4 復興まちづくりの推進  高台等への大規模な集団移転等が計画されている今回の復興においては、各自治体の進捗状況に差が生じているところである。国土交通省は、こうした自治体に対し、その現場力・統合力・即応力を発揮して最大限の支援に取り組んでいる。以下で、被災地における課題や、その解決を支援するための取組みについて紹介する。 (東日本大震災復興特別区域法の成立)  大震災からの円滑かつ迅速な復興を推進するため、「東日本大震災復興特別区域法」が平成23年12月7日に成立した。同法に基づく復興特別区域制度は、東日本大震災で全部又は一部の区域が一定の被害を受けた区域である市町村(平成24年4月末現在で227市町村)は、被災した地域において、単独又は共同で特例を活用するための計画作成を行うことができることとし、自らの被災状況や復興の方向性に合致し、活用可能な特例を選択する仕組みである。特例措置には、1)許認可やゾーニングに係る手続きの簡素化や許可基準の緩和、2)宅地と農地の一体的な交換・整備のための新たな事業手法の活用、3)公営住宅の入居基準の緩和等、4)著しい被害を受けた地域において被災自治体が実施する復興地域づくりに必要となる補助事業を幅広く一括した復興交付金の配分等が含まれる。復興交付金(23年度第3次補正予算、事業費ベース約1.93兆円、国費ベース約1.56兆円)は、集落の高台移転や漁港整備等の復興地域づくりに必要なハード事業等である基幹事業(5省40事業、うち国土交通省関係23事業)と、それに関連して自治体が行う効果促進事業等に対して配分され、追加的な国庫補助及び地方交付税の加算により地方負担にもすべて手当した制度である。 図表25 復興交付金の交付可能額(事業費)(1回目+2回目)  復興庁は、交付可能額について、24年3月に第1回目の通知(総事業費3,053.2億円)を行い、同年5月に第2回目の通知(総事業費3,165.9億円)を行った。その内訳を金額ベースで見ると、災害公営住宅整備事業が29%、防災集団移転促進事業が28%、造成宅地滑動崩落対策事業が5%を占めている。 図表26 復興交付金交付可能額の対象となる事業 図表27 復興交付金 基幹事業(5省40事業)のうち国土交通省の23事業 (被災市街地の復興計画づくりへの支援)  津波で浸水被害のあった被災市町村の復興計画については、本州太平洋沿岸の62市町村に対して被災状況等の調査を実施した。そのうち、支援要請のあった43市町村に対して国土交通省の職員を派遣し、被災状況や都市の特性、地元の意向等に応じた復興パターンの分析を行い、これに対応する復興手法等について調査検討を行うことにより、技術的支援を行った。 図表28 津波被災市街地復興手法検討調査の実施体制 (復興まちづくりの支援)  復興計画における主な内容には、1)市街地の整備、2)沿岸部の高台移転・集落整備、3)緊急輸送道路、避難道路の整備、4)雨水排水、上下水道施設の整備、5)防災公園、震災復興シンボル公園の整備、6)幹線道路の高盛土化、7)河川・海岸堤防の整備、8)防潮林の整備等が含まれている。  市町村が策定した復興計画を踏まえて、それぞれの地域のニーズに的確に対応した各種インフラの整備について支援を行っている。また、多様な事業手法(防災集団移転促進事業、土地区画整理事業、造成宅地滑動崩落緊急対策事業等)により、被災市街地の復興整備を強力に支援しているところである。 図表29 復興まちづくりのための事業制度一覧(イメージ図) (防災集団移転促進事業の推進)  防災集団移転促進事業とは、災害が発生した地域又は災害危険区域のうち住民の居住に適当でないと認められる区域(移転促進区域)内にある住居の集団的移転を促進するため、国が地方公共団体に対し事業費の一部補助を行う事業である。最近では、平成16年に発生した新潟県中越地震(115戸)、12年に発生した有珠山噴火(152戸)、5年に発生した北海道南西沖地震(55戸)の被災地において事業が実施されるなど、これまで延べ35団体1,834戸の移転を促進してきた。  具体的な本事業のスキームは、地方公共団体が被災した宅地を買い取り、移転先となる住宅団地を整備し、住宅敷地を被災者に譲渡又は賃貸する。また、被災者に対し、住居の移転に要する費用、敷地の取得や住宅の建設のために住宅ローンを活用する際の利子相当額を助成する。国は本事業に対して補助を行うが、移転促進区域内の宅地等の買取りに係る補助については、住居の集団的移転が行われた後に、再び津波等の災害に対して脆弱な構造の住宅が建設されることがないよう、移転跡地を建築基準法第39条第1項に基づく災害危険区域に指定し、条例による建築制限を行うことが補助要件となっている。  東日本大震災の被災地においては、追加的に、住宅団地の用地取得造成費や住宅団地における住宅建設等に係る補助限度額の引き上げ、住宅団地に関連する公益的施設に係る用地取得造成費の補助対象化、移転先住宅団地の規模の要件を10戸以上から5戸以上に緩和するなどの特例措置を講じた。また、補助対象経費については、補助率分の復興交付金が交付され、さらに、地方負担分について追加的な復興交付金と震災復興特別交付税が交付されるので、地方負担は発生しない。  事業の実施に当たっては、集団移転というコミュニティ再生を行う事業であることから、関係する被災者の事業に対する理解と合意形成が重要なポイントとなる。 図表30 防災集団移転促進事業実施状況 図表31 防災集団移転促進事業のイメージ (堤防の高さ設定)  海岸堤防の高さについては、中央防災会議「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」による報告を踏まえ、平成23年7月、比較的発生頻度の高い津波を対象に、堤防前面での津波のせり上がりを加味した上で、海岸の利用や環境、景観等を総合的に考慮して設定する方法を国土交通省及び農林水産省が示した。岩手県・宮城県・福島県等においても、この方法に基づき、関係市町村に説明した上で下図のような高さを設定してきており、後背地の土地利用等と調整の上、実際に災害復旧を行う堤防高を決定することとしている。 図表32 海岸堤防高の設定状況 (復興計画における事業類型)  復興まちづくり計画を見ると、今次津波の対策として、リアス式海岸地域においては、高台移転を中心に行うものが多い。平野部地域においては、道路等を盛土により嵩上げした防護線の内側への内陸移転を中心に行うもの、あるいは、防護線内側における現地復興が見られる。内陸地域等、造成宅地の崩壊や液状化の被害が大きかった地域においては、造成宅地の復旧を中心とした計画になっている。 図表33 復興計画の類型 (集団移転への地元合意)  被災地域では復興計画の策定が進められ、今後は、計画の中で定めた復興まちづくりに向けた防災集団移転促進事業や土地区画整理事業等の具体的な事業実施に向け、市町村において地域住民との調整を円滑に進めていくことが最大の課題である。高台・内陸部への集団移転をめぐって、地域住民の合意調整等により、各自治体の進捗状況には差が発生している。その主な理由は、移転先の土地購入や住宅の建築費用が自己負担となっていることにある。移転前の土地価格と移転先の土地価格では、後者が相当程度高くなる場合が多く、住民の負担が大きい。  国においては、このような被災者の負担を軽減する観点から、1)(独)住宅金融支援機構による災害復興住宅融資の当初5年間の金利を0%とするなどの金利の優遇、2)ローン利子相当額への補助限度額の引き上げ(406万円→708万円)等の措置を講じているところである。事業主体である地方公共団体によっては、更なる被災者負担の軽減を図っている。例えば、仙台市においては、津波で被災した土地の評価額が震災前に比べて相当程度下がる中、被災者が移転先の土地を市から借地して住宅再建する場合は、被災前後土地価格差額と流失建物等の移転費用相当額の合算額相当分の期間の借地料を最大50年間、1,000万円を上限に免除する支援策を講じている。また、東松島市においては、移転先の住宅敷地の地代を当初10年間無償化する支援策を検討している。  その他の課題として、岩手県・宮城県・福島県へのアンケートにおいて、既存宅地に抵当権が付いている場合の買取りに時間を要することや、建物が流出した住民と残存している住民とで補償費が異なるという不公平感があるとの指摘もある。 図表34 住民の合意形成における課題(岩手県・宮城県・福島県へのアンケート) (事業実施体制の確保)  図表35は、復興まちづくりにおいて必要となる土地区画整理事業や防災集団移転促進事業について、岩手県・宮城県・福島県それぞれの県内事業数・規模の見込みをアンケートした結果である(平成24年3月1日現在)。土地区画整理事業の3県の合計は約2,800haに及ぶ大規模なものであり、阪神・淡路大震災のときに実施された復興土地区画整理事業20地区255.9haの約10倍以上の事業規模である。  また、防災集団移転促進事業についても、3県合計で約23,300戸となっており、昭和三陸地震津波後の集団移転戸数約3,000戸(岩手県及び宮城県内)の7倍以上、昭和47年以来の過去事業累計の12倍以上となっている。 図表35 3月1日時点で各県が想定している事業に関するアンケート結果  東日本大震災による津波被害に係る市街地復興については、被災市町村における復興計画に位置付けられている土地区画整理事業及び防災集団移転促進事業の復興事業全体に占める事業量が特に大きいと考えられること、また、関係者間の合意形成や権利関係の調整等に専門性や経験が求められることから、専門職員が特に不足する。  このため、岩手県、宮城県、福島県及び仙台市より国土交通省に対して、これら事業の実施に向けて、全国の自治体職員の長期派遣の斡旋について要請がなされた。これを受けて、各都道府県・政令指定都市に対して、職員派遣の調査・依頼を行い、全国から約160人の派遣の回答を得た。県とも連携しつつ派遣元と派遣先との調整を行い、24年4月以降(前倒し可能なものは前倒しして)派遣を開始している。  また、復興計画の策定等の技術支援を行うため、被災地方公共団体の要請を受けて、(独)都市再生機構に対し専門職員の派遣を要請し、24年2月16日現在、岩手・宮城・福島県下の被災市町村等に73人の同機構職員を派遣している。  さらに、まちづくりの専門家の情報に関する「復興まちづくり人材バンク」を構築し、インターネット上で公開するとともに、被災地の自治体に対して情報提供することにより、被災地の自治体や地域住民による協議会等が必要とするまちづくり専門家を容易に検索することができる環境整備を進めた。同データベースには、24年3月末時点で684人の情報が登録されている。 図表36 復興まちづくり人材バンク