第8章 戦略的国際展開と国際貢献の強化
第1節 我が国の経験・技術を活かした国際展開支援・国際協力
(1)官民連携による海外プロジェクトの推進
建設・運輸産業の国内市場が中・長期的に減少傾向にある一方で、アジア等の地域においては、引き続きインフラ整備への大きな需要が見込まれている。我が国の経済発展のため、これらの需要を取り込むための官民連携による海外プロジェクトの推進は、成長戦略の中に重要施策として位置づけられており、トップセールスの展開や各種協議会(海外水インフラPPP協議会、海外道路PPP協議会、海外鉄道推進協議会、海外港湾物流プロジェクト協議会)の開催等、人材の育成、個別企業では対応が困難なリスクに対する支援等を行うなど、官民一体となった積極的な取組みを通じ、我が国の建設・運輸産業の国際競争力強化を図るとともに、プロジェクト構想段階から発注・実施段階に至るまで、総合的・戦略的な支援を実施し、具体的案件の受注を目指している。
建設産業については、我が国建設企業のマネジメント力を強化するため、海外展開のためのリスク軽減策の検討、官民一体による売込みの推進、新たなビジネスモデル構築、地方・中小建設企業のための「海外展開支援アドバイザー事業」の創設等を行い、安定的に海外展開できるように引き続き支援していく。
2011年(平成23年)2月にインドネシア国公共事業省幹部を我が国に招へいし、国土交通省幹部によるトップセールスや海外水インフラPPP協議会を実施し、我が国の技術の優位性等のPRとインドネシア国との協力関係強化を行った。2010年(22年)5月には、国土交通大臣が訪越し、道路分野に関するトップセールスを実施するとともに、ベトナム国交通運輸副大臣を招へいし、東京で第4回ベトナム高速道路セミナーを開催したほか、同年6月には、インドで第4回日印都市開発交流会議を開催し、道路、都市開発及び下水道等に関する協力を議論した。このほか、渋滞の緩和や環境改善に資する高度道路交通システム(ITS)、モノレール、新交通システム等についても技術的な協力を実施し、海外展開を積極的に推進している。
また、海外建設プロジェクトにおける施工技術、施工管理マネジメントに関する本邦企業のための相談窓口(海外建設ホットライン)を運営しているとともに、問題解決を行い、我が国建設企業の海外展開を促進するため、ベトナム等において、相手国政府と協議等を行っている。
さらに、産学官が連携して設立した下水道グローバルセンター(GCUS)において、官民共同セミナーの開催、国際標準化に向けた検討、国内外の水資源に関する情報の収集等を実施し、我が国の優れた技術と政策的事項をパッケージとした下水道プロジェクトを相手国政府へ提案している。
運輸産業については、世界各国で、高速鉄道、都市鉄道、港湾、空港等交通インフラ整備のニーズが高まっており、これらのニーズを積極的に取り込み、我が国の優れた技術を活用した交通システムの海外展開を強力に進めている。
鉄道分野においては、米国、英国、ブラジル、ベトナム等の高速鉄道計画について、省エネルギー性に優れ、安全・安定・高頻度・大量輸送を強みとする我が国の新幹線技術の導入に向けた取組みを進めている。また、都市鉄道についても、技術協力を実施し、海外展開を積極的に推進している。国土交通大臣は、2010年(22年)4月及び6月に訪米し、セミナーの開催、政府要人との会談等を行ったほか、同年5月の米国運輸長官及び9月のカリフォルニア州知事訪日の際にも会談を実施するとともに、新幹線等への試乗の機会を設けた。また、同年5月には訪越し、政府要人との会談を行い、トップセールスを実施した。さらに2011年(23年)1月にカリフォルニア州で幹部によるセミナーや要人との会談を実施し、連邦及び州の要人等との関係を強化している。
港湾・空港分野においても、ベトナム等で港湾、空港開発のプロジェクトが進行中であり、相手国との協議・調整、技術面での協力、人材育成・技術移転等、官民の連携による多角的な取組みを進めている。
これらのハイレベル協議、現地セミナー等を通じた各種取組みのほか、要人の招へい、我が国からの技術・システム等の導入を促進するための国際規格の取得等取組みの推進を行っていく。
(2)国際協力の展開
開発途上国の発展には、経済社会基盤の整備を始め、計画・政策策定や管理・運営を担う人材の育成が不可欠であり、国土交通分野の国際協力に対するニーズが高いことから、1)政策対話を通じた国際交流の実施やNGO等民間団体による国際協力の支援と研修生受入れ等を通じた人材育成、2)地球環境問題への対応や安全性向上のための技術開発等、3)JICA等関係機関と連携した専門家の派遣及び要人招へい等を通じた技術・ノウハウの移転等を行っている。
平成22年12月には、ベトナム建設省と下水道分野の協力に関する覚書を締結し、同覚書に基づく協力の第一歩として、日ベトナム下水道セミナーを開催した。また、23年2月には、「日サウジアラビア下水道セミナー」を開催し、サウジアラビア国との協力関係を強化した。
(3)広域的な経済社会基盤の整備等への協力
国際的な相互依存関係の拡大を踏まえ、アジアハイウェイ、メコン地域開発等、複数国にわたる広域的な経済社会基盤整備を支援している。
アジアハイウェイについては、「アジアハイウェイ道路網に関する政府間協定」に基づき、アジアハイウェイ整備促進に向けた技術協力等を推進しており、2010年(平成22年)6月から7月には、国内16箇所において、アジアハイウェイの道路標識を設置した。
また、メコン地域開発については、「メコン地域のインフラ分野における今後の支援のあり方(提言)」に基づき、技術協力等を推進している。
さらに、アフリカ広域インフラについては、第4回アフリカ開発会議(TICADIV)の合意に基づき、広域運輸回廊及び国際港湾の計画・建設・改良に向け、技術・ノウハウを活用した整備支援を推進しているとともに、産業界から要望の強いASEANやインドにおける物流インフラ整備、ロシアにおける貨物輸送の円滑化等について、関係国政府等と共同で検討を行っている。
(4)環境・安全面での協力
ASEAN各国等に対し、自動車行政に関する研修、都市公共交通改善に関する研修及び政策対話等の交通分野における環境改善に資する取組みを実施している。
安全面では、インドネシアに対し、航空安全政策の向上等に資する技術協力を行っているとともに、開発途上国の保安担当官を対象に港湾、航空各分野のセキュリティに関する専門家会合や集団研修を行っている。また、海上保安庁でも、アジア地域の海上保安機関の能力向上を目的とした研修・訓練を実施するなど、キャパシティビルディングを積極的に推進している。災害対策等への協力については、国際緊急援助隊として派遣される救助チームに海上保安庁、専門家チームに国土交通省及び海上保安庁が参加しており、これまでに、インドネシア西スマトラ州パダン沖地震、中国四川大地震、ニュージーランド南島で発生した地震に救助チームを派遣した。また、チリ(地震)、ベネズエラ(洪水)等の被災地への政府調査団に各分野の専門家を派遣している。
さらに、平成22年10月にベトナム農業農村開発省と締結した、治水及び気候変動適応策の分野における協力覚書に基づき、同国で発生した洪水被害に対して調査団の派遣を行っている。
また、インドネシア国においては、事業監理や水資源・防災に係る取組みについて、日インドネシア事業監理向上セミナー及び日インドネシア水資源・防災ワークショップを実施した。
また、都市、河川、道路、住宅、地図、鉄道、海事、気象等の各分野においても各国で技術移転を目的とした専門家派遣、研修等の技術協力を実施している。
平成23年3月に発生した東日本大震災においては、甚大な被害を生じたものの、道路橋等の耐震設計基準や新幹線の早期地震検知システム等、我が国の持つ技術により、防災・減災に一定の効果があった。例えば、東北新幹線については、地震発生時に営業運行していたすべての列車について、脱線、死傷者ともゼロであり、広範囲においてインフラ被害があったものの、早期に全線で運転を再開するなど、防災、減災に係る我が国のインフラ技術の高い安全性・信頼性が示された。我が国が有する防災・減災の技術について、今回の震災からの復興において得られる新たな知見を含め、海外に積極的に情報発信していく。