5 コミュニティの維持が困難となる地域の増加  人口減少や高齢社会の進展、財政制約、国際競争の激化等、経済情勢が厳しくなる中、追い打ちをかけるように地球温暖化に伴う気候変動による国土の脆弱化が進んでいる。このような状況の変化の中で、地域における国民の安全・安心な暮らしが脅かされ、コミュニティの維持すら厳しさを増していくことが懸念される。以下、地域の現状について概観する。 (人口減少や高齢社会への不安)  地域社会において、国民は何について将来への不安を感じているのだろうか。これに関する国民意識調査において、平成23年度の今回調査と18年度調査の同じ設問を比較してみたところ、「不安」と答える人の割合は18年度の約3割から23年度では5割以上に増加し、約半数の国民が不安を抱えている。また、不安を感じる最大の要因は、18年度調査時も今回調査時も、「高齢化の進行」である。前回調査に比べ割合が高まっているのは、「経済衰退」、「雇用機会の減少」、「自然環境の悪化」に加え、「地域医療・福祉体制の悪化」となっている。地域における経済の疲弊と医療・福祉のあり方が課題となっていることが推察される。 図表121 居住地域の将来についての不安に関する意識の変化 図表122 将来について不安を感じる点に関する意識変化  実際、最近における一人当たり県民所得の推移について見ると、11年度から21年度にかけて、全国平均が約9%低下している。また、地域ブロック別の推移について11年度全国平均を100としたときの指数で見ると、21年度において、関東ブロックのみが100を上回っているが、他のブロックはすべて100を下回ることとなるなど、地域間格差が拡大している。 図表123 地域ブロック別1人当たり県民所得  また、地域の生活を支えるサービス産業について、現状立地している確率が50%及び80%を超える市町村人口の規模を調査した結果を見ると、野菜・果実小売業等、食料品サービス業は1万人未満であっても立地しているのに対し、医療・福祉サービスが50%以上の確率で立地している市町村の人口規模は1万人以上が必要であることが分かる。今後、地域の人口減少・高齢社会の進展により、医療・福祉サービスの確保が困難な地域の増加も懸念される。 図表124 人口規模別サービス図 (住宅取得の経済環境の変化)  最近において、新規住宅取得のための経済環境は厳しくなってきている。住宅(マンション)価格の年収倍率の推移を見ると、かつて、いわゆるバブル期の地価高騰等により、特に大都市地域において住宅(マンション)価格が上昇し、平成2年のピーク時に首都圏で8.0倍となったが、その後、住宅価格は下落傾向をたどり、10年には4.7倍まで低下した。しかし、近年では特に首都圏において住宅価格が上昇する一方で、勤労者世帯の年収は低下傾向にあるため、22年に6.2倍と年収倍率は高い水準で推移している。 図表125 住宅(マンション)価格の年収倍率の推移 (住宅ストックと居住ニーズのミスマッチ)  また、住宅の使われ方を見ると、住宅ストックと居住ニーズのミスマッチが生じていることも問題である。世帯構成と住宅の広さの関係を見ると、高齢者単身世帯や高齢者夫婦世帯のうち5割以上が100m2以上の住宅に住んでいる一方、4人以上世帯の約3割が100m2未満の住宅に住んでおり、住宅の需給にミスマッチが生じている可能性がある。 図表126 世帯類型と住宅の延床面積(持家) (中古住宅流通・リフォーム市場の発達に向けて)  最近における経済情勢の変化等により新規住宅取得が困難となる中で、既存(中古)住宅市場の重要性が高まっている。また、住宅ストックと居住ニーズのミスマッチの解消に向けても、既存住宅市場の整備が必要である。しかしながら、我が国の住宅市場における既存住宅の流通シェアの推移を見ると、近年増加傾向にあるものの、13.5%にとどまっており、米国の90.3%、英国の85.8%等と比較すると、国際的には極めて低い流通シェアである。 図表127 既存住宅流通シェアの推移 図表128 既存住宅流通シェアの国際比較  また、既存(中古)住宅の流通に際しては、住宅の耐震化、バリアフリー化、高齢社会対応、災害対応、省エネ対応等のリフォームが必要である。例えば、現在、我が国の既存住宅ストック約4,950 万戸のうち、約21%に当たる1,050 万戸が耐震性不十分である。  しかしながら、平成21年における住宅リフォーム市場規模は約5.6兆円と推計されるところであり、我が国の住宅投資に占めるリフォームの割合は、欧米諸国が50%〜80%であるのに比して、30%程度と極めて小さい。 図表129 住宅リフォームの市場規模(推計)の推移 図表130 住宅投資に占めるリフォームの割合の国際比較 (老朽住宅ストックや空き家の増加)  今後、築後30年を経過するマンションが大幅に増加する。10年後の平成33年(2021年)末には235万戸、20年後の平成43年(2031年)末には406万戸となる見込みとなっている。  建築基準法の耐震基準が強化された昭和56年(1981年)6月より前に着工したマンションは、耐震性が劣っているおそれがあるが、耐震診断や改修工事は費用負担が大きい。マンション管理組合等の建替えニーズにも着実に対応していくことが必要である。 図表131 築後30、40、50年超の分譲マンション数  また、近年、空き家率が上昇しており、平成20年時点で約13%にまで拡大、全国の空き家の数は約757万戸となっている。空き家率は特に地方部で高くなっているが、空き家数の増加状況を見ると、首都圏(一都三県)でも15年から20年の5年間に約20万戸も増加するなど、都市部でも深刻な問題である。 図表132 全国の空き屋数及び空き家率の推移 図表133 都道府県別空き家率 図表134 首都圏(一都三県)の空き家数 図表135 大阪府・兵庫県・京都府の空き家率  そのため、空き家等を活用した地方公共団体の地域活性化等の取組みを推進することが重要となっている。東京都では、24年度から空き家を高齢者共同住宅として活用する方針を打ち出している。  また、高齢化が急速に進む中で、高齢単身者・夫婦世帯が増加しており、2010年から2020年の10年間で約1,000万世帯から1,245万世帯へ増加すると推計されている。このような状況を踏まえれば、介護・医療と連携して、高齢者を支援するサービスを提供する住宅を確保することが極めて重要である。全高齢者における介護施設・高齢者住宅等の定員数の割合を見ると、現状において我が国は4.4%に過ぎず、英国11.7%、デンマーク10.7%と比べて、介護施設・高齢者住宅等の供給が立ち後れている。 図表136 全高齢者における介護施設・高齢者住宅等の定員数の割合 (地域の足を支える地方のバス・鉄道の経営困難)  急激な高齢化の進展、人口減少、自家用車の普及に伴う利用者ニーズの多様化等により、ローカル鉄道や路線バス等公共交通機関の利用者の減少傾向が続いている。公共交通の利用者の減少は、鉄道会社やバス会社の経営を悪化させ、路線バスや鉄道路線が毎年のように廃止されるなど、地域公共交通をめぐる環境は極めて厳しい状況にある。  地域鉄道注1の経営環境は極めて厳しく、平成22年度には全92社中73社、約8割の事業者が赤字となっている。事業者の倒産等で、12年4月以降24年4月までに全国で35路線、673.7kmの鉄軌道が廃止された。 図表137 地域鉄道の輸送人員と鉄軌道廃止キロ数の推移 図表138 平成12年度以降の地方部の鉄軌道の廃止路線  バス事業者の経営環境も厳しく、全国の路線バス事業者のうち赤字の事業者は7割程度となっており、とりわけ地方部においては赤字の事業者は約9割に及んでいる。こうした状況の中、バス事業者の倒産、路線廃止が相次ぎ、毎年2,000km程度のバス路線が完全に廃止されている。 図表139 一般乗合バス事業の収支状況(平成22年度) 図表140 乗合バスの路線廃止状況(高速バスを除く)  一方、高齢者を対象に、住んでいる地域の不便について内閣府が実施したアンケートによると、「日常の買い物」「医院や病院への通院」「交通機関の未整備」について不便との回答が多く、さらに、人口の少ない市町村になるほど、不便を感じる割合が高くなっている。 また、今回の国土交通省意識調査によると、公共交通機関について、今後力を入れてほしい施策としては、「使いやすい料金の設定」に次いで、「公共交通機関の利用が不便な地域における路線の整備」と回答した人が多い。人口規模の小さい都市ほど多くの人が「路線の整備」を選択しており、特に5万人未満の都市で、43.6%の人が選択している。 図表141 住んでいる地域の不便について 図表142 公共交通機関について、今後力を入れてほしい施策  こうしたことを背景として、交通の不便な地方部では、買い物や通院等の日常生活に必要な移動のための手段として、コミュニティバス注2や乗合タクシーの導入等、地域の実情に応じた様々な工夫を実践している。 図表143 平成20年度の乗合バス輸送実績 図表144 コミュニティバスの導入状況 図表145 乗合タクシーの導入状況  地域鉄道やバスは、地域住民の通学・通勤等の足として重要な役割を担っている。公共交通の空白地帯が広がれば、自家用車を利用できる人と、高齢者や子供をはじめとする自家用車を利用できない人との間における生活行動の範囲の格差が生じ、公共交通のサービスが十分でない地方部においては、その格差は一層大きなものとなることが懸念される。コミュニティの活力を維持し続けるためには、人々の生活利便性の維持や社会参加の機会が確保される環境を整えることが不可欠であり、生活交通の維持が課題となっている。 (高齢化の進む集落の増加)  人口減少・高齢化が著しく進む中で、共同体としての維持・存続が困難となるおそれの生じている集落がある。総務省と国土交通省とが実施した「過疎地域等における集落の状況に関する現況把握調査」によると、平成22年時点において、65歳以上の住民が50%以上の集落は10,091集落となっている。前回調査時(18年時点)と比較すると、こうした集落が占める割合は、12.7%から、15.5%に増加している。 図表146 地方ブロック別・高齢者割合50%以上の集落数  このように人口減少・高齢化の進展の著しい集落では、住民の買い物、地域交通、医療福祉等、日常的な生活サービスの確保や共同施設の維持、生活の相互扶助等が困難となっていると考えられる。こうした集落における暮らしを支えるための自治体の取組みやNPO等非営利団体の活動、また、生活サービスへのアクセス確保等の地域間連携を図っていくことが課題である。 (豪雪被害の増加)  さらに、高齢化が進展している集落等、コミュニティ基盤が脆弱となっているところでは、豪雪被害に見られるように、地域防災力も弱体化している傾向がある。  平成22年度の大雪では、131人が除雪作業中の事故等により死亡した。23年度の大雪でも、24年3月29日時点までの人的被害は130人となっており、その多くは除雪作業中の事故であった。犠牲者の6割以上は65歳以上の高齢者であり、22年度の大雪と同様の傾向である。 図表147 平成23年度冬期の雪による死者の発生状況  全国の豪雪地帯市町村に対するアンケート調査結果によると、豪雪地帯の32%、特別豪雪地帯の48%の市町村が空き家等の除雪問題が発生していると回答している。23年12月、秋田県大仙市や横手市等が、雪で倒壊するなどの危険がある空き家について、自治体が所有者に適切な管理や解体を指導、勧告、命令できるよう、「空き家条例」を制定した。 図表148 平成22年度の大雪の空き家等の除雪問題の発生の有無・内容(市町村アンケート)  また、豪雪地帯に指定されている市町村を有する都道府県は、それ以外の都道府県と比較して建設業許可業者数の減少率がやや高くなっており、除雪を担う建設業者の確保がより深刻な課題となっている。 図表149 建設業許可業者数の推移(過去10年間) 注1 「中小民鉄」、「転換鉄道(旧国鉄のローカル線から第三セクター等で引き継がれた鉄道)」、「地方鉄道路線(国鉄時代の工事凍結路線のうち、工事が再開され、開業後第三セクターが経営を引き継いだ鉄道)」、「並行在来線(整備新幹線の開業により、JR会社から分離された新幹線と並行して走行する在来線)」の4つを指す。 注2 コミュニティバスとは、地域住民の利便性向上のため一定地域内を運行するバスで、車両使用、運賃、バス停位置等を工夫したバスサービスを指す。