8 建設産業の活力回復 (1)建設産業の現状  建設投資、許可業者数及び就業者数の推移は下表のとおりである。 図表II-5-3-14 建設投資(名目値)、許可業者数及び就業者数の推移 (2)「建設産業の再生と発展のための方策2011」の実現  建設産業における建設投資の減少等による厳しい現状を踏まえ、平成22年12月から12回にわたり建設産業戦略会議を開催し、23年6月に「建設産業の再生と発展のための方策2011」を取りまとめた。これを受け、地域の維持管理の担い手確保に資する地域維持型契約方式の導入及びダンピング対策の強化等を内容とする「公共工事の入札及び契約の適正化を図るための措置に関する指針」の改正(23年8月閣議決定)、地域維持型建設共同企業体運用準則の策定(23年11月中央建設業審議会決定)、受発注者間の契約の適正化の促進のための「発注者・受注者間における建設業法令遵守ガイドライン」の策定等を行った。また、技術者データベースの整備、許可業種区分の点検、保険未加入企業の排除等について、中央建設業審議会と社会資本整備審議会産業分科会建設部会の下に合同で設置した基本問題小委員会において24年1月に取りまとめを行った。 (3)公正な競争基盤の確立  建設投資が急激に減少する中で「技術力・施工力・経営力に優れた企業」が生き残り、成長するための競争を実現するためには、建設業者における法令遵守の徹底をはじめとする公正な競争基盤の確立が重要である。このため、従来より、下請取引等実態調査や立入検査等の実施、建設工事の請負契約を巡るトラブル・苦情等の相談窓口「建設業取引適正化センター」の設置、「建設業取引適正化推進月間」(11月)における都道府県との連携等を通じて、建設業における元請・下請間の取引の適正化に取り組んでいる。 (4)建設業への金融対策 1)地域建設業経営強化融資制度  地域建設業経営強化融資制度は、元請建設企業が公共工事請負代金債権を担保に事業協同組合等又は一定の民間事業者から工事の出来高に応じて融資を受けることが可能となるものであり、これにより元請建設企業の資金繰りの円滑化と金利負担等の軽減を図っている。  本制度は平成20年11月から実施しているが、東日本大震災を受け、23年6月に被災地域における災害廃棄物の撤去等を新たに対象に追加した。さらに、24年1月には事業期間を24年度末まで延長した。 図表II-5-3-15 地域建設業経営強化融資制度 2)下請債権保全支援事業  下請債権保全支援事業は、ファクタリング会社注1が、下請建設企業等が元請建設企業に対して有する工事請負代金等債権の支払を保証する場合に、保証時における下請建設企業等の保証料負担を軽減するとともに、保証債務履行時のファクタリング会社の損失を補償することにより、積極的な債権の支払保証を促進する事業である。  本事業は平成22年3月に創設されたが、東日本大震災を受け、23年6月から被災地域における工事及び災害廃棄物の撤去等に係る債権の買取を実施した。さらに、24年1月には被災地において建設機械の割賦販売、リース、レンタルに係る債権を新たに保証対象に追加し、事業期間を24年度末まで延長した。 図表II-5-3-16 下請債権保全支援事業 (5)ものづくり産業を支える「人づくり」の推進  建設産業は、技術者・技能者がその能力をいかに発揮するかによって生産の成否が左右されるものであり、「人」が支える産業である。一方、建設投資の大幅な減少、就業者数の減少等を背景として、就業者の高齢化、若年入職者の減少が課題となっている。  また、関係法令により義務付けられている社会保険等の法定福利費を適正に負担しない企業が存在し、技能労働者の処遇を低下させ、若年入職者減少の一因となっているほか、人材育成を行っている企業ほどコスト高となり、保険未加入企業と比べて競争上不利になるという状況が生じている。  そのため、行政、元請業者、下請業者が一体となった総合的な社会保険未加入対策等により、若年者の入職促進、人材の育成・評価等に取り組むこととしている。  また、作業管理・調整能力等を有し、基幹的な業務に従事する登録基幹技能者の確保・育成・活用を推進している。登録基幹技能者数は、平成23年12月末現在で32,459人(28職種)となり、経営事項審査における加点評価や公共工事における総合評価落札方式(試行工事)における活用等を実施している。 (6)建設産業の振興  建設企業が連携の強化を図り、技能者等を新規に雇用することにより、維持管理、エコ建築、耐震、リフォーム等の成長が見込まれる市場の開拓を図る事業を支援する「建設企業の連携によるフロンティア事業」において、91連携体の取組みを支援した。  さらに、経営戦略相談窓口で相談を受付けた建設企業に対して、建設業経営戦略アドバイザーによる電話・訪問アドバイスを実施し、特に新事業展開、企業再編・廃業等を目指す51企業に対しては、同アドバイザー等から構成される支援チームが一定の目標達成まで継続的に支援した。また、32道府県、80金融機関とパートナー協定を締結し、相談支援体制の強化を図った。  そのほか、建設関連業(測量業、建設コンサルタント、地質調査業)については、建設コンサルタント登録規程等において、暴力団排除及び指導監督強化に関する規定を追加し、インターネットを介した情報提供を開始したところである。これらにより、登録制度の適切な運用を図り、優良な建設関連業の育成と健全な発展に努めている。 (7)建設機械の現状と建設生産技術の発展  我が国における建設機械の保有台数は、平成21年度で約85万台注2であり、建設機械の購入台数における業種別シェアにおいては、リース・レンタル業が約44%、建設業が約22%となっている。  なお、建設業における死亡災害のうち、建設機械等によるものは約16%を占め、近年では建設機械の技術進歩により事故原因注3も変化している。このため、建設機械施工安全技術指針の改定、建設機械施工安全マニュアルの策定等を行い、建設機械施工の安全対策を推進している。  また、建設業の諸課題(低い生産性、熟練労働者不足、施工品質の確保等)を解決し、ICTを活用した革新的な施工技術である情報化施工の普及促進を図るため、「情報化施工推進戦略」に基づき、現在、普及の課題となっている施工管理基準等の整備や設計データの標準化を行うなど、受発注者間の環境整備に取り組んでいる。 (8)建設工事における紛争処理  建設工事の請負契約に関する紛争を迅速に処理するため、建設工事紛争審査会において紛争処理手続を行っている。平成22年度の申請実績は、中央建設工事紛争審査会では40件(仲裁6件、調停25件、あっせん9件)、都道府県建設工事紛争審査会では112件(仲裁19件、調停64件、あっせん29件)となっている。 注1 他人が有する売掛債権の保証や債権の買取りを行いその債権の回収を行う金融事業会社のこと。現在、銀行子会社系・前払保証会社系・リース会社系など10社のファクタリング会社が、当事業を運営している。 注2 主な機種:油圧ショベル約593千台、車輪式トラクタショベル約157千台、ブルドーザ約39千台 注3 建設機械の安全装置(過負荷防止装置等)や補助装置(クレーン機能等)の不適切な使用等による事故等