5 地域公共交通の確保と観光振興 (地域公共交通の確保維持)  東日本大震災は、被災地域のバス交通等に甚大な影響を与えるとともに、地域の移動ニーズに大きな変化をもたらし、避難所、仮設住宅等の被災者をはじめ、被災地域の住民の日常生活の重要な基盤である生活交通の確保が大きな課題となった。  被災地の生活交通は、復旧・復興の進捗段階に応じたニーズに対応するとともに、確実に確保されることが極めて重要である。このため、平成23年度に創設された地域公共交通確保維持改善事業の活用により被災地域の生活交通の確保・維持が柔軟かつ的確に実施されるよう、同事業の補助要件の緩和や事業手続の弾力的運用等の特例措置を講じるとともに、23年度3次補正予算に所要額を計上した。これにより、121系統の地域をまたがる幹線バス交通や29市町村の地域内の生活交通の確保・維持を支援した。具体的には、地域をまたがる幹線バス交通ネットワークの確保・維持について、輸送量要件の緩和、バス車両の導入補助の弾力化等を行い、今後も27年度末まで継続的に支援するとともに、市町村等地域内の日常の生活交通の確保・維持について、仮設住宅、元々の集落と病院、商店、公的機関等の間の地域の実情に応じたバスや乗合タクシー運行が可能となるよう25年度末まで継続的に支援していくこととしている。  あわせて、この支援に当たっては、各市町村の取組みのサポートを行うため、現地を往訪し、仮設住宅等の交通状況を踏まえた運行案の提案や関係者の合意形成のための調整等も実施している。 事例:岩手県陸前高田市  既存バス系統について、仮設診療所、スーパーの仮設店舗の完成に合わせて、被災した海側市街地から仮設施設等のある内陸側に運行ルートを変更したほか、仮設住宅住民の生活交通の確保のため、新たに乗合タクシーの運行を開始した。 陸前高田乗合タクシー 事例:宮城県女川町  被災で運休中のJR石巻線の代替バス運行開始に合わせ、避難所から代替バスの発着地点にアクセスするバス運行を開始し、その後、仮設店舗の建設等まちの復興に合わせ、運行ルートの変更及び増便を行い、高台に移設された仮設町役場を中心に仮設住宅や仮設店舗を結ぶ町民バスを運行している。 女川町民バス  また、大きな被害を受けた沿岸部の鉄道の復旧等のうち、三陸鉄道については、23年度第3次補正予算及び24年度予算において、復旧費用の大半を国が補助することとなり、復旧の目途がたったことから、23年11月から本格的な復旧工事に着手し、今後、復旧工事が完了した区間から順次運転を再開し、最終的には26年4月頃に全線が運行再開する見込みである。  さらに、まちづくりと一体となった復旧が必要と考えられるJR東日本の被災6路線(山田線、大船渡線、気仙沼線、石巻線、仙石線及び常磐線)については、線区別の「復興調整会議(関係地方自治体、JR、東北地方整備局、東北運輸局、復興庁)」の場を活用して鉄道事業者と関係地方自治体等との調整を支援しているところである。  その結果、石巻線の渡波〜女川駅間については、護岸の改修等を行い、女川駅を除いて25年度初の運転再開を目指すこととなった。仙石線の高城町〜陸前小野間については、ルート移設等により27年度のうちに全線運転再開を目指すこととなり、また、常磐線の相馬〜亘理間については、ルート移設等により鉄道工事着手から3年程度で運転再開見込みとなった。加えて、気仙沼線については、BRT(注)による仮復旧の見込みとなった。  なお、山田線、大船渡線、気仙沼線については、今後、市街地の移転等と合わせて、鉄道ルートの変更等も含めた復興整備計画等を策定した後、これに基づき、復旧方針を決定することとなる。 (東北観光博等による観光振興)  今回の大震災後、全国的に落ち込んでいる国内観光需要の着実な回復に向け、官民合同による国内旅行振興キャンペーン「がんばろう!日本」による機運醸成、モニターツアーによる潜在的旅行需要の掘り起こしを実施している。  また、特に旅行需要が落ち込んだ東北地域への需要の喚起に向け、東北地域全体を一種の博覧会会場と見立てた「東北観光博」を行い、官民を挙げた一体的なキャンペーンを行うとともに、地域と観光客の交流がより促進される新しい観光スタイルの実現に取り組んでいる。具体的には、東北地域への送客の一層の強化とともに、主要な観光地域28箇所を核となる「ゾーン」とし、地域に精通した「地域観光案内人」の配置、地域観光案内人が観光客をお迎えする「旅のサロン」の設置、地域独自の滞在プログラムの提供促進、地域と旅行客の出会いを創る「東北パスポート」の運用、観光情報の一元的な提供を行う「ポータルサイト」の運用等を行っている。これにより、東北地域の観光入込客数を震災前水準に回復することを基本的な目標としつつ、さらに上積みを目指すとともに、多様な観光客に対する自由度が高い旅行環境の提供について、地域が主体となって持続的に推進できる仕組みの定着を図る。 図表37 東北観光博  加えて、政府関連事業の実施や民間のイベント等の開催の働きかけにより復興を支援する、東北・北関東への訪問運動を平成24年3月末より本格展開している。 注 Bus Rapid Transitの略で、バス専用道路を走行することにより通常の路線バスより速達性・定時性を向上させた交通システム