3 迅速かつ円滑な復旧活動等の確保 (がれきの処理)  東日本大震災においては大量の災害廃棄物が発生し、岩手、宮城、福島の3県の津波により倒壊した家屋等のがれき量だけで、約2,260万トンと推計されている注1。これは、阪神・淡路大震災時の約1,450万トン(公共施設等を除く)を大きく上回る。これらのうち、避難所や住宅地の近くにあるなど、生活環境に支障が生じるような撤去が急がれるがれきについては、本年8月末を目途に仮置場や中間処理施設に移動するといった方針が示された注2。  これらの膨大な量のがれきの処理の遅れは、被災者の生活の平常化や被災地の復旧の大きな障害となることから、国土交通省としても、道路、河川、港湾等の所管公共施設に係るがれきの撤去に取り組んできたほか、被災した自動車や船舶の取扱いについての指針を示した。また、関係する建設業団体に対して、市町村から協力要請があった場合には、迅速に対応するよう要請するとともに、がれきの撤去について、市町村が建設企業による建設機械や人材の確保を広域的に図ろうとする際の相談窓口を東北地方整備局に設置して、市町村の支援体制を整えている。  また、がれきの広域処理について、国土交通省が指定したリサイクルポート等の港湾で受け入れリサイクルすることが可能な廃棄物の種類や海面処分場の候補地等に関する情報を地元地方自治体等に提供している。  一方、海に流出した漂流物については、航行する船舶の障害となるため、通常は東京湾、伊勢湾、瀬戸内海の閉鎖性海域でごみや油の回収を行っている海洋環境整備船を仙台湾及び三陸沿岸に派遣し、漂流物の回収作業を行っている。 (地殻変動に伴う測地基準点の復旧等)  今般の大震災においては、水平方向で最大約5mにも及ぶ地殻変動や地盤沈下にともない、測地基準点も変動しているため、東日本の広い範囲でその使用が停止されている注3。これらの基準点は、国や地方自治体等が行う公共測量や土地の境界の画定に必要な地籍調査の基準となる位置情報を提供するものであり、その正確な情報が提供されないと、公共インフラ等の復旧活動等に甚大な支障が生じることとなる。このため、国土地理院では、測地基準点の復旧測量等を急ぎ進めている。 図表78 測地基準点の復旧測量  また、沿岸部においては、大規模な地形変化等により、基本水準面が不明となっている。この基本水準面は、海図上の水深の基準値であり、港湾施設の工事計画の立案の際に不可欠なものであるため、正確な情報が提供されないと、船舶交通の安全や復旧活動等に大きな支障が生じることとなる。このため、海上保安庁では、基本水準面の決定を行い、早急に海図に反映させる作業を進めている。 (土地の境界画定)  被災地における様々な復旧活動等に速やかに取り組む際には、土地の境界の画定が重要であり、一筆毎の土地の位置や境界等を確認する地籍調査が実施済みであれば迅速な取組みが可能となる。地籍調査の実施済み・未実施の違いは、住宅再建や公共インフラ等の復旧等に要する時間や費用に大きな差を生じさせることになる。  地籍調査の実施済み地域における土地の境界画定に当たっては、地籍調査の成果を活用することができる。今般の大震災の被災地では地籍調査の進捗率が高く、津波による浸水地域の約9割で地籍調査が実施済みであるが、地殻変動により地籍調査の成果(登記所の地図)と現場にズレが生じている。このため、測地基準点の復旧等によりこのズレを修正し、地籍調査の成果を再生して復旧活動等に貢献することとしている。  また、地籍調査の未実施地域では、土地の境界が不明確であるため、地籍調査の実施済み地域と比較して土地所有者による境界の確認等に多大な時間と費用を要することとなり、被災地の復旧等が遅れる要因となる。このような地域では、その骨格となる民有地と道路等の境界(官民境界)だけでも明確にすることが効果的であり、公共インフラ等の復旧活動等の迅速化につなげるため、国直轄で官民境界の明確化を行うこととしている。 (復旧活動等に必要な労働力、資機材の確保)  公共インフラ等の復旧活動等を担う地域の建設業は、大震災以前から厳しい経営環境に置かれていたところに、被災地では多くの建設会社が被災するなど、今回のような大災害の復旧活動等に必要な労働力や建設機械等を迅速に確保することが困難となってきているといった課題が改めて浮き彫りとなった。  加えて、今般の大震災では、応急仮設住宅の建設に必要な住宅建設資材の需給への懸念が一時広がったほか、生産施設の被災・停電、物流の混乱等により、公共インフラ等の復旧活動等に不可欠な燃料や一部の建設資材についても需給に関する懸念が発生し、復旧活動等の障害となるおそれが生じるなど、必要な資材の確保が課題となった。  こうした状況に対し、震災翌日の3月12日には、建設業者団体や資機材団体等の計127団体に対し、建設機械や資機材の調達、労働力の確保等を、3月29日には、実需に基づく適切な発注、過剰な在庫の保有抑制を図るとともに、買占め等が生じないよう、需給の安定を要請した。また、被災地の迅速かつ円滑な復旧活動等が進められるよう、被災地における建設企業への支援、建設資材の需給への影響がなるべく生じないような建設資材の確保等について、官民が協力した取組みを実施している。  具体的には、建設会社が当面の災害応急復旧に全力を尽くせるよう、国・地方自治体を通じて、必要に応じて施工中の公共工事の一時中止措置を講じるとともに、資金繰り確保のための前払金保証制度の弾力化等を実施した。また、国が用意している建設企業に対する資金繰りや雇用関係の支援施策、情報提供窓口等の情報をまとめたパンフレットを作成し、建設企業のためのホットラインも設置した。  建設資材に関する取組みとしては、各地方整備局等に設置している都道府県、建設業者団体、資機材団体等を構成員とする建設資材対策地方連絡会を活用し情報交換等を図るとともに、建設資材の情報窓口を設置するなど、情報収集、情報提供体制を強化したほか、建設資材の製造・流通を所管する経済産業省、林野庁とも連携し、建設資機材に関する情報を共有するなど、資材の需給の安定を確保するための対策を講じている。 図表79 建設企業支援のためのパンフレット及びホットラインに関するチラシ 注1 衛星画像を用いて浸水区域を特定し、これをもとに、環境省において津波により倒壊した家屋等のがれき量を推計したもの。なお、がれきの仮置場への搬入が概ね終了している市町村については、搬入済量を基にして推計したがれき量を計上(8月2日時点)。 注2 政府の「被災者生活支援チーム」の下に設置された、関係省庁から構成される「災害廃棄物の処理等の円滑化に関する検討・推進会議」において、関係省庁の連携の下、災害廃棄物の処理等について、円滑化を図るため諸課題について整理・検討が行われた。 注3 成果使用停止となった測地基準点は、約44,000の三角点、約1,500の水準点に及んだ。