給量の減少、各種構造物の設置等による沿岸方向の土砂の流れの変化等、様々な要因により全国各地で海岸侵食が生じ、特に近年は早いペースで侵食が進行している。河川、海岸、港湾、漁港等の各事業者と連携し、異常堆積土砂の除去対策と併せ海岸侵食対策を推進している。
4)津波・高潮にかかる防災情報の提供
津波による災害の防止・軽減を図るため、全国の地震活動を24時間体制で監視し、津波警報、津波情報等の迅速かつ的確な発表に努めている。平成22年度には、港湾局のGPS波浪計3箇所、港湾局及び気象庁の沿岸観測点7箇所の潮位データの津波情報への活用を新たに開始し、気象庁が監視するGPS波浪計の観測点は11箇所に、沿岸の観測点は172箇所になった。
また、チリ中部沿岸の地震等による津波を受け、津波警報の精度向上のため、遠地津波データベースの改善を進めている。
高潮対策については、市町村の防災担当者がより的確な防災対応を実施できるよう、22年5月より高潮警報・注意報の市町村単位での発表を開始した。
また、関係省庁が連携し、東海地震、東南海・南海地震等の大規模災害対策の1つとして津波・高潮ハザードマップの作成マニュアルや事例集を示している。
(6)気候変動への対応
地球温暖化に関しては、気温が上昇し、大雨の頻度の増加、台風の強度の増大、海面水位の上昇等が予測されているため、今後20年から30年の間に実施される緩和策の規模にかかわらず、洪水や土砂災害、高潮災害等の悪影響を低減するための適応策が必要である。治水対策や港湾政策においては、関係機関等が役割分担しつつ、長期的視点に立った予防的な施設の整備に加え、地域づくり、危機管理等を中心とした適応策の実施により、災害に適応した強靭で持続的な社会を目指していく。
(7)地震対策
1)住宅・建築物の耐震・安全性の向上
改正「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」に基づき、国の基本方針において、住宅や多数の人が利用する建築物の耐震化率を平成15年の75%から27年までに少なくとも9割とする目標を定めるとともに、政府の「新成長戦略」及び「住生活基本計画」においては、住宅の耐震化率を32年までに95%とする新たな目標を定め、建築物に対する指導等の強化や計画的な耐震化の促進を図っている。22年度は、住宅・建築物の耐震化緊急支援事業として、住宅の耐震改修等に対する緊急支援や緊急に耐震化が必要な建築物等への耐震診断・耐震改修に対する支援を実施している。
2)宅地耐震化の推進
大地震時における盛土の滑動崩落による被害を軽減するため、新規盛土宅地については、改正「宅地造成等規制法」等により技術基準が強化されており、既存宅地については、宅地耐震化推進事業により、造成宅地防災区域の指定等に必要な調査や防止工事を実施している。
3)被災地における住宅・建築物及び宅地の危険度判定の実施
住宅・建築物においては、余震による被災建築物の倒壊等の二次災害を防止するため、被災後速やかに応急危険度判定を実施できるよう、業務マニュアルの整備や全国連絡訓練等により都道府県と協力して体制整備を図っている。宅地においても、二次災害を防止し、住民の安全確保を図るため、被災後に迅速かつ的確に危険度判定を実施できるよう業務マニュアルを整備するなど、都道府県・政令市から構成される被災宅地危険度判定連絡協議会と協力して体制整備を図っている。
4)密集市街地の緊急整備
防災・居住環境上の課題を抱えている密集市街地の早急な整備改善は喫緊の課題である。平成23年3月に変更した住生活基本計画(全国計画)において、地震時等に著しく危険な密集市街地の面積を32年度までにおおむね解消することとされている。
この実現に向け、国土交通省では、幹線道路沿道建築物の不燃化による延焼遮断機能と避難路機能が一体となった都市の骨格防災軸(防災環境軸)や避難地となる防災公園の整備、防災街区整備事業、住宅市街地総合整備事業等による老朽建築物の除却とあわせた耐火建築物等への共同建替え、避難や消防活動の向上を図る狭あい道路の拡幅等のきめ細かな対策等による、密集市街地の防災性の向上と居住環境の整備を推進している。
図表II-6-2-10 密集市街地の整備イメージ
5)オープンスペースの確保
防災機能の向上により安全で安心できる都市づくりを図るため、地震災害時の復旧・復興拠点、生活物資等の中継基地等となる防災拠点や周辺地区からの避難者や帰宅困難者を収容し、市街地火災等から避難者の生命を保護する避難地等として機能する防災公園等の整備を推進している。また、防災公園と周辺市街地の整備改善を一体的に実施する防災公園街区整備事業を外語大跡地公園(東京都)等7地域で実施している。
6)防災拠点となる官庁施設等の整備の推進
官庁施設は、来訪者等の安全を確保するとともに、大規模地震発生時に災害応急対策活動の拠点として機能を十分に発揮できるよう、総合的な耐震安全性を確保する必要がある。このため、官庁施設の耐震化の目標を定め、計画的かつ重点的に整備を推進しており、平成22年度は中央合同庁舎第1号館本館(霞が関地区)の耐震改修等を実施している。
7)公共施設等の耐震性向上
河川事業においては、いわゆるレベル2地震動(関東大震災や兵庫県南部地震級の地震動)においても河川構造物が果たすべき機能を確保するため、耐震点検を実施している。
海岸事業においては、社会資本整備総合交付金に位置付けられている海岸耐震対策緊急事業によって、海岸堤防等の耐震対策が支援されている。
道路事業においては、地震による被災時には、円滑な救急・救援活動、緊急物資の輸送、復旧活動に不可欠な緊急輸送道路を確保するため、緊急輸送道路のうち、広域応援部隊等が移動するための県庁所在地間を結ぶ道路について、橋梁の重大な損傷を防止する対策を実施している。
港湾事業においては、大規模地震発生時に避難者や緊急物資等の輸送を確保するため、基幹的広域防災拠点や耐震強化岸壁を整備するとともに、緊急輸送ルートに接続する臨港道路の耐震補強、緑地等のオープンスペースの整備を推進している。
空港事業においては、地震災害時の空港機能の確保を図るため、新千歳空港、仙台空港、新潟空港、大阪国際空港(伊丹)等の耐震化を実施している。
下水道事業においては、地震時においても下水道が果たすべき機能を確保するため、防災拠点等と処理場とを接続する管きょや水処理施設等の耐震化を図る「防災」と被災を想定して被害の最小化を図る「減災」を組み合わせた総合的な地震対策を推進している。
8)大規模地震に対する土砂災害対策
平成20年(2008年)岩手・宮城内陸地震により発生した河道閉塞(天然ダム)への対策として、河道掘削等の応急対策に引き続き、21年度より直轄特定緊急砂防事業を実施している。
また、このような災害の頻発を受け、実際に天然ダム等が発生し、決壊に伴う土石流により、国民の生命及び身体に重大な被害が生じるおそれがある場合に、市町村が適切に住民の避難勧告等を行えるよう、土砂災害の想定される区域や発生時期に関する情報を提供することにより、危機管理体制の構築等を行うとともに、首都直下地震、東南海・南海地震等の将来起こり得る大規模地震等に起因する大規模土砂災害から被害を軽減するための土砂災害対策を推進している。
9)気象庁における取組み
地震による災害の防止・軽減を図るため、全国の地震活動を24時間体制で監視し、緊急地震速報、地震情報等の迅速かつ的確な発表に努めている。
緊急地震速報については、(独)防災科学技術研究所の大深度地震計データの利用による発表の迅速化に係る課題を整理するとともに、平成23年2月に新設観測点の活用を開始し、緊急地震速報の迅速化や精度向上を図った。
また、22年度には、48回の緊急地震速報(警報)を発表し、テレビやラジオ、携帯電話等を通じて国民に提供した。
10)海上保安庁における取組み
地震調査研究に資するため、将来の海溝型巨大地震の発生が予想される日本海溝や南海トラフ等の太平洋側海域において、海底地殻変動を観測している。また、沿岸域及び南関東の離島において、GPS観測による地殻変動を監視している。
11)国土地理院における取組み
(ア)地殻変動観測・監視体制の強化
全国及び地震防災対策地域等において、電子基準点1,240点によるGPS連続観測、GPS測量、水準測量等による国土の監視を図るとともに、陸域観測技術衛星「だいち」を用いた地殻変動の監視を強化している。
(イ)地震に伴う自然災害に関する研究等
GPS、干渉SAR、水準測量等測地観測成果から、地震の発生メカニズムを解明するとともに、観測と解析の精度を向上する研究を行っている。また、国土の基本的な地理情報データ及び過去の災害履歴や震度の情報を組み合わせて解析し、緊急災害時における迅速な災害情報の取得・提供に関する研究開発を行っている。さらに、関係行政機関・大学等と地震予知に関する各種データ・情報を交換し、検討を行う地震予知連絡会及び地殻変動研究を目的として、各省庁や公共機関等が観測した潮位記録の収集・整理・提供を行う海岸昇降検知センターを運営している。
(8)雪害対策
1)冬期道路交通の確保(雪寒事業)
「積雪寒冷特別地域における道路交通の確保に関する特別措置法」に基づき、安全で安心な生活を支え、地域間の交流・連携を強化するため、道路の除雪・防雪・凍雪害防止の事業(雪寒事業)を進めている。また、豪雪時における通行止めや除雪状況等の情報の共有及び提供の一元化、除雪の効率化等を図るため、道路管理者等の関係機関による情報連絡本部の設置を進めている。
2)豪雪地帯における雪崩災害対策
全国には、約21,000箇所の雪崩危険箇所があり、集落における雪崩災害から人命を保護するため、雪崩防止施設の整備を推進している。
3)消流雪用水導入事業の実施
豪雪地帯において、治水機能の確保と合わせ、水量の豊富な河川から市街地を流れる中小河川等に消流雪用水を供給するための導水路等の整備を実施している。
(9)防災情報の高度化
1)防災情報の集約
「国土交通省防災情報提供センター」注3では、国民が防災情報を容易に入手・活用できるよう、国土交通省が保有する雨量等の情報を集約・提供しているほか、災害対応や防災に関する情報がワンストップで入手できるようにしている。
2)ハザードマップ等の整備
災害発生時に、住民が適切な避難行動をとれるよう、避難場所、避難経路等を住民にあらかじめ周知すべく市町村によるハザードマップの作成・配布を促進するとともに、全国の各種ハザードマップを検索閲覧できるインターネットポータルサイト注4を開設している。
図表II-6-2-11 ハザードマップの整備状況
3)市町村を対象区域とした警報・注意報の発表等
気象庁では、平成22年5月から、市町村の防災担当者や住民が警戒の対象地域となっていることを自ら明確に認識できるよう、市町村を対象区域とした、きめ細かい警報・注意報を発表している。
図表II-6-2-12 警報・注意報発表地域のイメージ
これにより、災害への警戒・注意が必要な市町村に対して、これまでよりも時間帯を絞って警報・注意報を発表するなど、一層効率的に防災活動を支援できるようになった。また、大雨警報発表時に、特に警戒を要する災害を「大雨警報(土砂災害)」、「大雨警報(浸水害)」のように警報名と併せて発表することとした。
さらに、竜巻・雷・局地的な大雨等、狭い範囲に発生する激しい気象現象からの被害を最小限にするため、局地的な激しい現象を対象に、ナウキャストと呼ばれる短時間予測情報(1時間先までの分布図形式の予報)を発表している。22年5月からは、降水を予報する「降水ナウキャスト」に加えて、発達した積乱雲に伴う激しい突風を予報する「竜巻発生確度ナウキャスト」及び雷を予報する「雷ナウキャスト」を発表している。
(10)災害発生時の危機管理体制の強化
自然災害への対処として、災害に結びつくおそれのある自然現象の予測(気象庁)、災害時の施設点検・応急復旧等の対応(施設管理関係部局)、海上における救助活動(海上保安庁)等を行うとともに、職員の非常参集、災害対策本部の設置等の初動対応体制を構築している。また、地方公共団体等への応援・支援メニューに基づき、関係機関等への応援も積極的に実施している。
1)緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)による災害対応
大規模自然災害が発生し、又は発生するおそれがある場合において、被災地方公共団体等が行う被災状況の迅速な把握、被害の発生及び拡大の防止、被災地の早期復旧、その他災害応急対策に対する技術的な支援を円滑かつ迅速に実施するため、緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)を派遣する体制を整えている。平成22年度は、22年7月の梅雨前線等の大雨による被害を受けた広島県庄原市、9月の台風第9号により被害を受けた静岡県小山町、10月の停滞前線に伴う集中豪雨による被害を受けた鹿児島県奄美地方に449名の隊員を派遣し、被災地の迅速な復旧及び再度災害防止に向けた技術支援を実施した。
TEC-FORCE隊員による復旧工法の指導(平成22年7月広島県庄原市 梅雨前線豪雨)
2)国土交通省業務継続計画(BCP)
首都直下地震時の重要業務継続を確保するために作成した「国土交通省業務継続計画」に基づき、訓練の実施等を通じて、業務継続力の向上を図っている。
3)災害に備えた情報通信システム・機械等の配備
災害時の情報連絡体制を確保するため、本省、地方支分部局、関係機関等の間で、光ファイバと多重無線通信回線を用いた信頼性の高いネットワークを構築している。また、迅速な災害対応のため、災害対策用ヘリコプター、衛星通信車、排水ポンプ車、照明車等の災害対策用機械を配備し、活用している。
4)実践的な危機管理訓練の実施
災害対策要員の能力の向上を図るため、ロールプレイング方式の実践的な危機管理訓練を積極的に実施している。また、地域住民・企業、NPO等のより一層の参加促進、避難場所・避難経路の確認を行うなど、より実践型、参加型の水防演習を実施した。
5)海上での初動対策の準備
海上保安庁では、災害発生時に迅速に対応できるよう巡視船艇・航空機を配備し、24時間体制をとっている。また、災害発生時には対策本部等を設置し、巡視船艇・航空機による被害状況調査や救助活動等を実施するなど、迅速かつ的確に対応している。
(11)ICTを活用した既存ストックの管理
光ファイバ網の構築により、ICTを活用した公共施設管理、危機管理の高度化を図っている。具体的には、光ファイバを活用した道路斜面の継続監視による管理の高度化、インターネット等を活用した防災情報の提供等安全な道路利用のための対策を進めている。また、水門等の管理の遠隔操作、河川の流況や火山地域等の遠隔監視のほか、下水処理場・ポンプ場等の施設間を光ファイバ等で結び、遠隔監視・操作を実施するなど、管理の高度化を図っている。さらに、水門等の施設を迅速かつ一元的に操作し津波・高潮被害の未然防止を図る津波・高潮防災ステーションの整備については、社会資本整備総合交付金によって支援している。
図表II-6-2-13 津波・高潮防災ステーションのイメージ図
(12)公共土木施設の災害復旧等
平成22年は、全国で8,417箇所、約1,005億円の国土交通省所管施設の被害が発生している。これらの自然災害による道路、河川等の被害について、被災直後より現地に緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)等を派遣し、復旧・復興及び再度災害防止に向けた技術的支援等を行うとともに、事業採択までの手続を極力短期間で実施し、被災地の迅速な復旧に努めている。
また、住民の安全・安心の確保を図るため、災害対策等緊急事業推進費を執行して、豪雨等の自然現象により災害を受けた地域や公共交通に係る重大な事故が発生した箇所等において、緊急に再度災害防止及び事故再発防止のための事業を実施した。
(13)安全・安心のための情報・広報等ソフト対策の推進
安全・安心の確保のために、自然災害を中心として、ハード面に限らずソフト面での対策の取組みを進めるため、「国土交通省安全・安心のためのソフト対策推進大綱」に基づき、毎年進捗状況の点検を行っている。平成22年度は、1年間の取組内容の確認・進捗状況の点検に併せて、状況変化に応じた目指すべき姿や施策の効果等を視野に入れながら、必要に応じた目標の再設定を行った。