(2)経済社会の再生 1) 電力安定供給の確保とエネルギー戦略の見直し  製造業の海外移転による空洞化、海外企業の日本離れを防ぐため、電力の安定供給の確保を優先度の高い問題として取り組まなくてはならない。  そのためにも、原発事故の原因究明とその影響の評価、事故対応の妥当性の検証を、国際的な信認を得られるよう行うことを徹底する。その上に、新たな安全基準を国が具体的に策定すべきである。  エネルギー戦略の見直しにあたっては、再生可能エネルギーの導入促進、省エネルギー対策、電力の安定供給、温室効果ガス削減といった視点で総合的な推進を図る必要がある。このため、全量買取制度注1の早期成立・実施が不可欠である。また、出力安定化注2のための蓄電池導入など再生可能エネルギー導入対策や省エネルギー対策を講じるべきである。中長期的には、効率の良い再生可能エネルギーや省エネルギー技術に関する革新的技術開発の取組により、抜本的な発電効率の向上やコスト低減に取り組む必要がある。 2) 生涯現役社会と高付加価値産業の創出  今回の大震災は、わが国の経済社会の構造変化を背景とする経済停滞のなかで生じた危機である。震災を契機に、生産拠点を日本から海外に移転するなど、産業の空洞化が加速化するおそれがあり、国内の立地環境の改善が急務である。被災地の復興とともに、日本経済の再生に同時並行で取り組む必要がある。  もともと、日本は世界に類を見ない高齢化に対応して、働く意思と仕事能力のある人は年齢にかかわりなく、その能力を発揮できる生涯現役社会を目指すべき状況にあった。その意味で、この地域に生涯現役の雇用モデルを構築することは、将来の日本のあるべき姿を先取りすることにもなる。つまり被災地の復興モデルが日本全体の将来を先導することになるのである。また、被災地が発展することで、地域間格差是正のモデルを示すことにもなる。  被災地の経済は、震災前から必ずしも好調であったわけではない。過疎化が進行し人口減少社会の抱える問題が先駆的に表れていたのがこの地域であった。その上に襲った震災の衝撃は激烈であったが、力強い復興をきっかけに、状況を逆転していく意気込みが求められる。それを解く鍵の一つが、生涯現役社会の実現である。  こうして実現された元気な日本経済は、高付加価値を目指す生産性向上によって支えられる。そのためには、産業・技術の集積はもとより、時代を先取りした生活様式をブランド化することによって、関連産業を活性化することが重要である。たとえば、先進国の観光は、生活の豊かさへのあこがれによって支えられる。地元の風土に合い、人々のセンスに合った衣食住を整えるための製品が、そうした観光に訪れる人々によって地域外にもたらされるとき、それらの製品はブランドとなる。縄文以来の伝統に支えられた東北地方には、そうした新しい生活様式を生み出す素地がある。  高齢化にもかかわらず、また災害に襲われたにもかかわらず、不死鳥のごとくよみがえるであろう日本経済の姿は、これから高齢化が進行するアジア諸国のモデルとなりうるものである。復興が復旧と異なるのは、こうした発展戦略によって、日本経済の活性化を目指すところにある。危機を機会に変える積極的な取組が求められる。 3) 復興を契機として日本が環境問題を牽引  環境問題は世界共通の課題である。復興にあたっては、世界の先駆けとなるような持続可能な環境先進地域を東北に実現することで、日本が環境問題のトップランナーとなることが期待される。  東北に豊富に存在する再生可能なエネルギー資源を活用して災害に強い自立・分散型のエネルギーシステムの導入を先駆的に始めることは、低炭素社会の実現にもつながり、他の地域における取組に刺激を与え、加速させる。  また、自然の持つ防災機能や、森・里・海の連環を取り戻すための自然の再生、すばらしい風景の観光資源としての活用などにより、自然環境と共生する経済社会を実現すべきである。このとき、地域に根ざした自然との共生の智恵が大きな意味を持つ。  さらに復旧・復興の過程で発生する大量の廃棄物を徹底してリサイクルするほか、製造業とリサイクル産業をつなぐ先進的な循環型社会を形成することを目指すべきである。こうしたリサイクルの実践は日本の得意とするところであるが、今回の復興を契機としてさらに高い段階に達することが望まれる。 注1 「全量買取制度」とは、事業者が再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が全量買い取る制度である。 注2 「出力安定化」を求めるのは、太陽光・風力発電等は天候・気象条件次第で出力が不安定なためである。