第5節 危機管理・安全保障対策 1 犯罪・テロ対策等の推進 (1)各国との連携による危機管理・安全保障対策 1)セキュリティに関する国際的な取組み  主要国首脳会議(G8)、国際海事機関(IMO)、国際民間航空機関(ICAO)、アジア太平洋経済協力(APEC)等の国際機関における交通セキュリティ分野の会合やプロジェクトに参加し、我が国のセキュリティ対策に活かすとともに、国際的な連携・調和に向けた取組みを進めている。  平成18年(2006年)に我が国がその創設に尽力した「陸上交通セキュリティ国際ワーキンググループ(IWGLTS)」には現在16箇国以上が参加しており、陸上交通のセキュリティ対策に関する枠組みとしてさらに発展が見込まれている。  また、日米、日EUといった二国間会議も活用し、国内の保安向上、国際貢献に努めている。 2)海賊対策  世界の海上輸送路の要衝であるソマリア沖・アデン湾において、銃火器で武装した海賊が商船を襲撃する事件が平成20年頃から急増しており、同海域における23年の海賊事案は237件と、依然として世界全体の約5割を占めている。  このような状況の下、我が国としては、国連海洋法条約の趣旨にかんがみ、「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律(海賊対処法)」に基づき、海賊行為を我が国にとっての犯罪行為とし、保護対象を我が国の船舶のみならず、あらゆる国々の船舶に拡大し、海上自衛隊の護衛艦により、アデン湾において通航船舶の護衛を行うと同時に、P-3C哨戒機2機による警戒監視活動を行っている。国土交通省においては、引き続き、船社等からの護衛申請の窓口及び護衛対象船舶の選定を一元的に実施し、日本関係船舶等の防護に万全を期すとともに、外国船舶に対する国際貢献を果たしていく。  海上保安庁では、海賊行為があった場合の司法警察活動を行うため、海賊対処行動発令によりソマリア沖に派遣されている海上自衛隊の護衛艦に海上保安官8名を同乗させているほか、(独)国際協力機構(JICA)の海上犯罪取締り研修等にイエメン等ソマリア周辺海域沿岸国の海上保安機関の職員を招へいするなど、当該沿岸国の海上保安機関の能力向上支援を実施している。  東南アジア周辺海域における海賊対策としては、平成12年から毎年、巡視船派遣による連携訓練や研修を実施しているほか、JICAの枠組みを利用した専門家派遣や本邦への招へい研修を実施し、当該沿岸国の海上保安機関に対する人材育成、技術供与等の能力向上支援を実施している。同海域での海賊発生件数は、ピーク時の12年に比べると減少傾向にあるが、依然として根絶されていないことから、当該海域に対して引き続き対策が必要な状況である。 図表II-6-5-1 日本関係船舶の海賊等事案発生状況(平成23年) 図表II-6-5-2 世界における海賊等事案の発生件数の推移及び海域別の発生状況(平成23年) 3)港湾における保安対策  ASEAN諸国を対象に、研修、専門家会合等を通して、港湾における保安対策に係る人材育成を実施している。また、諸外国と情報共有しつつ、国際港湾における保安水準向上のための取組みを一層推進していく。 (2)公共交通機関等におけるテロ対策の徹底・強化  近年、米国同時多発テロ事件(平成13年9月)、ロンドン同時爆発テロ事件(17年7月)、インド・ムンバイ連続テロ事件(20年11月)をはじめとする各種重大事件が世界各地で発生している。また、23年には、9・11米国同時多発テロから10年を迎えた。このような情勢を踏まえ、重大事件が発生した際に迅速にこれに対応するとともに、平時においても、多客期にはテロ対策の徹底指示や点検を実施するほか、各分野ごとに次のとおりテロ対策に取り組んでいる。 1)鉄道におけるテロ対策の推進  駅構内の防犯カメラの増設や巡回警備の強化等に加え、「危機管理レベル」の設定・運用を行うとともに、「見せる警備・利用者の参加」注1を軸としたテロ対策を推進している。また、主要国との鉄道テロ対策の情報共有等にも積極的に取り組んでいる。 図表II-6-5-3 「見せる警備・利用者の参加」を軸とした鉄道テロ対策の実施 2)船舶・港湾におけるテロ対策の推進  「国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律」に基づく国際航海船舶の保安規程の承認・船舶検査、国際港湾施設の保安規程の承認、入港船舶に関する規制、国際航海船舶・国際港湾施設に対する立入検査及びポートステートコントロール(PSC)を通じて、保安の確保に取り組んでいる。また、国際港湾施設に対する立入検査結果及び海外における保安水準等を踏まえ、保安対策をより一層徹底している。 図表II-6-5-4 国際航海船舶及び国際港湾施設における保安措置 3)航空におけるテロ対策の推進  我が国では、航空機に対するテロ防止に万全を期すため、国際民間航空条約に規定される国際標準に従って、航空保安体制の強化を図っている。このような状況の中、我が国内外でのテロ・不法侵入等の事案に対応し、液体性爆発物の機内への持ち込みを防ぐために国際線への液体物機内持込制限を実施する一方、各空港においては、車両及び人の侵入防止対策としてフェンス等の強化に加え、侵入があった場合に迅速な対応ができるよう、センサーを設置するなどの対策を講じている。 4)自動車におけるテロ対策の推進  多客期におけるテロ対策として、車内の点検、営業所・車庫内外における巡回強化、警備要員等の主要バス乗降場への派遣等を実施するよう、関係事業者に対し指示している。 5)重要施設等におけるテロ対策の推進  河川関係施設では、河川点検・巡視時の不審物等への特段の注意、ダム管理庁舎及び堤体監査廊等の出入口の施錠強化等を行っている。道路関係施設では、高速道路や直轄道路の巡回時の不審物等への特段の注意、休憩施設のゴミ箱の集約等を行っている。国営公園では、巡回警備の強化、はり紙掲示等による注意喚起等を行っている。また、工事現場では、看板設置等による注意喚起等を行っている。 (3)自動車に関する犯罪防止策  自動車の登録情報の不正取得や悪用を防ぐため、登録事項等証明書の交付請求手続により所有者等の個人情報を取得する際は、請求者の本人確認のほか、原則として、自動車登録番号に併せ車台番号の明示を義務付けている。 (4)物流におけるセキュリティと効率化の両立  米国同時多発テロ事件以降、国際物流においてもセキュリティ強化が求められている。一方、セキュリティ強化は円滑な物流を阻害するおそれがあるため、米国でのC-TPAT注2の実施や世界税関機構(WCO)におけるAEO制度注3に係るガイドラインの策定等、物流分野におけるセキュリティと効率化の両立に向けた取組みが先進国や国際機関を中心に行われている。我が国においては、平成20年度よりサプライチェーンを構成する物流事業者等をAEOの対象に追加しており、同制度の普及を促進するとともに、諸外国のAEO取得に向けた支援を行っている。また、主要港のコンテナターミナルにおいて、トラック運転手等の本人確認及び所属確認を全国共通のカードや生体認証により、確実かつ迅速に行うため出入管理情報システムの導入を推進しており、22年度末から試行運転を開始している。 (5)情報セキュリティ対策  社会経済活動全般のITへの依存度が高まる中、政府機関等への標的型メール攻撃を始めとするサイバー攻撃の顕在化に伴い、情報セキュリティ対策への取組みの重要性が増している。政府の「情報セキュリティ政策会議」の方針に基づき、情報漏洩の防止対策等の国土交通省の情報セキュリティ対策及びIT障害による事業停止を防止するためのガイドラインの策定等の重要インフラ(鉄道・航空・物流)に係る情報セキュリティ対策を推進している。  また、国土交通省や所管事業者等へのサイバー攻撃発生に備え、初動体制の整備、被害拡大の防止等に努めている。 注1 「見せる警備」…テロの未然防止を図るため、人々の目に触れる形で警備を行う施策   「利用者の参加」…テロに対する監視ネットワークを強めるため、一人一人の鉄道利用者にテロ防止のための意識を持ち行動することを促す施策 注2 米国への輸入貨物に関係する事業者を対象に、高度なセキュリティ対策が確認された事業者を通関上優遇する制度 注3 サプライチェーンにおいて高度なセキュリティ措置を講じている輸出入者等を税関がAEO(認定事業者)として認定し、通関手続の簡素化等の利益を付与する制度