7 道路交通における安全対策  平成23年の交通事故死者数は、11年連続で減少し、4,612人(対前年比5.2%減)となった。しかしながら、交通事故死者数の約半数を65歳以上の高齢者が占めるほか、86万人が交通事故で死傷しており、依然として厳しい状況である。このため、更なる交通事故の削減を目指し、警察庁等と連携して各種対策を実施している。 図表II-6-4-5 交通事故件数及び死傷者数等の推移 (1)幹線道路と生活道路における交通事故対策の重点的実施  近年、道路整備の進展や社会情勢の変化等を受けて、歩行者、自転車等の多様な利用者が安全に安心して共存できる道路環境が求められている。幹線道路については事故危険箇所対策、「事故ゼロプラン(事故危険区間重点解消作戦)」等、生活道路においてはあんしん歩行エリア、自転車通行環境整備モデル地区等の各種施策を推進している。  特に、道路での交通事故死者数の3分の2を占める幹線道路については、「事故ゼロプラン」により選択と集中、市民参加・市民との協働により重点的・集中的に交通事故の撲滅を推進している。  また、「あんしん歩行エリア」を中心とする歩行者・自転車に係る死傷事故発生割合が大きい生活道路において、安全な歩行空間を確保するため、都道府県公安委員会が実施する速度規制と連携した歩道整備、車両速度の抑制、通過交通の抑制等の面的かつ総合的な交通事故対策を地域住民の主体的参加の下で実施している。 (2)ITSスポットを活用した高速道路上における安全運転支援  平成23年8月より、全国の高速道路上においてITSスポットサービスを開始しており、事故多発地点や道路上の落下物等の注意喚起、積雪や越波等の状況の事前提供を行うことにより安全運転支援を推進している。 (3)安全で安心な道路サービスを提供する計画的な橋梁等の管理  今後、高度経済成長期に集中して建設された多くの橋梁等、高齢化した道路ストックが急増し、重大な損傷発生の危険性が高まることが懸念される。このような状況を踏まえ、「早期発見・早期補修の予防保全」による道路ストックの長寿命化を実現するため、高速道路から市町村道までの道路橋について、定期点検に基づき長寿命化修繕計画を策定し、予防的な補修等を計画的に進めている。また、地方公共団体では、約2割の市区町村において、人材、技術、資金の不足等の問題により、定期的な点検が実施できていない状況を解消するため、点検の責務及び技術基準の明示や技術支援、財政支援等の措置を講じている。 (4)自動車の総合的な安全対策 1)事業用自動車の安全対策  安全運行を確保するため、自動車運送事業者に対し、運行管理者の設置や運転者の適性診断受診等を義務付けている。加えて、平成20年から30年までの10年間で、事故死者数・人身事故件数の半減、飲酒運転ゼロを目標として掲げた「事業用自動車総合安全プラン2009」に基づき、点呼時におけるアルコール検知器の使用を義務化したほか、トラックにおける運行記録計の装着義務付け範囲拡大に関する検討を開始するなど、更なる安全対策を実施している。また、関係者間で施策の進捗状況、目標の達成状況等を確認することで、PDCAサイクルに沿った継続的な取組みを進めている。 2)今後の車両安全対策の検討  平成23年6月に取りまとめられた交通政策審議会陸上交通分科会自動車交通部会の報告を踏まえ、少子高齢化への対応、歩行者等の事故防止・被害軽減対策、新たなモビリティへの対応、大型車がからむ重大事故対策を中心に車両安全対策の推進に取り組んでいる。 3)安全基準の拡充・強化  平成23年5月に、歩行者の被害軽減を図ることを目的とした歩行者脚部保護の基準を導入するとともに、既存のガソリン車等を電気自動車に改造するいわゆる「コンバージョンEV」に対して感電防止の基準を整備した。また、ハイブリッド車や電気自動車の安全性に関し、静音性対策や車両に搭載するリチウムイオン蓄電池等の世界統一基準の策定作業等に取り組んでいる。 4)自動車アセスメントによる安全情報の提供  ユーザーによる安全な自動車等の選択や製作者によるより安全な自動車及びチャイルドシートの開発を促すことを目的に、自動車とチャイルドシートに関する安全性能の評価結果を公表している。平成23年度においては、衝突安全性能総合評価から新たな安全性能総合評価を導入し、自動車の乗員保護性能及び歩行者保護性能について総合的に評価を行ったところである。 5)先進安全自動車(ASV)の開発・実用化・普及の促進  産学官の協力体制の下、先進安全自動車(ASV)の開発・普及の促進を図っており、衝突被害軽減ブレーキ等の実用化されたASV技術の本格的な普及促進、車車間通信システムや路車間通信システムといった次世代の安全運転支援システムの実用化に向けた検討を進めている。 図表II-6-4-6 大型衝突被害軽減ブレーキの作動例 6)リコール制度の充実・強化  自動車リコール制度については、より一層ユーザーの視点に立ったものとするため、情報収集体制及び調査分析体制の強化を目的とした組織体制の強化を実施した。具体的には、技術検証体制を強化するとともに、従前のリコール対策室を、リコール届出・勧告等を担う「リコール監理室」と、不具合情報の能動的な調査分析等を担う「不具合情報調査推進室」に改組・拡充した。また、国土交通省に寄せられた不具合情報や事故・火災情報等を分析した結果、ユーザーへの注意喚起が必要な事案や適切な使用及び保守管理、不具合発生時の適切な対応を促進するために必要な事項について、ユーザーへの情報提供を実施した。具体的には、自動車のバッテリー等の誤った取付けによる火災及び自動車の後付電装品の取付けによる火災事案等について報道発表を行い、ユーザー等への注意喚起を行った。 7)自動車検査の高度化  不正な二次架装注の防止やリコールにつながる車両不具合の早期抽出等に資するため、情報通信技術の活用による自動車検査の高度化を進めている。 (5)自動車損害賠償保障制度による被害者保護  自動車損害賠償保障制度は、クルマ社会の支え合いの考えに基づき、自賠責保険の保険金支払い、ひき逃げ・無保険車事故による被害者の救済(政府保障事業)を行うほか、重度後遺障害者への介護料の支給や療護センターの設置等の被害者救済対策事業を実施するものであり、交通事故被害者の保護に大きな役割を担っている。 図表II-6-4-7 自動車損害賠償保障制度 注 部品等を取り外した状態で新規検査を受検し、検査終了後に当該部品を再度取り付けて使用する行為等